『何も他に欲しくない どんな未来が来ても 貴方を思う輝き 心に咲いていれば 自由に咲いていれば』





「失礼します」



声と共にカチャリと音を立て開く扉

部屋に入って来たのは

聞仲の直属の弟子であり部下である



「聞仲様?」



は誰も居ない部屋をくるりと見回し首を捻る

そして再度部屋の中に誰も居ない事を確認すると部屋を出た



「あれ?じゃん、何してるの?」

「ん?あ、張奎…」



部屋を出て廊下を歩いていると、同じく聞仲の部下である張奎と出くわす



「聞仲様が部屋に居ないの…」



が困った様に言うと張奎は先程のと同じ様に首を傾げた



「そろそろ日も暮れるのに何処行かれたのかな」

「さぁ…、でも見つからないと困るわ」



は片手を頬に当てながら呟くと張奎に背を向けた



「とりあえずその辺探してみる」

「うん、僕はまだ仕事があるから」

「解った、それじゃ頑張って」

もね」



こうして張奎と別れ、は一人禁城の中を歩き始めた



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「聞仲様」



禁城内を散々探した挙げ句、は禁城の屋根に一人佇む聞仲を見つけた



か、どうした」

「どうしたじゃありませんよ、書類を持って行ったのに部屋いらっしゃらないから…」

「そうか、それはすまなかったな」



聞仲はそう言うと街を見下ろした



「聞仲様はこんな所で何を?」



が訪ねると、聞仲は日の沈む方向を見ながら呟いた



「殷の…再興を考えていた」

「………」



何処か寂し気に呟く聞仲にはそっと近付く



「殷は聞仲様が居る限り滅びませんよ、私も微力ながらお手伝いします」



そう言って微笑みかけるを、聞仲は見下ろして僅かに笑う



「頼もしい限りだな」

「はい、張奎も私も四聖も聞仲様の為なら死すら厭いませんから」



は聞仲の瞳を真っ直ぐ見つめて告げると、紅く染まる街を見下ろした





『渇いた華が散る様に 街が黄昏て行く 自分の事を知ってくれる 貴方が近くなる』





「綺麗ですね…」

「そうだな」

「民の全てがこの夕陽を美しいと思える日が来るでしょうか…?」



の問いに聞仲は目を伏せながら答える



「私達次第だろう」



聞仲の力強い言葉には視線を足下に移しぽつりと零す



「聞仲様…、正直私は不安で仕方ありません…」



聞仲は言葉通り不安そうな表情を浮かべる目をやる

そしてうなだれるの頭に手を乗せると優しく訪ねた



「お前らしく無いな、どうした?」

「それが…自分でも良く解らないんです……」



は表情を変えず聞仲を見上げる



「私は…聞仲様のお役に立てていますか?」

「もちろんだ、お前も張奎も良く働いてくれている」

「そうですか……、良かった…」



は聞仲の答えにほっとした表情を見せる

しかしまだその顔には不安が残る

聞仲はの頭に手を置いたまま続ける



「お前は体があまり丈夫では無いのに無理をさせてばかりだな」

「そんな…」

「お前は昔からそうだったな…、自分の管轄外であろうと頼んだ仕事は必ずこなしてくれる」



聞仲は昔を懐かしむ様にに語り掛ける



「お前程責任感があり頼れる部下は二人と居ない」

「有難う…御座います……」



珍しく饒舌な聞仲の言葉が嬉しくて、は思わず頬を赤く染める



「さて、そろそろ戻るか」



しかし、夕陽のお陰で聞仲はの顔色に気付く事無く黒いマントを翻し夕陽に背を向けた



「行くぞ

「はいっ」



そして聞仲の言葉にも夕陽に背を向け聞仲の後に続き城内へと戻って行った



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『きりが無いこの寂しさ 許さない ときめきから初めて』





「…………」



自室に戻ったはベッドに体を投げ出してぼんやり天井を見つめる



「聞仲様…」



しんとした部屋にの声が響く



「駄目だなぁ……私…」



深い深いため息をつきながらは呟く



「…許されないよね……こんなの…」



そう呟くとは目を伏せ眠りに落ちた



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『何も他に欲しくない もっと信じたいから 世界で一人しか居ない 私にきっとなれる 貴方の為になれる』





