「た、滝夜叉丸!」

「ん…?」



とある日

呼び止められて振り返れば、何やら顔を紅くして手を後ろに回して立っているが居た



「どうしたんだ?」

「あー…いや……その、これ…」



は視線を空へ泳がしながら片手で何かを滝夜叉丸の方へ突き出す



「っと…」



条件反射で思わず受け取ったのは、何の変哲も無い薄茶色の包み紙

とても簡易的だが、小さなりぼんが結ばれている所を見るとプレゼントのようだった



「受け取ったな?」

「あぁ…これは一体……?」

「ぁ、開けるな!!」



りぼんに手を掛け引っ張ろうとした所を制される



「何でだ?」

「その、私がいなくなった後、誰もいない所で見て欲しい…」

「はぁ……」



何やら今日のはおかしい



…どうかしたのか?熱でもあるんじゃないか?顔赤いぞ」

「あ、赤くなどない…」

「それに挙動不審だし…」

「煩いな…。と、兎に角渡したからな!!」



そう言い捨てると、は物凄い速さで走り去ってしまった



「……どうしたんだ一体…」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「さて…、此処なら良いか?」



滝夜叉丸は律儀にも、言われた通り人気の無い所で包みを解く



「一体何だと言うんだ……わざわざ人気の無い所でなどと……」



そうぶつぶつと文句を言いながら包みの中に手を入れる



「これは……?」



中身を取り出してみるとそれは何やら茶色の塊

小さくて先のとんがった変な形の物体

微かに甘い匂いがして来るので、恐らく食べ物であろうと言う事はわかる



「…これは……何だ??」



一応の事だから悪戯では無いと思う

しかし物体の正体がわからないのではどうしようもない



「だからと言ってに聞くのも…なぁ」



滝夜叉丸はひとしきり悩むと、とりあえず部屋へと向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ん?滝夜叉丸じゃないか」

「何だお前か」

「お前とは随分だな、何だ?その包み」



部屋に向かう途中の廊下で滝夜叉丸の前に現れたのは好敵手の田村三木ヱ門



「あぁ、先程から貰ったんだが…、お前これが何かわかるか?」



そう言い中身を三木ヱ門に見せる



「……なんだ?…たまねぎみたいな形だな」

「随分と小さいがな」

「………これなんだ?」

「それがわからないから聞いているんだ」



三木ヱ門に聞いてもわからない



「まぁいい…解りそうな奴を探して聞いてみる事にする」

「あぁ、僕はこれからサオリ達のお手入れなんだ」

「飽きずに御苦労な事だな」

「お前に言われたく無い」



相変わらずの応酬の後、三木ヱ門とわかれた滝夜叉丸は図書室へと移動した



「本になら載ってるかもしれないしな…」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「何だ、誰もいないのか」



久々にやって来た図書室には誰もいない



「まぁいい…」



滝夜叉丸は匂いからして食べ物だろうと睨み、食べ物関係の本を片っ端から漁った



「………ない…」



暫くの間資料探しに専念したが、どうやら貰った物に似ている食べ物は見つからなかった



「…一体何なんだこれは……」



がっくりと肩を下ろし本を元に戻す



「そうだ、先生なら何か知ってるかもしれないな」



ふと思いつき、滝夜叉丸は本を戻すと図書室を後にして職員室へ向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「と、言う訳なんですけど…、土井先生はこれが何かご存知ですか?」



職員室へ向かう途中、たまたま廊下を歩いていた土井半助を見つけたので尋ねてみる



「いや、私はあまり菓子には詳しくないからなぁ…。でも随分たくさんあるな」

「えぇ、甘い匂いがするので食べ物だとは思うんですけど…」

「ん〜…形はお香のような形だが……」



半助は頭を捻りながら考えていたが、やがて顔を上げた



「そう言えばこれと同じものを前に山本先生に見せて頂いた気がするぞ」

「山本って…山本シナ先生ですか?」

「あぁ、何でもくの一の間で今流行っているんだとかで…」

「そうですか。でもくの一の寮には行けないしな…」



悩む滝夜叉丸に半助は笑いながら言った



「今の時間なら門の掃除をしている子もいるんじゃないか?」

「なるほど、ではその子達に聞いてみます」

「そうだな」

「有難う御座いました」



滝夜叉丸は一言礼を言うと門へ向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「な、何だか今日は疲れるな……」



