エスカ、ロジー、アウィン、ニオの4人が出発してから一夜明けた翌日

4人はようやく旧街道にある市街地へと辿り着いた



「はぁ〜、やっと着いたぁ…」

「結構時間掛かったな…」

「エスカちゃん大丈夫?」



その場に座り込んだエスカを覗き込み、ニオが心配そうに尋ねる



「はい、何とか…。ニオさんこそ大丈夫でしたか?」

「うん、エスカちゃん達が庇ってくれてたから私は全然平気だよ」



ニオがリフュール軟膏をエスカの頬に塗りながら答える横で、アウィンが荷物を降ろしながら明るく笑う



「いやぁ、枯れゆく平原の魔物があんなに活発化しているとは参ったね」

「あぁ。以前調査した時に比べるとヘビースキンが大分増えてたな…」

「変わりにドクの実モモンガは今回あまり見なかったね。生態系が少し変化してるのかも」

「うぅ、何かお兄ちゃんだけ全然疲れて無いよね…」

「ん?まぁ整備班って結構体力勝負な所あるからね。うちの班長の体格見てれば解るだろ?」

「確かにヘイジマン班長はいかにも!!って体格だけど…」

「だろ?とりあえず無事に着いた事だし、少し休んだら3人は探し物しておいでよ。俺は此処でキャンプ設営と見張りをしてるからさ」

「そうだな、そうさせて貰うか」

「ありがとお兄ちゃん」

「すみません、宜しくお願いします」



アウィンの提案にそれぞれ頷いた3人は、少しの休憩を挟んだ後やがて見張り役のアウィンを残し街の調査へと繰り出した



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「どうだ?あったか?」

「ぁ、ロジーさん。こっちにはそれっぽい建物は無かったです…。ニオさんの方はどうですか?」

「こっちも見当たらなかったよ。そんなに大きい街じゃ無いからすぐ見つかると思ったんだけど…」



元々の目的である環境調査を終わらせた3人は、が住んでいたと言う宿を探し歩いていた

しかし一通り街を回ったもののそれらしい建物は見つからず、ロジーは眉根を寄せて腕を組む



「もしかしたら街が廃止される前に取り壊されたのかもしれないな…」

「そうですね、他の家とかも結構荒廃してたし、実際は記録よりもっと前から撤退に向けて動いてたのかも…」



ロジーと同様にエスカも腕を組み2人で難しい顔をしていると、ふいにニオが何かを思いついたのかぽんと手を打った



「記録…?ぁ、そうだ」

「どうしたんですかニオさん?」

「あの、この街にもロジーさんが昨日持ってた街の資料みたいな物って残ってないですかね?」



そんなニオの言葉に、ロジーとエスカも顔を見合わせた後でハッとした表情を浮かべる



「確かに、この街の規模なら支部か役所にその類があってもおかしくないな」

「はい、問題は資料が残っているかどうかですけどね」

「そう言えば街の入り口辺りに街役場っぽい建物がありましたよね」

「言われてみればあったような…。良し、何か手掛かり位は見つかるかもしれないしひとまず戻るか」



ニオとエスカの提案を受け、ロジーは組んでいた腕を解くと2人に向けて声を掛ける

こうして一度アウィンの待つ旧街道市場へと戻ると、キャンプの準備を終えたアウィンが3人を出迎えた



「あれ、随分早かったね」

「お兄ちゃん、キャンプの準備はもう終わったの?」

「あぁ。丁度今終わって今から武器の手入れでもしようかなって思ってた所さ。そっちは探し物は見つかったのかい?」

「いや、残念ながら宿は既に無くなってたんだ。でも役場なら記録が残ってるんじゃないかと思ってさ」

「なるほど。役場ってあの建物だよね?」



そう言って街の入り口から見て真正面の位置にある建物を指差すアウィンにロジーが頷くと、アウィンはうきうきとした表情で立ち上がった



「何だか面白そうだし俺も行こうっと」

「面白そうって、遊びじゃないんだからねっ」

「あはは、解ってるって。とりあえず行ってみようよ」



両腕を腰に当てて自分を嗜めるエスカを余所に、アウィンは役所に向かって歩き出した



「ぁ、待ってよお兄ちゃん!!」

「…アウィンさんって、結構自由な方ですよね」

「そうだな」



一人で先に進むアウィンをエスカが追い掛け、そんなエスカの後に続きながらニオとロジーは苦笑する

そして一向はキャンプ地から程近い役所の入り口に辿り着くと、先頭を歩いていたアウィンが入り口のドアノブに手を掛けた



「あれっ、開いてる…?」



てっきり鍵が掛かっているものと思っていたアウィンは、抵抗なく開いたドアを見つめてエスカ達の方へと振り返る



「開いてるみたい。壊す手間が省けてラッキーだったね」

「ぇ、お兄ちゃん壊すつもりだったの?」

「ソールさんにバレたら怒られるどころの話じゃ無いな…」

「ま、まぁ結果的に壊さなくて済んだんですし」



アウィンの言動に冷や汗を浮かべるエスカとロジーに、ニオが苦笑しながらフォローを入れる



「兎に角、折角ですから探索しちゃいましょう」

「あぁ、そうだな」

「そうそう、結果オーライだよ。それで何だっけ、この街についての文献を探せば良いのかい?」

「うん、さんが居た宿について解るような資料とかかな?」

「後はこの街の失踪者や神隠しについての記録があればそれも調べたいな」

「なるほど…、とりあえず資料とか本とかだね」



目的を再度確認しながらエントランスへと入った一同は、薄暗い役所の中をぐるりと見渡した

受付と見られるカウンターには名簿が置かれ、窓の脇に置かれた机にはグラスが置かれている



「どうやら保存状態は当時のままに近いみたいだな…」

「そうだね。この分なら他の資料も期待出来そうだけど、結構広いし手分けした方が良さそうだ」

「それじゃぁ私は2階を見て来ようかな?」

「ぁ、私もエスカちゃんと一緒に2行きます」

「解った。なら俺とアウィンは1階だな、何かあったら呼んでくれ」

「はーい、それじゃまた後で!!」



エスカの一言で4人は2階と1階に分かれ、それぞれ捜索を開始したのだった



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一方、その頃コルセイトではソールが一見いつもと変わらない様子で黙々と机に向かっていた



