「喜八郎ー」

………何か用?」

「暇だから相手して」

「……さ、今何歳だっけ?」

「何言ってるの?同学年の癖に、13に決まってるでしょ」

「………」



の言動に綾部は思わず苦笑する



「とてもそうは見えないよ」



は綾部の言葉に頬を膨らませて横を向いた



「だってつまんないだもん」

「はいはい、相手するのは良いけど…何するつもり?」



そう訪ねるとは下を向いて真剣に悩み始める



「んー……それが中々思いつかないんだよね…」

「とか言って、実は大して考えずに僕の所来たでしょ」

「…………バレちゃった?」



は軽く笑うと、綾部の腕を引っ張る



「兎に角暇なの、何かして遊ぼう」



綾部は何処までも子供っぽいに半ば諦め気味で呟いた



「遊んでって言われても…」

「あれ、そう言えば滝夜叉丸は?」



はきょろきょろと部屋の中を見渡して訪ねる



「あぁ、何かまた三木ヱ門と勝負するんだって叫んで何処かに走り去って行ったけど」



綾部はいつもの事、と淡々とした口調で答える



「止めなくて良いの?また先生に怒られちゃうよ?」

「別に僕は関係無いし」

「んー…それもそっか」



は納得したのか畳の上にごろりと寝転ぶと左右にころころ転がり始めた

意味も無くごろごろと転がりながらは呟く



「男子の部屋ってくの一の部屋よりちょっと広いんだよねー」

「そうなの?」

「うん」



はひとしきり転がった後あぐらを掻いている綾部の膝元へ転がり寄ると綾部の足に顎を乗せて話し始めた



「この前他の生徒の部屋にもお邪魔してみたんだけど、やっぱり部屋の広さ全然違った」

「まぁ男が2人とか3人で狭い部屋で生活するのは辛いからね」

「確かに…」



は綾部の足の上で落ち着かない様子で首を揺らしたり目を瞑ってみたりと忙しい



「さっきから何してんの?」

「暇してるのー」



不満げな声で呟くと体を起こす



「よいしょっと」



そう声を掛けながら綾部があぐらを掻いている部分にちょこんと座り込む



「………何がしたいのか全然わかんないんだけど」



綾部がそう言うとは体重を綾部に預けるようにして寄りかかる



「私もわかんない」

「……何それ」



綾部は苦笑しながらの体をやんわりと包み込んだ



「天気良いのに何やってるんだろうねぇ」

「まぁ…外暑そうだし、僕暑いの苦手だから」

「でもくっついてたら暑いんじゃないの?」

「ここ日陰だから平気」

「屁理屈ー」



は笑いながら綾部の腕に自分の腕を絡ませる



「あの二人がいないと静かだねぇ」

「うん」

「喜八郎毎日賑やかそうだもんね」



の悪戯っぽい笑みに綾部はため息まじりに答える



「賑やかと言うよりは騒がしい、だけどね…、まぁ退屈しなくて良いよ」

「そう言えば前に三木ヱ門が倉ぶっ壊して4年生全員補習になった事とかあったよね」

「あぁ…あれは勘弁して欲しかった……」

「あはは、でも良いなぁ、楽しそうで」

は楽しくないの?」



綾部が訪ねるとは少しの間考え込んでから呟くように答えた



「別に楽しくないわけじゃないんだけど…何だか違和感があるって言うか…」

「どう言う意味?」

「友達がいないわけじゃないんだけどね。誰と一緒に居ても時間が経つにつれて何だか面倒になるんだ…」



はそう言いながら体の方向を変えると綾部の膝に座ったまま首の後ろに手を回し抱きついた



「何でだろうねぇ」

「僕に聞かれても…」

「だよね」

「でも…深く考えない方が良いんじゃない?」

「え?」



が聞き返すと綾部はの頭をまるで子供をあやす様に撫でた



「あんまり深く考え込むとどんどん深みに嵌るよ」

「そうなの?」

「うん」



綾部はの頭をぽんぽんと叩くと意地悪く微笑んだ



「"馬鹿の考え休むに似たり"って言うし、の場合正にその通りでしょ?」

「酷いなぁ…そこまで馬鹿じゃないつもりなんだけど?」

「分かってるけど、まぁはいつも通りあまり物事考えないで明るく居た方が良いと思うって事」



そう言うと綾部はに微笑んで見せる

は頬を膨らませて居たが、やがて頬の空気をため息に変えて吐き出すと同じように笑った



