ゴーン。。。ゴーン。。。



遠くで除夜の鐘が鳴る音が聞こえる静かな夜

忍たま長屋では相変わらず元気な滝夜叉丸と一向にやる気の無さそうなの姿



「さぁ年が明けたぞ!!」

「そうねぇ」

「それじゃぁ行くか!!」



の適当な相槌に等目もくれず、滝夜叉丸は勢い良く立ち上がる



「んー?」

「何をぼやぼやしている」

「何をって…これから何処に行くの?」

「そりゃ初詣に決まってるだろう」



の質問に至極当然と言った顔で堂々と答える滝夜叉丸

しかしそんな滝夜叉丸の態度とは裏腹に、の顔は一瞬にして曇った



「えー…やだよ寒いし…」



本気で嫌がるの言葉に、滝夜叉丸は胸を張って告げる



「大丈夫だ」

「何が?」

「寒いのなら私が暖めてやろう」



滝夜叉丸は未だに座りっ放しのの前に立ちながら両手を広げた



「却下ー」

「何故だ?」

「そのまま脱がされて逆に寒そうだもん」



ぷい、と顔を逸らしながらは頬を膨らます



「いくら私でもそんな事正月早々する訳ないだろう」

「わかんないもん」

「良いから、へ理屈こねるのはその辺にして行くぞ!!」

「……全くもう…」



結局初詣に行く気満々の滝夜叉丸に引きずられ、は長屋を後にした



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「ねぇ滝夜叉丸ー」



は白い息を吐き出しながら滝夜叉丸に声を掛ける



「なんだ?」



くるりとの方を振り向いて応じる滝夜叉丸の表情は、それはそれは嬉しそうだ



「こっちお寺と反対方向よ?」

「そうだな」

「いや、そうだなって…」



本来お寺がある方向を指差して訪ねるの言葉等気にせず、滝夜叉丸は満足そうに頷いた



「まぁ良いから、黙って付いて来い」

「もう…」



は強引な滝夜叉丸にため息を付きながらも従って歩く

やがて2人を取り囲むのは背の高い木ばかりとなって来た



「ねぇ滝…」

「大丈夫だ、心配しなくてもちゃんと辿り着く」

「っていうか何処に行こうとしてるの…」

「それはまだ言えないな」

「………」



子供の様に悪戯っぽく微笑む滝夜叉丸の顔を見て、再度ため息を付くとは滝夜叉丸の手を握った



?」

「寒いんだもん」

「確かに冷えてるな…」



滝夜叉丸はの手をぎゅっと握り返して呟く



「別にそんなに気にしなくても平気だから、早く行こう」

「あ、あぁ…そうだな、行くか」



の言葉にやや抵抗はあったものの、滝夜叉丸はまた進み始めた



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「それにしても何この密林…」

「ここは滅多に人が入らない道だからな」

「っていうか道なの…?」

「…まぁ微妙な所だな」



2人はそんな事を話しながら獣道とも言える道を歩いて行く



「うわっ!?」

!?」



の短い叫び声に滝夜叉丸が振り返れば、枝に足を取られて転んでしまったの姿



「…何をやってるんだ全く……」

「いったー…」



滝夜叉丸は呆れながらも苦笑すると、に手を差し出す

は滝夜叉丸の手を取ると、頬を膨らませた



「仕方ないじゃん、暗いし狭いし道は凍ってて滑るし…」

「まぁ確かにな、でもこれぐらいでめげてちゃくの一にはなれんだろう」

「大きなお世話よ…」

「怪我してないか?」

「…平気」

「そうか」



の体を抱き起こし、怪我が無いとわかると滝夜叉丸は安堵のため息をついた



「ねぇ、後どれくらい掛かるの?」

「そうだな…、今のペースで行けば後30分くらいだな」

「そう、それじゃぁ急ごう」

「そうだな」



再び歩き出した2人は、どちらともなく腕を絡ませながらゆっくり進んでいった



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「さ、着いたぞ」

「…着いたって……ここ?」

「あぁ」



そう言って滝夜叉丸が立ち止まったのは崖っぷちに程近い場所



