「やぁ、お疲れ様。今日の仕事終わり空いてる? 終わり次第、家に来ない?」



それは仕事の休憩中、突然の臨也からのお誘いだった

明日は休みだし、残業もない予定なので問題もない



「うん、空いてるし明日休みだし、お邪魔しようかな。もしかしたら残業入るかもしれないけど、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ。あまり遅くならないようにね」

「ありがと。じゃあまた後でね」



ここ一週間程はお互いの仕事が立て込み、中々逢えずにいたため、今日の臨也からの電話はにはとても嬉しいことだった



「あー何ニヤニヤしてんのー? 彼氏?」

「えー、まぁまぁ。さぁ仕事頑張ろうか」

「うわっ、なんかムカつく!」

「えー聞こえなーい。てーかあんたも彼氏と上手くいってんじゃないの?」

「ちょっと倦怠期なんですーぅ。ちくしょう楽しんでこい!」

「あはは、ありがと。じゃあ午後も頑張りますかー」



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「くっ…! 定時に上がれると思ったのに…!」



予定外の残業に、の足も早くなる

ある案件にミスが発覚し、チームの責任者でもあるを筆頭に何名かで残って作業を続け、つい先程終わったばかりなのだ

仕事で遅くなったくらいで臨也は怒りもしないだろうが、折角の二人の時間が減ってしまうのは勿体無い

やっと臨也の事務所兼自宅に着いた時には、23時を過ぎていた



「ただいまー…って言っていいもんなのかな? 臨也くーん、お邪魔しますよー」



大体が臨也の家に来るときは電気が点いて家主が居るものだが、今日は何故か電気が消えて人の気配がしない



「あれ、呼んどいていないのー? 買物かな…」



玄関から入ってすぐの電灯のスイッチを点けると、廊下に掌サイズの箱が置かれていた



「何々…『私を開けて』? 文字は臨也で、メッセージは甘楽仕様か…。……なんか怖いな」



恐る恐る箱を開けてみると、小さな陶器の猫の置物に紙が挟んであった



「うわ、可愛いなぁこれ。『次は冷蔵庫へ』? …死体でも入ってるんじゃなかろうな」



猫をどうしようと思いつつ、置いといても仕方ないので、箱ごともって冷蔵庫へ向かう

キッチンにも臨也の気配はなく、電灯も消えていて真っ暗だ



「料理した形跡もないしなぁ…特に何もないけど、冷蔵庫開ければいいのかな?」



冷蔵庫を開けると、赤地の箱が真ん中に置いてある

が大好きな店のケーキで、全種類あるようだった



「うわっ、何これ…! ひ、光ってる…!」



あまりの嬉しさに破顔するが、ケーキの上蓋にまたメッセージカードが付いている



「『次は仕事部屋ですっ☆』…? 何、何をさせたいんだ臨也…」



そう言いつつ、この宝探しのような形式が楽しくなってきたのも事実で、は顔に笑みを浮かべながら仕事部屋へ向かった



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今までメモ通りに行動してきた結果、陶器の猫とケーキの他に、iPhoneカバー、ブックカバー、キーケースと、様々な物が見つかった

