「少し…話があるんだけど…良いかな?」



ある日同じクラスの女の子にそう切り出された

その子とは特に仲良しと言うわけでもなかったけれど

仲が悪いわけでもなかった



「……?良いけど…話って何?」

「えっと…、此処じゃ話し辛いから、裏庭に行っても良い…?」

「うん、いいよ」



そんな会話の後、私とその子は裏庭に向かった

こんな風に真剣な顔で相談された事なんか今までなかったから、妙に緊張してしまう



「ここら辺で良い?」

「うん…」

「それで、話って何?」



私は早く内容が聞きたくてそう尋ねたけれど、その子は何だか言い辛そうに俯いたまま



「…どうしたの?」

「あの、ね…」



声を掛けるとぽつりぽつりと話し始めた



「私、ね…善法寺君が好きなの」

「…ぇ……うん」

「それで…ちゃんって善法寺君と仲良いから…もしかしたら付き合ってるのかなって気になっちゃって…」



困った事になってしまった

私は確かに伊作とは仲が良いと自負している

でも別に付き合ってる訳じゃない



「別に…付き合ってないよ?」

「本当……?」



その子は遠慮がちに私を見上げた

可愛いな…

思わずそう思ってしまう

恋する女の子は皆可愛いものなのだろうか?



「うん、本当本当」

「そっか…あ、でも…ちゃんは善法寺君の事…好きだよね?」

「え…?」



私は間抜けな声を出してしまった

だって

どうしてそこで私が伊作を好きだなんて会話になってしまうのか



「な、何で?」

「そんな感じがするから…」



恋する女の子は可愛いだけじゃないんだ

勘まで鋭くなるなんて…



「好き…だけど、、でも…」

「でも…?」

「今の状態も嫌いじゃないから…別に、告白しようとかは考えて無いよ」

「そうなんだ…」



それっきり

私とその子の間には何とも言えない沈黙が流れて…



「あの」



そんな沈黙を破ったのはその子



「ごめんね、変な話しちゃって…あまり気にしないでね」

「あ、うん…こっちこそ……ごめん」



何で"ごめん"なんだろう

何で謝らなきゃいけないんだろう

私もその子もたまたま同じ人を好きになっただけで、何も悪い事なんかしてないのに…



「それじゃぁ、私もう行くね」

「うん、またね」



その子はぱたぱたと走って行ってしまった

そんな後姿を見つめながらため息が出る



「私も…あんな風に可愛くなれたらなぁ…」



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昨日の妙な出来事があって以来

私は何となく伊作を避けるようになってしまった



「あ、丁度良い所に…ちょっとこの前の薬の事で話があるんだけど…」

「っごめん、私今忙しいから…じゃぁね!!」

…?」



我ながらなんて分かりやすい態度を取っているんだろう

これじゃぁ何処かの少女漫画だ



「ねぇいさっくん、ちゃんと喧嘩したの?」

「いや…喧嘩した覚えも怒らせた覚えもないんだけど…」



伊作は首を傾げながらそう呟いた



何で私が伊作を避けなきゃいけないんだろう

昨日の子に申し訳ないから?

違う

そんな理由じゃないはず

他に

もっと他に理由が…



「ねぇ、アンタが?」

「う、うん…」



廊下にて

前からやって来た見知らぬ女の子にそう聞かれ、思わず答えてしまう



「ちょっと話があるんだけど」

「え……?」



何だろう

昨日と同じ様な事になってしまった

でも昨日の女の子とは全然違う

綺麗な子だけど何処かキツそうな雰囲気…



「ここじゃ何だから裏庭にでも行きましょ」

「え、ちょっと待ってよ…」



そして裏庭

シチュエーションまで昨日と同じ

何だか妙な事になってしまった




「あの…話って何?」

「……あのさ、アナタは善法寺とは付き合ってないんだよね?」

「…うん……」

「じゃぁ、他の子が善法寺に告白しても全く関係ないって事だよね?」

「…う、うん……」



この会話は何?

ていうかこの人は誰?