は夢を見た

それはが聞仲と出会って間もない頃の夢

思い出と言うにはまだ時間がさほど立っていない頃の夢





「はい、聞仲様」

「お前は私に忠誠を誓えるか?」



それは聞仲の下で働く事を決めた時に訪ねられた言葉

聞仲の問いには真っ直ぐ答えた



「はっ、この、聞仲様の手足となる事になんら異存はありません」

「それでは今日よりお前には我が殷軍の補佐官として働いて貰う事にしよう」

「補佐官…ですか」



首を捻るに、聞仲は淡々と答える



「そうだ、私と共に戦場に出て貰う」

「私が…聞仲様と戦場へ…?」

「やはりお前には無理があるか?」



珍しく挑発的な言葉を発した聞仲に周りの部下は一瞬ザワめくが、はただ真っ直ぐに聞仲の目を見つめていた



「いいえ、女と言えど技量的に男に引けを取るつもりはありません」



自分と聞仲を取り巻く部下を尻目にはキッパリと言い切った

その言葉を聞いて聞仲は初めて口元に笑みを浮かべた



「それなら良い、では明日から頼むぞ」

「はっ!!」



そしてこの日からずっと、は聞仲の傍で剣を掲げている



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『携帯だけで結ばれる 切ない人の群れ』





「武成王黄飛虎が殷を裏切った…?」



夢から目覚めたを待っていたのは、衝撃的としか言い様が無い出来事だった

張奎に叩き起こされ、連れて行かれた聞仲の部屋で知らされた事実には驚くしか無かった



「くそっ…あの女狐め……!!」

「そんな…黄飛虎様が……」



飛虎が殷を裏切ったのは妲己の仕業だと見抜いた聞仲は益々妲己への怒りを露にしている

しかし他の兵士達は妲己の素性等知るはずもなく、飛虎がただ殷を裏切ったのだと思い込んでいる



「聞仲様…、他の兵達の黄飛虎様への反感が強まっています……」

「それも女狐の狙いの一つだろう…、飛虎が戻って来られない様にする為のな……」

「…兵は全て妲己のテンプテーションに掛かっていますからね……」

「しかもあの女狐…、ご丁寧に飛虎に追手を差し向けたらしい」



聞仲は窓の外を見ながら何やら考え込んでいるようだったが、ふいに顔を上げた



「女狐の手下に殺される等この私が許さん」



そう呟くと黒く重たいマントを翻し黒麒麟を呼んだ



、黒麒麟と共に九竜島の四聖を呼んで来てくれ」

「四聖…って、聞仲様……本気で黄飛虎様を?」



四聖の名を聞きは息を飲んだ

聞仲は戸惑うに静かに頷いた



「これも全て殷と紂王陛下のため…」

「……解りました」



はそれ以上を追求する事は無く、聞仲の霊獣である黒麒麟に跨り禁城を後にした



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「と言う訳なの…、聞仲様の頼みを聞き入れてくれる?」

「水くさい事を言わないで下さいよ様」



九竜島を訪れたと黒麒麟が四聖の元へ着くなり事情を説明すると、王魔は笑いながら答える



「ぼくらは昔から聞仲様にはとても可愛がって貰っています」



李興覇はふよふよと袢黄珠に乗っかりながら王魔の後に続く



「聞仲様の為だったらどんな力にでもなりましょう」



李興覇の後に言葉を続けた高友乾の後ろで楊森が頷いた



「良かった…、くれぐれも妲己の手下等に黄飛虎様を殺させては駄目よ」

「ふっ…、任せて下さい」

「妲己の手下なんかぼくらの敵じゃないよ」

「それに太公望とか言う道士の力量も見てみたいしな」

様は早く聞仲様の処へお帰り下さい」

「有難う、それじゃぁ後は頼んだわよ!!」



こうしては九竜島を離れ聞仲の元へと戻って行った



