「ねぇ絵里」

「んー?」

「実はね、私遊馬崎くんの事が好きなんだ」

「ぇ、知ってるよ?」



とある晴れた日の事

アニメイト前で遊馬崎を待つ間、が突然口にした告白について狩沢は首を傾げる



「って言うか実はも何も普段から公言してるじゃん。私もドタチンも渡草っちも、なんならゆまっちも知ってるじゃん?」

「うん、そうだよねぇ、私毎回伝えてるもんねぇ。遊馬崎くんだって解ってるよねぇ?」

「そりゃバレバレでしょ。今更どしたの?」



狩沢の言葉には頭を抱えてぶんぶんと振って呟く



「だって遊馬崎くんちっとも私の愛に答えてくれないんだもん」

「それは多分の愛が胡散臭いからじゃないかなー…」

「こんなに本気なのに!?」

「いや本気って言ってもさぁ…」



狩沢がそう呟いた所で、遊馬崎が意気揚々とアニメイトから出て来た

両手に青い袋を提げてご満悦の遊馬崎を迎えながら、狩沢とが声を掛ける



「ぁ、ゆまっちおかえりー」

「おかえり遊馬崎くん、愛してる!!」

「いやいやお待たせしました。やっぱり黒雪姫先輩は良いっすねぇ、ツルペタは世界の宝っすよ〜」

「普通にスルーされた!?」

「ん?駄目っすよ〜ちゃん。デレるならちゃんとデレる前段階のツンが無いと!!」

「そ、そっか…。じゃぁ…ア、アンタの事なんか別に好きじゃないんだから勘違いしないでよね!!」



びしっと遊馬崎を指差しながらテンプレ通りの台詞を叫ぶを眺めて、遊馬崎は笑う



「√3点っすね」

「何でルート!?」

「何か今流行ってるらしいっすよ」

「そ、そうなんだ?」

「はいっす。あぁそうそう、そんな事より絶望先生が物凄い急展開らしいっすねぇ」

「ぁ、知ってる知ってる。何かぁ、実は全員●●●た的なアレでしょ?とこの間最終回の予想してたのにびっくりだよねー」

「うんうん、絵里の予想も良いセンいってる気がしたけど、まさかの展開って言うか…」

「まぁ前作の最終回の流れを見る限り可能性としてはあったっすけどねぇ…」

「てかとりあえず行こっか、ドタチン待ってるよ」

「そだね。遊馬崎くん荷物超多いけど大丈夫?」

「平気っす!!二次元への愛は重量なんか超越しますからね!!」



ぐだぐだといつも通りの会話をしながら、三人は揃って渡草と門田の待つワゴンの元へと移動し始める



「でも遊馬崎くんって本当に貧乳好きだよね」

「貧乳好きと言うより貧乳をコンプレックスとして抱えている葛藤や劣等感的な部分が大事っすね!!」

「それは何となく解るけど、私はやっぱり胸はそれなりにあった方が良いなぁ。特に横から見た時の鎖骨からの曲線が美しいと思うの」

「あたしはどっちでもいいかな。ゆまっちの意見もの意見もどっちも解るーって感じ」

「まぁ小さくても大きくても皆違って皆良いよね」

「そうっすね」


そんな話をしながら暫く歩いた所で、はふいに立ち止まり首を傾げた



「………あれ?て言うか私何かまた愛の告白はぐらかされたよね?」



そんなの疑問に遊馬崎は振り返りながらにっこりと笑う



「あぁ、気付いちゃいました?」

「酷っ!!何でそうやって毎回毎回人の告白無視するかな!!」

「だってもう嫁なら手一杯っすからねぇ」

「それ二次元の話でしょ!?私は三次元の嫁にして下さいって言ってるの!!」



「な、何?」

「好きなキャラを5名挙げて下さいっす」

「△△と、▼▼▼と、■■と、◎◎と◇◇」

「それ、全部ツンデレヘタレタイプっすよね?」

「うん!!」

「ぇー、ゆまっちのタイプとは全然違うじゃん」

「やだなぁ絵里、二次元と三次元じゃタイプなんて異なるんだって」

「それがイマイチ説得力に欠けるんすよねぇ。ツルペタ最高!!って言ってる人間が実際は巨乳好きと言うか、
毎日しっかり働いて残業までしている社畜が巨大掲示板でいかにもニートを装って書き込みしているような…」



