「あ、居たよ。さんだ」



乱太郎が指差す方には薬草園で本を片手に奮闘しているの姿があった



「何か読んでるぞ?」

「多分薬草学の本だよ、うちの薬草園似てるの多くて大変なんだ」

「確かにさん大変そうだね…」



3人組はこっそりとの様子を近くの草むらから伺っている



「よし、ここは乱太郎の出番だ」

「えぇ!?私!?」

「だって俺達が行ったら返って怪しいだろ、でも乱太郎なら保健委員だから何の不思議も無いし」

「はぁ…」

「適当に話しながら利吉さんの話題でも出してみろよ、そうすりゃさんの態度でわかるからさ」



どんどん話しを進めていくきり丸に半ば呆れながらも乱太郎は仕方なく頷いた



「わかったよ…」

「よっし、そんじゃぁ俺としんべヱはここで見てるからな」

「頑張ってね乱太郎!!」



心底楽しそうなきり丸と、何だかんだで乗り気なしんべヱに見送られ乱太郎は渋々の方へ向かった



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「あら?そこに誰かいますか?」



が草むらに向かって声を掛けると乱太郎が出てきた

微妙に気まずそうなのが気になるが、はにっこりと微笑む



「乱太郎くんだったのね、ごめんなさい、新野先生には薬草まだ時間掛かりそうですって伝えてくれないかしら」

「あ、いえ、違うんです、新野先生に頼まれた訳じゃなくて…」



はどうやら乱太郎が新野先生に頼まれて催促に来たのだと思い込んでいるらしい

乱太郎は両手を左右に振りながら説明する



さんが薬草園に行く所が見えたので、お手伝いしようかと思って…」



乱太郎がそう言うとは嬉しそうに笑う



「本当?有難う、私一人じゃ大変だなって思ってたから助かります」

「あの、それじゃぁ私は何を探したら良いですか?」

「えっと……」


乱太郎が尋ねると、は手にしている本をぱらぱらとめくりあるページを乱太郎に見せた



「これ…アカヤジオウって草なんですけど……絵が載ってないのでどれがどれだか…」

「あぁ、これですか、えっと……確か前にこっちにあったような…」



乱太郎はがさがさと薬草園の中に入ると目当ての物を探し始める

もそれに習い近辺を一緒に探す



「あ、あった、ありましたよさん」

「本当ですか!?」



乱太郎が指差す先には朱色の花が咲いている



「これが赤矢地黄ですか?」

「確かそうだったと思いますけど…」

「乱太郎くん凄いですね、これで全部揃いました」

「良かったですね」

「はい、有難う御座います」



は乱太郎から薬草を受け取るとにっこりと微笑んだ



「そう言えば…これってどんな効果があるんでしょう?乱太郎くん知ってますか?」

「えっと……確か補血に強壮……だったと思いますけど…」

「強壮と言うと……体に良いんですよね…?」

「そうですけど……それがどうかしましたか?」



乱太郎が首を傾げると、はぽつりと独り言の様に呟いた



「…煎じた物を飲めば疲れが取れたりするんですよね……」

「多分…取れますけど……さん疲れてるんですか?」

「あ、、えっと、その…私では無くて…」

「私ではなくて?」

「……その………」



乱太郎が質問を重ねると、の頬は赤く染まる



「あのっ、私これ早く届けなきゃいけないのでもう行きますね!!」

「え?あ、ちょっ……さん?」

「手伝ってくれて有難う御座いました、それじゃぁ…!!」



はそう言い残すと薬草の入った籠を持ちぱたぱたと走り去ってしまった



「行っちゃった……」



乱太郎がの背中を見送ってるときり丸が後ろからやって来る



「逃げられちゃったな」

「そうみたい」

「でも一つわかった事がある」

「何?」

さん、ありゃ確実に好きな人がいるな…」



きり丸は顎に手をやり、考えながらにやりと笑う



「どうしてわかるの?」

「乱太郎だって見ただろ?さんのあの顔、んでもってあの言葉、だ」

「「言葉?」」



きり丸はまるでわかっていないしんべヱろ乱太郎に軽く呆れながらも人差し指を立てて説明する



「強壮の薬の事聞いてただろ」

「うん」

「自分の為じゃないとも言ってたろ」

「うん…」

「つまり、体調を心配するくらい親しい人がいるって事だ」

「ん〜……」



きり丸の説明に乱太郎は首を傾げる



「本当かなぁ…」

「あぁ、間違いない」

「ねぇきり丸、これからどうするの?」



しんべヱがきり丸に尋ねるときり丸は腕組みをしながらその場で首を傾ける



「そうだな…、兎に角さんの好きな人が誰かを調べなきゃ…」

「どうやって?」

「う〜ん…、取りあえず後をつけるしか無いな」

「何で?」

「強壮の事聞いてたろ、もしかしたら煎じて渡しにいくかもしれないじゃん」

「あ、そっかぁ、きり丸今日は冴えてるね〜」



こうして3人はこっそりとの後をつけ、その動向を探る事にした



