「あ、利吉さんだー!!」

「本当だ、こんにちわ、利吉さん」

「今日も山田先生に単身赴任セットのお届けっすか〜?」



元気良く手を振りながら利吉の元へと走ってくる3人組



「やぁ君達か、相変わらず元気だね」



爽やかに笑いながら手を振り替えす利吉



「今日は別に父上に用事と言う訳ではないんだ」

「そうなんですか?」

「そういやぁ今日は身軽っすね」

「あ、わかった〜、おばちゃんのお料理食べにでしょ」

「もう、しんべヱじゃないんだから」



いつも通り何とも微笑ましく緊張感の無い3人組に利吉は苦笑する



「おばちゃんの料理も楽しみではあるけどね」

「ほら、やっぱり違うんだよ」

「なんだぁ〜…」

「じゃぁ一体何しに来たんすか?」



きり丸の質問に利吉は一瞬笑顔のまま動きを止める



「(……この子達だけには知られるは訳にはいかない…)」



そんな考えが頭を過ぎり利吉は咄嗟に嘘を付いた



「いやぁ、久々に学園の様子が見たくなってね、父上に仕事の話もしなければならないし…」



利吉は3人に悟られないよう、自然に振舞う



「そうなんですか、今はお仕事無いんですか?」

「あぁ、今の所はね、でもまた来週になれば、ある城からの依頼があるけど」

「利吉さん今日は泊まってくの?」

「そうだな…、父上が良いと言ったらね」

「ていうか利吉さん…」

「なんだいきり丸くん?」



乱太郎としんべヱは素直に利吉の言葉を聞き入れたが、きり丸だけはどうやら違うようだ

何やら含みのある笑みを見せている



「あー……やっぱ良いや、何でもないです」

「はぁ…」

「なぁ乱太郎、しんべヱ、校庭行ってサッカーでもしようぜ」

「うん、良いよ」

「えー、僕お腹すいたぁ〜」

「しんべヱさっきおにぎり食ってたじゃん」

「本当にしんべヱは食いしん坊だよね」



3人組のそんな様子を黙って見ていると3人組は利吉を見た



「それじゃぁ利吉さん、俺達もう行きます」

「ゆっくりしていって下さいね」

「利吉さんさよなら〜」



3人組はそう言うと校庭の方へ歩いていってしまった



「…きり丸くん…一体何を考えてるんだ……?」



先程のきり丸の不自然な笑みや態度を気にしながらも、利吉は本当の目的の場所へと行く事にした



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「ふぁ〜…今日も良い天気です………」



半鐘台から周りを眺めてゆっくり伸びをする

初夏のからっとした暑さを身に感じながら空を見上げれば、雲一つ無い晴天

眩しい太陽に目を細めて視線を下に下ろすと、緑色の忍び装束を着た人物が目に入った



「利吉さ〜ん!!」



半鐘台から身を乗り出して手を振ると、呼ばれた利吉は声を頼りにの方を向き微笑みながら手を振り替えしてくれた

そして利吉はそのままその場で軽く跳躍すると軽い身のこなしでの元へとやって来る



「こんにちは、利吉さん」



は利吉を迎え入れ嬉しそうに笑う

利吉もにこやかに微笑むと挨拶をした



「こんにちは。お久しぶりですね」

「えぇ、以前お会いしたのはもう3ヶ月程前ですもんね」

「そうですね」

「今日は山田先生に会いに?」

「あ、いえ…特にそう言う事では無いのですが…」

「そうなんですか?」

「えぇ」



先程3人組に尋ねられた質問とほぼ同様の質問を受け、利吉は答えを濁す

しかしは特に気にしてない様子で、もう一度空を見上げた



「今日は良いお天気ですね、風がとても気持ち良いです」

「……そうですね」



そう言って振り返り、利吉に笑い掛ける

利吉はぼんやりとの笑顔を見つめ短い返事を返すだけだった

ふと足元からトントンと小気味良い音が聞こえてくる



「あら、もう時間?」



は足元を見てそう呟く

利吉は何の事だかわからず同じように下に目をやれば、ヘムヘムがこちらに昇って来ている所だった



「ヘム!!」

「はいはい、今戻ります」



ヘムヘムにそう告げては笑う



「利吉さん、ヘムヘムの邪魔になるから降りましょう」

「はぁ……」



良くわからないままに促され半鐘台を降りる

降り切った所では半鐘台を見上げた



「今までお昼休みだったんです、でももう時間だからヘムヘムが鐘を鳴らすって」

「あぁなるほど…」

「私高い場所が好きで良くあそこにいるんですけど、たまに時間を忘れててヘムヘムに怒られちゃうんですよ」



はそう言って笑った



さんらしいですね」

「あら、そんなにぼんやりしている様に見えます?」

「あ、いえ、そう言う事じゃなくて…」



少し拗ねた様に尋ねるに慌てながら利吉が弁解すると、は面白そうに笑った



「冗談ですよ、利吉さんは本当に真面目な方なんですから」



そう言って悪戯っぽく笑っている

利吉はほっとした様な少し悔しい様な、それでいて情けない様な笑みを浮かべつつ内心ため息を付いた



「あ、私そろそろお仕事に戻らなきゃ…」

「仕事…ですか?」