遊馬崎は腕を組んでそんな例えを挙げると、顔をに向けて尋ねた



も何だかんだ言って実際は折原臨也みたいなちょっと悪役チックなのが好きなんじゃないんすか?」

「そんな事無い!!あんな現実離れした性悪ぼっちより遊馬崎くんの方が断然素敵で格好良いから!!」

「良いんすかー?そんな事言っちゃって」



啖呵を切るの言葉を聞いて楽しそうに笑うと、遊馬崎はの背後を指差した



「へぇ、ぼっちとは随分な事言ってくれるじゃない」

「ひっ、折原くん…!?」



背後から降って来た声にが青褪めて振り返ると、そこには臨也が嘲笑うような笑みを浮かべてを見下ろしている

思わず仰け反るに詰め寄りながら、臨也はに向かってずけずけと言い放った



「オタク女にぼっち呼ばわりされるなんて全く持って心外だなぁ。
俺は何処かの誰かさんと違って現実世界で異性に相手にされないなんて事は無いんだけどね?
そう言った意味では君の方こそ余程ぼっちなんじゃない?いくら好きだってアピールしてもことごとくスルーされてるなんて哀れ過ぎるよ」

「うるっさいよこの性悪男!!ちょっと顔と声が良くて金持ちだからって良い気になって!!!!」

「褒めてくれて有難う。でもごめん、俺もお返しに褒めてあげたい所なんだけど残念ながら君の褒める所が見つからないんだよね」

「っっっああぁぁもうホントにムカつくなぁもう!!ちょっと待ってろ!!今すぐ平和島くん連れて来てやっつけて貰うんだからな!!!!」



そう言い捨てるが早いか、は元来た道に向かって走り去ってしまった



「あらら…、いざいざがからかうから行っちゃったじゃん」

「いやぁ、本当に惚れ惚れする位の馬鹿っぷりだよ。ね、遊馬崎」

「確かに、あの面白さは一種の才能っすねぇ」

「うわぁ、ゆまっちもいざいざも笑顔が怖いよぅ」



が走り去っていった方向を見ながら言葉を交わす臨也と遊馬崎を見ながら狩沢は怯えた振りをしながら苦笑する



「そんな事言って君だって実はうっすら思ってるでしょ?」

を苛めるのは楽しい、って」

「…私自身がをどうこうする気は無いけど、苛められてるの反応が可愛いのはまぁ認めざるを得ないわね」

「だろうね。でもやっぱりあれだけ反応が良いと飽きないんじゃない?」

「そうっすね、怒ったり笑ったり拗ねたり忙しくて毎日楽しいっすよ」

「でもその割にゆまっちに冷たいよねー」

「それはアレでしょ?好きな子程苛めたい的な」



狩沢の疑問に臨也が変わりに答えて尋ねると、遊馬崎は無言のまま不敵に微笑んだ



「所でいざいざ何でこんな所に居るの?」

「あぁ、ちょっとドタチンに用があってさ」

「そう言えば門田さんと渡草さんに遅れるって連絡しないとっすねぇ」

「じゃぁあたし電話するよ」

「ついでに俺が今からそっち向かうって事も伝えといて」

「おっけーぃ」



狩沢がそう言って携帯を取り出し門田に連絡を取っている間、臨也が遊馬崎に尋ねる



「ねぇ遊馬崎」

「何っすか?」

「遊馬崎って実際の事どう思ってんの?」

「どうもこうも、彼女はあの通り喜怒哀楽が激しいっすからね。一緒に居て面白いっすよ」

「面白い、ねぇ…」

「はいっす。あの賑やかで面白い所が気に入ってるんで。でも、を泣かせるのは俺だけで良いんで下手な事をすれば折原さんでも容赦しないっすよ?」



遊馬崎は僅かに目を開き臨也に釘を刺すように呟くと、すぐにいつもの調子で笑った



「怖いなぁ。まぁ安心してよ、俺は略奪とか横恋慕とかには興味無い、って言うか恋愛そのものに興味が無いからさ」

「知ってますよ、だからこそこっちも問題視してないだけっす」

「なるほどね。さて、それじゃぁが本気で厄介なのを連れてくる前に俺はドタチンの所に行くとするよ」

「そうっすか」

「それじゃ」



臨也はひらりと片手を振ってその場から去って行った



「ありゃ、いざいざもう行っちゃった?」

「えぇ、何かあったんすか?」

「んー、何かドタチン今まで渡草っちと一緒にカズターノの送迎してたらしいのよ」

「それなら遅れても問題無いっすね」

「そだね。所ではまだ戻って来ないのかな」

「ぁ、来たっすよ」



狩沢がため息交じりに呟く横で遊馬崎が道の向こうを指差すと、が静雄を連れて二人の元へ戻って来る所だった



「平和島くん早く早く!!」

「何なんだよ、おい引っ張るな」



に左手を引かれながら無理矢理連れて来られたらしい静雄はやや不機嫌そうだが半ば諦めたような顔をしている



「ただいま!!あれ?折原くんは?」

「さっき逃げたみたいよ」

「えぇえぇぇ!?折角平和島くん連れて来たのに…!!」

「まぁが思いっきり連れて来るって宣言したんだから逃げるのは当然っすよねぇ」

