〜!!」

「立花先輩!!」



伯仲堂々

人通りの多い廊下だと言うのに抱き合うこの二人

学園内で知らぬものなど誰一人いない

6年生の立花仙蔵と、5年生の

この二人は恋人同士

忍者とは言え恋仲になる事自体は特に問題無い

しかしこの二人、学園内ではとんでもない"バカップル"で有名だった




は今日も相変わらず可愛いな」

「先輩こそ、今日も格別に格好良いです」



人の目など知ったことでは無い

今この空間には二人だけの別世界が広がっている



「仙蔵…ここ一応食堂だし……」



おずおずと話しかけて来たのは常識人の善法寺伊作

昼食は食べ終えたと言うのに未だに食堂内でいちゃつく二人に、伊作は提言する



「別に問題無いだろう。私とは一緒に居られる時間が限られているんだ…せめて昼時くらい良いじゃないか」

「いやでも…」

「それとも何か、私との仲を引き裂こうとでも?」

「あぁ、そう言えば私新野先生に呼ばれてたんだ!!それじゃぁ私はもう行くね!!」



不機嫌そうに尋ねる仙蔵に、伊作は顔色を変えて逃げて行く

そんな伊作の背中を見届けたは、隣の仙蔵を見上げて尋ねた



「先輩、でもやっぱり皆の迷惑になるから他に行った方が…」

「そうか?まぁがそう言うのなら移動するとしよう」

「有難う御座います先輩」

「いや、は本当に優しいな」

「先輩ったら、そんな事ないですよ」



仲睦まじく寄り添いながら、仙蔵とは食堂を後にする

嵐は去った

食堂内では一斉にため息が吐き出された



「…全く……あいつらにも困ったもんですね…山田先生」

「そうですなぁ…。仲が良いのは良い事だが少しばかり行き過ぎな気が……」



二人の去っていった方を見つめながら、土井半助と山田伝蔵はため息混じりに飯を突付くのだった



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「あ、ちゃん発見!!」

「七松先輩?」

「何だ小平太、に何か用か?」

「うん、丁度山本シナ先生がちゃんを呼んでたからさ」

「そうなんですか?有難う御座います、七松先輩」

「ううん、ついでだから」

「じゃぁ立花先輩、私そろそろ行きますね」

「あぁ、残念だが仕方ないな…。今日の放課後また会いに来てくれ」

「はい、必ず行きますから」



仙蔵の言葉ににこりと微笑んで、は颯爽と走り去った



「さて…、おい小平太」

「ん?」

「お前はいつからを名前で呼ぶようになったんだ?」

「え?……いや、それは…」

「確かにお前がと仲が良いのは認めよう。だからと言って"私の"に何かするようであれば…解ってるな?」



仙蔵は背後に黒い物を漂わせるながら小平太に尋ねる



「ひっ……」

「まぁ今更呼び方を変えろとは言わないが…、あまり近付き過ぎるなよ?」

「…………」



仙蔵に詰め寄られ、小平田は無言のままぶんぶんと首を縦に振る

それを見ると満足げに頷いて、仙蔵もまた何処かへ去っていった



「こ、恐かった…」



涙目の小平太は暫くその場から動けなかったと言う…



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「失礼します」



一方その頃、は呼ばれた通り先生の部屋までやって来ていた



「あら、早かったわね」

「はい。七松先輩が教えてくれまして」

「そうなの、それは良かったわ」

「あの、それで何の御用ですか?」

「そうそう、それがね…」



が尋ねると、山本は少し真面目な表情で語り始めた



「…と言う訳なの」

「ぇ……それじゃぁ…私一人で忍務に?」

「えぇ。大丈夫かしら?」

「はい。私はもちろん平気ですけど…」

「そうね、さんの事は心配ないわよね。ただねぇ…」



2人は同時に仙蔵の顔を思い浮かべて苦笑する

の実力を見込んでと舞い込んだ忍務の話だったが、一人での行動となると仙蔵がどんな反応を示すか解らない



「あの、私ちょっと先輩に話してみますね」

「そうね、私からじゃ何を言っても無理そうだから…」

「はい。許してくれるかはわかりませんけど、でも受けた忍務を放棄しろとは先輩も言わないと思いますし」



は笑いながらそう言うと、立ち上がり扉に手を掛ける



「とりあえず、あなたの将来も掛かっているし、くれぐれも慎重にね?」

「はい、有難う御座いました。失礼します」



背中に投げ掛けられた言葉に頷き、はぺこりとお辞儀をするとそのまま部屋を後にした



「…大丈夫かしら……」



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「先輩」

「あぁ、待ってたぞ」



放課後、約束通り仙蔵の元へがやって来た

しかし仙蔵は振り返ってを見た瞬間、何となくの様子がおかしい事に気が付いた



「どうかしたのか?」

「どうしてですか?」

「いつもならばここで熱い抱擁が…」

「先輩…」



一人トリップする仙蔵を余所に、の顔は何だか晴れやかではない

は暗い調子のままぽつりぽつりと仙蔵に話を切り出した



「えぇと…、山本先生の話だったんですけど」

「あぁ、小平太が言ってたやつだな。何の話だったんだ?」

「あの…、私が成績優秀だって褒められまして」

「そうか。流石だな、しかしそれならばどうしてそう暗い顔をする必要がある?」



仙蔵が尋ねると、は困ったような顔で仙蔵を見上げる



「それで…実技の方が特に優秀だからって……特別課題を出されて…」

「特別課題?」

「はい。これに合格すれば一流のくの一になる事も夢じゃないって…」

「それは凄いじゃないか…」

「でも…」

「でも?」



はそれきり俯いて黙ってしまった



…」



そんなの肩を、仙蔵はそっと抱き寄せる



「このまま黙っていられては私も対処のしようがない…それとも、私には言い難い話しなのか?」

