「まさかさんが土井先生の事を好きだったなんてね…」

「あ、でも結構前からさん土井先生と楽しそうに話してたかも」

「しっ、静かにしろよ乱太郎、しんべヱ、先生達に見つかっちゃうだろ!?」



半助の部屋の前の庭に潜んでいる三人

きり丸の言う通りに教室に半来たものの半助は教室に居なかった為、はわざわざ半助の部屋まで強壮の薬を届けに来たらしい

ひそひそと話していた二人にきり丸が注意すると、乱太郎としんべヱは揃って口を開いた



「ねぇきり丸〜、利吉さん放っといて良かったの?」

「そうだよ、がっくり肩落としてどっか行っちゃったの…、元はと言えばきりちゃんのせいじゃない」

「良いんだよ、少しそっとしてあげた方が利吉さんの為だろ、大体がっかりしたのは俺の方だぜ…」



きり丸はため息を付きながら少し不機嫌そうに呟く



「折角利吉さんのご機嫌取って売れっ子フリー忍者の秘密やらを色々聞こうと思ったのにさぁ…」

「きりちゃん……やっぱり自分の為なのね…」

「おい、それより土井先生とさんの会話が聞こえる所まで行くぞ」



きり丸はそう言うと息を潜め半助の部屋にそっと近付いて行った

乱太郎としんべヱは顔を見合わせため息を付いて、その後に続く



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「これを私に…?」

「はい、新野先生に教えて頂いたんです。効力は保障出来かねますけど、良ければぜひ使ってみて下さい」

「あぁ、わざわざ有難う、早速服用してみるよ」

「あの、あまり無理しないで下さいね、生徒さん達の事ばかりでは体が持ちませんよ?」

「まぁ教師なんてそんな物だから仕方ないんだけどね」



三人がこっそりと聞き耳を立てれば、中からは和やかな話し声が聞こえて来る



「やっぱりさん土井先生と…」

「確かに二人ともお似合いかもしれないけど…」

「土井先生も良い年だしなぁ…」



そんな話し声を聞きながら三人が話し合っていると、やがては立ち上がり襖を開けた



「それじゃぁ、私まだやる事があるので失礼しますね」

「そうか、それじゃぁまた」

「はい、失礼します」



にっこり微笑んで襖を閉めると、事務室の方に向かい廊下を歩いて行ってしまった

三人はの後姿を見送った後、再度これからの事について話し始めた



さん行っちゃったね」

「どうするきりちゃん?」

「そうだな…、こうなりゃ直接さんに聞くしか…」



きり丸が言いかけた途端、半助の声が三人に投げかけられた



「きり丸、乱太郎、しんべヱ、いい加減に出てきなさい」

「「「え?」」」



三人が一斉に振り返ると、そこには仁王立ちで三人を見下ろす半助の姿



「お前達、さっきから人の部屋の前でごちゃごちゃとうるさいぞ」

「せ、先生気付いてたんですか?」

「当たり前だろう、お前達の気配が探れないんじゃ私の教師人生は終わりだ」

「それは確かにそうですね」

「納得するな。そしてきり丸、一体誰が良い年なんだ?」

「え、いや、それはその…あはは……」

「大体隠れてる時にあんな大きな声でこそこそ話する馬鹿が何処にいる」

「「「ここに」」」

「………お前達には徹底した補習が必要な様だな」

「「「げ!?」」」

「こうなったら基礎の基礎、呼吸法から学び直しだ!!」

「「「そんなぁ〜!!!」」」



そんなこんなで三人は半助に捕まり、仲良く補習を受ける事になってしまった