門へ向かいながら弱々しく呟く

からこの不思議な物体を受け取ってから、既に3時間以上が経過していた



「お、いるな…」



見れば門には箒を持った女の子が数人楽しそうに話している



「……話し掛け難い…」



女の子特有の高い声や笑い声を聞くと何だか妙に緊張する

と、言うか怖い



「どうして女共はあぁ輪を作りたがるんだ…」



全く他人と打ち解けないを思うと本当に同じ女なのか疑いたくなってくる



がこうじゃなくて良かったな…」



そう一人呟くと、とりあえず真相を確かめるべく輪の中へ入っていった



「あ〜、ちょっとすまない」

「あれ?滝夜叉丸先輩じゃないですかー」

「どうしたんですかー?」

「あれ?何ですかその包み」



少し話しかけただけでこの反応

わいわいと自分の周りに集まっては好き勝手に話し始める



「…ある人から貰った物なんだが、これが何か知ってるか?」



そう言って今までと同じように包みの中身を見せる



「あぁ、これかぁ」

「これ誰から貰ったんですか?」

「うわぁ、凄い良く出来てるー」

「美味しそう〜」



すると一斉に顔を見合わせた後またわいわいと騒ぎ始めた



「い、いや…誰と言うか……」

「え〜、教えてくれなきゃ教えてあげませんよ、ね?」

「うんうん」

「私達だけ教えるなんて不公平よねー」

「さぁさぁ、先輩も恥ずかしがってないで!」



一気に捲くし立てられ思わず顔が引きつる



……」

「え?」

「聴こえませんでしたー」

「先輩ちゃんと大きな声で言ってくれないと」

「そうそう、全然聴こえませんでした」



「(こ、こいつら絶対に楽しんでる…)」



内心少々疎ましく思いながらも仕方なしに答える事にする



だ」

って…先輩ですか?」

「え?先輩って、あの先輩?」

「そうそう、あのいっつもクールで格好良い先輩!!」

「え〜、何か意外ーーー!!」

「な、何が意外なんだ?」



滝夜叉丸が尋ねると女の子達はまた一斉に顔を見合わせその後微笑みながら言った



「だってこれ、キスチョコですよ?」

「キス………チョコ…?」



聞いた事の無い名前に思わず首を傾げる



「そうです、これはチョコレイトって南蛮のお菓子なんですけど、少し特別なんです!!」

「特別…?」

「はい、このチョコは自分の好きな人にあげる物なんですけど…」

「けど?」

「実は女の子の間ではちょっとしたジンクスみたいになってて…」

「なってて?」

「このチョコをあげるとあげた人が自分にキスしたくなっちゃうんです」

「………は?」



何だか割り台詞で言われたから意味が良くわからない



「(一回整理してみよう…)」



滝夜叉丸はその場で考え始める



「(名前はキスチョコ、好きな人にあげる物…ここまでは良いとして……)」



「このチョコを貰った私はにキスがしたくなると言う事か?」

「ん〜…ちょっと違うけど」

「そんな感じですね〜」

「ていうか、おまじないみたいなものなんですよ」

「このチョコをあげるから自分にキスしてねって感じで…」



意味は理解できた、しかしがそれを望んで自分にこれを渡したのかと言う疑問が残る



「…はこのチョコの意味を知っているのか……?」

「どうだろう〜」

「先輩ってクールで静かだし、何だかこういうイメージないよね」

「だから意外だな〜って思ったんだけど…」

「でも実は結構そう言うのに憧れてるのかも!!」



女の子達はまた騒ぎ始める

これ以上騒ぎが大きくなるのも避けたいので、滝夜叉丸は退散する事にした



「教えてくれて助かった。礼を言うぞ。それでは私はもう行くから」

「あら、そうですか」

先輩によろしくです〜」

「滝夜叉丸先輩の幸せ者〜」

「泣かせたりしたら承知しませんよ〜」



そんな言葉を背に浴びながら、滝夜叉丸はその場を離れを探した



「(意外と後輩にはなつかれているようだな…)」



そんな事を考えながらを探すが、中々見当たらない



「もう部屋に戻ったか…?」



そう思いの部屋へ向かうが誰もいない



「…いないか」



その後も色々廻ったがついにを見つける事は出来なかった



「仕方ない…一旦部屋へ戻るか…」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「………あれは…」



部屋へ戻る途中の渡り廊下で見慣れた人影を見た



…?」

「………っ!!」



後ろから声を掛けるとびくりと跳ね上がる



「そんなに驚かなくても良いだろう…」

「あ、いや…突然だったからな…」

「どうしたんだ?私に何か用か?」



自分に用がある事などわかっているのに技とそう聞いてみる

案の定は少し困った顔で黙っている



「実はまだ口にしていないんだ」



黙ったままのにそう告げる



「そ、そうか……」

「だから今食わせて貰うぞ」

「え……」



そう言うと包みの中から一つその"キスチョコ"とやらを取り出して口に入れる

口に入れた途端甘い香りと味が広がる



「…上手いな」

「本当か?」

「あぁ、これが作ったんだろう?」

「あ、あぁ……一応な…」



そう言いながら目を逸らすの顔を両手で挟む





「な………っ…!?」



名前を呼び一瞬の隙を突いてに口付ける



「…滝…夜叉丸……?」

「これ、キスチョコと言うのだろう?」

「……知ってたのか…?」

「いや、知らなかったから教えて貰ったんだ」



そう言って笑うとは顔を両手で覆いながら恥ずかしそうに呟いた



「……馬鹿者…」

「やはり人に聞いたのは不味かったか?」

「…別に……良い」

「そうか」



未だ下を向いたままのの頭をそっと撫でる



「そういえば…何でこれを?」

「………その…お礼だ」

「お礼?何の?」



はやっと顔を上げるとやや睨むような形で滝夜叉丸を見上げた



「ばれんたいんの…お返しの日だと聞いたから…」

「あぁ…今日がその日か」

「本当は…男女逆だと聞いたが…別に構わないだろう?」

「もちろん、そんな事対した問題じゃないだろう」



二人は顔を見合わせて微笑んだ



、有難うな」

「あぁ…」



そう言ってくるりと自分に背を向けたの頭を見てふと気が付く



「これは…」



見ればが身に付けているのは以前自分があげた髪留め

滝夜叉丸は思わずを後ろから抱きしめた



「使ってくれているのか」

「こう言う時でないと…使う機会がないから…な……」



は小さな声で恥ずかしそうに呟く



「今度町へ行こう」

「町へ……?」

「あぁ、もちろんはその髪留めをつけてな」

「…そうだな」





- END -




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







'04/03/15