好きで

好きで

たまらなく好き

もう、どうしたら良いのか解らない程に…



「大好き」



ぽつり、が呟いた

その言葉は誰に向けられた物なのかは解らない

何故なら今は自分のラボに一人きりだから



「好き、好き、大好き、好き…、好き…?」



呪文の様に繰り返す内に疑問へと変化するその言葉



「あー、何かゲシュタルト崩壊起こしそう…」



はそう言うと座っていた椅子からのそりと立ち上がる



「一人で籠もってても駄目ね、ちょっと外にでも出ようかなぁ」



長い間一人で居ると余計な事ばかり考えてしまう

ゆっくりとした動作で伸びをすると、白衣を脱ぎ捨てラボを後にした



「よし、その辺でもフラッと遊びに行くかな!!」



黄巾力士へ乗り込み青空へと飛び立つ

仙界は相変わらず心地良い天候だ

は黄巾力士をのんびりと操縦しながらその空気を目一杯吸い込んだ



「はー…、毎日研究所に籠もって地味に研究してるだけじゃなくて、やっぱりたまには外に出るものね」



と言うには随分と説明臭い台詞を、やはり誰にとも無く呟く

真っ青で気持ちの良い空を一人漂いながら



「………好き、かぁ…」



先程崩壊し掛けて止めた言葉をもう一度反芻してみる

その言葉は何とも甘酸っぱくてくすぐったい感じがする言葉だ

仙界で数百年も生きてきたでも、未だにその言葉に振り回されている



「何て言うか…、まだまだ私も若いのねぇ」



等と自嘲気味に笑うと、背後から急に声がした



「あーたがおばさんになったらうちの師匠なんかとっくにじじぃさ」

「それもそうね…って言うか……、タダ乗りはお断りですよ〜、お客さん?」



驚く様子も無くは声の主に語りかける



「硬い事言わないで欲しーさ、運転手さん」



天化は笑いながら操縦中のの横へと移動した



「何処から沸いたの?」

「沸いたって…その言い方はひでーさ、ついさっきあーたが飛んでくのを見かけたんでちょっと追いかけてみただけさ」

「あー、タダ乗りじゃなくてストーカーだったのね?」

「まぁそんなトコさね、所で…」



咥えていた煙草の煙を吐き出し、天化はに問い掛けた



「一体誰がそんなに好きなんさ?」

「っ…そこも聞いてたの?」

「って言うか俺っち丁度その台詞から乗ってたんだけどなぁ」

「全っ然気付かなかった…」



は少し驚いた顔で天化を見上げた

天化は苦笑しながら煙草の火を消す



「そりゃ随分深ーい悩みの様さね」

「え、いや…、そんな事は無いんだけど」

「でも俺っちの気配に気付かないなんて相当重症さ」

「んー…、そうなのかなぁ……」

「俺っち今暇なんで、良かったら相談相手になるけど?」



そう言うと天化はの頭をくしゃくしゃと撫でる



「天化、私彼方より相当年上なんだけど…」

「ん?そういやそうさね…、でもって何か年上って感じがしないし、しょーがないさ」



悪びれる様子も無く笑う天化の笑顔を見ると怒る気も失せてしまう



「それに、仙人になっちまったら年齢なんてあんまり関係無いと思うさ?」

「まぁそれもそうかもねぇ…、皆何千年単位で生きるんだもんね」

「そうそう、それにはちっこいから何か可愛いさ」

「かっ、可愛いって…」



はそんな天化の言葉に脱力した様に呟くと、視線を目の前へ戻した

天化はの背後から少しだけ身を乗り出して尋ねる



「で、何処に行く気だったんさ?」

「いや、ラボでの研究に飽きたからちょっと散歩にと思ってね」

「なるほど、じゃぁこのまま俺っちの洞窟に行くさ」

「へ?」

「昨日師叔に貰った桃が余ってるからそれでも食べながら話聞くさ」



桃と言う単語にはぴくりと反応する



「桃…?」

「俺っちも昨日一つ食べたけど激ウマだったさ」

「行く!!行きます!!」

「おっけぃ、んじゃぁちょっくら行くさ!!」



畳み掛ける様な天化の台詞には思わず声を上げる

そんなを見て笑う天化の言葉で、は黄巾力士の速度を上げた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「お待ちどう様さ」

