「ねぇ仙蔵くん」

「ん?」

「忍術学園って中々面白い事勉強するのね」



のそんな言葉に仙蔵が振り返ると、は忍たまの友をパラパラと流し読みしていた



「姉さん、意味わかるんですか?」

「一応ね、口伝がほとんどみたいだから教科の部分は見てもわからないけど…、実技の説明は読めばわかるわ」



は本に目を通したまま答える



「そう言えば昔、姉さんもくの一になりたいと言ってたっけな」

「でも父様は許してくれなかったわ」



が面白く無さそうに呟くと、仙蔵は苦笑した



「仕方無いだろ、姉さんは大事な一人娘なんだから」

「そんな事言って、仙蔵くんだってうちの跡取りじゃない」

「さぁ…、跡を継ぐ気は今の所無いけどな…」

「母様も父様も仙蔵くんの将来に口出す気は無いって言ってたわ」



はにこりと笑いって仙蔵にそう伝えると、持っていた本をぱたりと閉じて立ち上がった



「何処へ?」

「もう少し学園内を見学してみたいなって思って」

「少し待ってくれれば案内するから」

「良いわよ、仙蔵くんはゆっくりしてて?私一人でふらふらしたいだけだから」



そう言いながらが部屋を出て行こうとすると、仙蔵はの腕を軽く掴んで引き止めた



「仙蔵くん?」

「駄目だ」

「駄目って何が?」

「姉さんを一人で歩かせるなんて危険過ぎて出来ないと言ってるんだ」

「随分と過保護ね」



を止める仙蔵の手を緩やかに振りほどき、は苦笑した



「父様そっくり」



そう言いながら面白そうに笑うと、は仙蔵を見て微笑んだ



「心配してくれるのは嬉しいけど、ここの生徒さんはそんなに馬鹿ではないでしょ?」

「それは…そうかもしれないが……」

「だから平気よ、何かあっても自分で何とかするわ。ここまで一人で来た位だもの、安心して頂戴」



そう言うと、未だ不満そうな表情の仙蔵を残し、は部屋を出て行ってしまった



「全く姉さんは…」



残された仙蔵は深くため息を付くと、早く済ませて後を追おうと、片付けを再開した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「随分大きいのね…」



はそうぽつりと呟きながら学園を散策する

学園は限りなく広い上、何処もかしこも似た様な作りとなっている為、迷子になりそうだ



「やっぱり仙蔵くんに付いて来てもらえば良かったかしら…」



片手を頬に当て、そう呟きながらため息をついた時、急に背後から声を掛けられた



「せんちゃんのおねーさんっ」



はその声に振り返ると、声の人物を見上げて暫し考え込んだ後、ゆっくり尋ねた




「…えーっと……小平太…くん、よね?」

「あたり〜、お姉さんこんな所で何してんの?」

「うーん、少し一人で学園の探検でもしようかなぁと思ったんだけど、ちょっと広すぎて途方に暮れてた所…かな」



小平太の質問に苦笑気味にそう答えると、はまた一つ軽くため息を付いた



「こんなに広いなんて、仙蔵くんが引き止めた理由がわかったわ…」

「あー、俺も入学仕立ての時は良く迷子になった!!ここ広いし似てるからわかんなくなるよね」



小平太はそう言って明るく笑うと、の手を取り歩き出した



「小平太くん?」

「俺今暇だから簡単に案内してあげる、それに一人じゃつまんないでしょ?」



そう嬉しそうに申し出る小平太の言葉に、はにこりと微笑んだ



「それじゃぁお願いしようかな」

「まっかせてー、お姉さんどこら辺が見たいの?」

「そうねぇ…、食堂はさっき見たから、小平太くん達が普段勉強する所が見たいかな」

「教室だね、そんじゃぁいけいけどんどーん!!!」



の要望に元気良く頷くと、お決まりの台詞を叫びながら小平太は歩き出した

は少し驚いたものの、小平太の様子に小さく笑い、その後に従った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「そう言えばお姉さんって何してる人なの?」

