「あの、山田先生」

「どうした?」

「本当にこんな高い山の上まで皆来てくれるんでしょうか…」

「どうしてだ?」

「だって、自由参加だったら危険な思いをしてまでわざわざ参加しないと思いますけど…」



不安そうなに伝蔵は明るく笑う



「大丈夫大丈夫。が織姫と言うだけでも参加する生徒は多いだろう」

「そう…ですか?」

「うむ」

「そうだと良いんですけど。とりあえず…」



はそう呟くと自分が身に着けている衣装をひらりとひるがえす



「この衣装、とても動き難いです…!!」



桃色を基調とした薄めの生地で出来た着物

上には長く透明な羽衣を身に付け髪留めもひらひらと長い物をつけている



「皆もこれと似たような物を着ているんですよね?」

「そうだな」

「こんな格好で山の中をマラソンなんて、大丈夫でしょうか…」

「まぁ低学年については一応見張りで他の先生方が後をつけてるから大丈夫だろう」



6組が一斉にスタートした頃、は遙か下に見えるスタート地点を不安そうに見つめていた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「学園長はマラソンって言ってたけど、罠とかは無いのかなぁ?」

「どうだろうなー。でも学園長は障害マラソンとは言って無いんだし、罠は無いんじゃないか?」

「ぁ、お饅頭だーー!!」

「え?おいちょっとしんべヱ!!?」



3人がマラソンと言う割にてくてくと歩きながら話していると、突然しんべヱが見つけた饅頭に走り寄って行ってしまった



「こんな所にお饅頭があるのがおかしいだろ!!って、うゎぁ!?」



乱太郎ときり丸がしんべヱを追いかけると、見事に網に引っかかっているしんべヱの姿があり二人は顔を見合わせてがっくりと肩を落とす



「うゎーん、助けてーーー」

「あぁもう…言わんこっちゃ無い……」

「でもこんな罠、誰が仕掛けたんだ?」



乱太郎がしんべヱを助ける横できり丸が悩んでいると、草影から何者かが飛び出した



「相変わらず1年は組の連中は馬鹿だな」

「あーっ、2年の左近と三郎次!!」



姿を現したのはきり丸が言う通りの2人組み



「さぁ行こうか左近、こんな罠に引っかかる様な奴の相手はしていられない」

「そうだね、それじゃぁ先に行かせて貰うよ」



こうして2人はにやりと笑うとその場から去っていった



「んーーっ、きりちゃんも手伝って〜、これ中々はずれないんだ」

「くっそぉ…この罠仕掛けたのあいつ等なのか!?」



そんなこんなで出だしから遅れた3人組みだった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ねぇ…、さっきから左門の後に続いてるけど……これ道合ってるの?」

「いや、良くわかんないんだけど…」

「なぁ神崎、お前この道であっている保障はあるんだろうな?」

「ん?そんな物はない!!只の勘だ!!!」

「「「!?」」」



左門が進むとおりぞろぞろと連なっていた3年生の4人組み

ふとした孫兵の言葉で左門に確認を取ると左門は無駄に胸を張って言い放つ

"只の勘"

左門の自信満々なその言葉に、3人組みは絶対に反対方向に向かっていると言う事を確信して深くため息をついた



「大体左門の後に続くのが間違いだったよ…」

「全くだ……」

「お前なぁ…確証もないのにどんどん前に進むなよ!!さんの美しい織姫姿を拝めなかったらどうしてくれるんだ!?」



かくして4人は慌てて来た道を引き返すのだった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「今回は5年や6年も相手にしなければならないのか…、少し厄介な事になりそうだな」

「そう言えばさっきから罠の様な物がいくつか仕掛けられていたな…」

「大方6年生の妨害作戦、って所だね」



綺麗な衣装に身を包みながら4年生の3人組みは中々順調に進んでいる



「まぁ成績優秀な私がいれば優勝くらいたやすいだろうけどな」

「良く言うよ、いつだって1年は組の連中に振り回されてるくせに」

「なんだと!?」

「本当の事だろ」

「はいはい、2人共喧嘩は良いから早く進もう」



やはり仲は悪いが、問題は無いようだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ねぇ三郎、何してるの?」

