16.池に映った



「やだ!!」

「やだじゃないだろ…」

「嫌ったら嫌なの!!無理!!」

「そんな事言ってたらいつまで経ってもくの一なんかなれないぞ!」

「いーもん別に!!」

「良くないだろ!お前何の為に忍術学園にいるんだ!!」



と、まぁ誰が聞いても喧嘩にしか聞こえない会話が聞こえてくる

ここは学園内の池付近

そこには随分と薄着なと三郎次



「絶対無理ー!!」

「無理かどうかは試してから決めろってば!!」



地面に座り込み頭を左右に振る

そんなの腕を掴みながら困り果てている三郎次



「溺れちゃったらどうすんのよ!」

「ちゃんと僕が助けるってば!!」

「………でも…やっぱ恐いーーー」

「あのなぁ…たかが水に浮く事の何が恐いんだよ一体」

「浮けないで沈んじゃうから嫌って言ってるのよ!!」

「それってが重」

「重くないもん!!」



三郎次の言葉を遮りキッと睨みつける

三郎次は大きなため息を一つついて静かに池に入った



「三郎次…?」

「ほら、僕が誘導するから、とりあえずここまで来なって」

「………溺れない…?」

「溺れない」

「…沈まない?」

「沈まない沈まない」

「…もし溺れたら助けてくれる?」

「絶対に助ける」

「………、」



三郎次の言葉には渋々ながらもゆっくり池へと入っていった



「冷たい…寒い……恐い〜…」

「はいはい、それじゃぁ手貸して」

「ん…」



の体が胸の辺りまで水に浸かる位置で三郎次はに両手を差し出した

そしての両手をしっかり握り締め、口の端で軽く笑った



「別に何て事ないだろ」

「……うん…」



がそう呟いた途端、三郎次はにやりと笑うとから手を離した



「きゃぁ!?」



慌てて腕をバタバタさせ、三郎次にしがみ付く



「なっ…、何すんのよ!!!」



少し潤んだ目で三郎次を見上げながら怒る姿は何とも可愛らしく、三郎次はぽつりと呟いた



「やっぱは一生泳げない方が良いよ」

「へ?今何か言った?」

「いや別に」



そう言ってから目を逸らす三郎次

しかも池に映った三郎次の顔は、誰がどう見ても赤かった



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17.もういない?