「私?私は今は家の近くの小間物屋で働いてるの」

「小間物屋って言うとやかんとか鍋とか?」

「んー、私の所は女の子向けの雑貨が多いから、装飾品屋って言った方が良いのかしら」

「なるほど」



二人は並んで歩きながら教室へと向かう



「長い廊下ねぇ」

「うん、教室は全部で20くらいあるからなぁ」

「小平太くんは何組?」

「私はろ組、せんちゃんともんじがい組だよ」

「じゃぁ同じ組の人とは同じ部屋なのね」

「あー、基本的にはそうかも」



の言葉に伊作の顔を思い出しながら小平太は頷いた



「ここが私達ろ組の教室だよ、い組もは組も別に変わりないから」



小平太はそう言いながら教室の扉を開いた

小平太の後に続きながらも教室へと足を踏み入れる



「広いのに机少ないのね」

「うーん、6年生になれない人も結構居るからかな」

「そっか…、それじゃぁ小平太くんは優秀なんだ?」



が微笑みながら小平太にそう訪ねると、小平太は頭を掻きながら笑った



「でも私が6年生になれたのは半分せんちゃんのお陰だから」

「あら、どうして?」

「5年生の時、留年しそうになっちゃったんだけど、せんちゃんが勉強教えてくれたんだ」

「そうだったの…」



小平太の言葉には少し驚いた様な顔をすると、すぐに優しい顔に戻り呟いた



「仙蔵くん、ちゃんと楽しんでるのね」

「へ?」

「あら、そろそろ帰らないと仙蔵くんに怒られちゃうかしら」



は不思議そうに首を傾げた小平太に笑いかけた



「あー、もうこんな時間かぁ、私も戻らなきゃ…」

「小平太くん、わざわざ案内してくれて有難う」

「ううん、気にしないでー、私もお姉さんと話せて楽しかったし」



小平太はそう言いながら人懐っこい笑顔で笑って見せた



「そんじゃぁ部屋まで送ってくよ」

「良いの?」

「だってお姉さんこっから一人で戻れないでしょ」

「………ごめんね」



は舌を小さく出して苦笑した

そんな見て小平太は笑い、二人は教室を後にした



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「仙蔵くん、ただいまー」

「姉さん、一人で大丈夫だったのか?」



部屋の片付けがやっと終わったその頃、部屋の扉が開いた

仙蔵が振り返ればがにこやかに立っている

一人で帰って来たに仙蔵が訪ねると、は嬉しそうに笑いながら告げた



「小平太くんと途中で会ってね、教室まで案内して貰ったわ」

「小平太か、あいつ部屋の片付けは…、あぁ……長次に任せたのか…」



の言葉を聞き仙蔵は一人でぶつぶつ何かを呟くと立ち上がりの方へ歩いた



「まぁ無事なら良かった」

「やぁね、そんなに心配する事ないのに」

「姉さんは自覚が足りなさ過ぎるから心配になるのも無理ないだろ」



苦笑するに仙蔵はため息交じりに呟いた



「父上も苦労するな」

「何よ、仙蔵くんだって随分心配掛けてるのよ?」

「…そうなのか?」

「そりゃそうよ、10歳の頃から家を出してしまったんだもの、親でなくても心配だわ」



は仙蔵が敷いてくれた座布団の上に腰を下ろして口を尖らす



「たまに帰ってきてもあまり学園の話はしてくれないし…」

「まぁ取り立てて話す事もないしな」

「でも、今日小平太くんとお話してわかったわ」

「何が?」



は顔を上げて仙蔵に微笑む



「良いお友達がたくさん居るのね、って事」

「……良い友達………」

「うん、仙蔵くんってちょっと一人の世界作っちゃう事があるから、心配だったけど…」



は膝の上で手を組みながら視線を横に逸らしながら呟き、再度視線を仙蔵へ戻して笑った



「思ったよりずっと楽しそうで本当に安心したわ」

「姉さん…」

「所で仙蔵くん」

「ん?」

「私お腹空いちゃった…」



恥ずかしそうにそう告げるに仙蔵は脱力した笑顔を向けた



「じゃぁそろそろ食堂に行くか」

