「うっわ…」

「ねぇ、誰に当たった?」

「……………忍者………」

「は?」

「だから、忍者」



私はそう言って友達に引き当てた紙を見せる



「あ〜…文次郎くん……」

「どうしよう…この人って学園一忍者してる人だよね?」

「確かそう言われてるねぇ…」

「だったら絶対に近付けないと思わない?」

「何で?」

「だって…忍者の三禁……」



はがっくりと肩を落とした



「どうしよう……」



潮江文次郎…

学園一忍者している男と呼ばれている人物

実際に見た事は無いが、きっととても凄い人なのだろう


「忍者の三禁は……酒、欲、女……だよね…」



学園一忍者している男なら、無論これらの欲望など跳ね除けてしまうだろう…



「うぅ…どうしよう……」




「大丈夫?顔色悪けど……」

「あ、平気平気……ちょっと戸惑っちゃって…」

「まぁ…無理も無いよね」

「まぁね…」



仕方ない、こんな所で悩むよりは行動あるのみ…



「私……ちょっとこの人の所に行って来るね」

「えぇ!?大丈夫なの…?」

「わかんないけど…追い返されたらその時はその時だよ」

「そっか……それじゃぁまぁ……、気をつけてね」

「うん、じゃぁ行って来ま〜す」



こうしては潮江文次郎の元へと急ぐのだった…



「って、勢い良く飛び出たのは良いんだけど…何処にいるんだろ…?」



は一度立ち止まり思考を巡らす

ふと廊下の窓から外を見た



「……とりあえず外に出てみよう…」



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は当ても無く歩き回り、そのままふらふらと裏庭を抜けて校庭に出た