「いや、さっきあっちの方で声がしたからな」

「?」

「良し、これでどうだ」



三郎が雷蔵の方を振り返る



「あ、さん!?」

「これでちょっと向こうの奴等をからかってやろうと思って」



の格好をした三郎は、楽しそうに笑う



「でも相手が誰かわからないのに…」

「心配するな、多分4年だ」

「何でわかるの?」

「6年が何時までもこんな所にいる訳ないだろ」

「それもそうか」



5年の2人組も順調に頂上へと近付いているようだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「良し、此処ら辺にも一つ罠を仕掛けておくか」

「そんな事してる間に進めば良いじゃねぇか」

「何を言う、まだまだ未熟な下級生の為にわざわざ仕掛けてやってるのに」



そう言いながら嬉々として巧妙な罠を張り巡らせているのは仙蔵

文次郎は呆れながらその様子を見守る

伊作と小平太はこっそりと文次郎の後ろで話している




「下級生の為なんて絶対嘘だ…」

「せんちゃん人陥れるの好きだから…」

「……………」



一番頂上に近いのはやはり6年生の5人組み

しかし仙蔵が事あるごとに罠を仕掛けては他の生徒が引っかかるのを楽しんでいるのでそう差は開いていない



「そんなに余裕ぶっこいてると5年辺りに抜かされんぞ」

「まぁそれもそうだな、そろそろ行くか」

「あ、やっと進むみたいだ、行こう」

「本当だ、長次行くぞー」

「あぁ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



それぞれのチームが頂上を目指す

その差はやはり学年の差ごとに開いているようで

現在は6年生の独走態勢となっている



「あ、学園長先生…」

「どうじゃ、今回の為に特別に用意した衣装じゃ、着心地は中々じゃろう」

「はい、とても可愛くて私には勿体無いくらいです。   …ちょっと動き難いけど」



生徒達が全員スタートしたのを見送った学園長は一足早く頂上へと到着していた



「いやいや、も十分可愛らしいぞ、なぁ土井先生?」

「え?あ、はい、そうですね。とても似合っていると思います」



学園長に急に話を振られた半助は、少々慌てながらもの姿を眺めて微笑む



「ぁ、有難う御座います……」



は真正面から褒められた事に頬を紅くしながらお礼を言うと、ふと辺りを見渡した



「そろそろ皆昇ってくる頃でしょうか…」

「そうだな。学園長、私はちょっと様子を見てきます」

「うむ、山田先生が先程下に行ったので見かけたら呼んできてくれ」

「解りました。それでは行ってきます」



半助はそう言うと、その場から消える



「でも七夕の日にマラソンなんて、生徒さんは大変ですねぇ…」

「何の何の。これくらいできん様じゃ立派な忍者にはなれんわい」

「そうなんですか?」

「うむ」



はのんびりとお茶を飲みながら自分の傍に立つ巨大な竹を見上げた



「そろそろ暗くなってきましたね…」

「そうじゃな。今日は晴れてるし星も綺麗に見えるじゃろ」

「天の川も見れますかね」

「見えると思うぞ」

「織姫と彦星が年に1度会える日だなんて…素敵ですよねぇ…」



は夕陽の沈みそうな地平線を見つめながら呟いた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「良し、こうなりゃ奥の手だ!!」

「奥の手って…、きりちゃんたらまた碌でもない事考えてない?」

「大丈夫だ!!俺に良い考えがある!!!」

「何処からその自信が…」

「さぁしんべヱ、お前の出番だ!!」

「え?僕??」



きり丸はびしっとしんべヱを指差す



「あぁ、さんはいつも甘くて良い匂いがするからな。その匂いを辿るんだ!!」

「そんな無茶な事が通用する訳」

「ん〜と…あっちだ!!」

「出来てるし」



しんべヱのまさかの嗅覚により、3人は頂上へと一気に走り出した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「そろそろ頂上が見えてきても良いんだけどな」

