―これは封神計画が始まった直後くらいのお話…―





「良い天気ですねぇ黒点虎」

「そうだね申公豹」

「今日はどんな面白い事が起こるんでしょうか…」



申公豹は霊獣黒点虎と共にいつも通り朝歌の空を浮遊していた



「この前はなかなか楽しかったですからねぇ…」



先日の太公望を勝手にライバルと認定した日の事を思い出しながら申公豹は恍惚の表情を浮かべる



「申公豹にライバルなんて初めてじゃない?」

「えぇそうですね、私には生まれてこの方ライバルが居た事はありませんからね」



のんびりと何千年も昔を振り返る

暫しの沈黙が訪れたが、ふいに黒点虎は申公豹に話し掛けた



「所でさ、申公豹」

「何ですか黒点虎」

「お客さんが来るみたいだよ」



黒点虎は前方を見つめながらそう告げる

申公豹の目にはまだ何も映っていないが、黒点虎が言うなら間違いは無いのだろう



「誰ですか?」

「んー…、知らない子」

「どんな感じです?」

「何か…女の子……」



申公豹の質問に黒点虎は微妙な返答をする

そんな黒点虎の言葉に申公豹は首を捻る

すると申公豹の肉眼でも捉えられる程度にその人物が見えてきた



「確かに女の方の様ですね」

「でしょ」



とりあえず自分達の方へ向かってくる人物の様子を見ていると、突然その人物が視界から消えた



「あれ?いなくなっちゃったよ?」

「後ろですよ黒点虎」

「え?」



申公豹の言葉で黒点虎が後ろを向くと、其処には先程の人物が浮かんでいた



「初めまして、アンタが最強の仙人…申公豹だな?」

「えぇそうです」



申公豹はしれっと自分が最強である事を認める



「貴女は一体何者です?」

「私は、金鰲島の仙人だ」



と名乗る人物は背中に黒い羽こそ生やしているものの妖怪仙人には見えない



「見たところ人間の様ですね」

「そう、仙人骨があった私を通天教主にスカウトされたんだ」

「その羽は宝貝とは違う様ですが?」

「アンタにゃ関係ないよ」

「そうですか…。それで、その仙人が私に何の用です?」



心底どうでも良さそうに訪ねる申公豹に、は不敵な笑みを浮かべて言い放った



「私と勝負しろ!!」

「お断りします」



申公豹は光速での申し出を切り捨てた



「行きましょう黒点虎」

「え、良いの?」

「えぇ、用件は済みましたから」



申公豹はそう言うとの横を通り過ぎ去って行った



「ちょっ、おいこら待て!!」

「何ですか、まだ他にも用件があると言うのですか?」



申公豹は自分を呼び止めるを振り返り面倒臭そうに訪ねる



「当ったり前だろ!!断られてはいそうですかーなんて引き下がれるか!!」

「何だか血気盛んな人ですねぇ…」

「申公豹が怒らすから…」

「煩い!!兎に角勝負だ!!私はお前を倒すんだ!!」



馬鹿にされた事に腹を立てたのか元々の性格からか、はそう叫ぶといきなり申公豹に向かって攻撃を仕掛けてきた



「避けてください」

「はーい」



申公豹は表情一つ変えずに黒点虎に指示を出す

の攻撃をなんなく避けた黒点虎と申公豹は少しの距離を置いてを見下ろした



「私が言うのも何ですが…、貴女もう少し女らしくした方が良いですよ?」



真顔でそんな事を言う申公豹に、の顔は赤くなる

それが羞恥ではなく怒りである事は火を見るより明らかだった



「っお前にんな事言われる筋合いは無い!!」

「ま、それもそうですね」

「馬鹿にしてんのか!?」

「えぇ、割と」



申公豹のその一言での何かが切れた

しかし肩をわなわなと震わせ俯くの様子を申公豹はただ見守っている



「ねぇ申公豹…益々怒らせちゃったみたいだよ?」

「ふふふ…、楽しくなって来ましたね」



少しばかり気の毒そうに訪ねる黒点虎を余所に、申公豹は口元に笑みを浮かべている



「死ね!!」



そうが叫んだ瞬間巨大な氷柱が申公豹目掛けて降り注ぐ

どうやら実力は他の妖怪仙人よりも上のようだ



「女性とは思えない戦いっぷりですねぇ」

