11.答え



"答えは一つ"

だなんて、何処の誰が言い出した事か全然知らない

でも、それはどうしようも無いくらいに本当の事だ

今の僕にはそう言うより他に無い



「庄左ヱ門くん、またお勉強?」

「え?あ……さん……」

「もう、で良いって言ってるのに…」



ちょっと拗ねた様に頬を膨らましているのはくの一教室の一年生



「あ、ごめん…、何だか慣れなくて…」

「そうなの?それじゃぁ一回名前で呼んでみて」

「えっと…、その………ちゃん…?」



その時の僕の顔は真っ赤だったと思う

でも、きっとこれが僕の気持ちの"答え"

ゆっくり伺う様にちゃんの顔を見る

ちゃんはにっこり笑った



「良く出来ました」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



12.音楽



「それ、何の歌?」



ふいに藤内がに訪ねる



「ん?」



今まで小さく口ずさんでいた歌を止め、は藤内を見る



「これはお母さんが小さな頃に聞かせてくれた歌」

「へぇ…」



の返答に藤内は小さく頷くと、の膝に頭を乗せてを見上げた



「もう一回歌ってよ」

「どうして?」

「気持ち良く眠れそうだからさ」

「…仕方ないなぁ」



はそう呟きながら苦笑すると、また同じ歌を歌い始めた



「おやすみ…」



の膝で寝息を立てる藤内の顔は、何よりも幸せそうだったらしい



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



13.コンタクトレンズ



「それでさぁ、あの1年坊主と来たらコンタクトレンズを落としたから動くな!!なんて言うんだ」

「それにまんまと引っ掛かって足止め喰らって、挙句の果てには創生寺にすら辿り着けなかった、と」



左近の悔しそうな様子等気にも留めず、はしれっと言い放つ



「三郎次も左近も、他の2年生も皆馬鹿ばっかりね」



ぽつりと呟きながら横目で左近を見る

左近はがっくりと肩を落としていかにも悔しそうだ



「本当に駄目な奴ねー」

「っく…」



追い討ちを掛ける様に言い放った言葉に思わず左近が顔を上げる



「でもまぁ」



はそんな左近の顎に片手を添えると小さく笑いながら呟いた



「そんな所が好きなんだけどね?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



14.白紙



ちゃん」

「喜三太くん、どうしたの?」

「これ、あげる!!」



呼び止められて振り返れば1つ年下の山村喜三太が居た

いつもと同じ様にこちらが脱力する程の笑顔を浮かべている

喜三太が"これ"と言ってに差し出しているのはなんの事は無い、ただの紙きれだ



「?」



は一応その紙を受け取り首を傾げる



「白紙じゃない」

「えへへ、それじゃぁ僕行くね、ばいばーい」

「あ、ちょっと…」



が呼び止めたにも関わらず、喜三太は走り去ってしまった



「ん〜…」



は貰った白紙の意味が解らず弄ぶ



「ん?」



ふと太陽の光が反射した気がした



「…もしかして……」



は嫌な予感を隠し切れず恐る恐る紙を太陽にかざす



「…やっぱり」



そして肩を落とした

紙の上にはなめくじの這った後が太陽光でキラキラしている



「全くもう…」



一見白紙の紙をもう一度太陽にかざし、なめくじの軌跡がハート型になっているのを見て、は笑った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



15.雑踏



"雑踏"

すなわち"人込み"と言う意味だ

人込みは当然の事だが人が多い

他人がひしめき合っている

友達と出掛けて迷子になる可能性は極めて高い

では、一緒に出掛けたのが友達では無く普段から影の薄さを誇る教師だったらどうだろうか



「はぐれるのなんか目に見えてたわよねぇ…」



は頭を抱えて呟いた

四方八方見渡しても知らない顔だらけ



「お金は先生が持ってるのに…」



は斜堂影麿と学園長のお使いに来ていた

休日と言う事でひしめき合う町の中、ふと振り返ったら斜堂先生は居なかった



「うぅ…こんな煩いんじゃ先生の気配全然読めない……」



はがっくり肩を落とす

普通に考えればお金は先生が持っているのだから帰ってしまえば良い

この人込みではぐれたのだから誰もを責められない

ましてや同行が忍術学園の誇る最強の影の薄い人物なのだから…



「そうよね、普通に考えたら私は帰っても構わないのよ…」



しかしお金を持っている人物がお使いの内容を全く知らなかったら…?



「あぁもう!!こんな事なら出掛ける前に伝えときゃ良かった」



後悔先に立たず…

もとい後悔役に立たず



「斜堂先生〜…」



もはやどうしたら良いのか解らず途方に暮れて先生の名を呟いた途端



「なんですか〜…?」

「ひぃっ!?」



背後からの声には声を上げた



「しゃ、斜堂先生!?」

「はい…?」

「い、いつからそこに…!!」

「あの…私はずっとここにいました…呼んでも気付いて貰えないので黙ってただけで……」

「え"……」



は溢れ返る雑踏の中、斜堂影麿の凄さを目の当たりにした気がした