良く話しに聞く夢物語

変な奴等に絡まれている所へ格好良い素敵な殿方が現れて助けてくれる

その後は色々な経緯を経てその殿方と恋に落ちる…

しかし殿方は実は高貴な身の上で、とても自分の近づける存在ではなく……

そんな夢みたいな話を先程耳にした



「何処にそんな甘い話があるってゆうんやろ…」



盛大にため息を付きながら町を一人とぼとぼと歩く

手には大きな荷物

一週間分の食料と衣服が詰め込まれている



「流石に一人はしんどいな…」



少女が住むのは人里離れた山の奥

その為毎日は町には降りられず、週に一度買い溜めをする為に町へ出てくる



「ここら辺は変な奴らも多いし気ぃつけな……」



安全で大きな通りを歩けば問題は無いのだろう

しかし近道するには裏の細い路地を行かねばならない

限りある時間と食品の鮮度の為には自分の身など構っていられない



「そうはゆっても自分の身が一番大事やねんけどな…」



そう独り言を呟きながらいつもの角を曲がると、そこには3人の如何にもと言った風貌の男が3人待ち伏せていた



「言うてる傍からこれやし…」



少女は袋をどさりと地面に下ろし前方を睨みつける



「よぉ姉ちゃん…随分重そうな荷物背負ってんな?」

「手伝ってやろうか」

「遠慮します…それより通してくれへん?ウチ今から家に帰るとこやってん」



少女の強気な態度が気に食わなかったのか

男達は少女を取り囲み脅すように声を掛ける



「大人しく荷物置いてった方が身の為だぜ?」

「そうそう、まだ若いんだし、命は惜しいだろ?」

「それとも荷物と一緒にお譲ちゃんも俺等のモンになっとくかぁ?」

「そんなんどっちもお断りや。大体こんなか弱い乙女1人に大の男が3人でなんて恥ずかしくないん?」



自分を取り囲む男達に向かい、少女は呆れたように呟く



「中々強情な女だな」

「じゃぁもう力尽くで行っちゃうか」

「おら嬢ちゃん、今さら怖くなったとか言っても遅いからな?」



男達は厭らしく笑いながらそう言うと、少女の腕をぐっと掴んだ



「全く…素敵な殿方がどうとかゆうてられへんわ…」



少女はそう言って盛大なため息をつき、掴まれた腕を勢い良く振り払った



「ぁ?逆らう気かよ?」

「自分の立場が解ってますかー?」

「大人しくしとけっつーんだよ!!」



あくまでも強気な少女の態度に、男達は次第に苛立つ



「………くっそぉ……」

「んのガキ……調子に乗るんじゃねぇぞこら!!!」



ついに怒りが爆発した男が懐から出した短刀を少女に向かって振りかざした



「………!!」



嗚呼

自分の人生はこんな所でこんな奴に襲われて終わるのか…

少女が咄嗟にしゃがみ込み、自分の死を覚悟したその瞬間



「何やってるんだ!!」



凄まじい金属音と共に男の声が響く

少女がそっと目を開ければ其処には見知らぬ男の姿



「邪魔すんじゃねぇ!!!」



男はそう叫ぶが、叫んだ直後見知らぬ男に殴られ撃沈する

残りの男2人も、あっという間に見知らぬ男に気絶させられてしまった



「君、大丈夫だったかい?」

「……ぇ、ぁ……ウチなら…平気です…」

「そうか、良かった…立てるか?」



そう言って優しく微笑みながら手を差し伸べる見知らぬ男



「あ、あれ……?」



少女は男に差し伸べられた手を取り立ち上がろうとするが、どうにも力が入らない



「うっそぉ………」

「どうかしたか?」

「……腰…抜かしたみたいや………」



情けなく笑いながらそう言うと、少女はがっくりと肩を落とした



「情けないわ……」

「とりあえず、ここにいつまでもいるのは危険だから…」



男はそう言うとひょいと少女を担ぎ上げ、少女の荷物を片手に掴み歩き出す



「なっ……!?」

「私の家がすぐ近くにあるから、暫くそこで休むといい」

「せ、せやけど…」

「あぁ、心配しないで大丈夫。家で留守番している奴がいるからね」

「はぁ……」



少女は良く状況が飲み込めないまま、男に担がれ男の家へと連れて行かれた



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「おーいきり丸、帰ったぞー」

「あ、おかえんなさーい」



男が玄関口でそう叫ぶと、中から少年の声と足音が近付いてきた



