人を見下すのが好き

だって優越感に浸るって凄くいい気分でしょ?

だから、部活も、勉強も、それなりにきちんと努力してる

でも決して自分から頑張ってるなんて言わない

だって、そんなの格好悪いじゃない










『羽化する心と君の声』









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〜凄いね!掲示板見たよ!!」

「あ、おはよう〜。掲示板がどうしたの?」

「もうとぼけちゃって!今学期の成績!学年トップじゃん!」

「え?あぁ、そう言えばもう結果出てたんだよね」

「見てなかったの?」

「うん、すっかり忘れてたよ」

「あはは、らしいね。でもなんでそんなにぽやっとしてるのにあんなに良い点取れるの?」

「酷いなぁ。私これでも真面目なんだよ〜?」

「ごめんごめん、でも本当凄いよね!頭の良い人って本当羨ましいよ」



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クラスの子のお喋りに笑いながら付き合う

こんな会話は無意味だ

でもそんな素振りは見せず、ただにこにこと付き合ってあげる事にしている

人望は厚いければ厚い程自分の立場が優位になる

私がぽやっとしているのはそう見せているだけ

人当たりの良い子を演じる為に一番適しているのが

"ちょっと天然ぽい女の子"

だっただけだ



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「ねぇねぇ、また告白されたんだって?」

「ぁ、うん…」

「で、どうしたの?結構格好良い人なんでしょ?」

「ぁー…格好良いけど、断っちゃった」

「なんで!?超勿体無くない!?」

「だって私今彼氏とかいらないもん、友達と遊んでる方が楽しくて良いなぁ」

「くぅ〜〜羨ましい台詞!!いいよねはモテモテで!!私にも分けてって感じ!!」

「あはは、そんな事言ってそっちは彼氏とラブラブでしょ〜」

「えへへ〜、まぁねぇ〜〜〜」



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まぁ、自分で言うのも何だけど、私は確かにモテる方だ

でもそんな物はやっぱり何の役にも立たない

高校生の男なんて所詮馬鹿ばっかりで

どうせ大した中身なんか見ず見た目でしか判断してないんだから…

しかしまぁ"勿体無い"とか、そう言う基準で異性を見る事についてもどうかと思う

…誰が何を思おうと私には関係無い事だけれど



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「ちょっと、アンタが?顔貸して欲しいんだけど」

「ぇ、なんですか?」



突然声を掛けられて、抵抗もロクに出来ないまま連れてこられたのは校舎裏の目立たない場所

呼び出すにしてもベタな場所選ぶものだ

馬鹿みたい



「あんたさー、ちょっといい気になってんじゃない?」

「…何がですか?」

「ちょっとモテるからって手当たり次第に男ひっかけて、まじムカつくんだよね、そーいうの」

「私、そんな事してませんけど…」

「はぁ?しらばっくれんの?そーいう態度もムカつくよね、なんか余裕ですって感じ振りまいちゃってさぁ」



嗚呼

話が通じない

馬鹿相手には何を言っても無駄なんだ

私は面倒臭いなぁと思いながら、盛大に出そうになるため息を飲み込んで俯いた



「ちょっと聞いてんの?」

「ぁの…、ごめんなさぃ……」

「は?な、何泣いてるわけ?」



少しうろたえている先輩を前に私はさめざめと泣いてみせる

もちろん嘘泣きだけど

嘘だろうが何だろうが、女である限り喧嘩なんか泣いたほうが勝ちだ



「だって…私……本当に…そんなつもりなくて…」

「ちょっと泣かないでくれる?何、誤魔化すつもり?」

「そんな……」



更に泣いてみる

人通りの無い場所とは言え、いつ誰がやって来るか解らないこの場所で、泣いている女と泣かせている女

傍から見ればどちらが悪いかなんて一目瞭然

焦る気持ちは解らないでも無い

