「雷蔵の様子が可笑しい?」

「あぁ」

「どういう事?」

「何だか妙にぼんやりしてて、かと思えば急に顔赤くしたり、いきなり暗くなったりして、兎に角可笑しいんだ」



夜の9時を過ぎた頃

久々地兵助の部屋では鉢屋三郎と兵助が妙にひそひそ声で話している



「ぼんやりしたり赤くなったり…って、何それ」

「それはこっちが聞きたいんだよ、お前先週雷蔵と町に出かけたろ、そん時に何かなかったか?」

「何かって…、ん〜……何か…、何か……」



兵助は腕組みをしながら暫く考えると、ふいに顔を上げて呟いた



「そう言えば…、あの日買い物が済んで学園に帰ろうとしたら雷蔵が人にぶつかっちゃってさ」

「あぁ…、どうせ周りの店でも眺めながら歩いてたんだろ」

「流石、良くわかってるね」

「まぁな…」

「それで、ぶつかった相手がその町の女の子だったんだけど、持ってた蜜柑落としちゃって」



兵助はその時の様子を思い出して苦笑しながら、三郎に説明する



「僕と雷蔵は慌てて拾うのを手伝ったんだ」

「はぁ…」

「で、全部拾い集めたらその子はにっこり笑って有難う御座いました、ってさ」

「つまり何だ、雷蔵はその女に惚れたのか?」

「多分…ね、結構可愛い子だったし、大人しそうで小柄でさ、雷蔵の好みなんじゃない?」

「なるほど…」



兵助の言葉に腕を組んで頷くと、三郎は少しの間目を閉じると、ふいににやりと笑った



「ここは友人の為に一肌脱ごうじゃないか、なぁ兵助?」

「………自分が楽しみたいだけなんでしょ」

「まぁそう言うな、俺は純粋に雷蔵が心配なだけさ」

「はいはい」



兵助は苦笑しながらも、結構乗り気な様だ

三郎は相変わらず楽しそうに笑いながらふと呟いた



「所で雷蔵自身は自分がその女に惚れてるって事、気付いてるのか?」

「さぁ…、良くわかんない……、でも多分気付いてないと思うよ…、雷蔵だもん」

「そうだよなぁ……」



三郎は顎に片手をやり小さく唸ると、ぱっと顔を上げた



「んじゃぁ、とりあえず明日町に行って見るか」

「へ?」

「その女の事、詳しく調べてみようって事、上手くすりゃ名前くらいわかるかもしれないし」

「あぁ、なるほどね、でも三郎…、その格好で行く気?」

「ん?あぁ……別の奴に変装してった方が良いか」

「ていうかいい加減自分自身の姿見せてよ…」

「そいつは企業秘密だな」

「はぁ……」



こうして三郎と兵助は二人でその少女に出会った場所へと出かけたのだった



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「あー、町なんか久々だ」

「僕は3日ぶりくらいだけどね」

「にしても人が多いな」

「そりゃぁ日曜日だし」

「本当にその女ってこの辺にいるのか?」

「さぁ…、この前会ったのは確かこの辺だけど…」



三郎と兵助はそんな事を喋りながらブラブラと町を彷徨う



「そうそう、丁度この辺で雷蔵がぶつかったんだよ」

「なるほど、まぁだからってそんな調子良くそん時の女が現れるはずが」

「居た」

「え?」

「ほら、あの子」



三郎の言葉を遮った兵助に三郎が顔を向けると、兵助はある方向を指差した



「あー、あれ?」

「そ、あの子」



兵助の指先にいるのは小柄で華奢な女の子

髪の毛は漆黒とも言える程艶やかな黒

そんな髪色とは裏腹に白い肌

薄い桃色の着物に橙色の前掛けをしている



「何か普通に可愛いな」

「うん、可愛いよね」

「そりゃ雷蔵も惚れるわな」

「うん、惚れるね」

「でもさ」

「うん、でもね…」



2人は顔を見合わせてもう一度女の子の方を見た



「これにこりたらお前等二度とウチの店に近寄るんじゃないよ!!」



中指を立てていかにも不良っぽい男に啖呵を切っている姿



「ワイルドー…」

「格好良いー…」

「なぁ兵助」

「ん?」

「どうしよう」

「…知らないよ」



2人は唖然としながら目の前の光景を見つめるしかなかった



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「…………」

