それは太公望達が蓬莱島に旅立つ数日前の出来事



「…貴方が太公望……ですね?」

「ん?お主は一体…?」



フラフラといつもの様に一人で散歩に出ていた太公望の元に、一人の少女が現れた



「私は、金鰲島の道士です…」



と名乗るその少女は無表情で自分の素性を告げる



「…その道士がわしに何の用だ?」



太公望は警戒しつつそうに向かって訪ねる

するとはスラリと1本の槍型の宝貝を取り出し太公望に向けた

しかし攻撃を仕掛けて来る様子は無く、は身構える太公望に向かい淡々と語り出した



「今日は私からいずれ全てを奪う男の顔を見に来ました」

「何…?」

「貴方は…近い未来に私の唯一の人を奪う事になります」

「お主は一体何を…」



状況が把握しきれない太公望を余所に、はただ言葉を続ける



「貴方さえ居なければ平穏でいられるのに…」

「………」

「貴方さえ消えてしまえば私はあの人の傍にずっと居られるのに!!」



が叫んだその瞬間

が手にしていた槍が太公望の頬をかすめた



「ちょっ、ちょっと待たんか!!わしには何の事だか事情が解らん!!あの人とは一体誰の事だ!?」



太公望はとっさにと距離を置き、打神鞭を構える

しかしは再度攻撃をするつもりは無いらしく、槍型宝貝を地面に突き立て俯いた



「それは……言えません…」

「何故だ?それでは話しにならぬであろう」

「…私が今その人の名を言えば歴史が狂います」

「歴史が…?」



の思いがけない一言に太公望は打神鞭を降ろす

もはやに殺気は無い様で、槍型宝貝は地面に刺さったまま力なく左手に捉えられている



「本当は…今ここで貴方を殺したい…」

「物騒だのう」

「でも…あの人はそれを望んでいない…」



そう呟くの顔は悲しげに歪められている

太公望は困り果て、とりあえず一歩に近付いてみた



「っ来ないで下さい!!」



しかし、案の定拒否されてしまう



「私は…私はあの人の物です!!」

「だからあの人とは一体誰かと…」

「黙れ!!」

「なっ…」

「お前はまだ知らないだけだ!!その内全てを知る事になる!!そして…、そしてあの人を私から奪うんだ!!!!」



は両手で顔を抑え、震える声で叫ぶ



「お前が歴史を変えようとすればする程あの人は私の前から消えて行く!!」

「………」

「消さないで…!!」



は崩れる様に地面に膝を着いた



「私がただ一人愛している人なの…」



顔を覆い泣きじゃくるを見下ろし、太公望はなす術もなく立ち尽くしていた



「あの人が居なくなったら…私は生きる意味を失ってしまう……」

「………」

「でも止められない…貴方が消えない限りこの運命も消えてはくれない……」

「わしにはお主の言う事が良く解らぬ…」



太公望は再度に近付く

しかし先程の様に拒否される事は無く、太公望は地面に座り込むの前に立膝をついた



「お主の言う運命とは一体何なのだ?」

「………」

「わしはなるべく人も仙道も殺めたくはないのだ…」



太公望の言葉には顔を上げる



「でも…行くんでしょう?…妲己や……歴史の導の処へ…」

「行く…。行かねばならぬ…」

「だったら変わらない…、あの人は貴方と言う存在に消されてしまう……」

「それでも…、わしはお主を救いたい」



は真っ直ぐに自分を見据える太公望から視線を逸らし、小さく呟いた



「止めて…」

「?」

「あの人と同じ顔でそんな目をしないで…」

「同じ…顔……?」

「違う…違うの……あの人は貴方程綺麗では無い…」

「………」

「壊れてしまった人だから…決して正義なんかじゃなくて……」



はまるで独り言の様に小さな声で呟く



「それでも…それでも私はあの人が好き…。愛しているの…」



その言葉と共にの頬を伝う涙が地面に染みを付けた

太公望はゆっくりと片手をの頭の上に乗せる



「何故だろうな…、わしは……お主を知っている様な気がする……」



そう言って肩を震わせて泣いているの頭を優しく撫でる



「お主を悲しませたくないと…わしの心がそう言っておるよ」

「…やっぱり……貴方はあの人の陽なのね…」

「…陽……」

「そう…あの人が陰で貴方が陽……貴方とあの人は2つで1つ……」



はゆっくりと太公望の手を払い立ち上がった



「すみません、お喋りが過ぎました…」

「いや…わしはまだ何も理解しておらぬぞ?」

「…貴方が歴史を変える、そしてあの人は私の前から消えてしまう……、要するに、それだけの事です」



同じ様に立ち上がり再びと太公望は向かい合う



「でも…世界が貴方を望むならそれは仕方ない事…」

「わしはそんな大した男では無いのだが…」

「そう言っていられるのも今のうちですよ」



太公望の言葉には寂しそうに笑い、太公望に背を向けた



「そろそろ帰ります…、あの人が此処に居る間に少しでも時を一緒に過ごさないと…」

「……すまぬ…」

「貴方が謝るのは…あの人を思い出してからにして下さい」



そう言いながら地面に突き立てていた槍を引き抜きそれをしまう



「さようなら太公望…、私の事…、今日の話はどうぞ忘れて下さい……」



太公望に背を向けたままそう呟くと、の体を透明な光が包み込み、はあっと言う間に太公望の前から姿を消した



「…何だったのだ……一体…」



一人残された太公望は去ってしまったの言動を思い浮かべ息を吐いた



「…………」



握り締めていた右手を開きじっと見つめる



「…あの人……か…」



本当は何となくその存在には気付いていた

陽と陰

光と影

白と黒

金鰲島で戦った時に覚えた妙な感覚

太公望は再度深く息を吐きながらその顔に苦笑を浮かべた



「王天君…か」



王天君は金鰲島で封神された

それを目の前で見ていたのは自分自身だ

しかし王天君は生きている

言葉で説明出来ない確信が太公望にはあった

恐らく蓬莱島でその謎も解けるのだろう

そして解けた事によりが言う様になるのかもしれない



「全く…妲己と言いと言い申公豹と言い…訳の解らん奴ばっかりだ……」



太公望は皆の待つ崑崙山パートUへと戻る事にした



…か、忘れられそうにないのう……」



そんな事を呟いた太公望が、王天君と融合を果たすのはまだ先の話し…



-END-



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…これが王天君Dreamだと言ったら皆様怒るでしょうか?(汗

でも自分的にはこれは太公望じゃなくて王天君Dreamなんです

王天君と太公望が融合して伏義になった時、前面に出てたのは太公望ですからね

話し方やら出で立ちはほぼ太公望。

王天君は何処行ったのさ状態。

そんな状態を嘆いて出来た作品です。

でもまぁ太公望も大好きなんですけどね(笑



'06/01/25