それはある日

雲中子の洞府である終南山で起こった出来事



「ねぇ雲中子様」



は椅子に座り足をブラブラさせながら雲中子の後姿に声を掛けた



「なんだい?」



雲中子は後ろを振り向くこともせず声だけでの問いかけに応じる



「それ、なんですか?」



雲中子がこちらを向いていないのを承知では雲中子の手元を指差した



「これかい?」



すると、雲中子はやっとの方を振り向き自分の手中にあるビーカーを示す



「うん、それ」

「これは自白剤だよ」

「自白…剤?」

「そう、自白剤」



不思議そうに首を傾げるに得意気に胸を張ると、雲中子は再び後ろを向いて調合を再開した



「何に使うの?」

「崑崙山に侵入して来た金鰲島の妖怪仙人とかを捕まえて色々と吐かせるのさ」

「色々って?」

「うーん…、目的とか弱点とか、色々」

「へぇ〜…」



調合を進めながらの疑問に答え終わると、ボンと大きな音と共に煙が雲中子を包んだ

その爆発によってビーカーの中にあった液体は一粒の固体へと変化している

雲中子はビーカーを持ち上げると再びの方へ向き直った



「さ、これで完成だ」



そしてそのビーカーから一粒の錠剤を取り出すとに向かってこれまた得意気に掲げてみせる



「これぞ雲中子印の強制自白剤SP!!」

「えっと…、名前は兎も角見た目は普通…ですね」

「うん、今は錠剤タイプだけど、実際は注射型にする予定だよ」



雲中子は机に置いてあった注射器を掴むと中に入っていた液体をピュッと噴射して見せた



「まぁ錠剤じゃ素直に飲んでくれる訳ないですもんね」

「そういう事、まぁこれは試作品だから、まずは効果を実験しないと」



そう言うとの方へ歩み寄りに出来立ての錠剤を差し出した



「はい」

「……?」

「さぁ」

「ぇ…、私が飲むんですか?」



の顔から血の気が引いて行く

見るからに顔を青くしたに雲中子はニヤニヤと笑いながら迫る



「いつまでもそこでボーッとしてても暇だろう?ちょっと飲んでみなよ」

「いやいやそんな軽い気持ちで飲めるもんじゃないですよ自白剤って」



は首を左右にブンブンと振りながら必死で拒否するが雲中子には通用しない



にやましい事が無いなら大丈夫だよ」



そう言いながらの両腕を片手でガッチリと捕まえる



「やましい事って…、って言うか何掴んでるんですか!!離してー!!」

「まぁアレだよ、身体に害は無いハズだから」

「嫌ぁー!!」

「大丈夫だよ、多分、恐らくは、一応…」

「益々嫌ぁー!!」

「いいからいいから、ホイッ」



いつまでも暴れて拒否し続けるに業を煮やしたのか、雲中子はやや強引にの口の中へと錠剤を放り込んだ



「んっ…」



勢い良く飛び込んで来た錠剤をは思わず飲み込んでしまう

ゴクン と小気味良い音を立てて鳴るの喉

雲中子はそんなの様子を楽しそうに眺めると両腕を離した



「いっやぁぁぁ!!飲んじゃった!!飲んじゃったよ!?いくら雲中子様でも酷いです!!」

「まぁまぁ、これも崑崙山の為だと思って協力してよ」

「納得出来るか!!」



両腕が自由になった途端は雲中子に掴みかかる

しかし雲中子は実に楽しそうに笑いながらのらりくらりとそんな事を言ってのけ、

思わず本気で怒鳴りつけるをなだめる様に声を掛けた



「ちゃんと実験結果が出たら解毒剤をあげるから」

「…本当ですか?」



は雲中子を見上げ半信半疑で尋ねる

雲中子は笑顔でもちろんさ、と答える



「…絶対ですよ」



はやっと観念したのか解毒剤を条件に実験に付き合う事にした

そんなを満足そうに眺めて雲中子は生き生きと話を進める



「よし、じゃぁいくつか質問して行くよ」

「な、何を聞く気ですか?」

