「もんじとせんちゃんおっはよ!!」

「おはよう、仙蔵、文次郎」

「あぁ久しぶりだな小平太、伊作」

「朝からでけぇ声だすなよ小平太…」



夏の長期休暇も終え、いよいよ2学期が始まった

登校した生徒達はクラスへと続く廊下等で、久々の会話を楽しんでいる



「朝って言ってももう昼に近いだろー」

「うっせぇな、それでも朝は朝なんだよ」



現在の時刻は11時頃

余りに早い時間を集合時間とすると、家の遠い者は大変なので集合は12時と決められている



「あれ?長次は…?」

「あぁ、長次なら今さっき図書委員の方で呼ばれて行ったぞ」

「へぇ…、新学期から大変だね」



文次郎と小平太の言い争いを余所に、伊作がそんな事を呟いたその時



「先輩ーーー!!」

「あ、乱太郎…、どうかしたかい?」



廊下の端から走ってきたのは1年は組で、保健委員の後輩の乱太郎



「たった今そこで急病人が出て、至急保健室に来てくれと先生から…」

「わかったすぐ行こう、それじゃぁ小平太達、また後でね」



伊作はそう短く告げると、乱太郎と共に走り去っていった



「相変わらず大変っぷりは伊作の方が上だな」

「そうだな…」

「あ、大変と言えばさ、せんちゃんともんじ、宿題終わった?」



伊作の背を見つめながら、ぽんと手を叩きながら思い出した様に小平太は言う



「当たり前だろう」

「俺は夏休み半ばにゃ終わったぞ」

「それじゃぁお願い、写させて!!」



お約束ではあるが、顔の前で手を合わせ、頭を下げつつ上目で二人の様子を伺う小平太

そんな小平太に仙蔵と文次郎は顔を見合わせ、一つため息を付くとぽつぽつと喋り始めた



「……お前なぁ、あれ程しっかりやれと言っただろうが…」

「大体お前自分で出来るって豪語しただろ」

「だ、だって…」

「だってじゃ無い、今回点数落とせば卒業が危うい事は誰よりお前が知ってるだろうに」

「絶対に大丈夫ーとか言ってたのは何処の誰だよ、ったく…」



仙蔵と文次郎は小平太の左右に立ちながら、それぞれ腕組みをして小平太を責める



「うぅ〜…悪かったってばぁ…、一応やろうとはしたんだけど全然わかんなくって……」



半ば涙目になりながら小平太がしゅんと頭を下げると、仙蔵はまた一つため息を付いて苦笑した



「まぁ仕方無いな、今回だけだぞ」



そう言いながら荷物を漁り始める



「せんちゃん…」



小平太がうるうるしながら手を組み、仙蔵の行動を見つめていると、仙蔵の動きがぴたりと止まる



「せんちゃん?」

「どうした仙蔵?」



そんな仙蔵に小平太と文次郎が話しかけると、仙蔵はまるで錆付いたぜんまい仕掛けの人形の様にゆっくりとした動作で振り返った



「……………」

「せんちゃん…、顔青いよ?」

「まさか宿題忘れたとか言わねぇよな?」



文次郎が笑いながら訪ねると、仙蔵はがっくりと肩を落とした



「そのまさかの様だ……」



うな垂れながらそう言うと、文次郎と小平太は顔を見合わせると、各々感心した様に呟いた



「せんちゃんでも忘れ物ってするんだねー…」

「お前も人間なんだな」

「…全く嬉しくないぞその言葉……」



仙蔵自身も自分が宿題を忘れた事にショックを受けているらしく、片手で顔を覆いながら大きなため息をついた



「立花くーん」



すると何処かから仙蔵を呼ぶ声が聞こえる



「何だ…?」



仙蔵が声の方を振り返ると、小松田が歩いて来るのが見えた



「小松田さん…?」



小松田はのんびり歩きながら仙蔵に向かって手を振っている



「何だろ、小松田さんせんちゃんに用みたいだね」

「つーか横にもう一人いるみたいだな」

「ん?あれは…」



三人が歩み寄って来る小松田を見ると、確かに文次郎の言う通り、そこには女の人が一人小松田のすぐ後を歩いている



「何?せんちゃん知り合い?」

「いや、知り合いと言うか…」

「何だよ」

「あぁ、実は…」

「立花くん、君にお客さんだよ」



仙蔵が言いかけると、小松田の声が割って入った

見ればそこには薄紅色の可愛らしい着物を着た女性がにこやかに立っている

文次郎と小平太が疑問符を浮かべる中、仙蔵はその女性に尋ねる



「どうしたんですか?こんな所まで…」



すると女性は風呂敷の中から本を一冊取り出し、ひらひらと振って見せた



「仙蔵くん、これ忘れてたでしょ?」