「なぁ三郎次…、お前大丈夫か?」



左近はボロボロになっている三郎次に心配そうに声を掛ける

どうやらあちこちで6年生…と言うか仙蔵のの仕掛けた罠に引っかかったらしい



「…まぁなんとか」

「これ…仕掛けたのきっと上級生だよね」

「多分な」

「無事に頂上まで行けるかな…」



2年生2人組みは色々と大変だった様だが、何とか上へと進んでいた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「そろそろ暗くなってきたな…じゅんこ、はぐれない様に気を付けるんだぞ」

「浦風、左門の事しっかり見張っといてやれ…」

「はぁ?何で僕がそんな事…」

「俺はこいつを見張るだけで精一杯なんだよ」



次屋は額に汗を浮かべて孫兵を指差した



「ったく…可愛い女の子ならいざ知らずなんで僕がこんな奴…っておい!!行ってる傍から道間違うなばかんざき!!」

「なっ、ばかんざきとは何だ!!」

「馬鹿な神崎だからばかんざき、丁度良いだろ」

「お前等喧嘩してる場合じゃないだろうって…あぁ〜!!おい孫兵じゅんいちが!!」

「待てじゅんいち!!そっちは頂上じゃないぞ!!」



3年生4人組みは相変わらず協調性に欠ける

しかしこれまた一応頂上に近いところにはいるようだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ぉ、あれがの待つ頂上か」

「はぁ〜、確かに何かでかい竹が生えてるな」

「あ、短冊持ってくるの忘れた…」



4年生も3人揃って進みながら大きな竹を見上げる

まだの姿を確認出来るまでは近付いていないものの、その巨大な竹は十分に見上げることが出来た



「短冊って…お前まさか願いが叶うと言うあの迷信を信じてるのか?」

「別に、風情があって良いかと思っただけだけど」

「まぁ今日は晴天だったしな、願い事の一つや二つ叶いそうなもんだけど…」



三木ヱ門の言葉で3人は空を見上げる

すっかり薄暗くなった空には星がいくつか瞬いている



「なぁ、喜八郎は短冊書くとしたら何をお願いするんだ?」



三木ヱ門の質問に喜八郎は一瞬考えてぼそりと呟いた



さんが嫁に来ますように…とか?」

「何だと!?そんな願いは許さんぞ!!は私の嫁候補だ!!」

「いつからお前の嫁になったんだよ!!さんは学園のアイドルだぞ!!私にこそ相応しいに決まってるじゃないか!!」



少しでも油断するとすぐに喧嘩を始める二人に、喜八郎はすっかり飽きて1人でどんどん進んでいく



「「おい待て喜八郎!!」」



なんだかんだでゴールまでは後わずかだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「すっかり暗くなってきたね」

「そうだな」

「いい加減機嫌直せって…」



先程の変装をして4年生を驚かそうとしていたのだが、

結局時間の都合でそれが出来なくなってしまった為、三郎は少し拗ねていた



「折角気合入れて変装したのに…」

「わかったから、早くしないと追いつかれちゃうよ」

「ちぇ」



面白く無さそうな三郎を宥めながら雷蔵は苦笑する

この2人は特に問題も無く進んでいるようだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あー、お腹空いたーーー」