「ゎ、本当に美味しそう」



天化が用意してくれた桃をは嬉しそうに見つめて呟く



「俺っちが嘘付くハズないさ」

「それはそうだけど、でもこの桃相当珍しい品種じゃない?」

「さぁ…、師叔が突然持って来てくれた奴だから良く知らねーさ」

「へぇ…、あの太公望がねぇ……」



はにょほほと笑いながら桃を食べている太公望を想像して腕組みをした



「あの桃大好き太公望が天化に桃を分ける事なんてあるのかしら」

「さぁねぇ…、でもまぁ俺っちが昨日毒見はしてる訳だし心配ねーさ」

「そうだね、じゃぁ頂こうかな」



そう言うが早いかはやや小振りの桃を両手で持ち口を大きく開けた



「いっただっきま〜す」



ガブリ

女とは思えない豪快さでかぶり付く

口の中に甘酸っぱさが広がりは思わず唸った



「ん〜〜〜…」

?」

「んまい!!」



目を輝かせて天化にそう伝える

天化は一瞬きょとんとした表情をしていたが、すぐに笑い出した



「ちょっと、何で笑うのよ」

「いや、が急に唸るからびっくりしたさ」

「だって本当に美味しいんだもんコレ」

「な、言った通りっしょ?」



キラキラした目で桃を見つめるを見ながら、天化は悪戯っぽく笑った



「うんうん、太公望もたまには良いとこあるんだねぇ」

「それ師叔が聞いたら"なんだとぅ?"って言って怒るさ」

「あはは、確かに」



和やかな雰囲気の中、そんなたわいも無い話で盛り上がる



「で、は何をそんなに悩んでたさ?」

「ん?あぁあれね、別に悩んでるって訳じゃないんだけど、ちょっと解らなくなっちゃって…」

「解らない?」

「うん、仙人になって俗世と分かれてもう何年も経ったけど、好きって何なんだろうって」

「そりゃまた随分難しい疑問さね」



の唐突な疑問に天化は首を捻る



「こんなに長い時間生きてるのに未だに理解出来ないんだよね」

「どういう事さ?」

「"好き"って言うのは人間なら当たり前の感情じゃない?」



の質問に天化は首を立てに降る



「でも、私達は仙人で、もう何百年何千年も生きてる」

「そうさね」

「何百年何千年も経ったら悟りの一つも開いて、恋とか愛とかの欲望から醒めれば良いのに…」



ため息混じりに呟くをじっと見つめながら、天化は首を傾げて問い掛けた



は人を好きになる事が嫌さ?」

「んー…、別に嫌では無いんだけど、何でかなぁって思って」

「つまり、はどうして何年も生きてるのに人を好きになり続けるのか、が疑問な訳さね」

「そうそう、そう言う事」



天化が要約した言葉を聞きながらは大きく首を縦に振った



「そんなの簡単さ」

「え?」

「人は愛が無きゃ生きて行けない生き物なんさ、人を好きになるのは欲じゃなくて本能さね」




自信たっぷりに胸を張り、そう答える天化をはきょとんとした顔で見つめていたが、ふいに盛大に噴出した



「何で笑うさ」

「だ、だって天化の台詞、楊ゼンみたいなんだもん」



はお腹を抱えて必死で笑うのを堪えながら答えるが、天化は面白く無さそうに膨れてしまった



「人が大真面目に答えてるのに酷いさ」

「ごめんごめん、まさか天化からそんな言葉が出るとは思わなくて」

「…まぁ確かに柄じゃないかもしんないけど、でも多分間違って無いさ」



そう言いながら膨れっ面のままの天化を前に、は齧り掛けの桃を口にしながら呟いた



「本能、ねぇ…」

「そうさ、別に異性間じゃなくても好きって大事な事さ」

「言われて見ればそうだよねぇ、好きだから仲良くなって、仲良くなれるから絆が出来て、その絆でもって和が広がるんだもんね」

「その通りさ」



はもぐもぐと口を動かしながら思考を巡らせている



「好き、かぁ…」

「どうして急にそんな事考え始めたんさ?」

「んー…?」

「そんなに思い悩む位好きな人でも出来たんかい」

「んー……」

?」



天化が心配そうに声を掛けると、フォークを口に入れたまま机に額を付けて突っ伏した状態では話し始めた



「私さ」

「ん?」

「もう何年も生きてるけど人間だった頃に恋とかした事なかったんだよね」

「へぇ、そりゃ意外さね」

「仙人界に来たのは17の頃だったから、それ位の歳までには普通甘酸っぱい恋とか経験するじゃない?」

「あー、まぁそんなもんかねぇ」



