「だから、ここの公式に何でその式が入るの?」

「だって…」

「さっきから何度もこっちだって言ってるでしょうが…」



放課後、6年ろ組の教室内

机に向かう2人の人物

1人は腕を組んで呆れ顔

1人は必死で教科書と睨めっこ



「もう一回最初っから説明しなきゃ駄目なのかしら…」

「うぅ…、ごめん

「はぁ…、良い?まずこっちの問題の場合は……」



隣同士座りながら、は小平太に勉強を教えている

小平太は半泣き状態での言葉を理解するのに必死になっている



「はい、それじゃぁこの問題解いてみて」

「うん…」



が小平太に勉強を教え始めてから大体1週間が経つ

最初は軽い気持ちで引き受けた小平太への個人指導だったが、

これ程まで大変だとは流石に思っていなかった

実技は100点満点に近いのに、筆記となると赤点ギリギリ

良くこれで6年生になれた物だと返って感心してしまったくらいだ



「出来た!!」

「…えっと………あ、ここ違う」

「え?」

「だから、ここの計算合ってないって、はいやり直しー」

「うぇー…」

「全く…、同じ所でいっつも同じ間違いするんだから…」



最初よりは大分出来る様になったと言っても良いだろう

一応しっかり理解出来れば問題は無いらしい

しかし理解するまでが問題なのだ



「あのね、ここには掛けて四十六になって、尚且つ足して二十五になる数字が入らなきゃ成り立たないんだってば」

「あ、そっかぁ…」

「もうこれで何度目になるのよ…」

「ごめんなさい…」

「はぁ、もう、良いから早く解いちゃってね」

「はーい」



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「今度こそ!!!」

「どれどれ…」



自信満々にノートをに差し出した小平太

は黙々とノートに目を通す



「あぁ、合ってる合ってる、これでやっと次に進めるわね」

「あーーーー疲れた!!」



から正解の丸を貰うと、小平太はそのまま後ろに倒れこんだ



「私は小平太の倍以上疲れてるわよ…」



ぐったりと寝転んだままの小平太を軽く睨み付け、小さくため息を付く



「ごめんねー、でも頼めるのがしかいなかったんだよ」

「何でよ、同じ組の長次とかに頼めばいいじゃない」

「長次は図書委員の仕事で忙しいし、あんまり質問出来ないもん」

「文次郎は?」

「もんじ私と同じくらい馬鹿だよ」

「仙蔵とか」

「せんちゃん出来ないと怒鳴るから恐いし、自分の事で手一杯だって…」

「伊作は…」

「いさっくんは保健委員でこの前の台風で荒らされた薬草園の復旧作業中」

「………はぁ」



はがっくりと肩を落とした



ー、怒ってる?」



小平太は上体を起こしての顔を覗き込む



「別に怒ってる訳じゃないんだけど…」

「だけど?」

「小平太…、もう諦めて留年すれば?」

「や、やだよそんなの」



の言葉にうろたえる小平太を横目で見ると、は笑った



「冗談よ」

〜…」

「はいはい、そんじゃぁとりあえず、ちょっと休憩しよっか?」

「うん!!」



小平太は大きく頷くと、に飛びついた



「休憩するって言ってるのに何で抱きつくのよ」

「だってこれが一番落ち着くんだもん」

「…私はあまり落ち着かないんだけど…、重いし」



がっちりと小平太の腕に束縛されたまま、は呆れた様にため息をついた



「まぁ良いけど、10分くらいしたら、次の科目ね」

「……うぅ………も結構厳しいよね…、せんちゃん程じゃないけど…」



小平太も負けない位大きなため息を付きながら呟く



「だって小平太が留年しちゃったら困るでしょ、小平太も、私も」

「へ?」

「だから、留年するの嫌なんでしょ?」

「いや、確かに留年するのは嫌だし、したら私は困るけど…、何でも困るんだ?」



真顔で小首を傾げてを見る小平太

本気での言葉の意味が理解出来ていないらしい



「………小平太」

「何?」

「後で国語の勉強、やり直しね」

「えぇ!?だって国語って数学の前にやったじゃん!!」



大慌てで抗議する小平太に、は顔を赤くして横を向いてしまった



「言語理解力無さ過ぎ」

、顔赤いけど、どうかした?」

「何でもないわよ、はい、休憩終わり!!次の教科やるよ!!」



は一つ手を叩くと、抱きついている小平太を引っぺがし、再度机の前に座る様促す

渋々の言葉に従った小平太の横に腰掛け訪ねる



「で、こっちで解らない所は何処?」

「全部」

「………」