「何か似た様なコウモリキャラが他にも居た様な…」

「こらこら黒点虎、まだ登場してないキャラを例えに出してはいけませんよ」



氷柱をことごとく避けながら不可解な会話をする二人にはいっそう怒りを露にする



「何処まで馬鹿にする気だ!!!!!」



は申公豹の態度に更に腹を立てるが、攻撃の方は感情に任せず的確に申公豹を狙ってくる



「…どうやら逃げてるだけと言う訳には行かないようですね」



申公豹も意外と戦い慣れているの攻撃を見て考えを変えた様で、雷公鞭を構えた



「やっとその気になったか」



その様子を見ては満足そうに笑う



「それじゃぁ遠慮なく行くぞ!!」

「あれだけ暴れてた癖に遠慮してたんですか…」



の言葉に少々呆れ気味に申公豹は呟いた



「全く馬鹿みたいに体力があるんですねぇ」

「アンタだって化け物並みだろうが」

「それはまぁ最強ですから」

「その座をすぐにでも奪ってやるさ!!」



かくして始まった戦いは凄まじい物だった

それはそれは凄い戦いで、思わず元始天尊や通天教主ですら黙認する程…



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「っ!!」



数十分程の撃ち合いの末、勝敗は決まった

の首元には黒点虎の鋭い爪があてがわれている



「終わりですね」

「くそっ…」



申公豹は太公望に継ぐ逸材を発見した事に上機嫌の様だ



「言っておきますが私は貴女を殺したりはしませんよ」

「何で…」

「殺してしまってはつまらないでしょう?」



の悔しそうな視線を浴びながら申公豹は当たり前の様に語る



「私は面白い事が好きなのです、貴女は私を楽しませる素質がある様ですから殺しません」

「なっ」

「お黙りなさい」

「……っ」



申公豹に抗議しようとしたの口に雷公鞭を突きつけ申公豹は薄く笑う



「貴女の様な暑苦しい性格の人は"いっそ殺せ"と喚き散らすのがセオリーです」

「………」

「しかしそんな台本通りのありきたりな展開を私が許すハズありません」

「申公豹…ベタベタなお話嫌いだもんね…」



黒点虎の台詞にその通りと頷き、申公豹はの顎を片手で持ち上げた



「さて、どうしましょうかねぇ?」



未だに殺気立った視線を送るを実に楽しそうに見つめて申公豹は呟く



「あぁそうだ、聞こうと思って忘れていました」

「………」

「どうしていきなり私に喧嘩なんか売ったんですか?」



申公豹は小首を傾げて訪ねる

は睨みつけていた視線を横に逸らし吐き捨てるようにつぶやいた



「暇潰しだよ」

「はい?」

「だーかーら、暇潰しって言ってるの!!最近暇で暇で死にそうだったんだよ!!」



申公豹の質問に噛み付くような剣幕で答える



「貴女封神計画に参加しないんですか?」

「封神計画って…崑崙の連中が妲己倒すってアレ?」

「そうです」

「私には関係ないね」



はそう言いながら鼻で笑う



「何故です?崑崙と金鰲の全面対決ですよ?そこでいくらでも暴れられるじゃないですか」



申公豹の最もな意見には少しの間を置いて呟いた



「アンタは参加するつもり無いんでしょ」

「えぇ、私は物語を面白くする事に専念するつもりですからね」

「だったら私も参加する意味無い、私はアンタと戦いたかったんだから」



はさも当然の如く答えるが、申公豹はそんなの言葉に思わず笑い出した



「これはこれは…、熱烈なラブコールですね」

「何でそうなるんだ…」

「しかし私の所へ来る前に色々楽しめる人物も居るじゃないですか」

「…妲己や通天教主は金鰲の仙人だから手出せないんだよ」

「どういう事です?別に仲間討ちがご法度な訳でも無いでしょうに…」



申公豹はの体を開放し訪ねる

には大した余力も残っていない様なのでこれ以上抗う事は無いだろうと判断したらしい

案の定は背中の羽で申公豹の前に浮かぶだけだ



「この羽のせいだよ」

「羽の?」



は自分の羽を指差しながら忌々しそうに唇を噛んだ