それらを疑問に思いつつ、最後の指定はリビングだった

リビングのローテーブルには、硝子細工の綺麗な長方形の箱が置いてあった

オルゴールかアクセサリーボックスかは開けてみないと分からないが、淡い水色と白の組み合わせになっている



「うわっ、これ…すご、綺麗…。」



持ち上げてみると、中からカサカサと音がする

金具を外すとパチンと小気味好い音をして蓋が開き、中にはまた一言のメモ用紙が入っていた



『宝探しは楽しかった? まぁは単純だから、普通に楽しんでくれたと思うけど。最後、このメモを見次第、新宿の柏木公園まで』



柏木公園までは新宿の駅から10分程度のため、臨也の家からもそう遠くない。しかしいつからそこに居るのだろう

ふと時計を見ると、時刻は24時になろうとしている

見つけられた物は一先ずリビングのテーブルの上に置き、多分臨也が待っているだろう公園へ駆け出した



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「やぁ、お疲れ様。楽しかった?」

「楽しいも何も…臨也いないわ伝言ゲームやらされるわ、何がしたいのかさっぱり分からなくて…」

「俺がいなくて不安になっちゃった?」



周りがビルで囲まれている公園とはいえ、真夜中でビルは消灯されている

公園の街灯に照らされて近寄ってきた臨也の手がの頬を包み、走ってきた割には冷たいね、外気のせいかな、などと言いながら笑みを浮かべた

はその手に自分の手を重ねる



「…臨也の手の方が冷たい。ごめんね、こんなになるまで…」

「いいよ、俺の都合で待ってたから。さて最後です。今日は何日でどんな日?」

「今日? ?」

「あまりにお約束なボケかまさないでよ。もう0時過ぎて、日付変わってるでしょ?」

「どーもすみませんね。? ……あ、誕生日?」

「正解」

「じゃあ、今までの臨也の家にあったのは…プレゼント?」

「それも正解」

「あんなにたくさん?なんか悪いなぁ… …でも、ありがとう」



照れのためかはにかんだ笑みを見せるに笑い返して、臨也が口を開く



「どういたしまして。…実はもう一つあるんだけど」

「えっ、あれでもたくさんなのに?」



驚いた顔を見せるの頬から手を外し、そのまま左手を取る



「誕生日おめでとう。…愛してるよ、



手の甲にキスを一つ落とし、そのまま薬指に指輪をはめる。

中心が窪んでいて、窪んだ部分のラインはブルーの色になっているシンプルな指輪だ



「え、臨也…これ、左手だよ?」

「それくらいどこかの単細胞じゃないんだから分かるよ。何、左手じゃ不満?」



言葉とは裏腹な笑いを含んだ臨也に戸惑いながら首を横に振る



「いや、不満も何も、逆に嬉しすぎるんだけど。でもこれ…本当に私なんかでいいの?」

「右手でもいいんだけど、に手を出そうとする不届き者がいるだろうし、虫除けにね。…それ以上言うなら、全部取り上げちゃうけど?」

「や、ウソです」

「なら何も言わない」

「ハイすみません。…臨也、」

「ん?」

「最高のプレゼントだよ…ありがとう」



そう言って抱き付いてきたを受け止めると、耳元で「私も臨也のこと愛してる」と聞こえた

チラリと隣を伺うと、耳が真っ赤になっているのが見て取れた

ここまで喜んでくれるのなら、来年も同じようなことを考えてもいいかもしれない

左手に本当の意味で贈る指輪は、もう少しあとになってから、と思い、返事の代わりに、愛しい恋人を抱きしめる力を少し強くした臨也だった



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「じゃあ戻ろうか」

「うん。…あのケーキ、食べていい?」

「あぁ、いいけど…俺、寒いんだよね。身体の芯から冷えてるんだよね」

「そうですね、2月で立春過ぎて日が伸びたとは言え、冬ですからね」

「ケーキより何より、暖めてもらう方が先だと思うんだけどなぁ」

「…お風呂入れば暖まるよ」

「わ、お風呂一緒に入ろうって言われちゃった! ってばだいたーん☆」

「急に甘楽になるな! そして一言もそんなこと言ってない!」

「いいじゃん。…思う存分、今日は甘やかしてあげるからさ」

「っ…! その声で耳元で言うの反則…!」

「あれ、顔赤いね? やだなー、変なコト想像しちゃってんの? それはリクエストにお応えしなきゃなー」

「う〜…バカ臨也」

のことに関しては馬鹿になるみたいだからね」

「んなっ……!」

「さて、が暖めてくれるなら早く帰ろう。今日は俺の隣から離れるの、許さないからね」



これもプレゼントのうち、と笑って言い切る臨也に、照れるも嬉しさを隠せず、も満面の笑みで承諾したのだった



END