「そっか、黙って連れてくりゃ良かった…」

「おい、お前俺を臨也の野郎と会わせる為にわざわざ引っ張って来たのか…?」



突然腕を引っ張り連れて来られ、何事かと思えば天敵とわざわざ会わせるのが目的だったと知り静雄の額に青筋が浮かぶ



「うん。さっきまで此処に居て散々馬鹿にされたから平和島くんに殴って貰おうと思ってさ」



しかしは予定が狂った事が不満なのか頬を膨らましたまま悪びれる様子も無く答えると説得するように静雄に語り掛けた



「私じゃ悔しいけどアイツに敵う所皆無だからさー…。でも平和島くんは違うし!!」

「は?」

「身長だって大きいし、顔だって負けてないし、何より強い!!だから平和島くんは折原くんを殴れる!!いやむしろ殴るべき!!」

「…おい遊馬崎、コイツどうにかしろ」



持論を展開し続けるを前に静雄が遊馬崎に助けを求める

遊馬崎は仕方ないと言った様に苦笑すると、暴走しているの元に行き後ろから肩をとんとんと叩いた





「ん?何??」

「うりゃっ」

「!?」



肩を叩かれて振り返ったの両手を遊馬崎がぎゅっと握ると、の顔は一気に赤くなる



「ゆっ、遊馬崎く…」

「どうしたんっすか?」

「な、ぁの…手……」

「手握っちゃ駄目っすか?」

「駄目、じゃ無いけど…!!」



たかだか両手が触れているだけなのに全身から湯気が出そうな勢いで首を振ると、そんなを楽しそうに眺めながらも手を離そうとしない遊馬崎

静雄は狩沢の隣に移動してそんなと遊馬崎を眺めながら首を傾げて狩沢に尋ねた



「どうなってんだ?」

「あぁ、はゆまっちが好きだからねー、他の人の手を握るのは平気でもゆまっちだと恥ずかしいんだよ」

「なるほどな…って、普段あんだけ好き好き言ってる癖になんだそりゃ…」

ってそう言う所がまた可愛いんだよねぇ」



狩沢は説明しながら楽しそうに遊馬崎とを眺めるが、静雄は脱力したのかその横で一つため息を吐きながらずれたサングラスを直した



「落ち着いたっすか?」

「………はい…」

の面白い所は好きですけど、折原臨也にばっかり気を取られるのはあんまり面白くないっすね」

「遊馬崎くん…」

「これからはむやみに異性を褒めたり手を握ったりしたら駄目っすよ?」

「?」



そんな遊馬崎の言葉の意図が解らずが疑問符を浮かべると、遊馬崎はの両手を自分の口元まで運んで笑った



「妬けちゃうんで」

「っ…!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あはは、ってば顔真っ赤」

「あいつってあんな事言うキャラだったのか…」

「何かの反応が面白いからって色々やってたらあぁなっちゃったのよねー」

「つまり、アイツもそれなりにに染められてるって事だ」

「あ、ドタチン」

「ドタチン言うなって…」



ふいに狩沢の背後から現れた門田が静雄に向かって片手を挙げる



「よぉ、悪かったなが振り回したみたいで」

「いや、それは別に良いんだけどよ…」

「ねーねードタチンいざいざは?」

「あぁ、折原ならさっき新宿帰ったぞ」

「ぁー…、何かスッキリしねぇしちょっくら臨也の事ぶっ殺して来るわ」

「行ってらっしゃーい」

「なんつーか…、折原も今日ばっかりはとばっちりだよな」

「まぁ良いじゃない、とりあえず今日も池袋は平和って事で」

「…そうだな」

ー、ゆまっちー、そろそろ行くよー?」



狩沢が二人に呼び掛けると、呼び声を聞いた遊馬崎はようやくの手を開放して顔を上げた



「っと、それじゃぁ戻りましょうかね」

「う、うん…」



未だに顔を赤く染めたままのが小さく頷き、二人は門田と狩沢の元にやって来る



「あれ、門田くんこっち来てたんだ。渡草くんは?」

「渡草なら向こうで待機してる。…にしてもお前顔真っ赤だな」

「う、そんなに赤い?」

「あぁ、見てるこっちが恥ずかしくなる位だぞ」

「うぅぅ…」



歩きながら呆れた様に笑う門田の隣を歩きながら、は両手で顔を押さえる

そんな門田との後ろで、狩沢はに聞こえないようにこっそりと遊馬崎に話し掛ける



「(何だかんだでゆまっちもの事大好きだよねー?)」

「(そりゃもう大好きっすよ?でもそれ、には内緒にしといて下さいね)」

「(何で何で?あんなに本気なんだからいい加減ちゃんと受け入れてあげたら良いのに…)」



狩沢が納得行かない様子で尋ねると、遊馬崎は人差し指を口に当てて悪戯っぽく微笑んだ



「(が自分で気付くまではこのままで良いんすよ)」

「(ふぅん、もさっさと気付けば良いのにニブチンだよねー)」

「(そんな所も可愛いっすけどね)」

「(その台詞に聞かせてあげたいわ…)」





- END -