「やぁ、遅かったじゃないか」




そう言いながら笑みを浮かべる奇術師が一人





「だって、ヒソカってば…足、早いんだもん」





奇術師の言葉に走り立ての体で一生懸命答える女が一人





「でも良かった、追いつけて」

「僕が待っていてあげただけで実際追いつけては居ないけどねぇ?」





安堵のため息を漏らす女の前で奇術師は皮肉を口にくすくすと笑う

しかし女は嬉しそうに笑った





「うん、待っててくれて有難う」





それは大層無邪気で可憐

何の疑いも無い表情で女は心底嬉しそうに言い放った





「君のその単純な脳味噌は見ていて飽きないからね…」





奇術師がそう呟くと女は首を傾げる





「まだ、飽きてないんだ?」

「うん、まだ全然飽きる気配が無いねぇ」

「そっか」





納得した様に頷く女に奇術師は意地悪く微笑み掛ける





「でも僕は嘘つきで気紛れだから、次の瞬間には君に愛想をつかすかもしれないよ?」

「うん、そうなったら嬉しいな」





凡そ一般人には理解出来ない会話を淡々と交わして行く二人

女は早く奇術師に飽きられたい、と

そう望んでいるらしい

しかしそれは別に女が奇術師を嫌っているからという訳ではない

そしてその女の言動に怒るでも悲しむでも無く奇術師はくすくすと笑い続けている





「う〜ん…、そう言われちゃうとそう簡単に手放す気にはなれないねぇ…」





奇術師は女の願望を遠ざける言葉を投げかける

しかし女はそんな言葉を聞いて、尚更微笑んだ





「それはそれでヒソカの傍に居られるから、嬉しいよ?」





女のその笑みと言葉に奇術師は目を細め、笑い、そして呆れた





の望みがその二つである限り…、僕は君に勝てそうにないなぁ」





奇術師はそう言いながらも余裕たっぷりに笑うと、遊んでいたトランプを何処かへ消し去り立ち上がった





「さて、そろそろ僕は行くよ?」





女は奇術師に追いついて間も無く、ほとんど休んで居ない

肩で息をしている程を見れば残りの体力が少ないのは明白だった





「うん、解った」





しかし女は元気良く返事をしてみせる

別に強がっている訳でも無ければ疲れを感じていない訳でもない

ただ、奇術師が"行く"と言ったから、それを追い掛ける

それだけの事





「息が上がっている様だけど…、大丈夫かい?」





奇術師は尋ねる

もちろん優しさなんかでは無い

此処で女が辛いと言おうが奇術師はそのまま進むだろう





「うーん…、頑張る」





辛い、とも無理、とも言わない

しかし大丈夫、とも平気、とも言わない

嘘も虚勢も一切無い

ただ一言、奇術師に付いて行くという意思だけを女は示した





「そう…、それじゃぁ頑張ってね」





奇術師は言うが早いか姿を消した

消えた様に見える程早く進んでしまっただけだが





「相変わらず早いなぁ…」





女は奇術師が消えたと思った瞬間走り出した

行く先は解ってる

ただ奇術師は気紛れだ

もしかしたら行く先を途中で変更するかもしれない

このままでは姿が見えないまま正しく追いつける保障は無いに等しい





「もっと体力付けなきゃなぁ…」





しかし女は一切疑わない

奇術師の気紛れを知っていて

驚く暇も与えぬ程自然に嘘を付く事も知っていて

何度も何度も騙された過去もあるけれど

それでも女は信じている

奇術師が自分の目の前に現れ

そしていつか自分の望みを叶えてくれるだろうという事を





「本当、清々しい程に愚かだよ…」





奇術師は遥か遠くから自分を追いかけて来る存在を感じながら微笑んだ

女の単純加減は見ていて飽きない

故に好き勝手させている

自分の隣に並ぶ事を許し

自分を追う事を許し

そして自分にその願いを託す事を許している

いつか、気が向いたら女の望みを叶えてやろう、と

そんな事も珍しく思っている





「でも…、あんまりにも愚かで可愛らしくてなかなか叶えてあげる気にはならないんだよね…」





奇術師は女に自分が愛されている、とは思っていない

実際女が奇術師に向ける感情はそれとは全く別の物

何故なら女の望みはあまりにも狂気染みている

でもそれを"鬱陶しい"とは思わない

そして"面倒臭い"とも思わない

奇術師も、結局は女と同じ

この関係には愛など関係無いし、又、必要も無いのだろう





「まだまだ、僕の傍で馬鹿みたいに笑っていて欲しいからねぇ……」





深い意味を考えなければ、珍しく人間らしく聞こえる台詞を呟くと、

奇術師は一人、誰にも見せた事の無い様な楽し気な笑みを浮かべた





「もしかしたら…、僕が君の最たる望みを叶えてあげられる日は来ないかもしれないよ…」





聞こえる筈も無い相手に向かい、奇術師は心底愉快そうに呟いた

女の望み―

それは奇術師の傍に居続ける事

女の最たる望み―

それは奇術師の手によって殺される事





だから女は奇術師を追い掛ける

それは、愛故では無く

ただ、殺されたいが為に





そして奇術師は女から逃げる

それも、愛故では無く

ただ、退屈をしのぐ為に





結局の所

両者とも等しく狂っている

ただ、それだけの事





そして

今日も今日とて

不毛な追いかけっこは

続いている。





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最近ハンター×ハンターを全話一気に見てヒソカに萌えました。

実際はキルア系が好きなんだけど、ヒソカ的な変態系もかなり好きだな、とw

今次々とヒソカDreamが沸いてきていて書ききれない状態です;

やっぱり燃えてる時はいくらでも書けるなぁ(*´∀`)

時間があればもう1作か2作位増える予感です。



'06/09/05