辺りを見回してそれらしき人物がいないか探してみるが、見つからない



「…まぁ……学園一の忍者がそう簡単に見つかるわけないけどさ……」



そう呟き、仕方なく教室へ戻ろうとする

すると向こうの方から誰かが猛スピードでこちらに向かってきた



「わーーーどいてどいてーーー!!!!」



その人物は速度を緩める事なくに向かって突っ込んできた



「伏せて!!!」

「え?ちょっ、何っ!?きゃぁ!!」



その言葉通り、とっさにその場にしゃがみ込む

するとその人はの上を飛んで綺麗に着地すると、

そのまま向こうへ走っていってしまった



「な……何だったの……?」



は呆然とその人が去っていった方向を見ていた

するとまた同じ方向から誰かがやって来る…



「おい、そこの女!!」

「へ?」

「お前七松見なかったか!?」

「七松って……今走って行った青い髪の人…?」



に尋ねるその人は何だか随分息を切らしている

目の下にはくまがあり、ちょっと恐そうな顔付き…

は少し緊張しながらその人に聞かれるがまま答えた



「そうだ、そいつは何処に向かった!?」

「あ、あの…あっちの方に……」



は七松と言う人が走っていった方向を指差す

するとその人はの指差す方向をきっと睨む



「あの野朗……」



そう呟くとその人はそのまま走り出す

そして少しだけ進んだ所でこちらを振り返る



「助かった、じゃぁな」



それだけを言い残して去って行ってしまった



「………何なの…一体…」



はその場でぼんやりそう呟いてはっとする



「あ、こんな事してる場合じゃない…潮江文次郎を探さなきゃ…」



そう思って校内をウロウロしてみたものの、

結局この日はそのまま時間が過ぎて、は潮江文次郎に会う事が出来なかった



「期間…1週間しかないのに……」



はがっくり肩を落としながらも、明日は教室に直接行こうと誓い部屋へ戻った…



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「ねぇ、起きなくて良いの?もうそろそろお昼だよ?」



体をゆさゆさと揺さぶられては目を覚ます



「ん〜……まだ眠い…」

「眠いって……文次郎くんの所行かないの?結局昨日会えなかったんでしょ?」

「……………あ〜……うん……会えなかったぁ…」

「ちょっと、寝ぼけてないでいい加減立ちなさいってば」



同室の友人はそう言うとの腕を持ち上げる



「わかったよぉ…」



は渋々起き上がり友人の顔を見上げる



「おはよ〜……ございます…」

「……………はぁ…」



朝に弱いは毎朝この調子で友人に迷惑を掛けている



「ごめんね毎朝…、今日から授業ないからつい気が緩んじゃって…」

「もう…、それは良いけど今日はどうするの?」

「ん…お昼回ったら教室に直に行って見ようかなぁ……顔とか良く知らないからそっちの方が確実だろうし…」

「そうだね、昨日は結局小平太くんに会っただけなんでしょ?」



そう言われて昨日の男の人が頭に浮かぶ



「うん…七松小平太って言われてたけど……何でそんなに詳しいの?」

「何でって…6年生の男子って結構格好良い人多いじゃないv」

「見たこと無いからわからないや…」

「……本当にそう言う事に興味ないのね」

「ん〜……あんまりね」



苦笑するの友人はまた一つため息を付くと、ふと思い出したようにに尋ねた



「そう言えばさ、その小平太くんはどんな人に追いかけられてたの?」

「えっとね……何だかちょっと恐そうな顔で、目の下にくまがあったかなぁ………」

「恐い顔……目の下に…くま?」



の言葉を反芻しながら友人は呟く



「うん、でもね、何だかちょっと格好良かったよ」

「…………あのさ」

「ん?」

「それってもしかして……あ、……いや、何でもない」



友人は何かを言いかけてお茶を濁すように黙り込んだ

「な、何々?」



気になったので聞き返すが、友人はにやにやと笑ったまま答えてはくれなかった



「いずれ解るよ。とりあえず時間も時間だしい組に行って来たら?私は私で行動するからさ」

「うん、そうだね…」



友人の言葉に釈然としないながらもは素直に頷くとようやく立ち上がり服を着替え始めた


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「………うぅ…何だか緊張するなぁ…」



ここは6年い組の教室前

にはほとんど縁の無い所だから、ここに来たのは初めてだ



「…………よし」



は一つ深呼吸をするとそっと扉に手を掛ける



「きゃっ!?」



扉に手を掛けた途端扉が独りでに開いた

そして中から出てきた人に思い切りぶつかってしまう



「あ?くの一が一体何の用だ……って…………あぁ、…お前昨日の…」



ぶつけた鼻を押さえながらそんな声を耳にして、は今ぶつかってしまった人を見上げる

そこには昨日のあの人がいた



「………あ…昨日の人…」



その人は無愛想な顔でを見下ろしていた

………………やっぱり……ちょっと恐い……

でも……やっぱりちょっと格好良い……



「あ、あのごめんなさい……私、ちょっとある人に用があって……」

「誰だ?呼んでやるから言えよ」

「えっと…あの、潮江文次郎って人に……」



がおずおずとそう告げるとその人は一瞬顔を歪めた



「…あ、あの…?」

「何か用か?」

「へ…?」



不振そうな顔をしたまま尋ねられ、は思わず聞き返す

するとその人は自分を指差しながら言った



「潮江文次郎は俺だ」



そんな言葉に一瞬時が止まる



「……え?」



訳がわからず尋ね返すとその人はにぐっと顔を近づけた



「だから、俺がその潮江だって言ってんだよ、何か用か?」

「……………」

「おい、聞いてんのか?」

「あ、あの……」

「あ?」

「し……、失礼しましたぁ!!!!」



は驚きの余り猛スピードでその場から逃げ出した



「……何だあいつは………」



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「で、結局そのまま逃げてきちゃったの?」



部屋に戻ったは半泣き状態で友人に飛びついた

驚きながらも何があったのかを尋ねる友人に、今までの事情を説明した



「だって……凄いびっくりして…つい……」

「……まぁ…これで印象付いたでしょうね」

「最悪の対面になっちゃったよ…」



は目に涙を溜めながら部屋の隅で体育座りをしながらがっくりと肩を落とす



「まぁくよくよしてても仕方ないでしょ、もう5日しかないんだし、明日行って謝ったついでに落としちゃいなよ」



友人は笑いながらの肩を叩いた

友人が、”昨日が会った人こそ潮江文次郎だ”

そう一言言ってくれればこんな事にはならなかったのに…

そう思ったが流石にそんな事は言えず、はため息を付いた



「…そんな簡単に言わないでよ……自分は上手く行きそうだからって〜…」

「はいはい、そうひがまないの」

「うぅ……絶対に変な奴って思われたよ…」

「そりゃそうだろうね〜」

「うぅ〜………」



はとても失礼極まりない対面を果たしてしまった事を悔やんだ

しかしどう足掻いても時間を戻す事は出来ず、

結局その日は最悪の顔合わせをしただけで一日を終えてしまった



「明日…とりあえず謝りに行かなきゃ……」



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ー、朝だよー、起きてーー」



今日も今日とては友人に揺さぶられて目を覚ます



「眠い…」

「起・き・ろーーー!!!」



今日の友人は一段と手荒だ

友人はの布団を勢い良く引っぺがすと未だ寝ぼけ眼のに言った



「ほら、今日は謝りに行くんでしょ!!」

「え?……あ、あぁ……そうだった……」

「はいはい、さっさと着替える!」

「は−い…」



は寝ぼけ眼で着替えを済まし、昨日の無礼を詫びるために部屋を出た



「何処に行けば会えるのかな…」



廊下を一人歩きながらまだしっかりと目覚めていない頭で考えた



「ん〜…とりあえず顔洗って目覚まそう……」



は目をこすりながら廊下を抜けると中庭の井戸へ向かった



‐ NEXT‐



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'05/05/20