翌日

開発班の会議室に集まったのはソール、ニオ、エスカ、ロジーの4人

4人はそれぞれ円形の机を囲みながら今後の方向性について話し合いを行っていた



「とりあえず、さんの居場所を特定しない事には始まらないな」



腕を組んだロジーがそう切り出すと、一同はロジーの意見に同意するように頷く



「でも身体は此処にあるのに"居場所を探す"って言うのも、何だか変な感じですよね」

「まぁ確かにな」

「ぇっと、今医務室にあるさんの身体は、歳も取らないし動かない…、ある意味人形みたいな状態なんです」



首を傾げるエスカにロジーが頷く横で、ニオは机の上の白紙に人型の絵を書いて3人に説明して見せた



「お人形…」

「そう言えば錬金術や魔法には人形に魂を宿らせる方法があったよな…。
もしかして今ならさんの身体に別の魂を宿す事も可能だったりするのか?」

「ロ、ロジーさん…その発想はちょっと怖いです…」

「ウィルベルさんなら解るかもしれないけど、私は流石にそこまで詳しくないから…」



ロジーの何気ない問いに若干引き気味で答えるエスカとニオに、ロジーは慌てて弁明する



「いや、別に可能性について何となく思っただけで実際試そうとかそんな事は考えてないからな!?」

「あはは…。でも、さんが万が一悪い魔法使いや錬金術師に見つかったらそう言う事に悪用されちゃう可能性もあるって事ですよね」

「そうだね、だから一刻も早く魂をさんの身体に戻してあげないと…」

「魂か…。戻すって言ってもどうすれば良いんだ…?」

「捕まえた魂をさんの身体にぎゅって入れる、とか…?」

「うーん…。私も良く解らないけど、多分そう言う事じゃないと思うな…」



エスカの問いにニオが苦笑して答えると、それまで黙って3人の会話を聞いていたソールが静かに口を開いた



「つまり、さんの身体と魂は現在分離していて身体はコルセイトに、魂は次元の狭間にある、と言う事ですよね」

「多分、そう言う事だと思います。」

「それならまずはその"次元の狭間"とやらの場所を特定する必要があるんじゃないですか?」

「確かにそれが一番的確ですね。でも"次元の狭間"が何処にあるかなんて一体どうやって調べれば良いんだろうな…」



ソールの提案にロジーが同意しながらも疑問符を浮かべると、ニオが顔を上げた



「ぁ…、そう言えば前にお姉ちゃんが私を助ける時に、私の居場所を調べる為に発信機を作ってくれました」

「発信機?」

「はい、スラグの形をした機械って言うか人形って言うか…」

「人形…?それをどうやって使ったんだ?」

「ぇっと、まず光花の結晶を使ってスラグを活性化させて、それから夢の中で私に発信機を渡して、
私を捕らえていた存在と場所をその発信機を使って特定したみたいです」

「それじゃぁ私達もその発信機を作って夢の中のさんに渡せば良いのかな?」

「うん、夢の中でさんに会える事は解ったし、可能性は高いと思う」

「ニオ、その発信機のレシピは解るか?」

「ぁ、はい。確か…」



ロジーに尋ねられたニオはこくりと頷くと発信機のレシピと光花と結晶のレシピを黒板に書き出した



「確か、こうだったと思います」

「エーテル石晶体にドナーシュテルン、スラグの塊石に研磨剤、か…」

「これなら今ある素材だけでも作れそうですね!!」

「あぁ。ただ問題はこっちだな…」



ニオの書き出した光花の結晶のレシピを指差すロジーにソールは尋ねる



「何か問題が?」

「えぇ、光花の結晶を作るには光花の精油と光る花びら3種類が必要で、昨日採取した花だけだと足りないんです」

「採取に行くにしても光る花びらなんてコルセイトじゃ見た事も聞いた事も無いですもんね…」

「光る花びら、ですか…」



ロジーの説明を聞いたソールは顎に手を当てぽつりと呟くと、顔を上げてエスカとロジーに声を掛けた



「とりあえず、1種類でしたら心当たりがあります」

「本当ですか!?」

「えぇ。それが素材として使えるかどうかは解りませんが…」

「それは何処にあるんですか?」

「ホムンクルスがお葬式の時に使用している物なので、ホムンクルス達に聞いてみないと解らないですね」

「ホムちゃんのお葬式って…」



ロジーの質問に答えるソールの発言に、エスカとロジーは驚いた表情を見せる



「ホムンクルスって死ぬのか…」

「死ぬのでは無く転生だ、と本人達は言っていますけどね。実際数秒で此方の世界に戻って来ますし」



エスカとロジーに説明するソールの横で、ニオもそう言えば、と言葉を続ける



「ホムンクルスのお葬式にお姉ちゃんが立ち会ってる所なら、私も見ました。



確かあの時は良い匂いに誘われて、行ってみたらお姉ちゃんとホムンクルスさんがたくさん居て…」



