さん、今日はこれで何回目ですか…?」

「え?えっと……3回目くらいかな?」



伊作は無邪気に笑うに盛大にため息をついた



「5回目ですよ……」

「あら、そんなにいっぱい?」

「そうです…お願いですからこれ以上生傷増やさないでくださいね」



そう言いながらの左手に絆創膏を貼り付け上からぺしっと叩いた



「痛っ、善法寺くん酷い〜」

「酷いのはさんの怪我ですよ…」

「だって…」

「幾らなんでも不注意が過ぎます、気を付けて下さい」

「は〜い…」



はしゅんとなり返事をする

すると伊作は軽く笑って救急箱の蓋を閉めた



「さぁ、早く行かないとおばちゃんが待ってますよ」

「あ、そうだね…それじゃ、どうも失礼しました!!」



は立ち上がりぺこりとお辞儀をするとそのまま走って出て行った



「走ったらまた転びますよ…」



伊作はそう呟きながらもいつもの様に苦笑するのだった



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「おばちゃ〜ん、今戻りました〜!!」

「おやちゃん、怪我はもう平気かい?」

「はい、手当てして貰いましたから」



食堂で夕食を作っているおばちゃんの元へはぱたぱたと走って来て手をひらひらさせた



「そうかい、大した事なくて良かったね」

「いつもの事ですから」

「いつもじゃ困るんだけどねぇ」



おばちゃんは苦笑しながら野菜を手際よく切って行く



「それじゃぁそろそろ出来上がる頃だから、そっちのお鍋見てくれるかい?」

「は〜い」



は大きな鍋の蓋をそっと開ける



「うっゎぁ…美味しそう〜」

「今日のメニューはさつまいもの雑炊におかずは天ぷら、後は自家製のお漬物だよ」

「流石おばちゃん、毎日毎日凄いですね!」

「まぁね、ちゃんもいずれ出来るようになるわよ」



おばちゃんは切った野菜に衣をつけ、次々に揚げて行く

はおたまで雑炊を少し掬い上げ、小さな器で味見をする



「こんなに美味しいお料理作れるようになるのに何年かかるかなぁ…」

ちゃんは飲み込みも早いしそこまで遠い話じゃないでしょうねぇ」

「でも……」



は雑炊に少しだけ塩を足しながら呟く



「やっぱりおばちゃんには敵わないだろうなぁ」



そういいながら鍋を混ぜると再度蓋をした



「おばちゃんも見習いの時期があったの?」



おばちゃんは揚げ終わった天ぷらを皿へと盛りながら考える



「そうねぇ……私もちゃんくらいの頃があったわ」

「そっかぁ…よし!!頑張ろうっと」

「あら、あまり張り切るとまた怪我しちゃうわよ?」

「そ、それは忘れてください〜」



いつもの夕飯作りの風景はこんな感じだ

は忍術学園の専属料理人見習いとしておばちゃんに料理を教えてもらっている

かれこれ半年程が立つが、最初の頃とは比べ物にならないくらい成長した



「よし、こんなもんかな……おばちゃ〜ん、こっちの雑炊出来ましたよ〜」

「はいはい、それじゃぁ器によそって頂戴な、そろそろ皆食べに来るよ」

「は〜い」



現時刻6時を少し廻った所、ちらほらと廊下が騒がしくなり食堂に生徒が集まってくる



「おばちゃん、俺A定食」

「こっちはCの掻き揚げ丼!!」

「んじゃぁ僕もそれと同じもので〜」

「はいはい、順番にね」



食堂は見る間に生徒で賑わってくる



ちゃん、次こっちお願いね」

「わかりました〜」



おばちゃんと交代してが注文を取る



さん、怪我の方は大丈夫ですか?」

「あ、善法寺くん、もう平気だよ〜、流石にあれ以上は怪我しなかったしね」



伊作はそう言いながらVサインするを見て小さく笑う



「そうですか、良かった、それじゃぁ私は雑炊を」

「は〜い、おばちゃん雑炊一つ〜」

「はいよ〜」



がくるりと後ろを向いておばちゃんに声を掛ける

おばちゃんの返事があるとすぐに伊作の方へ向き直って微笑んだ



「今日は一人なの?」

「いや、後から皆来るはずですよ」

「そっかぁ、組が違うと時間合わなくて大変だねぇ」

「はい、雑炊一つね、」



二人が喋っていると後ろからおばちゃんがお盆を差し出した



「あ、雑炊来たね、どうぞ」

「有難う」

「はい次の方は〜?」

「さつまいもの雑炊とわかめの味噌汁一つ」

「は〜い」



伊作はお盆を受け取ると、忙しそうに次の料理の注文を受けるを見て微笑んだ



「さて、何処に座ろうかな……」



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「ひゃぁ〜…今日も生徒さん一杯でしたねぇ」

「そうねぇ、ちゃん疲れたでしょ?」

「ん〜…少しだけ、」



はそう言いながら笑う

すっかり人気の無くなった食堂でお皿をがちゃがちゃと洗いながらとおばちゃんはのんびりと話す



ちゃんが来てから一層食堂の利用者が増えたからねぇ」

「そうなんですか?」

「そうよ〜、2割は増えたかしらねぇ」

「何でかなぁ…?」



勢い良く泡立て食器を洗いながらは首を傾げた



「あらやだ、気付いてないの?」

「何がですか?」

「皆ちゃんに会いたいのよ」



おばちゃんはにこやかにそう言いながら微笑むと洗い終わった食器をどんどん並べていく



「………?」



一方は良くわかっていないようで、もう一度反対方向に首傾げる



「まぁいっか……よいしょ、おばちゃん、こっち全部洗い終わりましたよ」

