「うぅ…、二人とも本当に強引だよな……」



賑わう町を歩きながら雷蔵はため息と共に呟く



「大体櫛って言っても何処で買えば良いんだろう…」



左右を見渡して小物屋を探していると、一軒、やたらと女の子が群がっている店を見つけた



「…なんだろ……」



さり気なく様子を伺うと、其処には色とりどりの装飾品

女の子は皆楽しそうにそれらを物色しては笑い合っていた



「小物屋さんかぁ…、此処なら良い櫛があるかも…」



そう思っていざ店に近付こうとするが、周囲は女の子ばかり

男である雷蔵には非常に入りにくい場所となっている



「ど、どうしよう…すっごく入りにくい……」



雷蔵が何時もの様に迷い始めたその時



「よーし、そんな時はこの三郎様にお任せだ!!」

「うゎっ!?三郎、兵助!?」



またもや急に背後から現れた三郎と兵助に雷蔵は飛び退く



「な、何で二人共!?」

「何でって…、そりゃぁ……、なぁ、兵助?」

「何でって…、そりゃぁ……、ねぇ、三郎?」



一人慌てる雷蔵を余所に三郎と兵助は顔を見合わせてにんまりと微笑む



「まぁ兎に角細かい事は気にしない気にしない!!お前あの女の子の群れに入れなくて悩んでたんだろ?」

「そ、そうだけど…」

「それなら変装のスペシャリスト鉢屋三郎様にお任せさ、兵助!!」

「あいよっ!!」



三郎の掛け声と共に兵助は一体何処から取り出したのか解らない大きな木箱を三郎に渡した



「さぁ、覚悟は良いな?雷蔵!!」

「良くない!!ちっとも良くないよ!!」

「兵助、抑えとけ」

「任せろ!!」

「おりゃーーー!!!」

「うわぁぁぁぁ!!!」



木箱から次々に出されるメイク道具

兵助は後ろからがっちりと雷蔵を抑えている

三郎は怪しく笑うと得意の変装術を雷蔵の顔に施し始めた



「…………」

「…………」

「…………」



数分後

ぐったりと座り込む雷蔵と、そんな雷蔵を満足げに見つめる三郎と兵助



「完・璧・だ…」

「三郎、それ立花先輩の決め台詞」

「それを言うな兵助」

「でも本当に完璧だね」

「だろ?」

「うぅ…二人とも酷いよ…」



雷蔵はすっかり可愛らしく変えられてしまった自分の姿を見ながらため息を付く



「いや、可愛いぞ雷蔵、嫁にしたい位だ」

「三郎、それジャンルがちょっと違う」

「気にするな兵助」

「でも雷蔵、その格好ならあの女の子達の集団にだって臆すること無く突撃出来るよ」

「でも…だからって女装までする必要あったのかどうか…」

「それはまぁアレだよ、俺が楽しお前の為を思ってだなぁ…」

「三郎、本音丸見え」



何だか似たようなやり取りを先程から繰り返している二人を余所に、雷蔵は肩を落としたままだ



「ていうか三郎…お前なんで女物の着物なんて持ってるんだよ…」

「ん?それはまぁ万が一って時の為にな」

「何だよ万が一って…」

「細かい事気にするな、禿げちゃうぞ?」

「…禿げって…でもまぁ……確かにこの格好なら大丈夫…かなぁ」



ぼそりと呟いた雷蔵の言葉を聞き、三郎は大いに頷いてみせる



「当たり前だ、変装の天才の俺が手掛けたんだ、バレる訳が無い!!」

「その容姿なら立花先輩にだって負けないよ!!」

「べ、別に張り合うつもりは無いけど…」

「まぁ、兎に角行って来い!!」



三郎はそう言いながら兵助の言葉に苦笑する雷蔵の背中をどんと押した



「わっぁわゎゎゎ!?」



思わぬ衝撃に雷蔵はよろけながら女子の群れに突撃して行く



「さ、俺達は遠くから見守るぞ兵助」



三郎は兵助にそう言うとさっさと姿を消してしまう



「とことん遊ばれてるなぁ雷蔵…」



兵助は腕組みをしてそう呟くと自分も三郎の後を追った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「…………っ」