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「(おい、さん保健室に行ったぞ)」

「(そりゃそーでしょ、取った薬草を新野先生に渡すんだよきっと)」

「(もうちょっと近付いてみようよ)」



三人はこそこそと保健室に近付く



「赤矢地黄を分けて欲しい?」

「はい…、少しで良いんですけど……駄目ですか…?」

「それは構いませんが…またどうして?」



中からはと新野先生の声が聞こえてくる



「えぇ、実はこの薬草が強壮薬になると聞いたもので…」

「おや、それ程疲れているんですか?」

「あ、いえ……、私じゃないんです…」

「………良いでしょう、どうせだから煎じ方もお教えしますよ」

「良いんですか!?」

「えぇ、それでは早速用意しましょうか」



新野がそう言って立ち上がる様子を聞きながら、乱太郎はひっそりときり丸に拍手を送る



「(本当にきりちゃんの言った通りだ)」

「(だから言っただろ?これで強壮が出来るのを待てばさんの好きな人もわかるぜ)」

「(でも渡すのが本当に好きな人かどうかわかんないよねぇ?)」

「(いや、あんだけ顔を赤くしたんだから絶対好きな人に決まってるさ)」



三人はまたひそひそと話しながら保健室を後にした



「さて、それじゃ強壮が出来るまで利吉さんを探しておかないとな」

「「何で?」」



しんべヱと乱太郎は同時に訪ねる



「利吉さんにさんが誰かの為に強壮を作ってます、なんて言ったら面白そうじゃん」

「きりちゃん……結局自分の為なのね…」

「でも利吉さんそれくらいで動揺するかなぁ?」

「まぁとりあえず行ってみようぜ」



こうして三人は利吉を探して学園中を歩き回った



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「あ、利吉さんだ、利吉さーーん!!!」



乱太郎は大きく手を振って利吉を呼ぶ



「あぁ、また会ったね、どうかしたかい?」



乱太郎の声に気付くと軽々と三人の元にやって来て先刻同様爽やかに尋ねる



「利吉さん、ちょっと聞きたい事があるんですけど〜」



きり丸はすかさずにやにやと笑いながら利吉に詰め寄る



「な、なんだい聞きたい事って……」



利吉は微妙に後ずさりながら聞き返す

するときり丸は利吉の耳元でひっそりと訪ねた



「利吉さん、さんの事好きでしょ」



直球勝負と言わんばかりにきり丸が発した言葉に、利吉は思わず大幅に後ずさる



「なっ…何を行き成りそんな訳のわからない事を……!!」

「あれ〜?何でそんなに慌ててるんっすかぁ?」

「あ、慌てて等…」

「顔も赤いっすよぉ〜?」

「う……」



利吉はきり丸のにやにやとした笑みに押されながら視線を逸らした

乱太郎としんべヱは隅の方で二人を見守っている



「きりちゃん…楽しそーね……」

「そーだね……」



きり丸はふと利吉の向こう側を見た



「あ、さんだ」

「何っ!?」



きり丸の指差す方を利吉が勢い良く振り返る

そこには確かにの姿

何かを探しているのだろうか、きょろきょろと落ち着き無く辺りを見回して歩いている



「そう言えばさん、誰かの為に一生懸命強壮の薬作ってたからなぁ〜」



やや技とらしい口調できり丸が呟く



「強壮…?」

「そ、誰かの為に作ってあげたいんだってさ」



少しばかり話しを誇張して利吉に告げる

利吉の顔色が曇った



「おーいさーーん!!」

「ば、馬鹿っよせ!!」



突如大声でを呼ぶきり丸

利吉が慌てて口を抑えるが時既に遅し

はきり丸の声に気付くとぱたぱたと走り寄ってきた

利吉は咄嗟に近くの草むらに隠れてしまう



「どうしたのきり丸くん?」

「いや、誰探してるのかなーと思って」

「あの…、土井先生………なんだけど…、見てない?」



は頬を赤らめながらきり丸に尋ねる

きり丸の後ろでは乱太郎としんべヱが顔を覆っていた

あちゃ〜…、と小さな呟きも聞こえる



「乱太郎くんとしんべヱくん、どうしたの?」

「い、いやいやいやいや何でもないっすよ、土井先生なら多分は組の教室にいますよ!!」



きり丸は適当な事を口走りながら乱太郎としんべヱを押さえた



「本当?それじゃぁ私ちょっと先生に用があるから…、またね」



にっこり笑うとは忙しそうに走って行ってしまった



「……………」

「……………」

「……………」



きり丸が乱太郎を見る

乱太郎はしんべヱを見る

しんべヱは利吉の隠れている草むらを見下ろし、



「「「ご愁傷様」」」



手を合わせて呟いた



「…………放っといてくれ…」



利吉は明らかに落胆した様子で肩をがっくりと落としたまま地面に両手を付いた




-NEXT-




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'04/07/24