の問い掛けに首を捻るが、は構わず話しを続ける



「でね、仙人界に来てからも修行修行研究研究の毎日で正直愛だの恋だのに携わってられなくてさ」

「まぁ大抵の仙人はそうだろうさね」

「うん…、でも……でもね…」

「?」



そこまで言うと、は勢い良く顔を上げて天化と視線を合わせた



「私、今更になって初恋しちゃったっぽいの!!」



フォークをバンッっと机に置いてそう叫ぶと、は顔を両手で覆った



「もうね、その人の事考えるとドキドキして胸が痛いし研究中もその人の事ばっかり考えちゃうし」

「そ、そっか…、それは大変、さね…」

「そう!!もう大変なの!!でもこんなの初めてだからどうしたら良いか解らなくて…」

「…どうしたら、ねぇ……」



真っ赤になりながらそう話すを見て、天化は首を傾げる



「そのの好きな人って誰なんさ?」

「ぇ!?いや、それは…その……」

「此処まで豪快に惚気といて教えないなんて水くせーさ」

「違っ、惚気とかじゃなくてね!?」

「まぁまぁ、兎に角素直に白状するさ」



天化は悪戯な笑みを浮かべてに詰め寄る



「…もしが教えてくれたら…、俺っちの大好きな人も、教えてあげるさ」

「ぇ…? て、天化も、好きな人居るの…?」

「あれ、気付いて無かったさ?」



小首を傾げながら尋ねる天化に、は首を左右に振りながら答える



「全っ然気付かなかった…」

「ん?」

「そっか……」

?」

「天化、好きな人居るんだ…」

「ちょっ!?何泣いてるさ!?」



うな垂れているの目から、机に涙がポタポタと落ちる

天化は慌てて立ち上がると対面に居るの傍に寄った



「ごっ、ごめんね、急に泣いたりして…」



両手で目を擦ると、は無理矢理笑って天化を見上げる



「あの、その…私ね、……実は天化が…えっと…、好き、で……」



の声は今にも再度泣き出しそうに震えている



「こんなに好きなの、初めて、だったから…、何か浮かれちゃって天化の気持ちとか全然考えてなくて……」

「………」

「でも、そうだよね、天化にも好きな人位居るよね…、なのに…私、……私っ…」



再びの頬には涙が伝い始める

天化はそんなの頬の涙を人差し指で掬うと、腰を屈めてに顔を近付けた



、約束通り俺っちの好きな人も教えるさ」

「ぃ、いいよ…聞きたく、ない……」

「駄目、ちゃんと聞くさ」



そう言うと両手での頬を優しく挟みしっかりとの顔を見据えた



「俺っちは…、頭が良くて頼りになるのに全然年上に見えなくて、
美味しそうに桃を頬張ったり初恋に顔を真っ赤にしちゃったり、
挙句の果てには早とちりしてワンワン泣いちゃう可愛い人が好きさ」

「ぇ…?」

「だから、俺っちはあーたの事が大好きって言ってるさ」



にっこりと笑いながらそう告げると、天化はの両頬から手を離した



「ぅ、嘘…」

「嘘なんかじゃないさ、結構前から好きだったのに全然気付いてくれないし、諦めてたさ」

「………」

「それなのにここに来て急に好きな人が出来たなんて言われて、俺っちさっき滅茶苦茶ショックだったんだかんね」

「ぅ……」

「だからが好きだって言う野郎の名前を聞いた後、玉砕覚悟で告白しようと思ってたんさ、そしたらあーたいきなり泣き出すから…」



天化は苦笑しながらそう言うと、の腕を引いて椅子から立たせるとの事を抱き締めた



「でもも俺っちが好きって解ったし、今はすっげぇ幸せさ」

「わ、私もっ!!嬉しい…、すっごく嬉しい…!!」



今度は嬉し涙を流しながら、は天化の背中に手を回す

そんなの頭をぽんぽんと撫でながら天化は笑った



「まーた泣いてるさ?」

「だって嬉しいのとホッとしたのとで何か…涙腺緩んじゃって……」

「あーもう、は本っ当に可愛いさね」



天化はそう言うと、抱き締めていた身体を離しゆっくりとの顔に自分の顔を近付けた



、愛してるさ…」



-END-



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久々のDreamですが天化は初書きです。

この子口調が難しいよぅ。・゜(ノД`

でも割とそれっぽくなったかなぁ?なんて自己満足です。

本当はこんな物書いてる場合じゃないんですけど、まぁ息抜きって事で。

明日からまた頑張るぞ〜(´゚ω゚)ノ



'09/07/08