「うん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「……美味しい!!」



食堂についた二人は向かい合わせに座りながらおばちゃんの料理に舌鼓を打っていた

は一口食べた瞬間頬を押さえて満面の笑みを浮かべた



「母様には悪いけど、本当に美味しいのね、おばちゃんのお料理」

「でしょう、ただし残すと恐いので気を付けて下さいね」

「こんな美味しいご飯残せないわよ」

「あ、お姉さんとせんちゃん!!」



と仙蔵が話していると小平太がお盆を片手に二人を指差して叫んだ

小平太の後ろには長次もいる



「小平太と長次か、伊作と文次郎はどうした?」

「えっとねー、いさっくんはもんじの荷物が汚すぎるって言いながら片付けてたよ」

「…文次郎はトレーニングに行った……」

「そうか、それじゃぁ暫くは来ないな」

「そうだねー、あ、お姉さんここ座っても良い?」

「え?あ、どうぞどうぞ」



小平太はの返答を聞くとそのままの隣に座る

長次は自動的に仙蔵の隣へと座った



「そう言えば姉さんは長次と会うのは初めてか」

「そっか、お姉さん来た時長次といさっくん居なかったもんね」



仙蔵と小平太が話す中、は長次を見て小さく微笑むと"初めまして"と挨拶した



「………」



長次は無言のままぺこりとお辞儀をする



「あ、長次は凄い無口だから気にしないでね」

「えぇ、仙蔵くんから聞いてるわ」

「…………」



小平太の言葉にがそう答えると、長次は仙蔵を見た



「安心しろ」

「…………」



仙蔵は長次の言いたい事を察したのか、短くそう言うと軽く笑った

長次もそれ以上は追及せず、再度箸を取った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「はぁ、お腹いっぱい」

「食べすぎなんだよ姉さんは」

「だってあんなに美味しいなんて思わなかったんだもの、遂食べ過ぎちゃった」



呆れ顔の仙蔵に苦笑しながらは舌を出す

小平太や長次と別れ、戻って来た部屋の中で仙蔵とは適当に座りながらゆっくりしていた



「毎日あんなご飯が食べられるなんて、本当に忍術学園って良い所ね」

「食べ物に釣られるなんて姉さんらしいな」

「そんな事ないわよ、先生も優しそうな人ばかりだし、生徒さんも皆良い子じゃない」

「まぁ、悪い人間がいない事は認めるが…」



仙蔵はそう呟くと立ち上がる



「そろそろ布団を敷くぞ」

「あ、手伝う」

「それじゃぁそこの座布団除けて隅に置いてくれ」

「はーい」



は立ち上がると座布団を重ね部屋の隅へ置く

仙蔵は押入れから布団を取り出して開いたスペースに敷く



「よし、こんなものか」

「仙蔵くんと同じ部屋で寝るのなんて何年ぶりかしらね」



敷き終わった布団に座りながらは嬉しそうに呟く



「そんなに昔の事だったか…?」

「そうよ、まだ仙蔵くんがこんなに小さい頃だもの」



は座ったまま片手で自分の顔の辺りを示した

仙蔵も隣の布団に座り込むと一つ息を吐く

そんな仙蔵の様子を見ては悪戯っぽく呟いた



「昔は恐い夢を見るから一人じゃ眠れない、なんて言ってたものね」

「……その話は忘れてくれと言っただろう」

「忘れられないわよ、あんなに可愛い仙蔵くん」

「そう言う姉さんだって昔は一人で厠へ行けなかっただろ」

「っそれは…その……」



仙蔵の言葉に言い分を無くしたを見て軽く笑うと、仙蔵は立ち上がり灯りを消した



「今日はもう寝よう、姉さん明日帰るんだろ?」

「そうね、朝には出ようと思ってるわ」

「そうか…、それじゃぁおやすみ」

「おやすみなさい」



お互い小さく休みの挨拶を交わすと二人はそのまま眠りへ落ちた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「本当に大丈夫ですか?」