「大丈夫だよ、きっとすぐに助けが来るから」

「で、でも…」

「今頃先生が僕達を探してる頃だよ、だから泣かないで」



金吾は一生懸命を慰める

二人は今割りと深い穴の中に居る

何故そんな所にいるのかと言えば、二人で裏山に遊びに来ていたらが上級生が授業中に掘ったとみられる穴に落ちてしまった

それを助けようとして金吾も穴に落ちてしまったのだ

最初はどうしようかと悩んでいただけだったが、段々日が暮れるに辺りは心細くなってしまったらしい



「ごめんね…私のせいで……」

ちゃんが悪い訳じゃないよ、上級生の作った罠だもん、僕も気付かなかったし」

「…暗くなって来ちゃったね……」

「うん…」



頬に涙の跡を残したまま、は金吾の顔を見た

金吾はの視線に気付くと力強く笑って言った



「絶対大丈夫だよ」



金吾は自分でも何を根拠にそんな事が言えるのか解らなかったが、

今自分がしっかりしないとが不安になると思い笑って見せた



「…金吾くんって強いんだね」

「そんな事ないよ、僕はいつも泣いてばっかりで…父上が心配して忍術学園に入学させられたんだ」

「そうだったんだ…」



が意外、と言った感じでそう呟いた時、遠くで土井先生の声がした



「先生だ、探しに来てくれたんだよ」



金吾はすくっと立ち上がると大きな声で先生を呼んだ



「土井先生ー!!穴の中です!!おっこちちゃって出られないんですー!!」



泣き虫だった頃の金吾はもう何処にも居なかった

は金吾の力強い言葉を胸で反芻し、頬の涙を拭った



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18.冴えたやり方



「あっれぇ?」



忍術学園のくの一であるは首を傾げて不思議そうに手裏剣を見つめる

くの一とは言っても1年生なのでまだまだ腕は未熟だ



「何で真っ直ぐ飛ばないのかなぁ?」



まるで手裏剣が悪いとでも言う様には一人呟いた



「う〜…えいっ!!」



的を目掛け全力投球

しかし手裏剣は的にかする事も無く落下した



「うぅぅぅぅ〜…何でよぅ!!」

「そりゃのやり方が駄目駄目だからだよ」

「ふぇ?」



が自棄になって叫んだ途端、背後から見下した感じで笑う声がした



「あ、伝吉」

「伝七だ!!」

「あはは、冗談冗談」

「全く…は組の連中と同じボケ方しないでくれよ…」



の言葉にずっこけた伝七は起き上がりながら盛大にため息を付く



「で、は一体一人で何やってるんだよ」

「何って手裏剣の練習を…」

「それは見れば解るよ、僕が聞いてるのはそういう事じゃなくて、そのヘボっぷりは何って事」



伝七は腕を組んで呆れた口調で訪ねる



「煩いなぁ、ヘボだから頑張ってるんだもん、邪魔しないでよね」

「そのままじゃどれだけ頑張っても多分無駄だね」

「何で?」

「まず持ち方が悪いし投げ方だって野球のピッチャーみたいだもん」

「え〜?」



伝七の言葉を聞いては手裏剣を構える



「こうじゃないの?」

「違うよ、ここはもっと緩めて、なるべく指だけで持つ様にするって先生言ってただろ」

「えっと…こう?」

「そうそう」



何時の間にか伝七に教わる事になってしまったが、は真剣に伝七の言う事に聞いている



「それで、投げる時は体を大きく動かしちゃ駄目だよ、的から反れるから」

「腕だけ?」

「腕と肩だけかな」

「解った」

「じゃぁ投げてみて」

「うん…、っえい!!」



が投げた手裏剣はやや勢い不足ではあるが、初めてちゃんと的に刺さった



「あ、刺さった!!やったぁ!!」

「ほらね、こういうのは何事もやり方一つでどうにかなるんだよ」



喜ぶの横で伝七は胸を張る



「うんうん、伝七って冴えてるね!!有難う!!」

「…………」



溢れんばかりの笑顔で伝七の両手を握り締める

伝七は不覚にも顔を真っ赤にしながらしどろもどろに呟いた



が鈍いだけだよ…」



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19.方程式



私はハッキリ言うと勉強が得意だ

勉強だけでなく実技はもちろん全ての分野において学園一だと自負している

特に数学は教科の中でも一番得意だろう

何故なら求めて出る答えは一つだけだからな



「滝夜叉丸!!」

「のゎっ!?……っと、何だか…」


突然の大声に思わず驚いて声をあげてしまう



「何だとは何よ。声を掛けたのが私で何か問題あるの?」



不満げに私を見上げるのは、同級生のくの一で、ここ最近よく絡んで来る



「い、いや、別に問題は無いが…」

「それなら良し。そんな事はまぁ置いといて、出掛けるよ!!」

「出かけるって何処に…っていうか私の都合は?」

「そんなものは無い。最近出来た団子屋が美味しいって聞いたんだ、さぁ行くよ!!」



ずるずるとされるがままに引っ張られて行く

には常識と言う物が一切通じないらしい



「……少しは式にはまった行動を取ってくれればこちらとしても楽なんだが…」

「ん?何か言った?」

「…いや、何でもない……」



どんな知識を持ってしても

どんな公式を使ってみても

決して答えは見つからない



「厄介な問題だな…」

「滝夜叉丸さっきから独り言が多いね、年?」

「あのな……」

「冗談冗談」



そう言って笑ったの顔を見て思わず照れる



「………」

「滝夜叉丸?」



一体この気持ちは何なのだろうか

答えを導き出せるのは何時になる事やら…



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20.没頭



「長次、つまらないよ」

「………そう言われてもな…」



本から目を離してを見る



「折角の日曜なのに雨降ってるし」

「それは…俺のせいじゃない…」

「わかってるけど…」



窓辺に腰掛けて不満そうに空を睨みつける



「………」



再度本を読むべく視線を活字へと下ろす



「……何だ?」



ふとが後ろから抱きついて来た



「本ばかり読んでないで少しは構ってよ」

「…………」



ぱたりと本を閉じての腕を軽く引いた



「……長次って体温高いよね」



すっぽりと長次の腕の中に納まりながら長次の顔を見上げる



「…………」

「長次?」



不思議そうな顔で長次を見る

長次は以前を見つめたまま動かない



「…長次ってば…」



は長次の目の前で手をひらひらと振る



「……何だ?」

「……長次ってさ、一つの事に集中すると周りが見えなくなるタイプでしょ」

「…そうかもしれないな……」



そんな長次にため息を一つつくとは微笑んだ



「それじゃぁ私に夢中になってね、周りの子なんか見えなくなるくらい」



悪戯っぽく微笑むに、長次は珍しくも小さく笑いながら呟いた



「それならもう既に…」



耳元で低く囁かれた声に思わず顔を赤らめる

雨の降る音だけが静かに響く、そんな昼下がり