『自由が欲しいのなら 風の歌を聞いてみて そよいでる木の枝も 道の花も知っている』





「あ〜、もう限界っ!!」



それはとある日の正午に遡る

バン、と山積みになっている書類を叩きつけながら叫んだのは

それと同時に部屋の扉が開きひょっこりと顔を覗かせたのは太公望

は一応上司である太公望を気にも留めず、何やら一人で紙面を見つめては呟いている

そんなの様子を目の前にし、太公望は一つため息を付くとの部屋に入った



「また暴れておるのか…、仕事は片付いたのか?」



どうやら様子を見に来たらしい太公望は、書類に埋もれたに苦笑しながら問い掛ける



「まだよ、まだまだ全然いーっぱい残っててちーっとも終わらない!!」



しかしは目前の書類をじっとりと睨みつけながら首を左右に振り叫び続ける



「この前の戦いで折角整備した路や水道機関が全滅よ!?
人間側にも負傷者は多数居るし、毎日毎日那曹笂V化が暴れるせいでますます工事が遅れてるし!!」

「お、落ち着かぬか…」

「落ち着けないわよ!!治安が悪くなればそれだけ民にも被害が及ぶのよ!?」

「うーむ…」



周全体の被害報告書をバシバシと叩きつけながらはますます頭を抱える



「大体今は工事用の材料も武吉くん達が調達してくれてるから良いけど…、これ以上多くの自然を破壊する事は許されないわ」

「そうだのう…」

「人間の力じゃ木を一本育てるのだって大変な事なのに次から次へと切り倒してちゃきりないし…」



最近のの目下の悩み

それはやっと周として安定して来た国をいかに効率良く動かし殷を倒すのかと言う事

戦力は充分ある

食料も太公望の兵農一体の教えで豊かと言えるレベルに達している

あえて足りない物を挙げるならば



「あーもう、全く!!なーんで私が人間界の仕事をやんなきゃいけないのーー!!」



それはの心のゆとりだろうか



…、お主最近そればっかだのう…」

「だってそうでしょう!?殷との戦いはあっちに仙人である女狐も聞仲も居るんだから手伝うのは仕方ないわよ
でもだからって何で私がここで大使なんかして工事だの治安だのに頭回さなきゃなんないのよ!?」

「そうは言ってもお主位しかこの仕事は出来ぬし…」

「んな事知らないわよ!!人間は良いわよねぇ、仙人さま仙人さまーって言ってりゃ何でも事が進むんだから!!」



は思わず椅子から立ち上がり窓を勢い良く開く



「見なさいよこの国を!!何処もかしこも統率する人間は仙人ばっかり!!」



民の住む街より一寸高い場所にある城の窓からは、すっかり平和ムードの漂う人々の顔が見て取れた



「人間はすっかり私達仙人を信頼し切って戦意も何もありゃしない…」

「良い事では無いか、お主は色々と考えすぎだよ」

「色々と考えさせてるのは誰よ!!」



は太公望に詰め寄り胸倉に掴みかかる



「姫昌殿に周に残ると約束したのはアンタだけで私には関係ないでしょうが!?」

…、ギ……ギブ……」



太公望をゆさゆさと揺らしながら怒りをぶつけるに顔を青くしながら太公望は両手を挙げる



「もう嫌…、静かで平和な仙人界に帰りたい……」



ようやく手を離すとは片手で顔を覆いながら深くため息をついた

そんなの様子に開放された太公望は首元を抑えながら呟く



「すまぬのう…」

「…本当にそう思ってるの?」

「もちろんだ」

「じゃぁ休みを頂戴」

「それは無理な相談だのう」

「何でよ!?」

「だってそれではわしが休めんでは無いか」

「……………」



の言葉を高速で却下する太公望

はそんな太公望の勝手極まり無い言葉ににっこりと微笑んだ



「…………………?」



美しく微笑むに太公望は冷や汗を流しまくりながら呼びかける

しかしは以前にこやかに微笑んだまま太公望に近付いて行く

良く見るとその拳は固く握られおり、今にも太公望に向けて発射されそうである



「いや、あのさん?今のは軽い冗談ってやつでのう?」

「…………」

「わ、解った、解ったから待て!!話し合おう!!な!?」

「もう…アンタと話す事なんか…」



必死で話しかける太公望だがは耳も貸さず背後に禍々しいオーラをまとったまま太公望ににじり寄る

太公望は後ずさりながら逃げていたが、ついに部屋の壁に背中があたってしまった

の目が光る



、落ちつけ!!落ちつけぇぇぇぇぃ!!!」

「無いわーーーーーーーーー!!!!!!!!」



太公望は打神鞭を取り出そうとしたが一歩間に合わず、部屋の壁をぶち破り豪快に外へ殴り飛ばされた



「あー、サッパリしたっと、……さて、今の内に逃げなきゃ」



は星になった太公望に背を向け一息つくと、思い出したように仕度を整え、たった今壊れた窓から外へ出て行った



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『貴方を苦しめて 悲しませている物を 自然の風に 届けてと Beby Beby』