「そうだなぁ、敵への質問は大体想定してあるから、順に行こうかな」



いざ尋問開始となると、は少々怖気づいたような表情をしている

相手が相手なだけに不安になるのも無理はないが、雲中子はそんな事はお構い無しだ



「まず最初に、君の名は?」



あまりにも当たり前の質問にはホッとしながらも答える



、です」

「うん、じゃぁ何処から来たの?」



この質問も特に問題は無い



「普賢真人様の洞府から」

「ふむふむ、じゃぁ次は…」

「ねぇ、雲中子様」



ふとが雲中子に声を掛ける

雲中子はメモ帳から視線を外しに向けた



「ん?」

「雲中子様は元々私の事知ってるし、私も隠す必要ないんですからこの実験って無意味じゃ…」



の言葉を聞いて雲中子は少し首を捻った後、メモ帳とペンを持ったまま両手をポンと合わせた



「確かにそれもそうだ、それじゃぁ私が知らなくてが言いたくない事を聞く事にしようか」

「ぇ"…」

「墓穴掘っちゃったねぇ」



数刻前の自分の発言による事態の発展には青ざめる

雲中子はニヤニヤと笑みを浮かべながら手にしていたメモ帳のまっさらなページを開いた



「やっ、やだやだ!!勘弁して雲中子様!!」

「ふふふ、どうしようかなぁ何を聞こうかなぁ…、まずは…やっぱりアレかな」

「どれ!?」



の言葉を流しながら雲中子は一人楽しそうに質問を考えている

そして良い質問が浮かんだらしい雲中子はの叫びにも似たツッコミに対しにこやかに答えた



のスリーサイズ、とかどうかな」

「なっ!?」



お約束、と言わんばかりの質問には顔を赤くする

雲中子はしっかりとメモ帳とペンを握り準備は万端



「さぁ言いなさい、スリーサイズを」

「嫌です!!」

「言 い な さ い」



首を左右に振りながら抵抗するに、雲中子はまるで犬に命令するように言い放った

するとの身体は強張った状態で停止し、口だけが勝手に開き喋り始めた



「うっ……う、上、から……口がっ…勝手に〜〜〜…!!」

「うんうん」

「84……5…5……8……5…っ」



は必死で抵抗しようとするが身体が、とりわけ口が勝手に動いて言う事を聞いてくれない

結局自らの3サイズを自白してしまい、はその場にへたり込んだ



「なるほど…」

「何でメモってるんですか!?」



スラスラをペンを動かす雲中子には座り込んだまま雲中子を見上げツッコむ

しかし雲中子はを見下ろすといかにも嘘臭い爽やかな笑顔を浮かべた



「気にしない気にしない、じゃぁ次は体重ね」

「た、体重っ!?」

「やっぱり体重は言いたくないよねぇ」

「そうですよ!!言いたくないですよ!!」



あまりにも残酷な二つ目の質問に、は思わず涙目になる



「じゃぁ尚更聞かなきゃ、これが聞けたら薬の効果が保障されたようなものだ」

「そんな…っ、うぅ〜……」



もちろん雲中子はそんな事はお構いなしで上機嫌

うなだれるに向かって先程の様に命令する



「さぁ、体重を言いなさい」

「!!」



命令された途端やはり先程と同じく身体が動かなくなり口が勝手に開く

はそれでも何とか抵抗しようと頑張ってみたが、やはり無駄だった



「体重、は……よ…よんじゅう………ろく…です」

「なるほどね、46s…と、ふむ…意外に軽いんだね」



結局体重すらも口外してしまい、雲中子はメモを取りながらうんうんと頷いた

そしてそんな雲中子の目の前で、はその場に座り込むどころかパタリと倒れている



「あれ?どうしたの?」

「酷いですよ雲中子様!!」



足元のを見下ろして不思議そうに尋ねる雲中子に、は倒れたまま吼える



「まぁ良いじゃないか、気にする重さでもないだろう」