雷蔵はゆっくり辺りを見回す

可愛らしく着飾った女の子達はこれまた可愛い小物を手に取ってはキャァキャァと話し合っている



「あー、この簪可愛い〜」

「ねぇねぇ、この色とこっちだったら私どっちが似合うかなぁ?」

「うーん、どっちも良いと思うなぁ」

「(い…居辛い……っ)」



可愛らしい声の中、雷蔵は顔を強張らせたまま店内をギクシャクと物色する



「…櫛……櫛…」



もはや櫛を買う事だけに専念する事にし、小さく呟きながらきょろきょろと棚を見て行く



「何かお探しですかー?」

「ひゃぁっ!?」



背後から急に聞こえた声に雷蔵は思わず声をあげる



「あらぁ、驚かせちゃったかしら?」

「え、あ、あの…その……」



お店の店員らしき女性は雷蔵を見ながらケタケタと笑う



「何か探してるんでしょ?さっきからずっとウロウロしっぱなしだもん」

「あ、あの…櫛を……」

「櫛?それならこっちよ〜」



店員はそう言うと未だに挙動不審な雷蔵を店の一角へ誘導した



「櫛は此処、色も形も色々あるんだけど、貴女が使うの?」

「え?えっと…」



店員の質問に雷蔵は一瞬考え込む



「と、友達の誕生日プレゼントなんです」

「へぇ…、その友達ってどんな髪型?」

「綺麗な…長い黒髪です」

「ふむ…長い黒髪ね……そしたらこの辺の櫛がお勧めかなぁ」



そう言うと店員は櫛コーナーの一角を指差した



「まぁ後は自分で手にとって友達の雰囲気に似合うのを見つけてあげると良いわよ」

「どうも有難う御座います」

「ううん、これが仕事だからね、それじゃぁごゆっくり〜」



店員はそう言い残すと他のお客の所へ歩いて行った

雷蔵は店員が居なくなると早速紹介された櫛を一つ一つ手に取って見る



「…いっぱいあるなぁ……」



赤、黄、桃、白、様々な色が雷蔵の目に映る



さんに似合いそうなの…」



紫、緑、葵、黒、色とりぞりの櫛を前に雷蔵はの姿を思い出す



「あ、これ良いかも…」



ふと雷蔵の目に留まったのは黒基調に白と桃と赤の3種類の華が散りばめられている物

とりあえず手に取って様々な視点から櫛を見る



「うん、やっぱりこれが1番似合いそうだな」



雷蔵は入り口であれだけ戸惑っていた雰囲気にもすっかり慣れた様で、櫛を手に会計場へ進んだ



「あら、これにするの?」

「あ、はい」



先程雷蔵を案内してくれた店員が、雷蔵の後ろから会計に差し出した櫛を見て訪ねる



「へぇ…、何だか面白い人ねぇ」

「え?」



店員の不思議な言葉に首を捻ると、店員は笑いながら答えた



「櫛ってねぇ、男の人が女の人にプレゼントする物なのよ」

「そ、そうなんですか?」

「うん、自分の為に買うか親から受け継ぐか、もしくは男の人が愛する女に贈るってのが定説ね」



会計の人が手際良く包んで行く櫛を見ながら先程の店員は雷蔵に言う



「でもまぁ女の子同士でこういうやり取りもアリなのかもね」

「あははは…」



店員の言葉に雷蔵は乾いた笑を返すのが精一杯だった

櫛を贈る事にそんな意味があるなんて学校では習っていない

しかし既に会計は済ませてしまった

綺麗に包まれた櫛が会計のお姉さんから雷蔵に手渡された



「有難う御座いました」

「また来てね〜」



爽やかな挨拶で見送ってくれる会計のお姉さん

そして片手をひらひらと振りながら見送ってくれる店員のお姉さん

雷蔵はそんな二人に会釈をし、足早に店の前から立ち去った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「お、買えたか?雷蔵」

「ん?何か顔赤いけど平気?」



店から少し離れた茂みに隠れていた三郎と兵助の元に雷蔵が帰って来た

しかし雷蔵の顔は兵助の言う通り赤くなっていた



「は、恥ずかしかった…!!!」



雷蔵は二人の前にがっくりと膝を付き大量のため息と共にそう切り出す



「いやいや、お前結構馴染んでたぞ?なぁ兵助」

「うん、店員さんとも会話しちゃったりしてね」

「あ、あれはあのお姉さんが勝手に…」

「でもまぁ良かったじゃん、櫛買えたんだろ?」



三郎の言葉に雷蔵はばっと顔を上げる



「そう、それなんだけど聞いてよ」

「「ん?」」



三郎と兵助は雷蔵の言葉に同時に首を傾げた



「へぇ…、じゃぁ櫛って求婚する時用なんだ?」

「何かそこまで深い意味なのかは解んないけど…でもそんな感じらしいよ…」

「そっか、そりゃ忍術学園じゃ教わらなかったなぁ…」



兵助と三郎は先程店員のお姉さんが言っていた話を雷蔵から聞き、関心した様に頷いている



「でもさ、それ聞いたの会計してる最中だったから…」



雷蔵はそう言いながらたった今手に入れた櫛を見つめため息を付く



「どうしよう、この前1回会っただけの人にそんな大層な意味合いの物プレゼントなんて…」



そう呟きながら何時も通り悩み始める

しかし今回ばっかりは三郎も兵助も同様に悩み始めた



「確かに…、ちょっと唐突だよねぇ……求婚じゃ」

「あぁ…、いかに一目惚れしたと言ってもいきなり求婚はなぁ…」



3人共に腕組みをしながら首を捻るが一向に結論は出ない



「あ、でもさ」



ふと兵助が人差し指を立てた



「別に火薬袋のお礼なんだし良いんじゃない?」

「どういう事?」

「そんな深い意味があるなんて知らなかったって事で良いじゃん」

「そうだな、別にお礼と一緒に渡すだけだし向こうもそんな深読みしないよな」



兵助の理論に三郎も頷いた

雷蔵は未だ首を傾げていたが、結局2人の意見に押し切られてしまった



「ってな訳だ、安心して渡して来い!!」

「う〜ん…」

「ついでに求婚もしちゃえば?」

「っ兵助変な事言わないでよ」



こうして三郎に背中を押され、兵助にからかわれ、雷蔵はが働いているらしい甘味処へ向かうのだった



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〜おまけ〜



「なぁ兵助」

「何?」

「雷蔵さ」

「うん」

「女装のまま行っちゃったんだけどどうしよう」

「あー…」



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長い空白を経て再開致しました雷蔵Dream

まずお詫びしなければいけないのは、今回さん1コマも出て来てない事ですね_| ̄|○

もはやDreamって言って良いのか解らなくなりました(笑

まぁ次は、次こそはさんの出番ですから!!(予定

こ、これ以上ややこしくならない事を祈っていて下さい…



'06/01/23