「………」

「……、」

「………」

「…なぁソール」

「なんですか、支部長」

「そんなに気になるならお前もエスカくんやロジーくんに付いて行けば良かったんじゃないか…?」



いつも通りに見えるソールも父親から見ればそうでも無いのか、朝からチラチラと時計を気にしている様子のソールの背中にコルランドは話し掛ける

しかしソールはコルランドの方へ振り返るといいえ、と首を左右に振った



「総務の仕事がありますから、そう言う訳にはいきません」

「それはそうかもしれないが…」

「アウィンもついている事ですし、ロジーさん達の事なら心配していません。私にはこちらでやる事もありますし…」



コルランドに向けてそう答えた所で、正午を知らせる鐘が鳴り響く



「すみません支部長、昼食の時間ですので失礼しても宜しいでしょうか」

「あぁ、そうだな」

「では失礼します」



立ち上がったソールは軽く頭を下げ、足早に支部の出口とは反対の扉を開けて出て行った

そんなソールの背中を見送ったコルランドは医務室へと続く扉を眺めながら合点が行ったように呟いた



「なるほど、行きたかったのはそちらの方か…」



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「ねぇエスカちゃん、これ…」



4人が探索を開始して少し経った頃

2階にあった資料室の資料の一つを手にしてニオがエスカへと声を掛けた



「どうしたんですかニオさん」

「この本、この街で起きた行方不明者についてのリストみたいなの」

「本当ですか!?それならさんの名前も載ってるかもしれないですね…」



エスカの言葉に小さく頷き、ニオは机に置かれた分厚い本をパラパラと捲っていく



「「ぁっ」」



途中、と同じ名前を見つけた二人は互いに顔を見合わせる



・ハイドランジア…。これ、さんの事ですかね?」

「どうだろう…、えぇと、・ハイドランジア、19歳、自宅にて昏睡中に眩い光に包まれ消失、その後行方不明…」

「自宅にて昏睡中…。確かさんも衰弱するまで泣いて気付いたらあの場所に居たって言ってましたよね」

「うん…。写真は載ってないけど、内容読む限り多分これがさんで間違い無いんじゃないかな」



二人が真剣な様子で資料を読んでいると、ガラリと資料室の扉が開き1階の探索を終えたアウィンとロジーが入って来た



「エスカー、そっちは何かあったかい?」

「あ、お兄ちゃん、ロジーさん」

「1階は特に手掛かりらしい手掛かりは無かったよ」

「今丁度手掛かりらしき文献を見つけてエスカちゃんと読んでいた所です」



ニオはそう言ってアウィンとロジーに先程のページを指差して見せる



「何々…、自宅にて…、昏睡中に消失?随分突飛だね…」

「いきなり光って消えちゃうなんて、不思議ですよね」

「いや、でも彼女が現れた時のホムンクルス達の証言を聞くとありえない話じゃ無いのかもしれないな…」

「そう言えばお姉ちゃんも私が現れる時はその場が光ってたって言ってました」



4人は机上の本を囲みながらそれぞれに考えを口にする



「でもこれが本当にさんの事だとしても、その自宅だった宿屋自体はもう無くなってるみたいだしな…」

「そうですよね、他に何か解りそうな場所なんて…」