「あまりに私が暴れるもんだから通天教主に付けられた…、この羽がある限り私は金鰲島に入れない」

「なるほど…、追い出されたんですね」

「まぁそう言う事、金鰲島の妖怪仙人や仙人を攻撃しようとすると体の自由が利かなくなるんだ」



まるで堕天使の様な真っ黒い羽をバタつかせ、は自嘲気味に笑った



「以来割りと大人しくしてたんだけどさ、アンタの噂聞いたら居ても立ってもいられなくて」

「まぁ私は崑崙山出身ですからねぇ…」



申公豹はなるほど、と小さく呟きを見つめた



「で、これから貴女はどうするつもりです?」

「へ?」

「ですから、今後どう過ごすのかと聞いてるんです」

「どう過ごすって…アンタ私を見逃す気?」



申公豹の質問には毒気を抜かれたのかすっかり殺気を放つ事を忘れている



「えぇ、別に私は貴女をどうこうする気は無いですよ」

「さっき申公豹が君の事殺さないって言ったじゃん、人の話しはちゃんと聞きなよね」



もはや脱力して申公豹の前に浮かぶに黒点虎が追い討ちを掛ける



「でも私を放っといたらまたアンタを殺しに来るかもよ?」



薄く笑いながら訪ねるに申公豹はしれっと言い放った



「良いですよ、いつでもお相手しましょう」

「良いの申公豹?太公望とか封神計画もあるのに…」

「まぁ毎日毎日来られては困りますけど…たまになら良いんじゃないですか?」

「アンタ…本当に嫌な奴だな」

「良く言われます」



の嫌味も軽くかわすと申公豹はに背を向けた



「私はそろそろ帰ります」

「え?ちょっと…」

「次に会うまでもっと腕を磨いておいて下さいね」



申公豹はそれだけ言い残すとの方を見向きもせず去って行ってしまった



「………畜生…」



一人取り残されたは悔しそうに呟きながらも追いかける気力は無くその背中を見送るだけだった



「次は絶対に参ったって言わせてやる…」



申公豹を見送った後、は両手を握り締めて呟いた



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「あんな事言ってるよ」

「ふふふ…、本当に単純な人なんですね」



の元を離れ禁城の近くまで戻って来た申公豹はの様子を千里眼で観察していた



「ていうかさぁ、この子良くみたら普通に可愛いよね」

「そうですねぇ」



何処かへ帰って行くの姿を千里眼で見つめながら呟いた黒点虎の言葉に申公豹も同調する



「なのに何であんな乱暴な言葉使いなのかなぁ」

「まぁ人それぞれですよ、個性があって良いじゃないですか」

「そんなもんかなぁ…」

「黒点虎はこの人の事が気に入ったんですか?」



申公豹の問いに黒点虎は小首を傾げた



「何かあんまり悪い人には見えないんだよね」

「それは同感ですね」

「妲己ちゃん達と比べると邪気が無いって言うか…、暴れん坊過ぎて追い出されたなんて信じらんないよね」



確かに黒点虎の言う通り、美琴と話した限り、元々が人間とは言え金鰲島特有の邪悪さは一切感じなかった



「でも一戦交えている時の目つきは妖怪以上だったと思いませんか?」

「あー…うん、そうかも」

「帰ったら妲己に聞いてみましょうか」

「そうだね、妲己ちゃんなら何か知ってるかもしれないね」



黒点虎はそう言うと千里眼を閉じる



…、太公望程ではありませんが、中々楽しませてくれそうですね…」



再び禁城へ向かい始めた黒点虎の背中の上で、申公豹は不敵な笑みを浮かべた



-END-



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申公豹さんの道化師っぷりが大好きだー。

那早A王天君に次いで好きなのが申公豹w

やっぱ石田さんボイスは魅力的ですわ(笑

今回のDreamでは名前一回しか呼ばれて無いけど、続きを書く…かもしれない。

でもこのヒロイン作中黒点虎も言ってましたが女版雷震子みたいd

げふんごふん。



まぁそんなこんなで肩凝ったんで寝ます!!



'06/01/29