「着いたっていうか…行き止まり?」

「いや、ここが目的地なんだ」

「え、だってここ何もないよ…?」



相変わらず根拠の無い自信に満ち溢れている滝夜叉丸の顔と、周りを見比べながらは訪ねる



「まぁ良いから、今は何時くらいだろうな…」

「多分まだ三時とかその辺だと思うけど…」



律儀に滝夜叉丸の言葉に答えながら、はとりあえず視線を滝夜叉丸に向ける



「そうか、それじゃぁまだ暫く時間があるな…」



滝夜叉丸はそう呟くとその場に座り込みを見上げた



もここへ座ると良い」



そう言って自分の隣の地面を叩く

は滝夜叉丸の言う通り、滝夜叉丸の隣に腰を下ろした



「初詣って言うからてっきりお寺に行くのかと思ってた…」

「あぁ、最初はそのつもりだったんだけどな」

「だけど?」

「人が多そうだからやめた」

「…何それ」



あっけらかんと言い放つ滝夜叉丸に呆れつつ、は苦笑した



人込み嫌いだろ?」

「嫌いだけど…って私の為にわざわざ?」

「まぁな、私もあまり人が多い所は好きではないし…」



が驚いた様に訪ねると、滝夜叉丸はから視線を逸らしそう答えた



「……ありがと」

「………」



滝夜叉丸の肩に頭を預けてそう呟くと、は小さく笑った

滝夜叉丸はの肩にそっと手をまわし、片腕で優しく抱き締める



「寒くはないか?」

「んー、平気」



はそう短く答えると、滝夜叉丸の胸元に顔を埋めた



「あったかい…」

「後少しだからな、暫く待ってくれ」

「…そう言えば何しにこんな所に来たの?」

「もうすぐわかる」



滝夜叉丸はそう言うと視線を目の前に広がる景色へと移した



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「眠い…」



数十分後、滝夜叉丸に肩を抱かれながらが呟く



「そろそろ始まるぞ」

「ん?」



滝夜叉丸にそう言われて目を開けると、そこには優しく微笑む滝夜叉丸の顔があった



「始まるって…?」

「ほら、見てみろ」



そう言って滝夜叉丸が指差したのは山が広がる広大な空



「…………」

「…………」



無言で正面を見つめていると、一瞬辺りが光った



「うわ…」



は小さく声を上げる

滝夜叉丸は満足そうに頷きながらの体を引き寄せた



「凄い…」



2人の体は次第に光に包まれていく

山間から顔を覗かせた太陽は、ゆっくりと時間を掛けて空へ昇って行く



「さぁ、新年の願い事をするなら今だぞ」



滝夜叉丸はそう言いながら両手を合わせると、2回程打ち鳴らして目を瞑った



「あ、そっか」



もそれに習い同じ様に目を瞑る



「…………」

「…………」



2人して目を瞑り、昇り切る直前の太陽に願いを込める



「……よし」

「随分熱心にお願いしてたね」



より少し遅れて目を開けた滝夜叉丸を見ながら、は小さく笑う



「まぁ年の初めだし、少しくらい神様に頼っても良いだろ」

「まぁね、で、何お願いしてたの?」

「今年こそ三木ヱ門と決着が付くように、だな」

「滝夜叉丸らしいね」



すっかり昇った太陽を見つめながら滝夜叉丸は胸を張った



は何を願った?」

「私?私は別に、普通だよ」

「普通?」

「うん、今年も一年無事に、平穏に、滝夜叉丸と一緒に過ごせますように、って」



は少し照れながら答える



「安心しろ、私が居る限りの身を危険になんか晒さないし、私は何時でも傍に居る」

「…うん」



何時もより少し真面目な表情でにそう告げると、滝夜叉丸は軽く笑っての額に口付けた



「何時までも一緒だからな」



滝夜叉丸がの前髪をさらりと撫でる

はくすぐったそうに微笑み、滝夜叉丸に抱きついた

明るく優しく光る太陽を背に

2人は寄り添い、どちらともなく口付ける



「今年も宜しくな」

「こちらこそ…宜しくね」



- END -



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'05/01/01