ーー!!」



ある日の朝

忍者らしからぬ足音を立てて廊下を疾走して来たのは6年生の七松小平太



「おはよっ!!」

「おはようこへ」



はもうそんな小平太の振る舞いにはすっかり慣れた様子で、ため息まじりに応じながら背後にくっついた小平太に話し掛ける



「相変わらず朝っぱらから元気だねぇ…」

「そう言うは相変わらず元気無いよね」

「私は朝弱いって言うか、何処かの体力お馬鹿と違って繊細なの」

「低血圧って言うのも大変そうだね」

「まぁね。所でいい加減どいて。たたでさえ弱ってる私を潰す気?」

「潰す気は無いけど離れるのはやだー」



小平太はそう言ってより強くに抱き付くが、は子供をいさめる様に小平太に声を掛ける



「こへ?」

「……はい…」



身長155cm弱のに170cm強の小平太

そんな身長差にも関わらず、二人の関係はどう見てもの方が上のようだった

そんなやり取りを終えて、ようやく二人は廊下を並んで歩きながら食堂へと向かう



「今日の授業、くの一は何限で終わり?」

「確か四時限で終わりだったと思うけど…」

「じゃぁさ、お昼も一緒に食べようよ」



嬉しそうに提案して来る小平太をちらりと横目で見て、は首を左右に振る



「今日は出掛ける予定があるから、残念だけど無理」

「…さぁ……私の事嫌いなの…?」



全く悪びれる様子も無く断るを不満そうに見つめながら小平太は不満そうに尋ねる

はそんな問いに一瞬考え込んだ後に答える



「……………大好きだよ?」

「何でそこ疑問形なのさ!?」

「深く気にしちゃ駄目。兎に角、今日のお昼は無理ったら無理」



そう言いながら食堂のカウンターで朝食を頼むの後に続きながら、小平太はまだ納得の行かない表情をしている



「今日のお昼はって…昨日もその前も駄目だったじゃん」

「私はこへと違って忙しいの」



拗ねた様に呟く小平太を見もせず、は受け取ったお盆を持ってきょろきょろと辺りを見回して空いている席を探す



「何だよそれ」

「大体こへ、私にばっかり付きまとってるけど授業の単位は平気なの?潮江や立花はそんなに暇じゃ無さそうだけど」



適当に見つけた場所に座りながらはずけずけと小平太を追い詰めるように尋ねた



「べ、別に暇じゃないけど…」

「けど?」

「私はと一緒に居たいから……」



すっかりいじけてしまったのか、俯きながら呟く小平太

はそんな小平太の様子を見てため息まじりに告げた



「それは嬉しいけど、私のせいでこへが留年なんて事になっても困るよ?」

「留年になんかならないよ!!……多分…」

「それならまぁ良いけど…、とりあえず朝ご飯は一緒に食べられるんだから文句無いでしょ。て言うか早く食べなきゃ授業始まっちゃう…」



はそれだけ言うと食べる事に専念し始めた

小平太は暫く不服そうにを見ていたが、やがて諦めたように自分も朝食に手を付け始めた



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「ご馳走様でした」

「ご馳走様」



二人ほぼ同時に食べ終わり、手を合わせて挨拶をする



「さて、早くしないと…」



そう言っていそいそと立ち上がりお盆を片手に歩き出すを小平太は心底つまらなさそうに見つめた

そんな視線を感じ取ったのか、は小平太に問う



「何?」

…、私の事なんかどうでも良いでしょ」

「そんな事ある訳無いでしょ。じゃぁ私もう行くから、こへも授業遅れないようにね」



小平太の必死の問い掛けにも真面目に応じる事なく、はカウンターにお盆を返すとそのまま消えた

の後姿を見送り、小平太はがっくりと肩を落とす



「…………」

「よぉ、相変わらず尻に敷かれてんな、小平太」



背後からぽんと肩を叩かれ振り向けば苦笑気味の文次郎が立っていた




「もんじぃ…、私……に嫌われてるのかなぁ…」



小平太は目をうるうるさせながら文次郎に尋ねる



「何だよいきなり…、また何かあったのか?」

「…が……最近冷たい…」

「あいつは前から冷たいだろ」

「でも最近もっと冷たいんだよー」



小平太は文次郎に泣きつく



「うぉ、くっつくな気色悪い」

「私はこんなにが好きなのにー!!」

「知るかよそんな事!!離れろ!!俺はじゃない!!」



そんな二人のやり取りを遠巻きに見ていた仙蔵と伊作と長次



「全く、あいつらは朝くらい静かに出来ないのか」

「ん〜…、小平太も色々大変そうだねぇ…」

「付き合ってるのに片思いか…」



小平太に泣き付かれている文次郎を助けようともせず、三人はのんびり傍観しながらそんな事を話し合った



「「「報われないな…」」」



「いい加減に離れろこのヘタレ犬!!」

〜〜〜!!!」



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「………あの馬鹿…」

、どうかした?」

「ううん何でもない。ちょっと犬の遠吠えが聞こえた気がしてね」

「犬?」

「そ、図体はでかい癖に甘えたがりなでっかい犬」