ロジーの呟きに頷きながら更にページを捲っていたエスカは、やがて何かを見つけて小さく声を上げた



「ぁ」

「どうしたエスカ」

「あの、ここに"行方不明者は全員郊外にある石碑に名前を刻んだ"って書いてあります」

「ん?あぁ本当だ。郊外の石碑って言うと街道の野営地の辺りかな…?」

「アウィンさん、そこって此処から遠いんですか?」

「いや、郊外と言っても小さな街だからね、30分も掛からなかったと思うよ」



ニオの問いにアウィンが答えると、ニオは3人に声を掛けた



「もし良かったら、今からこの石碑を見に行きませんか?」

「あぁ、これ以上の手掛かりは此処では見つけられ無さそうだし、とりあえず行ってみるか」

「そう言う事なら行ってみようか。案内なら俺に任せて」

「よーし、それじゃぁ早速出発です!!」



エスカの声を皮切りに、4人は揃って市街地を出ると街道の野営地へと向かった

アウィンの言う通り30分程で辿り着き、石碑を探す為に4人はそれぞれ辺りを散策する



「おーい、皆、こっちに来てくれ」



ロジーの声に3人が向かうと、そこには高さ3メートル程のクリスタル型の石碑がどんと聳え立っていた



「これが石碑…?」

「あぁ、少し汚れていて見難いけど、それぞれの面に人の名前が書いてある」

「本当だ。そうなるとさんの名前もこの中にあるんだろうけど…、探すのは大変そうだね」

「………」

「ニオさん、どうかしましたか?」



石碑を見上げる3人を余所に、地面をじっと見つめているニオに気付きエスカが声を掛ける

するとニオはその場にしゃがみ込み、石碑の周りに咲いていた花の一つに手を伸ばした



「この花…、何となく懐かしいような……」

「これですか?わぁ、何だか凄く綺麗なお花ですね…!!」

「花?あぁこの周りに咲いているやつか…。さんが現れた時に咲いていた花とは違うものだな…」



ニオとエスカのやり取りを見ていたロジーも石碑の根本に群生している花を見下ろす



「これは光花の結晶の材料…では無いですよね、光ってないし…」

「うーん…、確かに光っては無いんだけど……、でもイグドラシルで見掛けた様な…」



小さな花弁が集まったような花を見つめてニオが首を傾げていると、ふいにアウィンがあった!!と叫んだ



「あったよ、ほらここ、・ハイドランジア、って彫ってある…って、うわぁっ!?」



一人石碑から名前を探し続けていたアウィンがそう言って石碑を指差した瞬間

ニオやエスカが見つめていた花が一斉にキラキラと眩い光を放ち始めた



「な、何だ!?」

「お花が光り始めた…!?」

「あっ、これやっぱりイグドラシルにも咲いてたやつです…!!」

「本当かニオ?」

「はい、これなら精油の材料になる筈です」

「そうなるとさんが現れた時の花と、ホムンクルスが用意してくれている花と、これで合計3種類だな」

「これなら光花の結晶が作れますね、ロジーさん!!」

「あぁそうだな。早速採取して持って帰ろう」

「はいっ」





こうしてキラキラと光る花のいくつかを採取した4人は、石碑を後にするとそのまま市街地へと戻ったのだった








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