「」
「………」
「?」
「……何…」
「おぉ、そこにおったか」
「…今日は…、外に出る気分じゃない、から」
「なるほど、今日は満月だったのう」
「…………」
「どうした?そんな所に居ないでこっちへ来ぬか」
「そっち…明るいから嫌……」
「月の光だ、太陽じゃないぞ?」
「…これ以上、月の光…浴びたくない」
「しかしお主の場合浴びずに居ては死んでしまうではないか」
「…それでも良い、よ……」
「…」
「…ごめん、なさい」
「とりあえず布団に入れ、いつまでもそんなとこにおったら風邪引くぞ」
「うん…」
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「朝は、嫌い…」
「何故だ?」
「…朝が来ると…人が死ぬんだもの……」
「む…?」
「朝が来れば、1日が始まって…、1日が始まれば争いが起こる、でしょ…?」
「………」
「でも、夜は違う、人は皆眠ってしまうから静かで平和なの…」
「…」
「だから、私は朝から逃げた」
「なぁ」
「なぁに?」
「お主は一体、何者なのだ?」
「私は…、私は、朝から逃げたの」
「うむ」
「夜に逃げて、月の光の中だけで生活してた」
「うむ…」
「気付いた時には私は妖怪仙人になってて…」
「ほう…」
「突然人型になってしまって戸惑う私を拾ってくれたのが三大仙人の一人、太上老君…」
「……そうだったのか…」
「私…老子に拾われて本当に良かった……」
「………」
「私は元々争う事が嫌で夜に逃げたから…、私を拾ったのが妖怪だったら…、って思うと…」
「うむ…、妖怪に拾われていたら、恐らくわし達の敵になっていただろうなぁ…」
「人を、一度でも殺してしまったら、もう元には戻れない……」
「元に、か……、それで結局その"元"は何なのだ?」
「私?私は……」
「…猫、か……」
「ん…、これが本当の姿…なの」
「おぉ…、なにやら妖艶だのう…」
「…妲己と…同じ系統、だから」
「いや、妲己の美しさは所詮偽者であろうが、お主のは違うぞ?」
「…太公望、女タラシ……」
「なっ!?いや、わしは別にそんなつもりは…」
「冗談、だよ…でも、有難う…」
「…全く、からかうでない」
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「…太公望」
「なんだ?」
「私、太公望の事、好き」
「な、なんじゃ急に…」
「太公望は、きっといつか朝を変えてくれるから…、好き」
「………」
「本当は、妖怪になってずっと悲しかったの」
「…」
「でも、太上老君に拾われて…、太公望に会えて……良かったなぁって、今は思える」
「そうか…」
「でもやっぱり朝はまだ、怖い…、私だって太公望の手伝いがしたいのに……」
「無理をしなくとも良い、お主はこうやってわしの傍に居てくれれば良いのだ」
「太公望…」
「ん?」
「私、此処に居て良いの?」
「当たり前だろう、わしの一日の疲れはお主以外には癒せぬよ」
「そっか…、嬉しい……」
「月が綺麗よのぅ…」
「そうだね、綺麗…」
「」
「何…?」
「お前が怖がらなくて済む世界を…、必ず作ってやるからな」
「ん…、ありがと…」
「さて、そろそろ寝るとするか」
「うん…」
「そんな顔をするでない」
「だって…、朝になったら太公望、またいなくなっちゃう……」
「………、手を貸せ」
「手…?」
「あぁ、こうして繋いで寝れば夢の中でも一緒だろう?」
「………」
「わしは朝までは絶対に此処におるよ、何処にも行かぬ」
「…うん」
「朝になったら此処を出る、しかし夜にはまた戻って来る」
「…うん」
「だから泣くな、わしはお主の隣に居るから」
「……解った…」
「良い子だ…、それじゃぁおやすみ、愛しとるよ」
「…おやすみ、なさい……」
-END-
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会話だけって初めての試みです。
多分背景が人によって様々になるだろうなぁと思うのですが、如何でしたでしょうか?
私のイメージだと真夜中、大きな窓が一つだけある質素な部屋での出来事、ですかね。
主人公は黒猫が妖怪化して人型になったもので、何となく舌ったらずなのは元猫だからって感じでしょうか。
まぁそんなこんなでこれに普段通り細かい描写を付けて行くと普通の小説になるんだと思いますが、今回はあえて会話のみでした。
皆さんの脳内ではどう再生されたのかちょっと気になりますねw
'08/02/01