「あ〜もう、本当に可愛いなぁ……」

「………アレが、か?」



仙蔵は校庭を指差し尋ねる



「うん、そりゃもう」

「……そうは思えないが………」

「何で?あんなに可愛いのに…」



校庭でサッカーをしている一年"は組"の子供達を微笑ましく見守りながらは隣に立っている仙蔵に尋ねる

仙蔵はちらりとを見るとすぐに視線を元気良く校庭を駆ける子供達に目をやり答えた



「いや……どうしてと言うか…あの雰囲気と緊張感の無さ……一緒にいると疲れないか?」

「そうかなぁ?」



仙蔵の答えに首を傾げながらは笑う



「………そういえばは"は組"の連中と仲が良いな」

「ふふ、だって可愛いんだもん」

「……はぁ」



嬉しそうに笑うを見て仙蔵は理解出来ない、と言った顔で呟いた



「同レベルと言う事か…?」

「………何か言った?」

「いや…何でもな……」



仙蔵が言いかけたその時、向こうからサッカーボールが飛んできた



「ぉわっとっとっと……よいしょっ」



はそのボールをひらりと交わし足で受け止める



「……何も足を使わなくとも…」

「何言ってるの、サッカーで手を使って良いのはキーパーだけじゃない」

「いや、それはそうだが…」



得意そうに笑いながらボールをリフティングするに仙蔵はため息をつく

すると一斉には組の子達が走り寄って来た



「ごめんなさーい!!」

「大丈夫でしたかー?」

「あ、先輩だ〜」



一気に仙蔵とを囲む一年は組の良い子たち

はにこにこと笑いながら、足で巧みに操っていたボールをポンと庄左ヱ門の方へ飛ばす



「っと、ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」



ボールをキャッチして丁寧にお礼を言う庄左ヱ門を見下ろしながらは微笑む



「一年は組勢ぞろいだねぇ」

「………そうだな…」



嬉しそうなと打って変わり微妙な顔の仙蔵

どうやら目の前にわらわらと群がるは組の子達に慣れないらしい



先輩、リフティング上手だねぇ〜」

「へへ、ありがと、ホラしんべヱくん鼻、出てるよ」



はその場に屈むと取り出したハンカチでしんべヱの鼻を拭いてあげた



「あ、しんべヱずり〜!!俺だって先輩に鼻かんで欲しい〜!!」

「きりちゃん、君鼻水出て無いでしょ」



恥ずかしそうに笑うしんべヱにきり丸が叫べば額に汗を浮かべた乱太郎が素早くつっこむ



「あはは、本当に良いトリオだねぇ、君達は」



はそう言って笑いながら三人の頭を優しく撫でた

これには他のは組の生徒も黙ってはいない



「何だよ三人だけズルイぞー!」

「先輩僕も僕も〜」

「あはは、はいはい…」



一斉にの周りに群がる団蔵や兵太夫、その他を順番にぐりぐりと撫で回しながらは恥ずかしそうに笑った

それを見て面白くないのは仙蔵、暫くその姿を眺めていると踵を返して何処かへ行ってしまった

はそんな仙蔵を追う事もせずその場に残ったままだ



「あ、俺そろそろバイトの時間だから行かなきゃ!!」



ふときり丸がそう叫ぶ



「え〜、きりちゃんもう行っちゃうの?」

「あぁ、早くしないと遅刻しちゃうし…」

「そっかぁ…それじゃぁ頑張ってね」

「おう!!んじゃなーー!!先輩もさよならーー!!」

「ばいばーい、頑張ってねーーー!!」



の声援を背にきり丸は手を振りながら走り去っていった



「人数足りなくなっちゃったね〜」

「どうしよ、他の事する?」

先輩きり丸の変わりに入ってくれませんか?」

「あ、それ良いかも!」

「賛成〜」



乱太郎の提案に他の皆が一斉に賛同し、きらきらとした瞳でを見上げる



「(………か、…可愛い………っ!!)」



の内心ではある葛藤が繰り広げられている



