「おはよ〜」

「…………」

「今日も音楽聴いてるの?」

「…………」

「へぇ…それ良い曲?」

「…………」

「じゃぁ今度私にも貸してね」

「…………」

「ありがと、んじゃ私行くね、ばいば〜い」

「…………」










『心の鍵』










今日も何も話せなかった

本当はちゃんと会話をしたいのに

なぜか声が出てこない

猿野や犬飼を前にして喋れないのとは何かが違う

言いたい事はあるのに…

何故か喉の辺りで止まってしまう

彼女は…

こんな自分をどう思ってるんだろう



「やっほ〜!」



放課後のグランド

野球部のメンバー達がぞろぞろと部活動を開始し始める

そんな中司馬の前に現れたのは、部員でもマネージャーでも無いだった



「………!!」

「そんなに驚かないでよ、私はお化けじゃないんだから〜」

「…………」

「え?なんでここに居るかって?今日はもみじ達の手伝いなの」

「…………」

「別に〜、私もなんだかんで野球部は嫌いじゃないし、楽しいから平気だよ」

「…………」

「うん、ありがと、司馬も練習頑張ってね!」



今日もは自分の言いたい事や聞きたい事を全て理解してくれる

それだけで十分だと思う

本当なら声を出さないと分かって貰えるわけないのに

には自分の言いたい事が伝わっている

それだけでも満足しなくちゃいけない

それ以上の事を望むのならば

自分から声を掛けるくらいはしないと…



「…………」

「ん?何か言った?」



が振り返る



「………、」



と目が合う



「司馬?なんか変だよ?大丈夫?」



言いかけた言葉が全て引っ込んでしまう



「………っ」

「あ、司馬!!」



司馬は走って行ってしまった

逃げてしまった、と言う表現の方がふさわしいかもしれない

は不思議そうに司馬が走っていった方を見つめていた



「変な奴…」



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どうして逃げてしまったんだろう

と目が合っただけなのに

息が出来なくなった気がした

声が出ないと言う問題よりも前に、息をする事すら困難となってしまった

は一体こんな自分をどう思っているのだろう

この頃考えるのはそんな事ばかりだ



「司〜馬〜くん!」

「…………」



お昼休み

いつものように教室に兎丸が遊びに来る



「あれ?元気ないね、そうしたの?」

「…………」



司馬は今までの事や自分の気持ちを兎丸に話した



「ん〜と?つまり司馬くんはちゃんの事が好きで、ちゃんが自分をどう思ってるか知りたいの?」

「………」

「そっか、じゃぁ僕が聞いて来てあげるよ!」

「………!?」

「そんじゃぁ行って来ま〜…うわっ!?」



の元へ行こうと歩き出した兎丸を司馬は制した



「な、何々?どうしたの司馬くん」

「…………」

「え?聞いて欲しくないの?」

「…………」

「聞いて欲しいけど聞いて欲しくないって…良くわかんないや」

「…………」

「恥ずかしいの?」

「………」



司馬は静かに何度も頷く

兎丸の気持ちは嬉しかった

しかし人づてに聞きたいような事では無い

出来るなら自分で聞きたい

でもそれが出来ない

だからこそ悩んでいるのだと兎丸に告げる



「そっかぁ…ちゃん、結構鈍そうだもんね〜」

「……、」

「言わなきゃ絶対に伝わらないよね、きっと」

「…………」

「大丈夫だよ、怖がらなくてもちゃん、司馬くんの事嫌いじゃ無いと思うし」

「………?」

「これは僕の勘だけどね」



兎丸は微笑むと司馬に言った



「頑張ってみれば?きっと何とかなるよ〜!」

「…………」



司馬は少し考える

勇気を出して自分の気持ちを伝えたら

相手は何と思うだろう?