でもこの位で焦るんだったら最初から呼び出さなければ良いのに…

本当に馬鹿みたいだ



「すみま…せんで……した…」

「と、とにかくさぁ、わかればいいから!!」



逃げるように走り去った先輩の後姿を冷ややかに見つめ、私はようやく息を吐き出す

イライラと、どす黒い物が胃の中に溜まっているように感じる

今日のような根拠の無い呼び出しが最近増えたせいかもしれない

でも私はこういう時絶対に歯向かったり抵抗したりはしてあげない

私が怒れば怒る程、相手に取っては付け入る隙になるのを知っているから

だからあぁやって一生懸命謝る振りをしてやり過ごしている

女は群れるとすぐに敵を作りたがるのが厄介だ

元々私自身に確固たる恨みを持ってる人間なんていないのに、

標的を作る上で成績が良くて男子からモテて教師からも人望の厚い私がやり玉にあがる

くだらないくだらないくだらない



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色々な事があるけれど

こうして毎日は過ぎていく




成績は常に上をキープする

内心で馬鹿を見下すのはとても気持ちの良い事だから

もちろん口には出さない




同じような毎日が繰り返される




誰にでも笑顔を振りまいて絶対に嫌な顔はしない

ここぞと言う時に人を使うなら、日頃そうしておいた方が得だから

もちろん態度には示さない




こんな私に皆騙されている




先輩に文句言われても絶対に歯向かわない

歯向かえばそこで負けた事になる、常に下手に出ていた方が有利だから

もちろん愚痴や不満だって誰にも話さないし漏らさない



あぁ、世の中馬鹿ばっかりだ…



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「ぁ、あの、さん」

「ん?あ、子津くん…どうしたの?」



ある時、一人の男が私に話し掛けて来た

確か同じクラスの子津忠之介だ

あまり興味が無いので良くは知らないけれど、地味で大人しく目立たないタイプだ

とりあえずどんな相手でも、笑顔で対応しておけば問題は無い

そう考えた私はいつも通りの笑顔で尋ねた



「大丈夫ッスか?」

「へ?」



そんな突然の台詞に、私は思わず素に近い声を上げてしまう

いきなり何を言い出すかと思えば…

コイツは何の心配しているのだろう?



「ぇっと…、大丈夫って、なんの事?」

「いえ、なんかさん…いつも悲しそうな顔してるッスから…」



…理解不能だ

私が悲しい顔をしてる?

もちろん、必要な時はそういう演技もたまにはする

でもそれは"いつも"している訳じゃ無い

私は目の前の男から出る言葉の意図が解らず、曖昧に首を傾げた



「そうかな?自分じゃそんなつもりないし、いつもじゃないけど、大体は元気だよ?」



何が言いたいのかは解らないけどどうせコイツの気のせいだ

早く何処かに行ってくれないかな、と、そんな事を思いながら私は少しおどけた様に微笑んで答える



「…さんは……なんで笑わないんッスか?」

「え…?」



もう嫌だ

何なんだコイツは

次は私が笑ってないだなんて

馬鹿言わないでよ

まさに今、お前に向かってしっかりと微笑み掛けてあげてるじゃない!!



「ぇ…と、その、ごめんなさい。今言った事は気にしないで欲しいッス…。じゃ僕は部活あるんでもう行くッス」

「ぁ、ちょっと…」



私が言葉を発する前に

子津は私に背を向けるとそのまま行ってしまい、私だけがその場に取り残されてしまった

遠ざかる背中をぼんやりと見つめながら、私は心の中で問答を繰り返す

今のは何だったんだ

アイツは何がしたかったんだ

私に何を聞きたかったんだ

意味がわからない

本当にわからない

けれど、私を見るアイツのは目は何だか私を憐れんでいる様に見えた

もしかして、気付いているとでも言うのだろうか?

私の言葉が

私の笑顔が

私の行動が

全て全て薄っぺらな嘘だと言う事に

まさか

そんなわけない

そんな事

絶対に許されない




― TO BE CONTINUED? ―