昨日と似たような内容だけど、全く別の事を聞かれている



「善法寺が好きだけど告白するつもりは無いんでしょ?」

「え………それ誰から…」

「だったら少し協力してくれない?」



人の話しを聞かずにその人はどんどん話を進めてしまう

私はもう訳がわからなくて何となくその内容を聞いてしまった



「協力って…?」

「簡単な事よ、少しの間善法寺に近づかないで欲しいの」

「え……?」



思わず顔をしかめてしまう

何で私がそんな事を言われなきゃいけないんだろう

確かに私は今少し伊作の事を避けているけど…

でもそんな他人に頼まれて近付かないなんて…何か嫌だ



「どういう…事?」

「だから、善法寺に告白したい子がいるけど、アンタの存在が気になって告白出来ないって言ってるの」



昨日の女の子の顔がふっと浮かんだ



「アナタあの子の友達?」

「そう、あの子人見知り激しいし…全然自分の意見とか言えない子なの」

「そっか…確かにそんな感じはしたけど…」

「だから、少し協力してあげてよ…私だってちょっと図々しいかなとは思うんだけどさ…」



何だ

意外と良い人なんだ

そんな風にも思ったけれど、それとこれとは話が別だ



「ごめん、悪いけどその協力は出来ないよ」

「何で?」

「だって…私だって伊作が好きだもん」

「でも告白する気は無いって…!」

「うん…」



私はどう説明したら良いかわからなかったけれど、何とか言葉に出してみた



「だって…私が協力するなんておかしいもん」

「何で…」

「…人に手伝って貰うなんて、そんなの間違ってると思うから」



私は一応控え目に言うが、相手は納得行かないらしい



「じゃぁあなたは善法寺の為に何もしないの?」

「何もって…?」

「あの子は善法寺が望むなら何だってするよ。アンタは告白もしないで一体何が出来る訳?」



そんな問いに私は思わず俯いた



「私は…何にも出来ないし、するつもりもないよ」

「何それ…。それで好きだなんて都合が良すぎじゃ…」

「違うよ。自分の事は自分でやれば良い、私は一緒にいる事の見返りに何かを求めるような伊作なら絶対に好きにならない」



顔を上げて真っ直ぐと相手を見据える



「そんなのただの言い訳じゃない」

「言い訳だったとしても、それを決めるのは伊作でしょ?」

「うん、そうだね」



私がキッパリとそう告げると、急に頭上から声がした

驚いて振り返ると伊作が背後に降り立ち私の肩に手を置いている



「善法寺…」

「伊作…、どうしてここに?」

「最近の様子がおかしいから理由を聞こうと思って来たんだけど…」



そう言って伊作は困ったように笑う



「ねぇ、もう一人も出ておいでよ」

「え?」



伊作の言葉に私は首を傾げる

すると目の前にいた女の子の背後の草むらから昨日の女の子が出てきた



「ぁ……昨日の…!!」

「…………」

「良く気付いたわね」



驚く私の前に気まずそうに現れたのは昨日話した女の子

もう一人は冷静に伊作に話しかける



「まぁ…一応忍者の端くれだからね」

「わ、私全然気付かなかったのに…」



伊作は小さく笑いながら私の隣に立った



「で、一体何の話?」

「ぁ…えっと……何だっけ?」



突然本題に戻られたものだから、思わずド忘れしてしまう



「あ、あのっ……ごめんなさい!!」



大きな声で、昨日の女の子が頭を下げて謝り始めた



「あ、あの…?」

「ごめんなさい…私がいけないんです!……私が…私が……」

「ちょっと!!別にアンタが悪いわけじゃないでしょ!?」

「だって…だって……頼んだのは私だし…」



どうやらこっちの気が強そうな女の子は昨日の女の子に頼まれて私を呼び出したらしい



「あの…もしもし?一体どういう事なの?」



何だか可笑しな方向に進み始めた話の内容を何とか把握しなければと思い、そう尋ねる



「だから、この子は善法寺が好きだけど、こんな性格だからアンタがいつも善法寺の傍にいると告白も出来ないのよ!」



そう言って気の強そうな女の子は私をびしっと指差した

隣の女の子は顔を真っ赤にして俯いてしまっている

そんな二人に伊作は話しかけた



「あの…、それはそっちの女の子が直接私に言うべき事だと思うんだけど…」

「だ、だから!!それが出来ないからこうして頼んで…」

「ごめんなさい…」



俯いていた女の子は、弱々しく呟いてそのまま泣き出した



「………」



私はどうしたら良いのか解らずただそれを見守るだけだったが、伊作は泣いている女の子に向かって話しかけた



「ごめんね。私は君の気持ちに答える事は出来ないんだ」

「……わかってました…」

「…え?」



伊作の言葉に小さく頷きながら呟く女の子に、伊作は驚く



「わかってました…善法寺君はちゃんが好きなんだって…」

「どうして…」

「私…いつも善法寺君を見てたから、善法寺君の視線の先にちゃんがいる事…知ってました…」



女の子はそこまで話した後で、気の強そうな女の子に話しかけた



「ごめんね、私の我儘で皆にいっぱい迷惑掛けちゃった…」

「そんなのいいよ別に…」

「うん、有難う…」



私は

私だけが取り残されたような気になって、話にもついて行けずただそこに立っていた



…?」

「………めん…」

ちゃん?」

「ごめん…ごめんね……私、…伊作が…好き……言うつもりなかったけど…他の人に取られちゃうのは、やっぱ嫌だ…」



自然に溢れる涙と言葉

伊作も二人の女の子も黙ったまま私を見つめている



ちゃんが謝る事じゃないよ…」

「でも…っ……」

「少し、二人だけにしてくれるかな」



泣き続ける私を困った顔で見ていた伊作が女の子二人に呟いた



「……行こう」

「うん…」



こうして二人の女の子はその場から去り、私と伊作だけがその場に残された



「…私……伊作が好き…」

「うん」

「あの子みたいに可愛くないし…綺麗じゃないけど……それでも…」

「そんな事ないよ」



伊作は未だに泣き続ける私を優しく抱き締めた

その温かさと優しさに涙は一層強く流れる



が悪いんじゃない…だから泣かなくても良いんだ」

「でも…」

「人の気持ちが100%噛み合う事なんて無いんだから…仕方の無いことだよ」

「それでも、やっぱり…悪い、気がして…」

「それはが優しいからだよ」



そう言うと伊作は私の顔をそっと両手で包んだ



「そんな所が好きなんだけどね」



いつもの様に困ったように笑って

伊作は私に口付けた



「私はが好きだよ、優くて、いつも明るくて、少し意地っ張りで…」

「………」

「さっきも言ったけど、は十分可愛いよ?」

「え…?」

「でも、笑った顔の方がもっと可愛いと思うけど」



伊作は未だに泣き続ける私に優しく微笑む

私もその笑顔につられて微笑んだ



「うん、その顔が一番好きだな」

「…有難う」



「ん?」

「ずっと私の傍で笑っててね」

「………うん…!!」





- END -


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'04/04/01