"終わった"



私は紙に書かれた文字を読んでそう思った



は誰にあたった?私下級生になっちゃったよ〜」

「…………」

?どうしたの…?なんか顔青いよ??」



そう

今の私の顔はきっと、"顔面蒼白"と言う感じだと思う



「もしかして、何か良くない人だった?」

「…………」



私は黙って紙を友達に差し出した

私から紙を受け取った友達もその文字を見て固まる



「これ…立花仙蔵って……」

「…………」



私は何て運が悪いんだろう

よりによってこんな人だなんて…



「あの、何て言うか……その…、頑張って、ね…」



友達は心底同情した目で私の肩に手を置く



「ど………どうしよう……立花先輩なんて絶対に無理だ……」



私は力なく項垂れるしかなかった



「はい、皆さんくじは行き渡りましたね?」



先生は何も知らないで話し続ける



「それでは、明日から一週間は授業もありませんので、存分に皆さんの魅力を奮って下さいね」

「「「「「「はーい」」」」」」



そんな先生の言葉に、私は返事をすることすら出来なかった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



立花仙蔵…

六年い組

成績優秀、学園一クールで落ちつきがある優等生

火薬の扱いに長けている

怒らせるとかなり危険



あの後調べた個人データを確認しながら、ひたすらため息をつく

色々と問題点はあったが、何よりも最後の一行が気に掛かった



「怒らせると危険って…私大丈夫かな……」



落とす、なんて大それた事しようとする前に、私なんかが近寄ったらそれだけで本当に怒られそうだ



「誰か変わってよー…」



涙まじりに呟くが、周りには誰もいない

皆は早々に自分の相手を観察しに行ってしまったからだ



「あぁ、もう良いや…」



私は半ば…と言うより全てを諦めて、明日から何とか接触を図ろうと考えた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



嫌な事があっても、辛い事があっても、時は無常に流れるもので…



「もう朝だよ…」



結局昨日は今日の事を思うと憂鬱過ぎて良く眠れなかった



「そろそろ行かなきゃ…」



独り言を呟きながら、錘の付いたような足取りで男子の寮へ向かう

今の時刻は昼の12時少し前

今ならお昼休みだから何処かで休憩している頃だろう



「何処に居るのかな…」



辺りを見回しながら歩いていると、一人で岩陰に座りながらまどろんでいる人物を発見した



「いた……!!」



私は見つけてしまった悲しさと緊張に思わず唾を飲み込む

なるべく警戒されないように自然に話し掛けよう…

自然に…

自然に……



「誰だ!?」



思いっきり不自然だったようだ



「ぁ、あの……」

「ん?君は…くのたまか……」

「あ、はい、私くの一5年ろ組のです!!」



慌てた私が早口で捲くし立てると、先輩は苦笑しながら私を見上げた



「別に怒って無いから、とりあえず落ち着いて」

「あ…、は、はい……」



意外にも優しい言葉に心底胸を撫で下ろす



「で、そのさんが私に何の用かな」



…きっとこの人は、私をファンの一人だと思っているのだろう

でも、その方がマシだったかもしれない

どうしよう

どうすれば良い?

実際にファンの振りをして近づけば良いのだろうか

でも…



「あ、あの…私……」

「何だい?」

「ぁ、貴方を惚れさせに来ました!!!!」



迷いに迷った末、私は思わず本当の事を叫んでしまった

これには流石の先輩も驚いた顔をしている



「いえ、あの…変な意味じゃなくて、その……昨日出された課題があって…それで、その…」



あぁぁぁぁ

絶対に怒られる、怒鳴られる、殴られるかも……!!



「…………?」



黙り込んでいる先輩を前に、私は思わず目を瞑る

しかし何の返答も応答も無い

もしかして呆れて帰ってしまったのだろうか?

そう思ってそっと目を開けると、そこには…



「………っ」



必死に口元を押さえて笑いを堪えている先輩がいた



「なっ…わ、笑ってる……!?」

「くくっ……あっはははは………!!!」



驚いた私が顔を上げると、先輩は糸が切れたように笑い出した

散々笑った挙句、最後の方は笑いすぎてお腹が痛くなったみたいだ



「あの…立花先輩……?」

「ははっは……はぁ……いや…、すまない…」



一頻り笑った後で、先輩はやっと笑うのをやめて私に謝った

でもやっぱり顔はまだ何処かにやついている気がするがこの際気にしない事にする



「あの……」

「いや悪かった。突拍子も無さ過ぎてついつい面白がってしまった」

「お、面白いって…」

「だって…普通そんな事馬鹿正直に言う事じゃないだろう?」

「そ、それは…その…勢い余ってと言うか……」



私は恥ずかしくなって顔を赤らめてしまう

先輩は先程とは違い、穏やかな笑みを浮かべながら私に尋ねた



「すまないがもう一度詳しい説明をして貰って良いだろうか?」

「ぁ、はい…」



私は自棄になって先輩に全部話した

先生が出した課題

くじ引きで相手を決めて

そして先輩が私に当たってしまった事



「なるほどね…、それで君は私の心を一週間以内に射止めなければならないのか」

「はい、その通りです…」

「それはまた非常に難易度が高いな」



悪戯っぽく笑いながら先輩は私の顔を見た



「で、でも…出来る限り頑張ります!!!」

「………っ」



私は先輩の挑発に一生懸命答えたのに、何故かまた笑われてしまった



「あの〜…?」

「…君、面白いな……」



友達には「最初は出会いが肝心だからね!!」なんて言われたんだけど

何だか可笑しな展開になってしまった

でもとりあえず怒られてはいないみたいだから良かったと思うべきなのだろうか…

兎にも角にもファーストコンタクトは無事済ませた事だし、明日から頑張らなければ

私は両手をぐっと握り、笑い続ける先輩の前で密かに決意を新たにしたのだった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



今日はとても面白い子に出会った

その子は先生に出された課題によって私を射止めなければならなくなったらしい

しかし

普通素知らぬ振りをして近づくものでは無いのだろうか

もしくはファンの振りをするとか、色々な方法が考えられる

私がその立場なら、まずはさり気なく近づくだろう

それなのに、その子は大胆にも真正面から向かって来て言い放った



「あ、あの…私……」

「何だい?」

「ぁ、貴方を惚れさせに来ました!!!!」



あぁ

今思い出しても笑えて来る

こんなに笑ったのは久しぶりだ



か…」



その子は明日から少しずつ私に逢いに来ると言った

そして無理な事は承知でも出来る限り頑張る、とも言っていた

何処までも低姿勢な様子を思い出し、思わず笑みが零れてしまう



「可愛い顔をしているのだからもっと自信を持てば良いものを…」



正直、一目見て可愛らしいと思った

綺麗では無い

可愛いのだ

何かに例えるならば

兎の様な愛らしい目

小動物の様な仕草

慌てふためく姿は何とも言えない

それらが私の心をくすぐり

ついつい苛めたくなってしまうのだ



「明日からが楽しみだな…」



仙蔵が不敵な笑みを浮かべてそんな事を呟いた事を、は知る由も無い




‐ NEXT ‐



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






'04/02/06