「あらそう、それじゃぁ今日はもう休んで良いわよ、ご苦労様でした」



おばちゃんはたった今洗い終わった食器を逆さまに置くと、の方を向いた



「あ、はい、それじゃぁお疲れ様でした〜」



はおばちゃんに向かいぺこりとお辞儀すると食堂を後にした



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「ん〜〜……っ…はぁ、疲れた〜」



は自室に戻ると明かりも付けずにそのまま畳みへとうつ伏せになって寝転んだ



「今日はいっぱい失敗しちゃったしなぁ…」



そう言いながら今日だけで怪我してしまった5箇所の傷跡を見る



「ん〜……私才能無いのかな」



そのままころりと転がり仰向けになると、自分の両手を見た

生傷と絆創膏の耐えないその両手は痛々しく見える

それでも全く痛みが無いのはやはり治療の仕方が良いからだろうか



「………善法寺くんにも迷惑掛けちゃったなぁ…」



呟きながらその両手で顔を覆うと小さく笑った



「まぁいいか……」



怪我する度に困った顔をして自分を叱る伊作が何だか好きだった

いつも困らせているし、明日はお礼を言いに行って見ようか

そんな事を考えながらはゆっくり立ち上がる



「さて、お風呂に入って今日は寝ちゃおうっと」



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次の日の昼頃



「失礼しま〜す」



そう言いながらは保健室の扉を開ける



「また怪我でもしましたか?」



半ば呆れ顔で伊作はを迎え入れた



「違うよ〜今日は善法寺くんにお礼を持ってきたの」



は嬉しそうに笑いながら保健室の中へ入る

何故か両手を後ろにやったまま…



「何を隠しているんですか?」

「えっとねぇ……、」



伊作の問いにはにやりと呟きながら両手を差し出した

手には小さめの白い箱が乗っかっている



「それは……何ですか?」

「いつもいっぱい迷惑掛けちゃってるから…そのお礼とお詫びだよ」



そういいながらは伊作にその箱を手渡した



「………開けても良いですか?」

「もちろん」

「じゃぁ…」



伊作は箱を一度床に置くと箱の蓋そっと開けた



「………?」

「どうしたの?」

「これは…一体何ですか?」

「これはね、スイートポテトタルトレットって言うの」

「スイートポテト…タルトレット……?」



何とも言い難く、あまり聞いた事の無い単語に思わず首を傾げる伊作

は笑いながら説明し始めた



「昨日さつまいもの雑炊作った時にさつまいもが余っちゃったの、だから作ってみたんだ」

「じゃぁ…これはさつまいも?」

「うん、南蛮菓子でね、美味しいんだ」



無邪気に微笑みながらはタルトを指差す



「これね、甘いけど、さつまいもだからそこまで甘すぎないし…疲れた時には良いかなと思って」



伊作は小さな箱に綺麗に並べられた4つ程のタルトを見つめる



「これ…食べて見ても良いですか?」

「どうぞどうぞ、その為に頑張って作ったんだし」



伊作はそっとタルトを掴むと控えめに一口かじる



「………どう?美味しく出来てる?」



もぐもぐと口を動かす伊作を少し不安そうに見つめる

伊作はやがてタルトを飲み込むとを見て微笑んだ



「凄く美味しいですよ、これ」



伊作の言葉にの表情はぱっと明るくなる



「本当?良かった〜」

さん味見とかしてないんですか?」

「ん〜と…実はしてない」



舌をぺろりと出しては笑った

伊作はそんなを見てふっと微笑む



「それじゃぁ一緒に食べましょう、私は今お茶を入れてきます」

「良いの?」

「もちろん、さんが作ったんだし、何より二人で食べたほうが美味しいでしょう?」

「そっか、それじゃぁお言葉に甘えて」



はぺたりとその場に座るとお茶を入れに行った伊作の方を見る



「…………良かった」



美味しいと言って貰えた事が嬉しくて、思わず頬が緩む

伊作の笑顔を見ると何だかとても暖かい気分になれた



「はい、お茶入りましたよ」



お盆に乗せたお茶をそっとの前に置きながら伊作も隣に腰掛けた



「それじゃぁいただきま〜す」

「私ももう一つ…」



二人してタルトを頬張る



「幸せ〜…」



タルトを口にしつつお茶を飲み、はふぅ、と一息付く



「そうですね…」

「……ねぇ善法寺くん」

「はい?」

「えっと……あのね…」



はお茶を両手にしながらためらいがちに申し出た



「これからも…ここに来て良いかなぁ?」



恥ずかしそうに笑いながらは言う



「あの…頑張って怪我…しないようにするけど……怪我してなくてもまた来ても良い?」



そう言って伊作を見る

伊作は一瞬顔を赤くして驚いていたが、すぐににっこりと微笑む



「もちろん歓迎しますよ、さんならいつもでも…ね」

「本当?」

「本当ですよ、その時はまたこうやってお茶でも飲みましょう」

「じゃぁ、私もまた何か作って来るね」



お互いに顔を見合わせるとにっこりと微笑み合った

暖かい昼下がり

のんびりとした時間を共有する幸せ

この日から度々保健室でのんびりお茶している二人が見られるようになった



-END-



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'04/05/05