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「……はぁ………」



一方利吉は三人と別れた後当てもなくただフラフラと学園内を彷徨っていた



「土井先生か…」



思い切り深いため息と共に呟く



「土井先生がどうかされましたか?」

「いえ…ちょっとこちらの話で………って…うわっ、さん!?」



背後から聞こえた可愛らしい声に勢い良く振り返ると、そこには自分を見上げている



「利吉さんたら呼んでも全然気付いて下さらないから…」

「す、すみません…」



の気配に気付かないとは、余程気を落としていたんだろう

利吉はそんな自分が情けなくてまた一つため息を付く



「どうしたんですか?今日の利吉さん、何か変ですよ…?」



心配そうに小首を傾げるを見下ろし、利吉は肩を落としたまま小さく呟いた



「自分でも…そう思います……」

「何処か具合が悪いんですか?」

「いえ、そう言う訳ではないんですけど…」

「では悩み事があるとか?」

「……………」



悩み事と言う単語に思わず黙り込んだ利吉を見て、は微笑む



「少し、お話しませんか?」

「え…?」

「お仕事や色々な事で疲れてる時には甘い物が一番ですよ、今から丁度お茶にしようと思ってたので、ご一緒しませんか?」



そう言いながら利吉の腕を軽く引くに流され、二人はの部屋の前の縁側へと移動した



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「はい、お茶が入りましたよ」

「あ、すいません」



から茶碗を受け取ると、は利吉の隣に腰掛ける



「どうぞこっちも食べて下さいね」



がそう言って差し出したのはお茶請けの小さな団子



「頂いて良いんですか?」

「はい、先日土井先生から頂いた物なんですけど、私一人では食べ切れませんので」

「…土井先生……から…」

「えぇ、郊外授業に行った時のお土産に買って来て下さったんです」



嬉しそうに話すの横で、利吉の表情が一段と暗くなる



「利吉さん…、どうしました?」

「いえ……何でも無いです」

「…そう……ですか?」

「はい、気にしないで下さい」



困った様な顔で無理に笑って見せる利吉を見て、は心配そうな顔をすると、ふと何かを思い出した様に立ち上がった



さん?」

「ちょっと待ってて下さい、すぐに戻りますから」



それだけを言い残すと自分の部屋の中に入っていってしまう

取り残された利吉は、が居なくなったのを確認すると盛大にため息をついた



「情けない…」



ため息と共に涙交じりに呟く

自分の恋が叶わないと知った今、の誘い等断ってしまえば良かったのに

それが出来なかった自分が情けなくて仕方無い

しかしあんな笑顔で微笑まれたら断る事等出来ない

そんな優柔不断な自分に益々嫌気が刺して利吉はこれ以上無い位に落ち込んだ様子で深いため息をついた



「利吉さん」

「あ、はい」



何時の間にか部屋から戻って来たに話しかけられ、利吉は我に返る



「あの…、これ……」



そう言って少し控えめに差し出されたのは中手の平サイズの布制の袋だった



「これは…一体…?」

「これ、私がさっき新野先生に教わって作った強壮なんです」

「あ……」



ふいにきり丸の言葉が蘇る



(そう言えばさん、誰かの為に一生懸命強壮の薬作ってたからなぁ〜)