「ふぁ〜、気持ち良い…」



は近くの森にある巨木に寄り掛かり体を伸ばす



「今頃城は大騒ぎね、きっと」



自分がたった今起こして来た惨事をさらりと思い返しながらは笑った



「…………」



ゆっくりと呼吸をしながら流れる雲を見上げそよぐ風の音を聞く

サワサワと風が吹く度に揺れる枝の音が心地良い



「…毎日頑張ってるし……今日位…会いに行っても良い、よね……」



そんな事を呟いて一つあくびをする

暖かい気候に眠気を誘われたのか、はゆっくり夢の世界へと堕ちて行った―



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『この次 会える時には 優しい笑顔をお土産にしてね』





「おや?久しぶりだね…」



ふと意識が醒めるとそこは眠りについたのとは違う場所



「お久しぶりです…老子……」



が老子と呼ぶその人は美しい蒲公英色の瞳でを見ていた


「うん、本当に久しぶりだね、元気にしていたかい?」

「…見ていらしたでしょう?」

「そうだね、でも私が見て感じる事と君が語る事には相違があるんだよ」



ゆっくりとした口調でそう語るのは偉大なる三大仙人が一人、太上老君

普段は決して自ら起きる事の無い太上老君と、は幾度か夢の中で接触していた



「私は毎日元気に忙しくしていますよ、…太公望のせいで」



はため息混じりに呟き苦笑する



「老子様は如何ですか?」

「いつも通り…、と言いたい所だけど、最近は客人が多くてあまり寝てないんだ…」



太上老君は眠たそうな目をこすりながらあくびをした



「客人…?」

「うん…今に世界を分ける戦いが始まるからね、面倒臭いけど仕方ないよ…」

「世界を分けるって…封神計画の事ですか?」



太上老君の話を聞きの顔付きが変わる

そんなを見て太上老君は目を伏せた



「ごめん」

「え?」

「君が此処に来た理由は解っているのに関係無い話をしてしまったね」



太上老君がそう言うと、真っ暗だった世界が突然足元から変わり始める



「うゎっ…!?」



やがて二人を包んだのは静かで広い広い草原

はキョロキョロと辺りを見回す

そんなを見ながら太上老君は空を見上げる

やがてそんな二人を優しい風が包み込んで行く



「良い風でしょう?」

「はい、何だか懐かしい感じ…」

「疲れているからそう感じるんだよ」

「…え……?」



は思わず太上老君を見上げる

太上老君はそんなの頭に片手を乗せる



「君が私に会いに来ると言う事は…少し現世に疲れた証拠でしょう?」

「…………」



優しくの頭を撫でながら太上老君は語りかける



「此処は君の夢の中」

「………」

「夢の中でまで無理をする必要はないよ…?」

「老子様……私………もう、どうしたら良いのか…っ」



の瞳は次第に次第に潤みだす



「悲しみも苦しみも、今だけは忘れて良い、ゆっくり休んで行きなさい」

「……っ」



太上老君のその一言を聞き、は思わず柔らかい草むらに座り込み涙を流し始めた

長い事我慢していた涙は留まる所を知らず、切々と流れては地面に吸い込まれて行く

太上老君は座り込んでしまったの前にそっと膝を付くと何時までもの頭を撫で続けた



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『願いは心でいつか そう蓮の花になる 信じて諦めないでね 追いかけた夢を

貴方はアジアのパピヨン 綺麗な水を飲む

マラミン タマラ ダンニャバード トゥリマーカシー シャオホア ニイハオ』





「落ち着いた?」

「……はい…」



ひとしきり泣いた後、太上老君の質問にはゆっくりと首を縦に振る

今思えばあそこまで大泣きしてしまった自分が恥ずかしいらしく顔を赤くしている



「あの、ごめんなさい…、久々に会いに来た途端こんな情けない姿で…」

「どうして?辛い時に頼って貰えるのは年長者としてなかなか嬉しいけどなぁ」



の言葉に静かに答える太上老君



「でも…、老子だってお忙しいのに……」

「私はただ眠ってるだけさ」



太上老君は目を伏せながら呟く



「さて…、君はそろそろ帰らなきゃ…」

「ぁ……そう……ですね…」



太上老君の言葉に思わず俯く

太上老君は優しく微笑みながらの頬に触れた



「そんな顔しないで、近いうちにまた会えるから」

「え…?」

「それまで太公望の傍を離れないようにね」

「…………」

「次に会う時もあまりゆっくりは出来ないだろうけど…」

「はい…、でも、私は老子様に会えるだけでとても嬉しいですから」



は太上老君にそう言って微笑んだ



「うん、その顔が私は一番好きだよ」

「あ、有難う御座います…」

「君の目は常に先を見つめているべきだからね」

「…?」

「君が信じるべき物を信じて、信じるべき人に付いて行きなさい…」



に語りかける太上老君の声は次第に遠くなって行く



「老子様…」

「決して諦めてはいけない、そして時が訪れたらまた会おう」



そして太上老君の姿は次第に色褪せて行く

ゆらゆらと消え行く太上老君を見つめ、は思わず手を伸ばした



「老子様!!」



しかしの手は虚しく宙を切り、何も掴めないまま太上老君は姿を消してしまった



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『ねぇ 私はいつも貴方の 近くに居ます』










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『手の平に零れてく 涙は苦いけれど 何の意味さえもない 悲しみは無いと思う