「…………」

「はい、餡蜜お待たせしました〜」



2人は黙って少女から餡蜜を受け取る

どうやら少女は町でも有名な甘味処の看板娘だったらしい

兵助が少女を見つけたのは、丁度そこへやって来たゴロツキを追い払っている時だったらしい



「とりあえずここで働いてる事がわかったんだし、良いよね」

「そう…だな」



兵助と三郎は乾いた笑いを浮かべながらスプーンを手にした



「あのー」

「ひゃい?」



兵助が餡蜜を口に運んだ途端三郎の後ろから例の少女が顔を出した

間髪入れずに三郎が兵助につっこむ



「何間抜けな声だしてんだよ」

「あ、すいません、邪魔しちゃいましたか?」

「あ、いやいや、平気ですよ、何ですか?」



兵助は慌ててスプーンを口から出すと訪ねる

少女は少し微笑むとやがて口を開く



「この前お会いした方…ですよね?」

「えっと、雷蔵が君とぶつかって蜜柑落としちゃった時?」

「あ、やっぱりそうだったんだ」



少女は嬉しそうに両手を合わせて笑う



「今日はその、雷蔵…さん?」

「そう、雷蔵」

「その方は一緒じゃないんですか?」

「うん、今日はその友達の三郎と一緒なんだ」



兵助はそう言いながら親指で三郎を示す

三郎は"よろしく"と短く答えると片手をあげた

少女は会釈すると兵助に顔を戻す



「あの、もし良かったらお願いがあるんですけど…」

「何?」

「これ…、この前拾って貰った蜜柑の中に混じってたんですけど…」



少女はそう言いながら何かを取り出し兵助の前に差し出した



「あ、これ…」



少女の手にあったのは火薬の袋

丁度形状が蜜柑と同じくらいだ



「ぶつかった時に落としちゃったの自分でわかんなくて入れちゃったのかなぁ…」



兵助は袋を受け取ると手で遊びながらため息を付く



「まぁ雷蔵だからな」

「そうだね」



三郎の言葉に兵助も頷きながら、2人は苦笑した



「そうだ、君の名前は何て言うの?」



火薬の袋を弄んでいた兵助がふいに少女に尋ねる



「私ですか?私はと申します」

「へぇ、何か珍しい名前だね」

「そう…ですね、この辺ではあまり聞かない名前かもしれません」

「(これで今日の所は大収穫だね)」

「(だな、後はこれのお礼でも雷蔵に言わせに来りゃ万事解決だ)」



三郎と兵助はこそこそとそう言い合うと、に向かって笑いかけた



「ありがとね、これはしっかり雷蔵に返しておくよ」



二つの指で火薬袋をつまみあげると、兵助は自分の懐にそれをしまった



「はい、お願いします」



は可愛く微笑むと一礼した



「それではごゆっくり、失礼します」



そしてそのまま厨房の方へ戻っていってしまう

三郎はそんなの後ろ姿を見つめながらぼそりと呟いた



「あの子二重人格者か何かか?」

「え、いや…、流石にそれは無いと思うけど…」

「だってさっきの店の前での勢いと今のあの笑顔、どう見ても別人だろ」

「…まぁ君だって人の事言えない訳だし」

「俺のは使い分けって言うんだよ」

「じゃぁあの子もそうなんじゃないの?」

「ふーん…?」



そんな事を話しつつ、謎だらけの少女についてこれ以上詮索するのは不可能と判断した2人は、大人しく学園へと帰った



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「雷蔵ー」

「ん?どしたの兵助」

「これ、この前落としただろ」



次の日の放課後

兵助は雷蔵に火薬袋を手渡す



「あっ、これ失くしたと思ってたんだ、兵助が拾ってくれたの?有難う」



雷蔵は兵助から袋を受け取ると嬉しそうに笑った



「あー、違う違う、拾ったのは僕じゃないよ」

「え?じゃぁ三郎?」

「それも違う」

「え?じゃぁ誰なんだよ?」

「それはねー」



雷蔵の疑問顔を見て兵助はにやにやと含み笑いを漏らす



「もったいぶってないで教えろってば」

「じゃぁ教えてあげる、それ拾ってくれたのはこの前雷蔵がぶつかったあの女の子さ」

「え…?」



兵助の思いがけない言葉に、雷蔵の動きが止まる



