21.色





「三郎」



色々な色



「あぁ、か」



赤、青、黄、白、黒…



「今日も不破くんの変装?」



貴方は一体何色だろう?



「もう慣れちゃって、こっちじゃないと逆に落ち着かないんだ」



私が思う所、貴方はきっと透明だろう



「変なの」



どんな色と重ねても決して濁る事は無く



「そうか?」



どんな色と組み合わせても決して違和感を感じない



「そうだよ、そう言えば三郎って素顔誰にも見せた事ないでしょ」



どんな人と一緒に居ても決して紛れる事は無く



「先生方は流石に知ってる人もいるけどな」



どんな人に変わって見せても決して違和感を感じない



「私は知らないよ?」



貴方はきっと透明な色



「知りたいのか?」



でも透明は単体だと何も見えない



「そりゃ見てみたいよ」



だから



「……企業秘密、だな」



私には貴方が見えない



「馬ー鹿」


貴方だけを見つめたいのに



「怒るなって、見てもそんなに面白いもんじゃないしさ」



私の目には貴方は決して映らない



「………三郎なんか……」



決して…



?」



映る事無く何処かへ行ってしまうのだろう



「大嫌いだ」



貴方は一体何色だろう?



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22.曇りガラス



「伊助くん、手伝いに来たよ」

「あ、ちゃん」



放課後

一年は組の教室

たった一人で教室内を掃除する伊助の元にくの一のがひょっこり現れた



「自分の所の掃除はもう終わったの?」

「うん、さっき山本シナ先生にもちゃんと合格貰ったよ」

「そっか、それじゃぁ早速やっちゃおう」

「はーい」



早速二人はは組の教室を掃除し始める

てきぱきと手際良く事を運ぶ二人の表情は実に楽しそうだ



「本当には組の教室はいつも強烈ね…」

「そうなんだ、長屋の方なんかもっと凄いよ、乱太郎達の部屋の中なんか目も当てられないんだから」

「へぇ〜、それはぜひとも一回掃除してみたいなぁ」

「いや、あの部屋は遠慮したいけどなぁ…」

「伊助くんがそう言うって事は相当なんだね」



くすくすと笑いながらは箒を両手に部屋中を掃いて行く

その後から伊助が追いかけるようにしてゴミを拾う



「良し、こんなもんかな」

「うん、綺麗になったね」



二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑う



「さて、じゃぁ次は……」

「あ、伊助くん、窓」



は窓を指差す



「………あれ…?」

「どうしたのちゃん」

「ここの窓って曇りガラスだったっけ…?」



窓に近寄りまじまじと窓ガラスを見つめる



「あぁ、いや……」



が窓を指でついとなぞるとの手には大量のチョークの粉



「………………」

「黒板消しを掃除する時皆窓から叩くからそうなっちゃうんだ…」



深くため息を付く伊助には苦笑した



「全く…本当に掃除のしがいがあるクラスだよね」

「本当だね…」

「でも…」

「ん?」

「伊助くんとこうやってお話出来るから、ちょっとくらい大変でも良いかも」



にっこりと笑ったの表情に赤面する伊助



「毎日毎日ロクに掃除もしないでやってんだから感謝して欲しいよな」

「きりちゃん…そんな事言って実は本当に掃除したくないだけでしょ」

「でも伊助だって嬉しそうだし良いんじゃないの?」

「それもそうだね」



そんな伊助との様子をチョークの粉に塗れた曇りガラスの向こうからこっそり覗いているは組の面々があったとか



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23.森



「よーし、ゴールはこっちだぁ!!」



元気良く叫び南を指差す左門



「じゃぁこっちに進みましょ」



対照的に冷めた態度では北へ歩き出す

本日は3年生の男女合同遠足

くの一と2人1組になってゴールを目指すと言う代物

の相手は運悪く忍術学園一方向音痴と言われている神崎左門だったのだ



「おい待て!!何故私が南と言うのに北へ行く!!お前は方向音痴か!?」

「…殴るわよ?ぐーで」



はにっこりと絶対零度の笑みを浮かべ拳を握る

これまで左門の言う事を聞いて森を彷徨う事数時間

そろそろは限界だった



「なっ…」

「左門アンタねぇ、今まで自分がどれだけ私に迷惑掛けたか考えて物事口にしなさいよね!?」

「い、一体何の事だ」



の迫力に押されながらも未だ理解出来ずに居る左門には大声叫ぶ



「アンタが正真正銘の方向音痴って言ってるの!!良いから黙って私に付いてきなさい!!」



左門の動きが止まった