「あぁ、わざわざ届けに来てくれたんですか」

「うん、町に寄る用があったから、ついでにね」

「有難う御座います」



仙蔵は礼を言って本を受け取ると、にこりと微笑んだ



「ねぇせんちゃん、この美人さん誰?」

「まさかお前の恋人なんて事は…」



小平太と文次郎が恐る恐る仙蔵に尋ねると、仙蔵は呆れた口調で二人に告げる



「そんな事ある訳無いだろう、この人は立花、私の姉だ」



仙蔵がさらりと言い放つと、はお辞儀をした後小平太と文次郎ににっこり笑いかけた



「仙蔵くんがいつもお世話になってます」

「………え…?」

「………姉…?」

「どうしたお前達、阿呆面して…」



すっかり動きを止めた小平太と文次郎に仙蔵が声を掛ける

すると二人は一斉に仙蔵に向かって怒鳴り始めた



「酷いよせんちゃん!!何でこんな綺麗なお姉さんがいるって今まで黙ってたのさ!!!」

「そうだ水臭いぞ!?6年間一緒に過ごしてきたのに姉がいるなんて一言も聞いてねぇ!!」



左右から責め立てられ、仙蔵は思わず耳を塞ぐ



「お前達…少し落ち付け…」



ため息混じりにそう呟いて小平太と文次郎の顔を押しのけると、仙蔵は二人の体をくるりと回し、の方へ向けた



「紹介する、一応同じクラスの友人文次郎だ」



文次郎の肩に手を掛けながら、に向かって簡単な紹介をする



「あぁ、文次郎くんって仙蔵くんが何時も話してる豪快な子ね」



が小さく笑いながらそう言うと、文次郎は仙蔵を軽く睨む



「お前普段どんな話してんだよ」

「どんなって、そのままの事だ」

「とても頼りになるって聞いてるわ、これからも仲良くしてあげてね」



がそう言いながら手を出すと、文次郎は一瞬躊躇った後そっとその手を取った



「で、こっちがクラスは違うが1年の時からの友人小平太だ」

「あぁ、あの入学当初ナンパして来たって言う子ね?」

「っせんちゃん!?」



の言葉に焦りながら仙蔵の方を向く小平太

仙蔵は笑いながら告げた



「事実だろ」



そう言う仙蔵を余所に、小平太は赤くなりながら焦っている



「だって本当に女の子かと思ったんだもん」

「確かに、仙蔵くん小さい頃は今よりずっと細くて白くて可愛かったもんね」

「姉さん…」

「忍術学園に入って大分逞しくなったって、父様も喜んでたよ」



は嬉しそうにそう告げる



「素敵なお友達も出来たみたいだし、私も安心したわ」

「素敵なって…、私達?」

「……そう…だろ…?」

「まぁ素敵かどうかは兎も角、楽しくやってますから、あまり心配しないで下さい」



仙蔵はそう言って苦笑すると、すっかり所在無さ気に立っている小松田が仙蔵に訪ねた



「あのぉ、僕そろそろ門に戻っても良いかな?」

「あぁすいません小松田さん」

「それじゃぁ僕は戻るね。仙蔵くんのお姉さん、帰る時は出門票にサインお願いしますね〜」

「はい、わかりました」



がそう返事をすると、小松田は門の方へ歩いて行った



「で、姉さんはこれからどうするんです?」

「えぇと…、母様から頼まれたお使いがあるから、帰りがけに町に寄ろうと思ってるんだけど…」

「え?でも今からだと大分暗くなっちゃうんじゃない?」

「そうだな、仙蔵ん家って山一つ向こうだろ?」



小平太と文次郎が仙蔵の横からひょいと顔を出す



「でも最近は夜も明るいからそんなに心配しなくても…」

「馬鹿言わないで下さい、何かあったら困るでしょう。私が学園長に頼んでおくから、姉さんは大人しく泊まって行って下さい」

「い、良いよそんな…、第一迷惑でしょ?学園長先生にはご挨拶するつもりだったけど…」

「だったら丁度良いじゃないですか、ほら行きますよ」

「あ、ちょっと仙蔵くん…」



仙蔵はの手を掴むと、有無を言わさず学園長室へと向かって行った

仙蔵の荷物と共にその場に残された小平太と文次郎は、二人の背中を見送りながらぼんやり呟いた



「せんちゃんのお姉さん…、本当に綺麗だよね……」

「まぁあの家系じゃな…」

「ちょっとせんちゃんに似てるよね…」

「仙蔵よりずっと優しそうだけどな…」



そんな事を呟き合いながら二人はため息を付くと、荷物を持ち上げ部屋へと戻って行った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「仙蔵くん、やっぱり悪いよ…」