「そう言う問題じゃないです!!」



自分の体重を公言したい乙女など居るハズがない

は床に伏せたまま雲中子から顔を背けた

すると雲中子はに近付きしゃがみ込み、の身体をひょいと持ち上げた



「どうしてだい?こんなに軽いのに」

「おゎっ!?」



急に抱き上げられた事に驚き、は思わず雲中子にしがみつく



「な、何するんですか!!」

「いや、軽さの証明を」

「結構です!!」



しがみついた身体を慌てて離し、顔を真っ赤にしながら抗議する

しかし雲中子はしれっとしたままを床に下ろした



「まぁ何にせよ床に伏せてちゃ汚いよ」

「誰のせいですか、誰の…」



恨めしそうに呟くと、は深いため息と共に肩を落とした

そんなをよそに雲中子はあくまでもマイペースに切り出す



「さて、それじゃぁ最後の質問ね」

「え?今ので終わりじゃないんですか!?」

「うん、違うよ?」



思わぬ言葉に驚くだったが、次で最後ならばと腹を括った



「まぁスリーサイズに体重までバレちゃったし、これ以上は隠したい事なんか無いですけどね」

「へぇ、そうかな?」

「何ですか、その顔…」



の投げやりな言葉に雲中子は不敵な笑みを浮かべる

思わず後ずさりながら恐る恐る雲中子の言葉を待った

そして雲中子の口からでた最後の質問は―



は好きな人とか居るかい?」

「………ぇ?」

「好きな人」

「なっ、う…うぇ!?」





「なんつー声出してるんだい…」

「だ、だってそんな…す、好きな人なんて……」



慌てふためくの様子を眺めながら雲中子は苦笑したが、気を取り直して再度命令する



「答えなさい、好きな人は居るかい?」

「い、いま…」



はどうにか薬に抗おうと口を塞ぐが、それが出来ては自白剤の意味が無い

無常にもの口は勝手に開き答えを紡いだ



「…………」

「いま……す……。」

「なるほどね、居るんだ…」

「…………」



は顔を真っ赤にしながら肩を落としていたが

雲中子は大したリアクションもせずにメモ帳を閉じた



「はい、実験終了、協力ありがとう」

「へ?」



はそんな雲中子の前でポカンとした顔をしている

好きな人の有無を聞かれたと言う事は、次はもちろんそれが誰なのか聞かれるだろう

そう思っていたが質問はそこで終わってしまった

雲中子はそんな拍子抜けした様子のにいつも通りニヤニヤと笑いながら声を掛けた



「さっきのが"最後の質問"って言っただろう?」

「あ…」



雲中子の言葉を聞いては先程のやり取りを思い出す

確かに雲中子は最後の質問と言って好きな人の有無を聞いてきた

しかし普通そこまで聞いたら相手が気になったりしないものか

は安心したものの、何となくスッキリしない

そんな複雑そうな表情をしたに雲中子は尋ねた



「それとも好きな人の正体も聞いて欲しかった?」



あくまで冗談としての雲中子の問いに、は真剣に答える



「それは…、聞いて欲しかったような……聞かれなくてほっとしたような―…って何言ってるの私!?」

「だってまだ解毒剤飲んでないからね」

「そうだった!!早く下さい解毒剤!!」

「はいはい」



言われてみれば確かにまだ解毒剤を飲んでいない

その為は冗談にもうっかり本音で答えてしまったのだ

慌てて解毒剤を雲中子から受け取り、それを飲んだ



「はぁ、全く酷い目にあった…」

「………」

「雲中子様?」

「ねぇ…、好きな人って誰だい?」

「!?」




解毒剤を飲みほっと肩を撫で下ろすを見つめながら雲中子はポツリと尋ねた

思わぬ質問には再び顔を赤くする



「実験は終わりって言ったじゃないですか!!」

「うん、だからこれは実験じゃなくて、ただの好奇心」

「好奇心って…」