それはまさにこれの事なのだろう

利吉は差し出された袋を受け取り、まじまじと眺めた



「私が作ったものなので、効くかどうかはわからないんですけど…」



苦笑しながらそう告げると薬を見比べ、利吉は思わず尋ねた



「土井先生にも…これを……?」



利吉の言葉には少し驚いた様な顔をした後、照れながら答える



「はい、ちょっと作りすぎて余ってしまったので、お団子のお礼にと思って先程持っていたんです」

「余ったって…、それじゃぁこれは……」

「元は利吉さんの為に作った物ですから」



にこりと微笑んでそう一言告げる



「私の…為、に……?」



利吉が信じられないといった顔でを見つめながら尋ねると、はほんのり頬を染めた



「はい…、利吉さん、最近忙しくて家にも戻って来ないと山田先生が仰ってたので…」

「父上が…」

「この前お話していたら利吉さんの話題になって、それで…」

「そうだったんですか…」

「はい…」



そう言うとは利吉を上目で見ながら、恥ずかしそうに告げた



「それで…、余計なお世話かと思ったんですけど、何かお役に立ちたくて…」

さん…」



照れながら笑うを見つめた後、利吉は片手で顔を抑えて俯いた



「利吉さん?」



不思議そうにが利吉の様子を見れば、利吉は顔を抑えながら赤くなっている



「すいません…、やっぱり迷惑でしたか…?」

「いや、違うんです……その…嬉しくて……」

「………嬉しい…?」

「いえ………すいません…何でもないです……」



利吉は耳まで赤くなりながら、首を横に振ったり何かを言いかけて止めたりと、かなり落ち着かない



「あの……有難う…御座います……」



真っ赤になりながら、それでも何とかを見て利吉は小さな声でそう告げた

は利吉の言葉を聞くと嬉しそうに笑う



「良かった…、余計なお世話だって怒られちゃったらどうしようかと思いました」



そう言いながらほっとした表情を見せるを見て、利吉は先程までの自分を思い返し恥ずかしくなる



「やっぱり情けない…」



ぼそりと呟いた声には首を傾げる



「何が情けないんですか?」

「いえ、さんの言動に一喜一憂している自分がどうにも許せなくて……」



利吉はそこまで説明すると、を見て困った様に笑った



「貴女の前だとどうにも調子が狂ってしまいます」



利吉はそう言いながら頭を掻く



「…私だって……同じです…」

「え?」

「利吉さんの事を考えると…どうしても心配で……」



視線を横に逸らしながら赤い顔でが呟く

利吉は思わずの両手を取りじっと見つめた

突然の行動に驚き利吉を見つめ返す

ふと利吉が口を開いた



「好きです」

「……利吉さん…」

「出会って二回目でこんな事を言うのは気が引けますが…、どうしても抑え切れなくて…」



そう言うと握っていた手を離し、利吉は微笑んだ



「すいません、突然こんな事を言われても困るだけですよね」

「い、いえ!!そんな事ないです!!」

さん…」

「私…も………、私も利吉さんの事が…好きです……」

「…本当……ですか…?」



利吉に負けない位真っ赤になったは、俯いたまま頷いた



「良かった…」



利吉はそう言うが早いかの身を引き寄せしっかり腕に抱き締めた



「…………」

「土井先生の所へ行ってしまうのかと思いましたよ…」

「な、何でそんな事を…?」

「実は…、先程さんがきり丸くん達と話している時、私も草陰に居たんです」

「あら…」

「それで…、何だか嬉しそうに土井先生の事を探していたので……」



決まり悪そうにそう告げると、は苦笑しながら利吉の背中に腕を回した



「土井先生に薬をお渡ししたら、利吉さんの所へ行こうと思ってたんです」

「……そうだったんですか…」

「えぇ、それで早く会いたいな、と思ってたので…多分そのせいで嬉しそうに見えたんだと思います」



の言葉に照れつつ喜ぶ利吉

そんな利吉を見ながら微笑む

こうして二人は暫く抱き締め合っていた



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「な〜んだ、さん土井先生の事が好きなんじゃないのか」

「残念だったね、きりちゃん」

「ったく…、最初から判ってたら今頃二人にお礼の一つでも貰えたかもしれないのに…」

「でも、利吉さんもさんも良かったねぇ」

「そうだね」

「そうだな」



補習を終えた三人が、にっこり顔を見合わせる



「お〜ま〜え〜ら〜〜…」

「げっ!?」

「土井先生…」

「何でこんな所に…」

「何でじゃない!!堂々と人の行動を探るなと何度言わせたら解るんだ!!」

「「「ごめんなさーい!!」」」

「待たんかーー!!!!」



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三人が半助に追い回されている丁度その頃

と利吉はお茶の続きを楽しみながら、のんびり過ごしていた



「あら?何か騒がしいですね…」

「そうですね…、きっと何処かのお節介三人組が怒られてるんじゃないでしょうか」

「???」



心配そうなを余所に、利吉は今日散々自分を振り回した小さな忍たまを思い出して苦笑した



さん」

「はい?」

「今度一緒に私の家に行ってくれますか?」

「はい、喜んで」









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「あーもう、何で俺達ばっかりこんな目に合うんだよ〜!!」

「元はと言えばきりちゃんのお節介のせいでしょーが!!」

「二人共待ってよぉ〜〜!!」

「待てー!!お前達、今日は一日補習漬けだー!!」

「「「ごめんなさーい!!」」」



- END -



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因みにこのヒロインさんは100題の「No.1」に出てきたのと同一人物だったりとか、いらん設定があったりする。



'04/08/05