「ねぇ、元希。唇切れてるよ」

「…あぁ、道理で」



上の真ん中、と示されたので触ってみると、確かに軽く血が出ている

この時期は乾燥が酷いが、俺が気を遣うのは指先と肩をどう冷やさないかだけなので顔とかはまったく気にしなかった

乾燥で指が切れて、ボール握る手に違和感とか持ちたくねーし

まぁ、寝るときは保湿クリーム塗って手袋して寝てるんだけどな(ねーちゃんから教えてもらった)

だから今のところ、手が切れたことはない



「指先だけじゃなくて、他にも気ィ遣いなよ…。投球で歯食いしばって、その時に切れて、それ気にするのもイヤでしょ」



言われてみればそうかも

唇に絆創膏とか貼れねーし、そもそも気持ち悪そう

そっか、笑った時に切れて血を出してるヤツ、たまにいるもんなぁ

考えてる俺を見て、溜息をつきながら美琴がリップクリームを差し出した



「あ? 何これ」

「見ればわかるでしょ、リップクリーム。これ使っていいよ」

「なんで? 使いかけじゃ…イテェ!」

「んなわけないでしょ! …私よくリップ無くすから、予備で新しいの持ってるの」

「ふーん…」

「それなら色も香りも付いてないメンソレータムで薬用だし、男でも楽に使えるだろうから」

「そっか、サンキュー」



唇切れてるけど、別に沁みねーよな、血も乾いてるみたいだし



「ん? 美琴も使ってんの?」

「グロスとか苦手だから、基本的に使うのは色付きリップかな。メンソレータムが一番落ち着くけど」



ほら、と言ってコートのポケットから取り出したのは、少し赤いラメ付きのリップで、美琴が好きな柑橘類の香りがした。



「今は付けてねーの?」

「さっきコーヒー飲んだときに取れちゃって」

「あー、そうなんだ。じゃあ早速、リップ使わせてもらうぜ」

「うん、次からは自分で買ってね」



普段は香り付きか

だからいつもいい匂いしてたのか

…今は美琴のリップ付いてないらしいし、色が俺に移ることもないだろ

向かい側に猫を見つけたのか、俺そっちのけで猫を見てる美琴の名前を呼ぶ



「な、美琴」

「んぉ? 何、もと…んんっ」



何度か重ね塗りしたリップが美琴の唇に移るように、深く唇を重ねる



「……っ」

「ん、…ふぁ、もと、っき……んっ」



もういいか?

いいだろうけど、俺が離したくないんだけどな

でもいい加減苦しそうだし、一旦リップノイズを立てて唇を離す



「…ばか元希っ、ここ一般道!」

「いいじゃん、誰もいねーんだし。…なぁ、リップ、移った?」

「んなっ…!」



少し顔を近づけると、微かにミントっぽい匂い

見る間に顔を赤く染めていく美琴に、満足げな笑みを浮かべる



「お、移ったっぽい?」

「くっ…! リップなんか渡さなければよかった…」



赤い顔のままうなだれる美琴の肩に手を回し、耳元で囁く



「今度から、リップは俺が付けてやるよ。…口移しでな」

「…ご遠慮シマス」




end




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蓮ちゃんからサイト解説祝いに貰っちゃいました(*´д`)

乾燥した唇に口移しでリップとかもうね…!!

私も付けて欲しいっすorz




11/12/31