「そうだね、あんまり考えるのは得意じゃないし、別に良いか」

「そうそう、後先考えずに突っ走ってこそだよ」

「それは何かちょっと違う様な…」

「気にしない気にしない」

「気にするよ」



は笑いながら抱きつく腕に力を入れる



「喜八郎は暖かいね」

「そう?体温はどっちかと言うと低い方なんだけど」

「そうじゃなくて」

「ん?」

「喜八郎の言葉は何だか暖かい」



そう言うとは綾部の首筋に顔を埋めて猫の様に頬を擦り寄せる



「喜八郎の事を嫌いな人はいないだろうね」

「……どうかな」

「いないよ、喜八郎って自分から人と関わらないから敵とか居無さそうだし」

「……………」



の言葉に綾部は一瞬黙り込むとの腰を掴んで体勢を変えさせる

はされるがまま綾部の膝に馬乗りになり綾部と真正面から対面する形になった



には敵がいるんだ?」

「え…、何で?」

は他人と関わるの嫌いじゃないだろ」

「………うん…嫌いじゃないけど…」

「人と接すればそれだけ敵も増える」

「うん」

「でも、仲間だって増える」

「………」

「違う?」



綾部の言葉には黙ったまま小さく首を傾げた



「良くわからないけど……仲間…いるかなぁ」

「いるよ、の周りにはいっぱいね」

「喜八郎は?」

「僕の周りには…あんまり居ないね」



綾部はそう言って苦笑する



「人と関わらないってそう言う事だから」



まるで自分に言い聞かせるように綾部は呟いた



「何だか…どっちもどっちなんだね」

「そうかもね…どっちが良いとは言えないけど……自分の事を解ってくれる人が数人でもいれば良いんじゃない?」

「そっかぁ……」



は上を向いて暫く考え込んでいたがやがて納得した様に頷くと視線を綾部へと戻す

膝に乗っかった状態で綾部を見下ろすと綾部の額に自分の額をくっつけて笑う



「私は喜八郎の仲間になれてる?」

「さぁね」

「何その投槍な答え」

「まぁ…がなりたいって思ってくれてるなら大丈夫でしょ」

「うーん…」

「て言うか僕はただの怠け者だから敵も味方も作らないけどね」



はそんな綾部の言葉に一つ首を傾げると綾部の顔を覗き込んだ



「喜八郎は怠け者じゃないよ。本物の怠け者だったら友達なんか出来ないし、そもそも忍術学園に入学出来ないって」



は明るく笑いながら綾部の肩を叩く

綾部もの笑顔に釣られて微笑む

そして腕に力を込めてをしっかりと抱き締めた



「……僕より、の方がずっと暖かいけどな…」

「そうかなぁ?」

「うん…、ほんとあったか……」

「ん?綾部??」



は自分にしがみ付くように抱きつく綾部を不思議そうに覗き込む



「……綾部?………綾部ー??」



が問い掛けても綾部は返事をしない



「…………あらら…。寝ちゃってるし…」



そっと前髪を上げて顔を見れば何とも気持ち良さそうに寝息を立てている

はそんな綾部が可愛くて思わず笑みを漏らした



「……どっちが子供なんだかなぁ…」



そう呟くと綾部の体重を支えるのが面倒になり自分も一緒に後ろへ倒れ込んだ

天井を仰いで自分に覆いかぶさっている綾部の頭を撫でる



「遊びに来たんだけど……まぁいいか」



はぶつぶつと呟きながらも幸せそうに笑うと目を閉じた

ゆっくりゆっくり刻む時間の中に浸りながら二人は深い眠りに落ちる

結局二人が目を覚ましたのは夕飯の前で

ボロボロになって戻ってきた滝夜叉丸に起こされた



「あーぁ…結局一日中昼寝で終わっちゃったね」

「……まぁ良いんじゃない?久々にゆっくり出来たし」

「それもそうだね…私も久しぶりにのんびりしたかも」



二人は顔を見合わせて笑う



「喜八郎」

「ん?」



呼び止められて綾部が振り返ると、が少しだけ真剣な顔で訪ねてきた



「私は喜八郎の仲間だからね」



綾部は軽く笑う



「仲間も嬉しいけど…、恋人になってくれたらもっと嬉しいな」



それだけ小さく呟くと素早くの唇を奪うのだった



- END -



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





'04/06/15