「煩いぞ小平太」

「だってずっと歩きっぱなしでお昼も食べてないんだよ〜?」

「そう言えばそうだね…」

「どうせもうゴール近いだろ、食い物用意してあるって言ってたし我慢しろ」

「……そうだな…」



6年生5人組みはもうゴールすぐ近くまで来ていた



「ん?」

「どうした?」

「今声が…」

「え?」

「あ?」

「…?」



小平太がきょろきょろと周りを見渡していると上から人の気配がする



「「「「「!!」」」」」



5人は一斉に上を向く

見れば何かが物凄い勢いでこちらへと落ちてくる



「「「「「助けてーーーー!!!」」」」」

「うわ!?」

「なっ!?」

「あぁ!?」

「げっ!?」

「……!?」



落ちてくるのは乱太郎、きり丸、しんべヱ、左近、三郎次の5人

小平太、仙蔵、伊作、文次郎、長次は驚き短く声を上げると、慌ててそれぞれ落ちてくる乱太郎達をキャッチする



「よっと!!」

「っく…!!」

「うわっ!!」

「ったく…!」

「…………」



小平太は再び投げ返しそうな勢いで乱太郎を

仙蔵は衝撃に耐えながらもとりあえずきり丸を

伊作はよりにも寄ってしんべヱを

文次郎はめんどくさそうに片腕で左近を

長次は無言のまま三郎次を



それぞれがしっかりとキャッチした為何とか大事は免れたようだ



「びっくりしたー、お前達なんで突然空から降ってきたんだ?」



小平太が乱太郎達に尋ねる



「それが…近道しようと思ったら変な場所に出てしまって…」

「道を探してたらうっかり足を踏み外して…」

「そしたらこいつら1年坊主が上から降ってきて…」

「僕達も巻き添えを喰らって…」

「それで落ちてきたのか」



仙蔵の言葉に頷く4人



「あれ?しんべヱは?」

「あそこ」



乱太郎がしんべヱを探すときり丸は額に汗を浮かべながら向こうを指差す

きり丸が指差す方向には倒れた伊作とその上に乗っているしんべヱ



「おい、生きてっか?」

「…………何とか…ね……」



文次郎が声を掛けるとよろよろ伊作が立ち上がる



「君達…怪我は無かった?」



伊作が情け無さそうに笑いながら尋ねるとと5人はそれぞれ頷く



「ごめんなさい私達のせいで…」

「まぁ仕方無いよ、もう暗くて危ないし、皆で一緒に行こう」

「良いんですか!?」

「私は構わないよ、せんちゃん達は?」

「まぁ仕方無いだろう…」

「しっかり着いて来いよ」

「…………」



こうして6年生、1年生、2年生が共に出発−…



「あ」



きり丸が突然声を上げた



「あ…」



振り返った乱太郎も声を上げる

そこには3年生、4年生、5年生がそれぞれ勢揃いしていた



「先輩達も一緒に行動してたんですかー?」



しんべヱが雷蔵に尋ねると雷蔵は苦笑しながら答える



「さっき其処で丁度一緒になってね…」

「もう暗いから皆で行こうって事になったんだ」



雷蔵の横から三郎が割って入る



「全く…お前が最初に反対方向に突っ走ったりしなければ4年生なんかと一緒になる事はなかったのに…」

「何だと!?3年生の癖に生意気な!!」



滝夜叉丸と孫兵がいつもの通り喧嘩を始める



「……とりあえず全員でこんな所に居ても仕方ない、頂上を目指すぞ」



結局頂上を目の前にして全学年が集合してしまった

仙蔵はため息まじりに呟くとさっさと歩き出す



「ほら、乱太郎達、今度ははぐれない様にね」



伊作もそう言うと後に続いて歩き出す



「おい滝夜叉丸、馬鹿やってないで行くぞ」

「ふん、今日の所は見逃してやる」

「それはこっちの台詞です!!」

「孫兵、その辺にしとけって…」

さーん今行きますからね〜!!」



こうして全員集合を果たしてしまった生徒達はぞろぞろとそう遠くないゴールを目指して歩き出した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あ、土井先生」