「昨日三郎と町に出た時に偶然会ってさ、雷蔵に返してくれって頼まれたんだ」



兵助はにこにこと楽しそうに話す



「女の子って…あの……?」

「そう、名前はちゃんって言うんだって」

…ちゃん……かぁ…」



雷蔵は小さく口での名前を反芻すると微かに頬を赤らめた



「あ、でも何で三郎に渡さなかったんだろうね?」

「へ?」

「だって三郎いっつも僕の顔だから…、その子も間違えるかなって」

「あ、あぁ…、三郎昨日は違う顔で出掛けたんだよ」

「へぇ〜、珍しい事もあるんだね」

「そ、そうだな」



雷蔵の疑問に兵助は冷や汗を流しつつ必死に答えた



「そ、それでさ」

「ん?」

「雷蔵、ちゃんの所にお礼しに行ったら?」

「え……ぇえ!?」



兵助の突然の提案に雷蔵は慌て、思わず受け取った袋を落とす



ちゃん町の甘味処で働いてるから行って来なよ、ね?」

「で、でも…」

「全く男らしくないなぁ雷蔵は」

「うわっ、三郎!?」



お礼に行けと進める兵助に雷蔵が戸惑っていると、天井から逆さづりの状態で三郎が顔を出した



「部屋に戻って来る時は普通に戻って来いって言ってるのに…」

「普通じゃつまんないだろ、ホラ、これちゃんとしまっとけよ」

「あ、ありがと…」



三郎の登場の仕方に小さく文句を呟く雷蔵

三郎は慣れた様子でそれを聞き流すと、雷蔵が落とした袋を雷蔵に手渡した



「兎に角さ、お前あの子に惚れたんだろ?」

「え…?」

「ちょっ、三郎、それストレート過ぎじゃ…」



兵助の慌てた声にも動じず、三郎は雷蔵に向かって言い放つ



「お前が優柔不断なのは知ってる、でも今回は迷う必要無いだろ?」

「…でも……お礼って…どうすれば良いのかわかんないよ…」

「まぁ…、適当に菓子折りでも持って行けば良いんじゃないか?」

「三郎、ちゃんは甘味処で働いてるんだぞ」

「それじゃ菓子は微妙か…、んー…」



何故か真剣に悩み始めてしまった兵助と三郎の横で、雷蔵は何時もの様に困った様に笑っていた



「あ、あのさ」

「「ん?」」

「く…、櫛なんて……どうかな」

「あー、良いかもな」

「そう言えば凄い綺麗な黒髪だったもんね」



雷蔵の提案に二人は顔を見合わせて頷くと、雷蔵の肩にそれぞれ手を乗せた



「「それじゃぁ早速買いに行って来い!!」」

「えぇ!?」

「えぇじゃない、雷蔵が動かなきゃどうしようもないだろ」

「だからって今からなんて…」



雷蔵は助けを求めるように兵助を見る

しかし兵助はにっこり笑って言い放つ



「どうせ明日明後日は都合良く授業休みなんだし、良いんじゃない?」

「で、でも!!えっと…、ほら、学園長に外出届出してないし…」

「あ、それなら俺が取ってきてやったから安心しろ」



三郎は懐からひらりと1枚の紙を取り出す



「な…、何でそんな用意が良いのさ……」

「気にしたら負けだ、さぁ雷蔵、行って来い!!」

「何で三郎も兵助もそんなに楽しそうなんだよ…」



雷蔵の言葉も空しく、結局雷蔵は二人に言い包められ、町へと出かける事になってしまった



-The Next Stotly-



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私の中で5年生の位置関係が何となく決定しました

三郎→兵助を起用して雷蔵をからかって遊ぶのが楽しい

雷蔵→策士な三郎に振り回されながら兵助に助けを求めるも高確率で玉砕

兵助→三郎に弄られてる雷蔵を助けたり助けなかったり、楽しい方の味方な傾向有り


人様の所で見る5年生とは全然違った見解になりましたが、私は5年生と言う3人をひっくるめて好きです。

何かもう兎に角、年相応の男の子っぽさを出せれば満足かな、と。

雷蔵は兵助と三郎の二人に可愛がられてれば良いと思う(普通の意味で


と言う訳で初の雷蔵Dreamでした!!

いや、まだ完結してないっていうか全然Dreamでも無いけど_| ̄|○

サブキャラ動かすの大好きですからね!!(開き直り?

続きは多分キリリク消化した後になりますのでご了承下さいー。



'05/03/03