「ん?あれ、その人誰っすか?先生の彼女?」

「んなわけあるか、そこの路地裏で絡まれてたから助けたんだ」

「あ〜、ここら辺最近治安悪いっすもんねぇ」

「ぁ、あのぉ…」



少女がおずおずと声を掛けると、少年と男の視線が少女へと止まる



「そ、そろそろ下ろして貰いたいんやけど…」

「あぁ、すまない」



男はそう言うとそっと少女を地面へ下ろした

未だに少し足が震えるが、抜けていた腰はどうにか治ったらしい



「ぇと…、とりあえず先程は危ない所助けてもろてどうも有難う御座いました」



少女はそう言ってぺこりと頭を下げる



「いや、大した事じゃないよ」

「そうそう、先生こう見えても強いもんね」

「こう見えても、は余計だ」

「…先生…?…助けて貰った身で何やけど…貴方達何者なん?」



少女はやや警戒したまま二人にそう尋ねる



「私は土井半助、忍術学園の教師をしている。そしてこっちは教え子のきり丸、わけあって家で預かってるんだ」

「忍術学園…?」

「そう、忍術を教えてくれる忍者の為の学校だよ。」

「本当はあまりペラペラ口外してはいけないんだけどな」

「まぁまぁ良いじゃないっすか。で、お姉さんの名前は?」

「ぁ、ウチは…です」

さんか。とりあえず中で話さないか?ここだと近所の人に聞かれる恐れがあるから…」



半助はそう言うと玄関から居間に上がり、囲炉裏の前に腰掛けた



「………」



は一瞬戸惑ったが、すぐに半助の後に続いて中へと入った

どうやら危険な人物ではないと判断したらしい

きり丸もの後に続く



「それで…さんはあんな危険な場所で何してたんだ?」

「あの場所は最近ゴロツキがいっぱい出るんで有名なの、お姉さんだって知ってるでしょ?」

「うん、知ってる…。せやけど家に早よ帰るにはどうしてもあの道を通らなあかんねん」



は半助ときり丸の正面にきっちりと正座した状態で答えた



「家って…あそこの道から行けるのは山だけじゃなかったっけ?」

「だから、その山にウチの家があんねん」

「山に?」

「…………」



は半助の言葉にこくりと頷く



「そうか…それであの道を……」

「何でそんな危険なとこ一人で…。お姉さんの他に誰かいなかったの?」

「誰かって?」

「手伝ってくれる人だよ」

「…………」



きり丸の言葉には俯いてしまう



さん?」

「……誰も…おらんねん」

「「え?」」

「ウチ…一人暮らしやから」

「一人暮らしって……山奥にたった一人で住んでるって事?」



きり丸が驚いてそう尋ねると、は俯いたまま小さく頷いた



「何でまたそんな場所に一人で……」

「5年程前まではちゃんとした村やったけど、戦で村全体焼かれて……」

「…お姉さんだけ生き残ったの……?」

「きり丸」



俯いたままのに尋ねるきり丸の言葉を半助は嗜めるように遮ると、一つ息を吐いて静かに告げた



「とにかく…今から帰ったんでは暗くて危険だ。今日は泊まって行きなさい」



半助はそれだけ言うと立ち上がる



「そんな、見ず知らずの人にそないに世話んなる事出来ひん」



半助の申し出に対し、勢い良く顔を上げて遠慮するに半助は諭すように優しく語り掛けた



「またさっきの奴らのような輩が出ないとも限らない。そんな中女性を放り出せる訳無いだろう?」

「でも…」

「なぁなぁお姉さん、折角だから泊まって行った方が良いって。何せ旅費はタダなんだから!!」



きり丸は目を小銭に変えて生き生きと語る



「…きり丸くん……」

「遠慮ならしなくて良いよ。布団も一組余りがあるし、部屋なら心配しなくても別々にするから」

「そ、そんな心配してるんと違うけど……」

「それならいいじゃん!!先生、それより晩飯にしましょーよ、俺もう腹へって死にそうっす」

「そうだな、それじゃぁそろそろ仕度するか」



半助が立ち上がりかまどの方へ移動しようとすると、がそんな半助を制すように声を掛ける



「ちょっと待って!!」

「ん?」

「あの、夕飯ならウチが作るから…二人は休んでて」

「な、いいよそんな…」

「良い事ない!!一宿一飯の恩義をただで済ませる程がめつい性格してへんわ」



はそう言って軽く笑うと半助を追い越しかまどへと向かった



「別にウチがここに立って問題あるわけちゃうやろ?」