貴方が淋しさの 峠を越える朝を プパヤの丘で 待ってるわ』





「老子…様……」



今まで居た美しい世界は太上老君と共に消えてしまった

暗闇に戻ってしまった世界で一人は呟く

そして両手を握り締めたのと同時に夢から醒めた



「っ!!」



勢い良く飛び起きる



「…此処は……」



辺りを見回すと其処はが眠りについた巨木の根元



「…………」



は今まで見ていた物を確かめるようにそっと目を瞑り、頬を伝う涙を拭い立ち上がった



「さぁ帰ろうっと、太公望怒ってるかなぁ…」



そしては城へと歩き出す

が立ち去った後も森の木々は変わらずさわさわと揺れていた



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『貴方に恋して私 綺麗になれたと感じてる と て も 』





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『"偶然世界"で出逢い 絆は 森になり 全ての命は歌うの 悦びの歌を

貴方はアジアのパピヨン 不思議な夢を見る

マラミン タマラ ダンニャバード トゥリマーカーシー シャオホア ニイハオ』



は自室へ戻ると窓を大きく開き空を仰いだ

もうじき日が暮れるのだろう

夕陽がゆっくりと沈んで行く



「老子様…」



その様子をぼんやり眺めながらは呟いた





『神様 他に 何も望んだりしません』





「私は今…貴方に会いたいが為に人間の手助けをしています…」





『愛を 下さい 命の様に大事にします』





「それが…それが貴方に会える唯一の方法だから……」





『この次 会える時には 優しい笑顔を お土産にしてね』





「次は…いつ会えますか……?」





『貴方が』





「老子様…」





『好きです』





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『貴方が私を変えて 私も変化して 隔てあってた世界が 一つに 解け合う』

『貴方はアジアのパピヨン 果てない 夢を見る 

マラミン タマラ ダンニャバード トゥリマーカシー シャオホアニイハオ』





!!お主今まで何処に行っておったのだ!!!!」



ばん!!と勢い良くの部屋の扉が開く

そこには頬に湿布を貼り付けた太公望が立っていた



「ちょっと夢を見に行っていただけだけど?」

「夢? 寝ていたと言う意味か? わしだって昼寝くらいしたいっつーに…」

「何よ、自分が好きでこの国の軍師になった癖に」

「そ、それはまぁそうだが…」



の言葉に太公望はたじろぐが、はそんな太公望を見て盛大にため息をついた



「全く、何で私がこんなおとぼけ野朗について行かなきゃいけないんだか…」

「何でってお主…」

「老子様の考えは良く解んないよ…」



はそう呟くと窓辺から離れ太公望に歩み寄る



「でもまぁ…、アンタについて行けば老子様に会えるんだよね?」



そう言っては笑った



「早く、私を老子様に会わせてね」

…お主何を……」

「それまではしっかり働いてあげる、それがアンタの…、そして老子様の出した条件だから」



はそれだけ告げるとそっと太公望の体を押して扉の外へ追いやった

扉の向こう側から太公望が呼ぶ声がしたけれど、はあえて無視した



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『"偶然世界"で出逢い 絆は 森になり 全ての命は歌うの 悦びの歌を

貴方はアジアのパピヨン 不思議な夢を見る

マラミン タマラ ダンニャバード トゥリマーカーシー シャオホア ニイハオ』




「老子様…有難う御座います……」

誰も居なくなった部屋ではそう呟く



「さて、明日からまた頑張らなきゃね!!」



は両手をぐっと握り締め叫ぶ

その顔はとても穏やかで、朝のピリピリした雰囲気は何処にもなかった





『貴方が私を変えて 私も変化して 隔てあってた世界が 一つに 解け合う』

『貴方はアジアのパピヨン 果てない 夢を見る 

マラミン タマラ ダンニャバード トゥリマーカシー シャオホアニイハオ』



-END-



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島谷ひとみの「パピヨン」で、太上老君Dreamでした!!

ぐはぁ…疲れた……_| ̄|○

駄目だ

駄目駄目だ

これはちょっと自分的にNGな出来上がり。

でもどうにもならなかったのでちょいこのままupします。

何かの機会にぜひ書き直したい…



'06/01/25