「ニオさんの言う良い匂いと言うのは、恐らくその光る花びらの事だと思います」



ニオの説明を聞いたソールが補足すると、ソールの足元から1匹のホムンクルスがひょこりと顔を出した



「それは ちんこんのはなびら だな」

「わっ、びっくりしたぁ」

「全く気配に気付かなかったな…」

「あぁ、貴方も来たんですね。さんの様子はどうでしたか?」

はやっぱりねてるな おきるけはいは ないぞ」

「そうですか」



ソールがホムンクルスの報告に頷くと、ロジーがホムンクルスに向かって尋ねる



「その鎮魂の花びらは何処に咲いてるんだ?」

「あのはなびらは にんげんにはみえないところに さいてる」

「そうなのか…」

「だれか うまれかわるのか?」

「ううん。えぇとね、その光る花びらがさんを起こすのに必要なの」



不思議そうに見上げるホムンクルスにエスカが説明すると、ホムンクルスは納得した様に一つ大きく頷いて胸を張って見せた



「わかった それなら おれがようい してやる」

「良いんですか?」

「もちろんだ でも ちょっとじかん かかるぞ」

「えぇ、構いませんよ。用意出来たら私の所へ持って来て下さい」

「わかった まかせとけ」



ホムンクルスは自分の胸をトンと叩くと、足早に会議室を後にした



「良し、これで2種類だな。後もう1種類か…」

「クローネなら何か知ってるかなぁ…」

「いや、それより一度旧街道に行ってみないか?」

「ぇ?」

「ほら、昨日ソールさんが聞いた話じゃさんは北の町の出身なんだろ?」

「えぇ、そう言っていましたね」

「あの辺に人が住まなくなったのは150年前位の話だから、もしかしたらさんの住んでた家がまだあるかもしれない」



ロジーはそう言いながら昨日確認したまま手元に残しておいた『コルセイトの歴史』の1冊を取り出し開いて見せる

そのページにはコルセイト近郊の村や街についての書いてあり、北の街が街としての機能を失った当時の事が記されていた



「そう言えば、さんのお家って宿屋だったって言ってましたよね」

「そっか、宿ならまだ残ってるかもしれないし、探しやすいですよね」



ニオの言葉にエスカも同意したところでロジーはソールに声を掛ける



「丁度旧街道市場の環境調査も依頼されてましたし、開発班の仕事のついでって事で良いですかね」

「そうですね…。今の所出来る事は限られていますし、調査の一環としてと言う事で承認しましょう」



ソールがそう言って頷くと、エスカは勢い良く立ち上がり片手を上げた



「よーし!!それじゃぁ早速出発しましょう!!」

「は?おいエスカ、お前まさか今から向かうつもりか?」

「もちろんですよロジーさん。まだ午前中ですし旧街道なら今から出れば明日の朝には着けますよ!!今なら溜まってる書類もありませんし!!」

「まぁ、確かに今の所他の予定は無いけど…」

「そうそう。それに善は急げって言うじゃないですか」

「…そうだな、こう言うのは案外勢いが大切だよな」



エスカの説得にロジーも同意し立ち上がるとニオも同じように席を立ち2人に声を掛けた



「エスカちゃんとロジーさん、その調査って私も着いて行って良いかな」

「あぁ、ニオが着いて来てくれたら助かるな」

「ニオさんが居れば不思議な声とか光るお花の事がもっと解るかもしれないですもんね」

「良し、それじゃぁ準備もあるだろうから1時間後に支部前に集合にするか」

「はーい。ぁ、私お兄ちゃんにも声掛けて来ます!!」

「解りました、私も一度戻って支度して来ますね」



こうしてエスカは気球の整備場にアウィンを呼びに、ニオはりんご園に間借りしている自室へと戻って行った

エスカとニオに続いてソールも会議室を出ようとした所で、ロジーがソールに尋ね掛けた



「ソールさんは一緒に行かないんですか?」

「はい?」

「いや、何かソールさんも行きたそうな顔してたんで…」

「そんな顔をしたつもりはありませんが…。まぁ私は開発班ではありませんし総務の仕事もあるので現実的に無理でしょう」

「まぁそれはそうですよね…」

「こちらはこちらで出来る事をしておきますから、そちらはそちらですべき事をして下さい」

「解りました」

「ただし、あくまでも環境調査が目的だと言う事は忘れないで下さいね」

「もちろん解ってますよ」

「えぇ。むしろ心配なのはロジーさんよりエスカさんですね」

「はは、確かに」



そんなやり取りを交わしながら、2人は会議室を後にしロジーは開発室へ、ソールは総務部へと戻って行った





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