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「ねぇ、黒麒麟」

「何ですか?」

「聞仲様は…どうして私に頼んでくれなかったのかな…」

「…黄飛虎様の始末の事ですか?」

「うん…」



聞仲の元へ帰る途中、が黒麒麟に漏らしたのは一種の不満の様な物だった



「私には解りませんが…、恐らく様が聞仲様の傍を離れては不都合があるのでは?」

「不都合…?」

「はい…、聞仲様は張奎様と様を両腕としておりますから…」

「……そっかぁ…、それが本当なら嬉しいな…」



黒麒麟の推測で不満も晴れたのか、は一つ息を吐いた



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『"愛"なんて 言い方より 熱くなる 唇から初めて』





「(様が聞仲様の傍を離れては不都合があるのでは?)」



黒麒麟の背中に揺られながら、は先程の黒麒麟の言葉を思い出す

もし黒麒麟の言う事が正しいのならそれはとても嬉しい事だ

聞仲に頼りにされる事が嬉しくない筈がない



「(でも何だろう…嬉しい筈なのに……何処か苦しい…)」



がぐるぐると思考を巡らせている間にも黒麒麟は朝歌へ向かいスピードを上げる



「(聞仲様…私は……、私は…)」



頼られれば頼られる程に嬉しくなる事は事実

しかし優秀な部下としてしか見て貰えない事に寂しさを覚える事もまた事実



「……ま」

「(どうして…? 私は聞仲様に忠誠を誓っている身……聞仲様を尊敬して仕えているのに…)」

「……様」

「………」

様?」

「あ、え、何?黒麒麟」

「いえ、先程から様子がおかしいので…」



黒麒麟の言葉で我に返ったは、頭を掻きながら返事をした



「ごめんね、ちょっと色々考えちゃって…」

「何か悩みでもおありですか?」

「うーん…、そうだね……、ちょっと悩んでる、かも」



は苦笑しながらそう答える



「ここの所ずっとそんな調子ですね…、聞仲様が心配しておいででしたよ」

「ぇ…、聞仲様が……?」

「はい、最近様に元気が無いと…」



黒麒麟の思い掛けない台詞に、思わずの頬は赤くなる



「そんな…私なんかの事を心配して下さるなんて、聞仲様ってやっぱり優しいなぁ……」



ぽつりとそう呟くを見て、黒麒麟はふいに一つ質問をした



様」

「何?」

様は聞仲様の事がお好きなのですか?」

「な"っ…」



黒麒麟のストレートな物言いに、は思わず背中から落ちそうになる



「黒麒麟…貴方いきなり何を…」

「すいません、少々気になったもので…」



何とか姿勢を持ち直したに黒麒麟が謝る

は暫く押し黙ったままだったが、ふと口を開いた



「…そりゃぁ………好き…だよ…」

「…………」

「聞仲様程尊敬出来る方は…そう居ないと思ってるし…」



はそろそろ見えるであろう朝歌の方向を見つめながら独り言の様に呟く



「私は…あの方の為なら喜んで命も投げ出すし、誰かを殺せと命ぜられたら何としてでも遂行する……」

「…それは忠誠心では…?」

「そうよ、私は聞仲様に忠誠を誓っているの、だから聞仲様をお慕いこそすれ恋愛感情だなんて…」





『何も他に欲しくない どんな未来が来ても 貴方を思う輝き 心に咲いていれば 自由に咲いていれば』





「見返りなんか求めてない…、聞仲様の傍に居られればそれで良い…、それだけで…充分なの」

様…」



のその言葉はまるで無理矢理自分に言い聞かせているようで

黒麒麟はの想いを知っているからこそどんな言葉を掛けたら良いのか解らなかった



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『強く思う気持ちから 何か変わり始める』