はがっくりと肩を落とした



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「あー…、今日は散々だった…」



小平太の部屋

ごろりと仰向けになりながらはため息混じりに呟く

結局あの後一から物理を教えたのだが、六時を回った所で教室から追い出されてしまった為小平太の部屋に移動したらしい



「まさか五年生の問題からやり直しとはね…」

「あはは………………、ごめんなさい」



小平太はぐったりと倒れているの横に座っている



「別に良いけど…、これでまた赤点なんか取ったら許さないからね?」

「わ、わかってるよ…」



は小平太を横目で見ながらそう告げて目を閉じた



大丈夫?」

「平気な様な……駄目な様な……」



は曖昧に返事を返す

小平太は心配そうにを見つめていたが、やがて自分もの横に寝転んだ



〜」



ころりと転がって後ろからに抱き付く



「何で小平太そんなに元気余ってるのよ…」

「勉強は疲れるけど、とずっと一緒だから全然平気」

「それ…理由になってるの?」

「良くわかんない」

「……まぁ良いけどね」



は苦笑すると寝返りを打って小平太と向き合った



「ねぇ、さっきの答えなんだけどさ」

「え?何か問題出してたっけ?」

「だから、休憩の時の、も困るのは何でってやつ」

「まだ覚えてたの…、そんな事ばっかり記憶力良いんだから…」



呆れた様にそう呟くと、は少しだけ顔を上げて小平太を見上げる



「だからね、小平太が留年しちゃったら、最低でも一年間は小平太と一緒に居られないじゃない」

「うん」

「小平太にはちゃんと卒業して、しっかり働いて貰わなきゃ安心してお嫁にも行けないわ」

「え?」



の言葉に小平太は一瞬きょとんと頭に疑問符を浮かべる

そして暫く考え込んだ後、がばっと起き上がりの両手を握った



私のお嫁さんになってくれるの!?」

「そのつもりだけど…、小平太がそんな調子じゃ無理かな……」



両手を握られたまま、視線を横に逸らすと小平太は大きく首を左右に振った



「無理じゃない無理じゃない!!」

「それじゃぁちゃんと勉強する?」



視線を小平太に戻して訪ねるに、小平太は大きく頷く



「するする!!」

「今度の期末で上位の成績取る?」

「取る取る!!」

「それなら……まぁ…良いかな」

「やったぁ!!」



がにっこり笑うと小平太は万歳をして喜び、そのまま前に倒れるとの上に覆いかぶさった



「嘘じゃないよね?」

「もちろん、小平太がちゃんと卒業出来るならね」

「任せて!!私の為に頑張るから!!」



小平太はそう言うと、ガッツポーズをしていた右手を解き、の頬に触れた



「絶対幸せにするからね」



そう呟いてに口付ける

は頬を赤らめて恥ずかしそうに微笑んだ



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〜数日後〜



「あ、おはよう仙蔵」

「……あぁ…か………」



朝、廊下で仙蔵に会うと、仙蔵の顔色はいつにも増して蒼白かった



「どうしたの?何か凄い顔色悪いよ…?」

「…悪夢だ………これは何かの間違いとしか…」

「ちょっと仙蔵…?」



心配そうにが見守る中、ふらふらと廊下を歩いて行ってしまった



「何だったんだろう…」



が仙蔵の背中を見送ると、反対方向から自分を呼ぶ声がする



ーーー!!!」

「あ、小平太おはよう」



先程の仙蔵とは対照的に、元気いっぱいに抱きついて来た小平太

が挨拶をすると、小平太は嬉しそうに挨拶を返した後切り出した



「おはよう!!聞いて聞いて!!」

「何?」

「昨日期末考査の結果が出てね」

「あ、良い点取れたの?」

「うん!!一位だった!!」

「…………え…?」



小平太の嬉々とした言葉には一瞬耳を疑う



「一位って……学年で…?」

「そうだよ、せんちゃんと二点差だったんだ!!」

「あぁ……それで…」



は先程の仙蔵の表情を思い出す



「これで安心して私の所に来れるよね?」

「う、うん…」

「やったぁ!!」



再度飛びついて来た小平太の腕に抱かれながら、は小平太に破れた仙蔵を思い、苦笑する他無かった



「愛の力って凄いね!!」

「……そうだね」



- END -



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'04/08/18