「何してるのよ、行くわよ?」



左門は動かない



「ちょっとさも…」



が左門の前で手をひらひらさせると、左門はガシっとの手を両手で掴んだ



「な、何よ?」

「それはプロポーズと言う奴だな!?」

「…はぁ?」



は突拍子も無い左門の言葉に首を傾げるしかなかった



「良し!!私は一生について行くぞ!!」

「…………」



の手を握り締め固く誓う左門

はもうつっこむ気力も無かった



「…解ったから……とりあえずこの森出ちゃいましょ…」



誤解は後で解けば良いか

そんな事を考えやっとの事でそれだけ呟くと、は北へと進み始めたのだった



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24.何もしない時間



「何してるんですか?」

「何もしてないよ」

「…理解出来ないです」

「つまりね、ボーっとしてるの」

「はぁ…」



3年くの一のは1つ上の先輩である綾部喜八郎を見下ろして呟いた

喜八郎は木陰の下で大の字になっている

休もうとしている訳でも無いし具合が悪くて倒れた訳でも無い



「先輩…楽しいですか?」

「別に楽しく無いよ?」

「あの…じゃぁどうしてこんな所でそんな無気力に寝そべっているんですか?」



の質問に喜八郎は一度目を瞑る

そして目を開くと相変わらず大の字になって芝生に倒れたまま、自分の隣をぱふぱふと叩いた



「?」

「君も寝てみなよ」

「え…?」

「そしたら解るかもしれないよ」



喜八郎は無責任に呟く



「…………」



は芝生と喜八郎を見比べていたが、やがて遠慮がちに少し離れた場所に寝そべった

水色の空に白い雲が流れている

時折風が吹くと日陰を作っている木が揺れてサワサワと鳴った



「どう?」

「…楽しいと言うか……落ち着きますね…」



完全に肩の力が抜け切ったはゆっくり答えた



「こういう時間も必要なんだよ」

「そう…ですね」



喜八郎とは二人して芝生に寝そべりながら会話をするでも無くその時を過ごす

遠くで鳥が鳴く声が聞こえた



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25.強弱



「鬼蜘蛛丸さんはどうして陸で酔うんでしょうねぇ?」



忍術学園6年い組の生徒であるは小首を傾げて呟いた



「あの…それはどういう意味で?」

「ですから、一般的に酔うと言うのは普段体験しない"揺れ"によって三半規管が異常を察知した上で起こるものなのですよ」

「はぁ…」

「でも鬼蜘蛛丸さんの場合揺れる事では無く揺れが止まった状態になると気持ち悪くなってしまいますよね?」

「そう…ですね」



は腕組みをしながら淡々と考察を述べて行く



「と言う事は鬼蜘蛛丸さんの脳は既に揺られた状態を通常としている訳ですから、揺られない生活には戻れない…と」

「……えーと…」

「困りましたねぇ…」

「…あの……」



鬼蜘蛛丸は自分の声が全く届いていないを前に困り果てている

大体は今日学園長のお使いで、お頭である兵庫第三協栄丸の所へ来ていただけのはずだ

しかしどうして自分がに捕まって一方的に話を聞かされなければならないのか

しかも相手は何やら自分の弱点である陸良いについて非常に熱心に首を捻っている



「…………」



どうしたもんかと思いながら鬼蜘蛛丸は周りを見回す

しかし助けてくれそうな仲間は皆出払っている

と言うか今船には自分としか居ない



「あの…さん……?」

「はい?」

「どうしてそんなさんが必死で自分の陸酔いについて考えてるのか解らないんですけど」



鬼蜘蛛丸は自分よりも随分と背の低いを見下ろしながら訪ねた

するとは組んでいた腕を外して微笑んだ



「陸良いが治らないと地上で暮らせませんからねぇ」

「それはそうですけど…一体さんと何の関係が…」



もはやどう対処して良いのか解らなくなって来ている鬼蜘蛛丸を見つめると、は悪戯な笑みを浮かべて言い放った



「関係大有りですよ」

「………?」

「私、将来は鬼蜘蛛丸さんのお嫁さんになるつもりですから」



は可愛らしく人差し指を頬に当てる



「でも陸酔いがそう簡単に治るとは思いませんし…そうすると私が船での生活に慣れないといけませんねぇ」



はおっとりと話を進めて行く

もはや鬼蜘蛛丸の意志は関係ないようだ

鬼蜘蛛丸はやや頬を染めて頭を掻くとため息をついて苦笑した



「敵いませんね」



そう小さく呟いた声を聞くと、は鬼蜘蛛丸に微笑んで見せ、一歩踏み出し鬼蜘蛛丸に近付いた



「鬼蜘蛛丸さんて喧嘩や腕っぷしは強いのに、陸と押しには弱いんですね?」



そう言ってくすりと笑う

鬼蜘蛛丸は情け無さそうに笑うとの頭に手を乗せた



「陸以外の弱点を増やしたくなかったんですけどね」