「へぇ〜、って犬なんか飼ってたんだ」



くの一教室ではが友人にそんな事を話していた



「でも良いじゃん、甘えたがりって事は随分懐いてるんでしょ?」

「うん。毎朝毎朝べったりだから、いい加減ちょっとうざい」

「そんな事言って、犬とか猫とか大好きじゃない」

「そうそう、だからどうしても手放す気にはなれないんだよねぇ…」



はぼんやりと外を見つめながら苦笑した



「良いなぁ、そんな可愛いペット、私も欲しいよ」

「まぁ可愛いと言えば可愛いんだけど…」

「はい、席に付いて!!出席取るわよー!!」



そんな会話の途中、何時の間にか教室に入って来ていた先生の声に遮られて二人の会話はそこで途切れた

教室内にクラス委員の号令が掛かり、授業が始まる



「…つまり策する事を表し、謀により人を陥れる事を策略と言います」



静かな教室内では先生の説明が淡々と続く



「そしてこの策略が上手な人の事を"策士"と呼びますが、策士策に溺れると言う言葉もあり−」



さらさらとチョークを走らせ版書して行く先生

は説明を写し書きながらふと思いつく



「(はかりごと…ねぇ………)」



学園長では無いが、ある事を"思いついた"は口の端でにやりと笑った



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「鉢屋三郎を呼んでくれる?」



一限目が終了した後、は教室を出て真っ直ぐ五年生の教室へ向かった

そしてその辺に居た男をひょいと捕まえ鉢屋三郎を呼ぶように命じる

間もなく、まだ目の醒め切ってない寝ぼけた表情の三郎がやって来た



先輩…、一体どうしたんです?」

「鉢屋にちょっと協力して欲しい事があるんだけど、手伝わない?」

「別に構いませんけど、また誰か引っかけるつもりですか?」



苦笑しながらの話しに応じる三郎

どうやら今までにも何回か悪戯の手伝いをさせられた事があるらしい



「まぁね。でも今回は100%私利私欲の為だから、鉢屋には何の利益も無いんだけど」

「まぁ別に良いですよ、先輩の言う事は聞いておかないと後が恐いですから」



悪戯っぽく笑って三郎は頭を掻いた



「それはとても賢い判断だね。それじゃぁ早速なんだけど……」



は三郎にこそこそと耳打ちする

最初はただ聞いているだけだった三郎も、の話しを全て聞き終えるとを見下ろして呆れたように笑った



「先輩って、いつもクールな癖にたま〜に凄く子供以下な事言い出しますよね」

「何か文句ある?」

「いーえ、何にもありませんよ?喜んで協力します」



そう言って軽く笑った三郎に、満足そうに頷きながらは言う



「有難う。それじゃぁ授業が始まるから、また後でね」



それだけを言い残すとは自分の教室へと戻って行った



「三郎、どうかしたの?」

「あぁ雷蔵…、先輩って変な人だよな」

「うん、大人っぽいのか子供っぽいのか解らない感じだよね」

「流石くの一のタマゴだな」

「そうだねぇ。…それより、また悪戯の相談?」

「悪戯っつぅか…、まぁこれも悪戯の部類なんだろうけど…」



雷蔵の問いに考えながら答えると、三郎は苦笑した



「先輩らしいよ」



独り言の様にそう呟く三郎を不思議そうに見ながら、雷蔵は首を傾げた



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「潮江」



二限目が終了すると、今度はい組の教室に向かったは文次郎を呼び出した



…、今朝お前のせいで散々な目にあったんだぞ俺は」

「何の事?」

「お前が小平太の事構ってやらねぇからあいつが…」

「あぁそうそう、そのこへの事なんだけどね?」



は文次郎の言葉を遮りこそこそと耳打ちをする



「と言う訳なの。鉢屋にも手伝って貰うから、宜しくね」

「いや、宜しくじゃねぇよ、何で俺がそんな事…」

「仙蔵は手伝ってくれるって。もう了承済みだよ?」



はにっこりと微笑む

その笑みには有無を言わさぬ迫力があり、文次郎は思わず後ずさる



「仙蔵の奴何考えてんだ…?」

「放っておくと心配だからだって、失礼だよね」



いや、今回ばかりは仙蔵が正しい

そんな事を思いながらも流石に口にする事は出来ず、文次郎は黙ったまま視線を逸らした



「そんな訳で、もちろん協力してくれるよね?」



文次郎の両手を掴みは子供の様に微笑む



「お前…、こういう事平気でするから小平太が拗ねるのわかってんのか」

「解っててやってるんだもの」

「性質悪ぃな……」

「で、どうなの?三限目始まっちゃうから早く答えてよね」

「わかった、協力すりゃ良いんだろ」

「有難う。それじゃぁ四限目終わったらまた来るから」

「おう…」



文次郎が答えるや否や、は自分の教室へと戻って行った



「良し、これで手筈はバッチリ…」



教室に戻る廊下を走りながら満足そうに呟いて、悪戯っぽく笑った



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'04/07/28