「(は組と仙蔵………)」



先程明らかに気分を害して去ってしまった仙蔵の事も気に掛かるが、こうきらきらした瞳で見上げられては流石に無視も出来ない



「あの……えっと…………その…」

「先輩〜一緒にサッカーしようよ〜」



しんべヱがの手を取る



「お願いします〜」



乱太郎がもう片方の手を取り懇願する



「………………っごめん!!」



はそんな可愛い後輩の頼みも押し切り一言謝る



「私、行かなきゃいけない所があるから…」

「行かなきゃいけない所?」

「うん……さっき拗ねちゃったのが一人いるから……」



が苦笑しながらも恥ずかしそうにそう告げるとは組の子達は互いに顔を見合わせるとにっこり微笑んだ



「こっちこそ引き止めちゃってごめんなさい」

「また今度暇だったら一緒に遊びましょうね」

「皆…………………っ可愛いーーーー!!!!」



何処までも丁寧で無邪気なその態度には心打たれ思わずその場にいた全員に飛びついた



「せ、先輩…」

「はぅ〜、何でこんなに可愛いのかなぁ?もう本当に弟にしたい…!!」

「あわわ……」

「先輩…あの……立花先輩の所に行くんじゃ…」

「え?あ、そうだった…」



庄左ヱ門の冷静な意見に、は我に返る



「あれ?私仙蔵の所って言ったっけ?」

「いえ…」

「あ、いや……その…何となく……」



の問いに慌てて微妙な返答を返しながら額に汗を浮かべるは組の生徒



「まぁいっか、それじゃぁ私行くね!また明日にでも遊びましょv」

「「「「「「「「「「はーい!それじゃぁさよならーー!!」」」」」」」」」」」



元気の良い挨拶にまたにっこりと微笑みながらは校庭を後にした



「やっぱり先輩って優しくて良いよね」

「うん、でも立花先輩が相手じゃあんまり甘えられないね」

「……さっきのは危なかったかも………」

「立花先輩、先輩の事になると冷静じゃなくなっちゃうもんね〜」



が去り、行手に残された"は組"の生徒達はそんな事を話しながら苦笑した



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「はぁ〜……可愛かったなぁ…」



は先程の出来事に思わず緩む頬もそのままに仙蔵の部屋へと向かう



「仙蔵いるーーー?」



そんな掛け声と共に勢い良く扉を開くが、中には誰もいない



「………………」



は無言で部屋の中に入るとある場所でぴたりと立ち止まる

そして勢い良くその場で足踏みをして畳みをひっくり返す

すると畳みの下から潮江文次郎が顔を出した



「あぶねっ!!何すんだよ……」

「潮江、仙蔵何処行ったかしらない?」

「仙蔵?しらねぇな……」

「じゃぁ良いや、邪魔したわね、ばいばい」



はそれだけ言うと部屋を出て行ってしまった



「………何でバレたんだ?」



一人部屋に残された文次郎は慌しく去っていったの勘の良さに不服そうに呟いた



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「全く…何処に行っちゃったのかなぁ…」



若干面倒臭くなって来たのか、の足取りは重い

何となく廊下を歩いていると図書室が目についた



「…………」



到底いるとは思えなかったが一応図書室へ足を踏み入れる

室内には相変わらず人気がなく、カウンターに中在家長次がいつもの仏頂面で座っているだけだった



「中在家、仙蔵見てない?」

「………」



長次は黙ったまま図書室の奥を指差した

どうやら仙蔵はそこにいるらしい



「ありがと」



は短くそう言うと足音をさせずに奥へと向かっていった

長次はそんなの背を見送ると立ち上がり図書室から消えた

長次なりの配慮らしい



「あらら…」