「何、学園長は心の広い方だから、姉さんが一泊する事くらい問題ないはずだ」

「でも…」

「良いから」



仙蔵はそう言うと学園長室の襖を開けた



「失礼します」

「し、失礼します…」



仙蔵の後に続き、もおずおずと部屋の中に入る



「おぉ立花か、どうしたんじゃ?おや、そちらの人は…」

「私の姉のです」

「立花です、弟がいつもお世話になっております」

「いやいや、立花は実に優秀で学園の中でも指折りの人材です」



ぺこりと頭を下げるに、学園長はにこやかに笑い掛ける



「実は先程私の忘れ物を届けに来てくれたのですが、今から家に戻るとなると日が暮れてしまいます」

「そう言う事か、良いじゃろう、ぜひ泊まって行きなさい」

「宜しいんですか?」

「もちろん、おばちゃんの料理も食べて行くと良い、おばちゃんの料理は天下一品じゃからの」



学園長はそう言って笑うと、仙蔵に告げた



「しかし空いてる部屋が無いので、そこら辺はお前さん達でどうにかする様に」

「はい」

「ではそろそろ戻りなさい、今日は幸い授業も無い、お姉さんに学園の案内でもしてあげると良い」

「わかりました、失礼します」

「有難う御座いました」



仙蔵とは立ち上がり、同じ仕草で一礼すると、廊下へ出て行った



「しかし中々良く似とるのう…、なぁヘムヘム?」

「ヘム!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「言った通りだろう?」

「本当に良い人ね、学園長先生」

「あぁ、普段はロクでも無い思い付きで振り回される事が多いけどな」

「…ねぇ仙蔵くん」

「ん?」

「何で人前じゃなくなったらいきなり敬語やめちゃうのよ」



人気の無い廊下を歩きながら、は隣を歩く仙蔵にやや不服そうに訪ねる



「何でって、身内に其処まで気を使うのも面倒じゃないか」

「敬語使ってくれる機会なんて滅多に無いもんね…」

「家でまで堅苦しい言葉を使いたいか?」

「まぁ…それは嫌かもね」

「だろ」



そんな会話を交わしつつ、二人がまず向かったのは食堂



「ここが食堂かぁ…、思ったより広くないね?」

「そうだな、学園のほとんどがここで朝食や昼食を取るが、別に一斉と言う訳では無いからな」

「なるほど…」

「学園長も言っていたが、おばちゃんの料理は本当に上手いぞ」

「うちの母様のとどっちが美味しい?」

「…………困る質問だ…」

「そんなに美味しいんだ」



本気で悩む仙蔵を見て苦笑すると、はふと仙蔵に訪ねた



「ねぇ、そう言えば私って何処で寝れば良いの?」

「あぁ…、そうだった……とりあえず私の部屋へ行こう」

「はーい」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「戻ったぞ」

「仙蔵、お前人に荷物任せてさっさと行くんじゃねぇよ…」

「あぁ、すまなかったな…、姉さん、こっちへ」