がぼんやりとゴールの近辺をうろうろしていると半助が現れた



「そろそろ皆来るようだぞ」

「あの、一番はどの組の人達ですか?」

「それが……」



が尋ねると、半助は困ったように笑う



「どうかしましたか?」

「…………あれ」



が不思議そうに首を傾げると、半助は苦笑したままゴールを指差した

半助の指差すほうを見れば、そこには参加者全員がこちらに歩いてくる姿



「あ、さんだ!!」

「やっとゴールか〜、ったく銭儲けにならないマラソンは辛かったぜ…」

「僕もうお腹ぺこぺこ〜」




「全く…1年坊主のせいで偉い目にあった」

「本当だよ…」



「長旅だったな…、じゅんこ、じゅんいち、花子、花男、ちゃんといるか?」

「あぁ疲れた……」

「あ、さんだ!!さーーん!!!」

「こら待て浦風!!お前一人抜け駆けは許さないぞ!!」

「煩いばかんざき!!」

「何だと!?」



「美しい…やはりはこの私に相応しい!!」

「馬鹿も休み休み言え」

「確かにさん綺麗だけどね」



「うゎぁ…、さんの格好、本当に織姫みたいだ」

「何言ってるんだ雷蔵、織姫より綺麗だろ」

「あはは、そうだね」



「あ、さん手振ってる」

「全く…結局どんぐりの背比べの様な結果になったな……」

「まぁまぁ仙蔵落ち着いて……」

「この場合優勝者とかどうすんだ?」

「……さぁな」



それぞれ小走りになりながらの元へ走り寄り、やっと全員が揃ってゴールした



「皆、お疲れ様!!」



にっこりと出迎えるの笑顔に全員が今までの苦労を癒される



「うむ、諸君、良くここまで辿り着いたな」



学園長がひょっこりとの後ろから顔を出す



「全員同時にゴールとは予想外じゃったが……まぁ良い、兎に角夕飯にしようじゃないか」



学園長がそう言うと食堂のおばちゃんがにこやかに笑う



「さぁ、今日は七夕だから張り切ったのよ。皆たくさん食べて頂戴」

「私も手伝ったからちょっと不安だけど、良かったらいっぱい食べてね」



がにっこりと微笑んだのを合図に、全員が用意されていた夕食に飛びついた

各自が一斉に食べ始める中は順番に皆の元を回って行く



「ん〜、美味しい!!」

「本当?良かったぁ」

さんって料理も出来るんすね!!」

「まだまだ腕は未熟だけどね」

「おばちゃーんおかわりーー!!」

「しんべヱくんったら食べるの早いねぇ」




「美味しい…」

「ふふ、有難う」

「流石おばちゃんとさんだね」

「おばちゃんには全然敵わないんだけどね」



「じゅんこ、お前達にもさんの手作り料理を少し分けてあげよう」

「それならこっちの錦糸卵なら卵だしどうかな?」

「お前こんな時まで…」

「次屋くん何か凄い疲れた顔してるけど大丈夫?」

さん!!美味しいですよ!!!」

「ぁ、本当?いっぱい食べてね」

「確かに美味い!!」

「有難う、まだまだあるから遠慮しないでね」



「夕食も良いがの姿も良い…」

「ありがと、滝夜叉丸くんもとっても似合ってるよ」

「じゃぁこれはいらないんだな、貰うぞ」

「誰がやると言ったんだ!!」

さん、おかわりくれる?」

「はいどうぞ。三木ヱ門くんも滝夜叉丸くんも喧嘩は程々にね」



「美味しいご飯に織姫姿の可愛い!!学園長もたまには良い事するね!!」

「皆の彦星姿も似合ってるし格好良いよ」

「あぁ、そうだな」

「えへへ、ちょっと照れちゃうなぁ」

「私も今この瞬間は珍しく幸せだと思うよ」

「伊作くんいつも大変そうだもんねぇ」

「今回だけは学園長に感謝だな。今回だけは」

「あはは、そんな強調しなくても」

「…そうだな」

「長次くんまで」



はこうしてそれぞれの机を回った後、おばちゃんや学園長と一緒に夕飯にがっつく生徒達をにこやかに見つめていた



「学園長先生、今日は有難う御座いました。私の我侭聞いて貰っちゃって…」

「いやいや、が学園に来たのは丁度去年の今頃じゃし…、1周年のお祝いじゃな」



学園長はそう言って笑うと未だ夕食を食べ続けている生徒達に向かって叫んだ



「諸君!!食べ終わったら短冊に願いを書くから今のうちに考えておくように!!」




「「「「「「「「「「「「「「「「はーい!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」




こうしてが忍術学園に来て初めての七夕の夜は更けていった



は一体何をお願いするんだ?」



ふと隣で同じように生徒達を見ていた半助が尋ねると、は恥ずかしそうに微笑んで短冊を差し出した







『皆と、これからもずっと仲良く出来ますように―』








- END -



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





'04/07/07