はたして自分の気持ちを受け入れて貰えるものなのか

どうしても引っ込み思案になってしまう

しかし何も言わなければ何も動きはしない



「………」



司馬は誰にともなく頷いた

それは決心の証だったのかもしれない



授業開始5分前のベルが鳴る



「っと、僕はもう行かなきゃ、それじゃぁ司馬くん、頑張ってね!」



そう言うと兎丸は物凄いスピードで自分の教室へ走っていった



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「今日も良い天気だな〜っと…」



放課後

がのんびりと屋上で過ごしている

今日は野球部の手伝いは無いらしく、お気に入りの場所でくつろいでいるようだ

屋上からグランドを見下ろす

野球部やサッカー部の人たちが活動しているのが小さく見える



「良い気持ち…」



ふと一匹の鳥がの目の前に降りて来た



「人間が怖くないの?」

「………ピィ?」

「そっか…不思議な子だねぇ」

「…………」

「なんか…司馬に似てるねぇ、君は」

「…ピピィッ!」

「あ…」



鳥が飛んで行ってしまった次の瞬間

屋上の鉄扉が重い音を立てながら開いた



「司馬…」

「………、」

「今ね、司馬に似た鳥と話してたんだ」



鳥が飛んで行った方向を見つめてが呟く



「…………」

「ねぇ…司馬はさ、私の言葉がわかる?」



は司馬の方に振り返る



「…………」



司馬は迷わずに首を縦に振る



「そっか…ありがと」

「………?」

「ん?いや…別に何でもないよ、変な事聞いてごめんね」

「………、」

「どうもしないよ、ただ…ね、」



は再度空を仰ぎながら話出した



「鳥とか、猫とか犬とか、動物って人間の言葉が通じても、私達は何言ってるかわからないじゃない?
 本当に言葉が通じてるわけじゃないし…だからね、動物は人間を恐がるんだと思う」

「…………」

「だから、動物が喋れたらきっともっと仲良くなれるんじゃないかなーと思って」



子供っぽく微笑む



「…………」

「だから、司馬が喋ってくれたら…私はもっと司馬と仲良くなれるんだよね、きっと」

「……、」

「っと、別に無理強いしてるわけじゃないよ?ただ…ちょっと思っただけだから」



司馬はの言葉で先刻の決意を思い出す



−"話そう"−



−"伝えよう"−



そう心に決めたはず



今なら



きっと伝えられる気がする…



「………、」

「ん?」



が司馬の方を向き直ったと同時に司馬はをその腕に包み込む



「司馬…?」



少し驚いているの耳元に顔を近づける



「俺………が…好き」



耳元でそっと囁く

それはとても小さな声

しかしの耳には十分伝わった



「………」

「………」



お互い恥ずかしさのあまりに沈黙してしまう

の顔は耳まで真っ赤だ



「……司馬の声…」

「………?」

「結構低いんだね、驚いちゃった」



は司馬の腕に抱かれたまま呟いた



「……ありがとう」

「…………」

「凄い嬉しいよ」

「…………」

「ね、もう一回言って?」

「……っ」

「あはは、冗談冗談、」

「………」

「あのね、」



はそう言うと司馬の腕から抜け出して司馬を正面に見据えた



「私も、司馬の事好きだよ」

「………」

「だから、司馬が喋ってくれるの、ずっと待ってたんだ」

「…………?」

「だって…司馬全然喋らないから私の事どう思ってるのかわからなかったし…」

「…でも……は…俺の言う事、わかってたでしょ……?」

「うん、でもそれはやっぱり喋ったって事にはならないじゃん」

「………、」

「司馬の言葉がちゃんと聞きたかったの、だから…嬉しかった」



は優しく微笑む



「ねぇ、やっぱりもう一回言って?」

「………、」



子供の様なに負けた司馬は再度を自分の胸に引き寄せる



「好き…だよ、これからも……ずっとの事大切にする…」







- END -








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あ、このDreamは今見ても割とマシな気がする_| ̄|○

当時(高校1年生位)の自分の文章の中には、今では思い付かない様な表現も結構あります。

過去の作品が恥ずかしいって事は多少なりとも私も成長しているんでしょうかね?

いや、それにしても本当にミスフルのDreamを描き始めたキッカケすら思い出せないとは…

そこまで贔屓のキャラっていませんでしたしね…

あえて言えば子津っちゅぅかな(笑

まぁ今は紅印姐様一筋ですけどvvv