「自白剤を飲んでいる状態で聞くのは流石に卑怯だしね、もちろん言いたくないなら答えなくても良いよ」

「…………」



雲中子は自白剤を作った際に出たゴミや机周りを片しながら、そのついでとでも言うようにに問いかける



「私が…、私が答えたら雲中子様も答えてくれますか?」

「そうだね、私だけ聞くのもフェアじゃないし」



に背を向けて片付けを進めながら雲中子は頷いて見せた



「じゃ、じゃぁ…」



そう言うとは一つ深呼吸をし、雲中子の背に向かった



「ぇっと…、あの……、私の…私の好きな人は、」




クルリと雲中子が振り向き、視線が交わう



「その…えぇと……あの…」



の顔は益々赤くなり、中々二の句が次げずにあたふたしている

雲中子はキョトンとした顔でを見ていたが、やがて吹き出した



「な、何を笑ってるんですか!?人が意を決して答えようとしてるのに!!」



真面目な所で笑われ、は思わず涙目になりながら雲中子に食い掛かる

しかし雲中子は笑いながら別の意味で涙を浮かべの頭をポンポンと叩いた



は本当に面白いよね」

「何がですか!!」

「いや、可愛いなぁと思って」

「なっ…」



は突然褒められて涙目のまま硬直したが、

雲中子はそんなに素早く近付くとぎゅっとその体を抱きしめた



「!?」

「はいはい、良い子だから泣き止みなさい」



雲中子はを抱きしめたまま、子供をあやすように頭を撫で、

そして驚きで声すら出せずに自分を見上げているに向かって珍しく爽やかに微笑んだ



「私もが好きだよ」

「ぇ…、ぅえ!?」

「何を驚いてるんだい?」

「え、だって…私まだ雲中子様が好きなんて言ってない……」



思わぬ言葉に驚くを見て雲中子は苦笑する



の態度見てればバレバレだったけど、もしかして違った?」

「い、いえ、違いませんけど…」

「でしょ?」

「…………」



自分の気持ちが筒抜けであった事など全くの予想外だった

は自分を抱きしめたままいつも通りニヤニヤと微笑む雲中子を見上げ、頬を膨らます

雲中子はそんなの頬を指で突きながら問い掛けた



「さぁ、君の好きな人は誰だい?」

「え?」



またしても不意を突かれた質問に、はキョトンとする



「え?じゃないよ、まだちゃんとの口からは答えを聞いてないだろう?」

「だ、だってもうバレてるって…」

「それとこれとは話が別、何ならもっかい自白剤飲むかい?」

「結構です!!」

「そっか、じゃぁ言ってごらん」



雲中子に促され、は再び顔を赤くしながら目を泳がせる



「あのー…えっと………」

「うん、なんだい?」

「だから…その……私…私、は…」

「私は?」

「……ぅ…」

「う?」

「雲中子様が……」

「雲中子様が?」

「雲中子様が好きです!!大好きです!!」



たっぷりと時間を掛けて躊躇した後、ようやくが吹っ切れた様にそう叫んだ



「はい、良く出来ました」



そう言って雲中子は微笑むと、相変わらず顔を赤くしたまま全てを出し切った様に脱力しているの唇を素早く塞いだ



-END-



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はい、ちょっと難産でしたが無事に産まれました雲中子Dream。

雲中子良いですよね、出番ほとんど無いけどorz

他所のサイト様でも滅多に見掛けないけどorz

ドラマCDだと結城さんがついでにって感じで声当てていて凄い微妙だけどorz

それでも雲中子が好きなのです。

脇キャラですら魅力的なのは藤崎先生の凄さだなぁと思いますね。

そんなこんなで自己補給の雲中子Dreamでした。

私意外に誰が得するんだろうなこれ。


'08/6/7