仙蔵は押入れから座布団を取り出してを座らせる



「で、文次郎、相談があるんだが」

「何だ?」

「お前今日伊作の部屋で寝てくれ」



仙蔵がそう告げると文次郎はを見て呟いた



「泊まってくのか」

「あぁ、今から帰ったんでは流石に危険だからな」

「まぁそうだよな、仕方ねぇ…」



文次郎はそう言うと立ち上がり仙蔵を見下ろした



「お前はどうすんだ?」

「私は普通にここで寝る」

「お前…」

「勘違いするな、お前の様な馬鹿の巣窟に姉さんを一人で寝かせられる訳無いだろう」



仙蔵はそう言うと、仙蔵と文次郎をにこやかに見守っているに言った



「そうだ姉さん、あまり一人でうろつかないで下さいね」

「え?どうして?」

「仮にもここは男子の長屋、女性が一人で行動するのは色々と危険なんです、な?文次郎」

「俺に振るな…」



文次郎はため息を付くと、そのまま部屋を出て行った



「文次郎くんって、男の子っぽくて可愛いね」

「姉さん…、男の子っぽいのに可愛いじゃ矛盾してると思うぞ」

「私から見れば仙蔵くんの年頃の子は皆可愛いわ」

「4つ違うだけだろ」

「4つと言えば随分と年上よ」

「まぁ…、そんな事より私は荷物を整理するから、姉さんは好きに寛いでてくれ」

「うん」



こうして荷物整理を始めた仙蔵の横で、はきょろきょろと部屋を見渡したり、本を手に取ってみたりと暇を潰し始めた



- To The Next -



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



唐丸サマとの約束だった「仙蔵に姉さんと呼ばれたいDream」です(何

いや、もう本当に私の煩悩の塊ってくらいの好き勝手設定なのですが、どうしても仙蔵に姉さんって呼ばれたかったもので!!

いつの日かメッセで唐丸サマとお話していたら「仙蔵が弟だったら…」と言う話になりまして、

「馬鹿にされそう」と言う私に、唐丸サマは「仙蔵だったら仕方ないなぁ姉さんは…とか言いながら気に掛けてくれると思う」

と言う素敵発言を!!

その言葉で見事脳味噌が沸いた私はついにパラレルとも言えるDreamに手を出してしまった訳です。

私的設定だと、立花(19) 仙蔵の姉 性格は穏やかで楽天的、かつ微妙に天然

そして最も私的な設定は、人前では敬語なのに二人っきりだとタメ語な仙蔵さん…v

常に危なっかしい人だと思い呆れながらも世話を焼いちゃうんですよ。

実際姉さんはそんなにボケてる訳じゃないから、仙蔵の取り越し苦労なんですが(笑

そして姉さんは仙蔵を"仙蔵くん"と呼ぶ

これも私の願望垂れ流し!!

姉さん的には可愛い可愛い弟なんです

微妙にシスコンっぽい仙蔵さんの行動に、ハラハラしながらもちょっと嬉しい…みたいな。

あぁぁぁぁ、もう駄目だ_| ̄|○

語りだけで軽く50行越えそうです(馬鹿

とりあえず続くのでお気に召した方はどうぞ楽しみにしてて下さいませ^^;



'04/09/06