「平気よ、昨日だって一人でここまで来たんだもの、帰れない訳ないじゃない」



次の日の早朝

門の前で仙蔵、長次、小平太がを見送る



「せんちゃんって本当にお姉さん好きだねー」

「っな…、別にそんな事…!!」

「あ、せんちゃん赤くなってるー」



小平太の言葉に思わず顔を赤らめた仙蔵

小平太は指差して笑いながらの後ろに回りこんだ



「良いよねぇ、私もこんなお姉さん欲しかった!!長次もそう思わない?」

「…………」

「やっぱりそうだよね」



小平太の問いに素直に頷いた長次を満足そうに見ながら、小平太はを見下ろした



「また遊びに来てね」

「そうね、仙蔵くんが許してくれたらまた来ちゃおうかしら」

「姉さんまで何言ってるんですか…」

「あら、だって出掛けに学園長先生もまた遊びにおいでって言って下さったわよ?」



半ば呆れ口調の仙蔵にそう言いながらくすりと笑うと、は三人に背を向けた



「仙蔵くんはいつも忍術学園にいるからわからないかもしれないけど…」

「……姉さん…?」

「私達、何時だって仙蔵くんの事心配してるんだからね」



は仙蔵達に背を向けたままそう呟くと、一つ息を吐いて小平太と長次の方を向く



「小平太くん、長次くん、これからも仙蔵くんを宜しく」

「まっかせて!!」

「…………」



小平太は大きな声で返事をし、長次がこくりと頷くと、はにっこり微笑む



「それじゃぁ仙蔵くん、またね」

「…あぁ」



の言葉に仙蔵が短く答えると、そのままは歩き出した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あーぁ、行っちゃったぁ」



の姿が見えなくなると、小平太が残念そうにぽつりと呟く



「そろそろ教室へ戻るか」

「…あぁ……」

「あれ?そういやもんじといさっくんは?」



小平太がふと気付いて呟くと同時に前方から文次郎と伊作が走って来た



「あ、いさっくん、もんじ、どうしたの?」

「いや、仙蔵のお姉さんの話を昨日聞いて、一度見てみたかったんだけど…遅かったみたいだね」

「あぁ、今さっき帰ったばかりだ」

「はぁ…、折角走ったのに…、それもこれも文次郎のいびきが煩くて夜眠れなかったから……」

「何だよお前人のせいにする気か?」

「事実だろ、私も仙蔵のお姉さん見てみたかったのに…」



伊作はそうため息混じりに呟くとがっくりと肩を落とした



「そう言えば姉さんを見て無いのは伊作だけか…」

「流石、不運委員長だな」

「不運委員長って……」

「凄い綺麗な人だったよ!!私もせんちゃんになりたい」

「…………」



心底羨ましそうに叫ぶ小平太

仙蔵は鼻で小さく笑った



「お前等などに私の姉さんはやれんな」



そう言うとすたすたと教室へ歩いて行ってしまった



「………ねぇ、せんちゃんってシスコ」

「皆まで言うな、わかりきった事だろ」

「でもさ、仙蔵に似て綺麗なお姉さんなんだろ?それってつまり…」

「…ナルシスト……」



仙蔵の背中を見送りながら残された四人は思い思いにため息をつくのだった



-END-



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



終わったーーーーーーーーー!!!!!!!ヽ( ゚ ∀゚)ノ

長かった…、長かったよ……_| ̄|○

何が長かったって構想時間です。

最後どういうオチつけようか迷いに迷い、結局こんな事に(汗

お姉さん関係無いし!!(笑

あぁ、でも所々でシスコンブラコン出来たので大満足です+.゚(*´ω`)b゚+.゚

もう何処までがセーフで何処までがアウトなんだかわからず迷走しましたが、やっと完結です。

好き勝手やりましたが、少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです。

最後に、こんな妄想爆発なDreamを書くきっかけを下さった唐丸サマに深くお礼申し上げますw

読んでくださった皆様方も、お付き合い有難う御座いました!!



'04/12/09