「聞仲様、ただいま戻りました」

「ご苦労だったな、四聖は何と?」

「はい、聞仲様の為ならどんな力にもなる、との事です」

「そうか」



の報告を受け、聞仲は満足そうに頷くと椅子を立ちへと歩み寄った

普段あまり見ない聞仲の行動に、は緊張した面持ちを隠せない

しかし聞仲は気にする様子も無く、を見下ろしながら訪ねた



「体の方は平気か?」

「え?あ、はい…、大丈夫…ですけど、何故ですか?」

「いや、この所様子がおかしかったからな」

「申し訳ありません…、黄飛虎様が居なくなって大変な思いをしているのは聞仲様なのに……」



聞仲の優しい言葉には思わず泣きそうになる



「聞仲様…、私の事は良いですから、どうか少しお休みになって下さい…」

「っふ、同じ様な事を張奎にも言われたな…」

「私も張奎も聞仲様をお慕いする気持ちは同じですから…」

「そうか…」



聞仲はそう言って自嘲気味に笑うとの頬にそっと手を置いた



「………」

「はい…」

「お前は…何処にも行くな」

「…え……?」



は聞仲の切り出した意外な言葉に驚き聞仲を見上げる

聞仲の顔は泣きこそしないものの何処か寂しげだった



「行きません…、聞仲様を置いて行く所なんて…、っ私にはありません!!」



先程から我慢していた涙がの頬を伝い零れ落ちる

それでもは真っ直ぐに聞仲を見上げたまま言葉を続ける



「何処にも行ったりしません、聞仲様の為なら何だってします、だから…だから……」

「……、私が悪かった…」

「っ!?」



言葉に詰まってしまったを見て聞仲は優しく微笑む

そして頬を伝う涙を人差し指で拭い、そっとを抱き寄せた

驚いて声も出ないを引き寄せたまま聞仲はゆっくりと喋り出す



「…私は……飛虎が居なくなって初めて…大切な友を失くす事の恐ろしさを知った……」

「…………」

「そしてふとお前まで居なくなる日が来る事を想像したら……」



聞仲はそこまで呟くと、自分を見上げているの肩に頭を埋めた



「情けない話だな…」



普段の聞仲からは想像も付かない低く小さな声

は震えそうになる腕をゆっくり動かし聞仲の頭を両腕で抱き締めた



「聞仲様…、私……聞仲様の事が…好き、です…」

「…………」

「本来許されない事なんだと解っています…、でも…私は貴方が…愛しいんです……」



聞仲の頭を包む腕に少し力が入る



「好きで…好きで…、どうしようもない位好きで…そんな貴方を置いて何処かへ行ける訳…絶対無いです…」

…」

「だから悲しまないで下さい…、どうか笑って下さい…、私は貴方だけの為に生きているんですから…」



の一生懸命な言葉を聞いて聞仲はゆっくり顔を上げた

そして未だに泣き止まないに口付ける



「私もお前を愛している…」

「…本当……ですか…?」

「あぁ…、例え許されない事だとしても……、私はお前を手放せない」

「嬉しい…です……」



聞仲の言葉に益々涙を流すを、聞仲はしっかりと抱き締めた





『世界で一人しかいない 私にきっとなれる』





『貴方の為になれる…』





-END-



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島谷ひとみの「解放区」で、聞仲Dreamでした!!

聞仲さん良いですよね、ストイックで不器用な感じなのに結構ギャグってたりしてw

元々親父好き属性もあるんで私的に飛虎と聞仲にはウハウハですよ(危

部下と上司って関係もかなり萌え所多いですよね(。+・`ω・´)

でも上手く表現仕切れなかった気がする_| ̄|○

精進精進。



'06/01/26