図書室の一番奥の本棚の方をそっと覗いてみるとそこには転寝をしている仙蔵の姿



「珍しい事もあるもんだねぇ」



起こさないよう慎重に仙蔵に近寄る

起こす事無く目の前まで来ると、そっと仙蔵の前に座り込みその貴重な寝顔を覗き込んだ



「…………可愛い…」



どんなに大人びていても15歳は15歳、寝顔はまだあどけないものがある

は自分と同じ年にも関わらず仙蔵の可愛らしい寝顔に微笑んだ



「…ありゃ………起きちゃった?」



ふと腕を掴まれは驚いたように問う

仙蔵は瞑っていた目をゆっくりと開けてを見るとぶっきら棒に答えた



「気付かない訳ないだろう」

「まぁ……それもそうか」



はそう言うと仙蔵の隣に腰を下ろした

腕は未だ捕まえられたままだ



「拗ねちゃった?」



は自分の腕の裾を掴んで話さない仙蔵の頭を優しく撫でながら悪戯っぽく尋ねる

仙蔵はむすっとした顔のまま答えた



「別に拗ねてなどいない」



そんな返答には思わず噴出す



「可愛いなぁ……」



片腕を捕らえられたまま、空いている腕でそっと仙蔵の頭を包み込む

すると仙蔵は掴んでいたの腕を放し今度は両腕でしっかりとを抱き締めた



「そんな事言われても嬉しくない」

「何で?」

「普通そうだろう…」

「そうかなぁ…」



は少しだけ首を傾げるとまた小さく微笑んで仙蔵の頬に口付けた



「褒め言葉なんだよ?」

「………男が可愛いと言われても…」

「まぁ、気にしない気にしない」

「…………」



仙蔵は複雑そうな顔でを見上げる

はそんな仙蔵の頭を撫でながら優しく微笑んだ



「…………は…」

「ん?」

はそんなに子供が好きか?」

「うん、好きだよ?可愛いし、一緒にいるとこっちも元気になれちゃうでしょ」



仙蔵の問いににこにこと答える

仙蔵はそんなの答えに一度空を見つめ何やら呟く



「そうか……子供が好きか…」

「どうしたの?」

「いや……」

「仙蔵は小さい子、嫌い?」

「………あまり好きではない、しかし…」

「しかし?」



仙蔵は空を見つめていた視線をの瞳へ移して笑った



が子供を好きだと言うのなら、お互いの将来の為には慣れて置く必要がありそうだな」

「…………ぇ?」



は一瞬我が耳を疑う



「な、何それ……どう言う意味よ」

「どう言う意味も何も、そう遠くない未来の話しをしているだけだが?」

「いや……で、でも…そんないきなり………」

「…何もそこまで慌てなくとも……」

「だ、だって仙蔵が変な事言うから……!!」



耳まで真っ赤になりながら両手をじたばたさせる

仙蔵は一瞬にやりと邪悪な笑みを見せるとに軽く触れるだけの口付けをした



「楽しみだな、と私の子ならばさぞ可愛かろう」

「…………………なっ…何で…そうなるのよ…」

「私としては似の女の子が良いとは思うが…しかしそうなると嫁に出すのがな…」

「ちょ、ちょっと仙蔵?」

「男でも良いかもしれないが…あまり子供に感け過ぎてしまわれても困るし……」




仙蔵はぶつぶつと呟きながら将来の計画を始めてしまった



「…………私と仙蔵が結婚するのは決定事項ですか?」



は諦めたように仙蔵に問いかける

すると仙蔵は顔をあげを見つめると極めて自然に言い放った



「当然だ」



今更何を…そう言いながらまた将来への思いを馳せる仙蔵に、は思わず苦笑するのだった



「仙蔵」

「何だ?」

「今から名前でも決めておこうか」

「何のだ?」

「私と、仙蔵の子供の名前」



その日の図書室では辺りが暗くなるまで延々と名前を考える二人の姿が見られたらしい



- END -



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'04/05/19