「あ、あぁ…むしろそっちの方が有難いけど…」

「せやったらやらせて?それくらいせんと落ち着かんわ…」

「それじゃぁ…、悪いけどお言葉に甘えようかな」



半助はそう言ってに笑いかけた

もその笑みに答える



「任しとき!!」



こうして晩御飯の仕度が整うまできり丸と半助の二人はのんびり過ごす事となった



「先生、あのお姉さん一人暮らしって言ってたよね」

「あぁ」

「………一人かぁ…」



きり丸はそう呟き黙り込む

恐らく自分の昔を思い出しているのだろう

偶然ではあるが、境遇が全く一緒の人間に出会ったのだから無理もない

そうこうしている内に、が鍋を掴んで二人の下へやって来た



「あんまり大したもんは作れへんけど…」

「おぉ…具が入ったみそ汁!!」

「先生それ感動しすぎ」

「お前が毎日食材をケチるからだろうが!!」

「ま、まぁまぁ落ち着いて…、それよりお姉さん、この野菜どっから……」



きり丸のドケチ根性として聞かないわけにはいかなかったらしい

半助ときり丸のやり取りを楽しそうに見ていたは急に話を振られて驚く



「あ、えっと…それは私の買った食材のを使って……」

「すまなかったな…ろくな物なくて」



半助は苦笑する



「いや、どうせウチも一人じゃ食べきるんに時間掛かるし…生ものは早めに使った方がええから……」

「そんじゃぁ遠慮なくいっただっきまーーーす」



きり丸は出来たてのご飯へと手を伸ばす



「こらきり丸!!一人で食うな!!」

「何言ってるんすか、早いもん勝ちっすよ」

「ま、まだいっぱいあるから」



争うように食べる二人を微笑ましそうに見つめながらも飯をつついた



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「は〜〜〜、腹いっぱい!!」

「いやぁ、本当に美味しかったよ。ご馳走様」



すっかり綺麗に平らげたきり丸は満足そうにお腹をさする

半助も満足そうに笑いながらに礼を言う



「そんな…、お礼を言うんはウチの方です」

「どうして?」

「だって、こんなに楽しいの久々やから」



はそう呟くように言うと嬉しそうに笑った



さん…」

「……ねぇ先生。このお姉さん凄い美人だけど、だから助けた〜なんて事は…」



きり丸はの笑顔を見てそっと半助に耳打ちする



「馬鹿な事言うな」

「いでっ!!何するんすか先生〜もしかして図星?」

「んなワケあるか!!」

「どうしたん…?」

「「いや、こっちの話」」

「???」



そんなこんなであっという間に時間は進み、そろそろ就寝の時刻となった



「それじゃぁさんはこっちの布団。私ときり丸は隣で寝るから、何かあったら呼んでくれ」

「ぁ、あの……」



説明する半助には声を掛ける



「ん?」

「いや……その…、お願いがあるんやけど……」



は組んだ両手をもじもじと動かしながら言い淀む



「何だ?」

「えっと……半助さんと違うて、きり丸にお願いなんやけど…今日一緒に寝たらアカンかな…?」



半助に尋ねられてそう答えたは、半助の隣のきり丸を見下ろした



「へ?俺??」



きり丸は自分を指差しきょとんとする

これには半助も少々驚いて何故かと問う



「ウチ…生きてたら丁度きり丸くらいの弟がおったから…なんや懐かしくて……」

「そうだったのか…」



の言葉に少しの間を置いてきり丸はにっこり微笑みながら答えた



「良いっすよ」

「ほんまに?」

「そりゃもちろん、こんな綺麗なお姉さんと一緒に寝られるなんてそう無いっすからね」



そう言っておどけながら、きり丸は枕を持っての隣に移動すると半助に向かって笑い掛けた



「それじゃ先生、悪いけど今日は寂しく一人で寝てくださいね」

「あのなぁ」



半助は苦笑しながらもきり丸をこづく



「それじゃぁ、早く寝るんだぞ」

「はぁい」

「それでは半助さん、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」



こうして3人は床についた



-Next-



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'04/05/06




キリリク作品@すな様

SpecialThanksX★すな様