「えぇ、今は正式な保険医として働かせて貰ってるんです」

「そうだったんですか」

「そう言えば利吉さんと初めて会った時はまだ事務員見習いでしたよね」



初めて会ったと言うのは3ヶ月前の事

つまり2人が顔を合わすのはこれで2回目となる



「良かったですね」

「はい、有難う御座います」



利吉の言葉にはにっこりと微笑む



「それじゃぁ私、これで失礼しますね」



その場でぺこりとお辞儀をするとはそのまま背中を向けて走って行ってしまった



「…………」



利吉はの背中を見送りながらほっと安堵のため息を付いた



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「な、言った通りだろ?」

「う〜ん…確かにちょっと変だとは思うけど…」

「僕も良く解らないや…」



半鐘台の上から利吉を見下ろしてきり丸は乱太郎としんべヱに言う



「いや、あれは絶対にそうだ」

「そうかなぁ…」

「そうだよ、だってまず俺達が半鐘台に入れ替わりで昇った事に気付いてないのがもうおかしいだろ?」

「そう言えば……利吉さん全然気付いてないみたい」

「あ、利吉さんどっか行っちゃった」



きり丸と乱太郎が話しているとしんべヱが利吉が居た場所を指差す

2人が見下ろすとそこにはもう利吉の姿は無かった



「兎に角、利吉さんは絶対さんが好きなんだよ」

「きりちゃんってそう言う所妙に鋭いよね」

「でも僕もきり丸の言う事は当たってると思う」

「何で?」

「だってさん優しいし綺麗だから」

「「確かに…」」

「ヘム〜!!」



3人が頷いているとヘムヘムがひょっこり顔を出す



「うゎ、ヘムヘムか、何だよ驚かすなよ〜」

「え?授業?私達今日の午後の授業は自習なんだ」

「さっき土井先生食堂でおばちゃんに捕まってたもんね」

「全く、あの年で練り物が嫌いって言ってもなぁ…」

「まぁまぁきりちゃん……」

「ヘム、ヘム!!」

「ん?ヘムヘムもう戻るの?」

「ヘム!!」

「そっか、きり丸、乱太郎、僕達も降りよう」

「あぁ、そうだな」

「ごめんねヘムヘム、有難う」

「ヘム!」



こうして会話が成立するのは甚だ可笑しな話ではあるが、3人と1匹は半鐘台を後にした



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「で、これからどうするの?」



乱太郎がきり丸に尋ねる、ときり丸はにやりと笑う



「決まってるだろ、俺達で利吉さんとさんをくっつけるんだよ」

「えぇ〜?」

「何だ、何か文句あるのか?」

「文句って言うか……それって余計なお世話なんじゃ……」



そう言いながら困った様に笑う乱太郎にきり丸は言う



「良いんだよ、どうせ利吉さん、あのままじゃ何も言わずに帰っちゃうだろうしさ」

「何でわかるの?」



しんべヱが不思議そうに聞くと、きり丸は得意気に胸を張った



「そりゃわかるさ、長年アルバイトしてるとこれくらいは解るようになるんだよ」

「どゆこと?」

「人を見る目が養われるって事さ」



そう言うときり丸はにやりと笑った



「な、二人共もちろん協力するだろ?」



乱太郎としんべヱは顔を見合すときり丸と同じように笑った



「よーっし、そんじゃぁ決定だな!!」

「それは良いけど具体的にどうするの?」

「きり丸何か良い案あるの?」



二人が期待に満ちた眼差しとをきり丸に送ると、きり丸は腕組みをして一瞬考えた後すぐに顔を上げた



「何も考えていない!!」

「あらら…」

「じゃぁどうするの?」

「ん〜、とりあえずさん所行ってみようぜ」

「うん、そうだね。まずはさんの気持ちとかも知りたいし」

さん何処にいるのかなぁ」



こうして3人はを探しに長屋の方へと向かった



「あ、そうだ。さっき新野先生がさんの事呼んでた気がする」

「本当か?乱太郎」

「うん、私がさっき保健室に行った時に確かそう聞いたから…」

「じゃぁ保健室にいるのかなぁ?」



しんべヱの言葉に乱太郎は腕を組んで考える



「いや……多分薬草園の方だと思う…」

「どうして?」

「実は最近怪我人が多くて薬が足りなくなってるんだ、それで新野先生が自分で薬を調合するって言ってて…」



3人組みは歩きながら中庭を抜ける



「それで新野先生は調合に忙しいから、代わりにさんが薬草を取りに行かされた…そう考えられないかな」

「なるほど」

「よっしゃ、それじゃぁ早速薬草園へGOだ」

「きりちゃん燃えてんねぇ…」

「きり丸…何か企んでるのかな…」



あっと言う間に薬草園の方へ走って行ってしまったきり丸を追いながら乱太郎としんべヱは苦笑した



かくして3人組、もといきり丸のお節介により「利吉さんとさんをくっつけよう作戦」が始動したのであった…




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'04/06/27