「……先輩…っ…」



は仙蔵に抱きつく

反射的にそれを受け止めながら仙蔵はの髪の毛を愛しそうに撫でた



「今回の忍務内容がある方の護衛なんですけど…、あまり数が多いと困るから私一人と言う事になっていて……」

「………」

「しかも目的地もまだ知らされていないのでどれ位学園を離れるか解らないんです…」

「そうか…」

「先輩と暫くの間会えないと思うと……」

…」



傍から見ればただのバカップルそのものだが、本人達は至って大真面目らしい



「私…どうしたら良いんでしょうか……」



目尻に涙を為ながら自分を見上げるに、仙蔵は優しく微笑む



、ここは行くべきだろう…。私だってを一人で行かせるのは辛いし暫く会えないなんて心が引き裂かれる思いだ…」



仙蔵はの肩に左手を置き、もう片方の手で拳を作りながら語り掛ける



「しかし今の私にを止める権利は無い。これはの人生なのだから…私の為に自分の道を粗末にしてはいけない…」

「先輩……」

…」



仙蔵の言葉には感動の涙を流し、やがて二人はしっかりと抱き合う



「…おいお前ら…俺の存在は無視か………?」



そう

此処は仙蔵の部屋

其処にはもちろんルームメイトである文次郎が居る

存在をまるっきり無視された文次郎は目の前の仙蔵とを眺めながら呟くが、今の雰囲気に水を差すと殺されかねない

文次郎は気付かれないようにこっそりため息を付き、さっさと出て行けと念を送る事しか出来なかった



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「と、言うわけで。私、行く事に決めました」

「そう、それは良かったわ。でも良くあの立花くんが許してくれたわね…」



山本の元へ報告に来た

山本はに事の経緯を聞き、意外な仙蔵の反応に驚いているようだった



「はい、私も少し驚いてますけど…でも先輩があぁ言ってくれたのだし…」

「そうね」



の言葉に山本はふっと笑うと、の肩にぽんと手を置いた



「では明日の早朝、この紙に書いてある場所へ行って頂戴。遅刻は厳禁よ」

「はい!!」



こうしては一流のくの一に向け特別課題と言う名の仕事に励む事となった



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「…………よし!!」



次の日

長い沈黙の後に短い決意の言葉

現時刻早朝4時半

は支度を整えるとそっと学園を出て目的地へと出発した



「場所は…裏裏山の麓にある茶店……?」



先生から渡された紙を頼りに目的地へ急ぐ



「何だか随分安っぽい場所だなぁ…」



風を切って走りながらは首を傾げた

しかし、与えられた忍務に文句を付けている場合ではない



「まぁ一応遅れないようにしなきゃ…」



は案外近いようで遠い裏裏山の麓までの道を、音も無く走った



「良し、何とか着いた…」



程無くして目的地についたは足を止め、少し離れた場所から茶店の様子を伺う



「お店は当然まだ開いてないよね」



現時刻早朝6時を少し廻った頃

当然の如く茶店は閉まっており、辺りには人影もなくひっそりとしている



「ん〜…」



は暫く考えた後で、茶店の傍で依頼人の到着を待つ事にした



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「誰だっ!?」



途中背後の草むらから気配を感じたが、草むらに向かい苦無を投げつける

するとねずみが一匹草むらから飛び出し、慌てた様子で何処かへと走っていった



「ねずみ…?おかしいな…確かに人の気配だったんだけどなぁ」



は首を傾げて呟くが、気を取り直して再度依頼人を待つ



「流石は私の…!!」

「仙蔵……」



が投げた苦無が、地面に突き刺さっているそのすぐ傍で、仙蔵、伊作、文次郎は身を潜めていた



「お前…俺がたまたまねずみを持ってたから良いような物を…」

「後付けるなんて…さんに見つかったら怒られちゃうよ?」

「平気だ、例え何があろうとは私が守るからな」

「いや、意味が全然伝わって無いし…」

「無駄だ、今のこいつに何言っても通じねぇ…」



文次郎と伊作は深くため息を付く



「来たぞ」

「ぇ?」

「あれが依頼人か…」



仙蔵の声に二人が振り返ると、其処には何の変哲も無い一人の青年が佇んでいた




「依頼人の方ですね?」

「あぁ。今日は宜しく頼むよ」

「はい、お任せ下さい」

「それにしても…」

「はい?」

「君が今回の護衛…?」

「ぇ?」



依頼人の青年はをじっと見つめる



「あ、あの…?」

「あぁ、ごめん。君みたいな可愛い子に護衛を任せるのは少し気が引けるなと思って」

「か、可愛いってそんな…」



青年の笑顔とストレートな言葉に、は戸惑いを隠せない



「……………」

「せ、仙蔵…?」

「落ち着けって、な?」

「…………殺す…!!」



一方草むらに潜んでいる仙蔵は心中穏やかではなかったが、それよりも伊作と文次郎の方が穏やかでは無かった



「あ、あの…それで、今回の目的地は何処までですか?」

「サンコタケ城まで頼むよ」

「了解しました。それじゃぁ早速行きましょう」

「あぁ」



の言葉に促され、二人はサンコタケ城に向かい歩き始める

それに従い仙蔵達もこっそり後を付いていくが、仙蔵はぶつぶつと呟く



「あいつ…に何かしたら私の宝禄火矢で吹っ飛ばしてやる…」

「仙蔵…それじゃさんにバレちゃうよ」

「ていうかあの男…なんか胡散臭いな…」



こうして何も知らない二人と、その二人の後を付ける三人は共に目的地へと向かうのだった



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'04/02/26