昼休み

一人の少女が元気良く藤内の元へやって来た



「藤内!!」

「ん…?」



教室で一人本を読んでいた藤内は顔を上げて少女を見上げる

少女はそんな藤内に、可愛らしく微笑みながら告げた



「好きです、付き合ってください!」

「…、4月1日だからと言って僕を騙そうたってそうはいかないよ?」

「あれ?わかっちゃった?」



と呼ばれた少女は呆れ顔の藤内を前に舌を出して頭を掻いた



「当然」

「むぅ……少しは動揺してくれても良いじゃない」



藤内はそんな少女を見て苦笑すると得意げに目を伏せた



「…もう昼休み終わっちゃうけど?」

「うぁ、本当だ…それじゃぁ私行くね!」

「うん、遅れないようにね」

「また放課後ねーーー!!!」



はそう言いながら走り去っていった

ドロップアウトする声が聞こえなくなると、藤内は軽くため息をつく



「また放課後…ねぇ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ってな感じでね、私の嘘にひっかからなかったの藤内だけなんだよ?」

「へぇ…それじゃぁ他の奴人は皆騙されたって事?」

「うんっ」



放課後、藤内の部屋

藤内とは床に座りながらそんな事を話していた



「どんな嘘付いてまわったの」

「えっと…明日来る転校生は米国の凄い美人さんらしい、とか今度学校主催で巨大闇鍋パーティをするらしい、とか」

「…微妙すぎるね」

「でしょ、でも結構皆騙されたよ?」

「うーん…、脳味噌の作りが単純なんだね」



藤内は腕組みをしながら苦笑する



「で、結局今日だけで14人くらい騙したんだけど、藤内だけは騙されなかったの」

「当たり前だよ」

「何で?」

「……何でも何も…」



藤内はふとの方を見た



僕の事好き?」

「別に好きじゃない」



藤内の質問に怒涛の速さで答えを返す



「でしょ、気持ちの無い言葉には僕は騙されないよ」

「うっわ、藤内ってばキザったらしー」

「あのね…」

「あはは、まぁそれでこそ藤内だよね」



頭を抱える藤内

は笑いながら藤内の肩を叩く



「まったく…」

「あ、そろそろ私友達の所に行かなきゃ」

「まだ騙したり無い訳?」

「えへへ、それじゃぁまたね!!」



は立ち上がると廊下を勢い良く走り去って行った

藤内はが出て行った扉へと歩み寄り、扉の淵に手を掛けた



「…………」



暫く無言で何やら考え込んでいた藤内だが、ふと顔を上げると誰にとも無くにやりと企みの笑みを見せた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あ、神崎くんと次屋くん!!」

「お?」

「あぁ…さん…」

「あのね、助けて欲しいの!!」



藤内の部屋から少し進んだ廊下で並んで歩く左門と平八を発見したは、2人の元に走り寄る



「私…さっきまで藤内の部屋に居たんだけど……」

「居たんだけど…?」

「まさか…何かされたのか!?」



左門と平八は言葉を聞き、ごくりと唾を飲む

そんな2人を前に、の目からは涙がぽろりと零れた



「……っ何でもないの!!」



はそれだけ言い残して廊下を走り去る



…泣いてた……」

「まさか藤内の奴本当に…!?」



左門と平八はお互いに顔を見合わせると藤内の部屋へと走って行った



「うふふ…、せいぜい藤内を困らせて頂戴ね」



左門と平八が走り去ったのを見届けると、は廊下の角からひょっこり顔を出し嬉しそうに呟いた



「さて、次は誰を騙そうかな〜」



はやがて聴こえてきた藤内の部屋の喧騒を無視し、次なる場所へと移動した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あーぁ…暇だなぁ…」



あらかた忍術学園中の人々を騙してまわり、はする事を無くし校庭の周りをうろうろしてた



「あれだけ人を陥れて、まだ足りないの?」

「うわっ…って、藤内か…びっくりしたぁ」



木の上から降ってきた言葉に驚くが、すぐに藤内だとわかると近くの木を見上げた



「左門と平八に嘘教えたのもでしょ」

「当たりー、どうなった?」

「物凄い勢いで怒られたよ…」

「それで?」

「とりあえず実力行使で黙らせた」

「気は済んだ?」

「全然」



そう言うと藤内はの元へ降りてきた



は?」

「私?私はもう十分だよ」

「結局今日1日の被害者の数は?」

「大体20人かな」

「そっか…」



藤内はの傍に立つと腕組みをして大げさに呟いた



「所で、今何時かわかる?」

「えっと…2時半くらいだね」



は太陽を見上げ、藤内の問いに答える



が僕を騙そうとした時は何時くらいだったか覚えてる?」

「んーと、お昼休みだったから、12時ちょい過ぎくらいかな?」

「そうだね、それで、が僕を騙そうとした内容は何だったっけ?」

「好きです、付き合って下さい、だよ」

「そうだね」



そこまで良くわからない問答を続けた後、藤内はの両手を掴んだ



「じゃぁ今日からよろしくね」

「へ?」



藤内の言葉に思わず素っ頓狂な声をあげる

そんなを見つめながら藤内は女殺しの異名を持つ笑顔で笑う



「何でそうなるのよ!あれは嘘だって言ったでしょ!!」

「そうだね、あれは4月1日って嘘を付いても良いと思いこんでいるからついた嘘でしょ?」

「思い込んでるって実際その通りじゃない」

「うーん…、の無知に同情して一つ良い事教えてあげる」



そう言うと藤内はにぐっと顔を近づけて勝ち誇ったように呟いた



「4月1日はね、嘘付いても許されるのは午前中だけなんだよ」

「…………嘘ぉ!?」

「残念ながらこれは嘘じゃないんだなぁ」



驚くを心底楽しそうに見つめながら藤内は続ける



「まぁそういう訳だから」



不気味に微笑むと藤内は軽くの頬に口付けた



「今日からは僕の物ね」

「何でそうなるの!?」

が言ったんじゃないか」

「でもあれは本気じゃない!」

「嘘つき者の末路だから仕方ないよ」

「嫌だーーーーー!!!!」



の叫び声は空しく響き渡り、結局は強引に藤内の物と化した



「こんなん詐欺だ…」

「まぁそう嘆かないでよ、良く言うでしょ?」

「何が?」

「"嘘から出た真"って」

「……微妙に意味違う…」

「気にしない気にしない」

「もう…嘘なんか付かない……」

「うん、それが良いね」



- END -



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






'05/04/01