「ねぇセルティ、ちょっと相談があるんだけど…」



ある日

池袋の街中で偶然出会ったと雑談をしていると、ふいにが真剣な面持ちで切り出した



「"相談?"」

「うん…。良いかな…?」

「"もちろんだ。私で良ければいくらでも相談に乗るぞ"」



セルティが大きく頷いてPDAに打ち込んだ文字を読みながら、は御礼を口にしながらおずおずと切り出した



「有難う。あのね、実は静雄さんの事なんだけど…」

「"静雄?静雄がどうかしたのか?"」



の口から出た静雄の名前に、セルティは無い首を傾げる

静雄とが知り合ったのは、今からちょうど三ヶ月程前の事だった

きっかけは不良に絡まれていたを、たまたま通り掛かった静雄が助けたと言うありきたりな事だった

その時に静雄が目の前で次々と不良を投げ飛ばす姿を見て気を失ったを、静雄が新羅の元へと運んで来た

そしてそこでセルティとも知り合い、それ以来とセルティは時折連絡を取り合ったりこうして会った時に話す仲になっていた

しかしあの日以来と静雄に交流が合ったと言う話は聞いていなかった為、何故の口から静雄と言う単語が出たのか

セルティがそんな事を考えていると、はやや俯いて視線を地面に向けながら小さな声でセルティに告げた



「あの…、えっと……、何て言うか、私…、し、静雄さんの事が好き…で…」

「"!?"」

「や、やっぱり驚く?」

「"あぁいや、いつの間に静雄とそんなに仲良くなってたのかと思って"」

「ううん、助けて貰ったあの日以来一回も話したりとかしてないんだけど…」

「"へ?じゃぁどうして…"」

「実は…、助けて貰ったあの日に一目惚れしちゃったみたいで…」

「"一目惚れ…?"」

「うん…。でも見ず知らずの人を急に好きになるなんてありえないし、自分でも気のせいだと思ってたんだけど…」



驚くセルティにそう説明しながら、は顔を上げる



「でもね、たまに街で見掛ける以外の接点なんて無いのに、つい目で探しちゃったり夢に見たり姿が見れただけで苦しくなっちゃったり…」

「"それは…、相当好きなんだな"」

「そうなの…。それで、これ以上自分を騙すのは無理だなって自分でも流石に認めたって言うか観念したって言うか、そんな感じ」



両手で顔を覆いながらは深く大きな溜息を吐き出す



「だからって連絡先も知らない程度の薄い関係の私がいきなり告白しても静雄さんだって困ると思うんだよね」

「"静雄に告白か…、静雄の反応が全く想像付かないな…"」

「静雄さんと仲の良いセルティまでそう言う位だもん、まず会話する所から始めないとってレベルでしょ…」



そう言って肩を落とすにセルティは慌てるが、はまたすぐに顔を上げると真剣な面持ちでセルティを見つめた



「でも何かする前に諦めるのも嫌だから、まずは街で会った時に軽く会話する位の仲にはなりたいと思うの」

「"…なるほどな。そう言う事なら私も手伝うぞ"」

「ホント?」

「"あぁ。と静雄が仲良くなったら私も嬉しいし"」

「有難うセルティ…!!」

「"気にしないで。とりあえず急に二人きりは難しいだろうから、私も付き添って三人で出掛けるのはどうだろう"」

「うーん…。出掛けるって言っても、ただ会ってお話するだけなんて静雄さん忙しそうなのに大丈夫かな?」



セルティの提案にが首を傾げると、セルティは暫く考え込んでからふと思いついた様に指を滑らせて文字を打つ



「"静雄は甘い物が好きだから、三人で甘い物を食べに行こうって誘うとか"」

「そっか、それなら食べるのが目的だから自然かも!!」



セルティの提案にはこくこくと頷いて目を輝かせると両手をぐっと握った



「一度一緒に出掛ければその後街中で会った時に挨拶する位は出来る様になるよね」

「"あぁ。何ならそこでアドレスの交換もしたら良い"」

「ぅ、うん…。出来たら良いなぁとは思うけど…」

「"けど?"」

「交換しても恥ずかしいし何を話せば良いのか解らないし結局メールなんか出来なさそうだなって…」



ほんのりと頬を染めて照れた様に笑うを微笑ましく思いながら、セルティはぽんとの肩に手を置いた



「"まぁ何はともあれ行動あるのみだね。とりあえず静雄にメールしてみようか"」

「うん。ぁ、でも場所どうしよう?甘い物と言えばやっぱり駅前のスイパラ?」

「"スイパラ…?"」

「スイーツパラダイスって言ってね、ケーキとか甘い物食べ放題のお店があるんだ」

「"そうなのか、それは丁度良いね"」

「でもあそこ土日はすっごく混むから、行くなら平日が良いかも」



の提案に頷くと、セルティはPDAをメールモードに切り替える



「"今度平日の何処かでと駅前のスイーツパラダイスと言うお店に行く事になった。静雄も一緒に来ないか?"」



セルティは簡潔に目的だけを述べた文章を作成し、に見せる

それを読んだが頷くと、そのまま送信ボタンが押された



「"これで良し、後は静雄の予定に合わせて日程を決めるだけだな"」



再びメモ帳モードに切り替えたPDAでに話し掛けると、は心配そうに呟く



「静雄さん行くって言ってくれるかな…、断られたら結構悲しいかも…」



「"いや、静雄は甘い物が好きだからきっと大丈…っと、ほら、もう返事が来たみたいだぞ"」



入力中PDAの上部に出た受信表示を見てセルティは再度メールモードに切り替える

そして静雄からの返信を開くと、そこには一言"行く"と言う二文字だけが記入されていた

セルティはそんな静雄からのメールをに見せる



「良かったぁ」



静雄からの返信を読んだはホッと胸を撫で下ろして嬉しそうに笑う



「どうしよう、何かもう今からドキドキして来ちゃった」

「"ふふ。それじゃぁ細かい事決めて静雄に連絡しようか"」

「うんっ」



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「"そう言う訳で、今度の火曜日にと静雄と出掛ける事になったんだ"」

「なるほど、セルティは二人の恋のキューピッドになると言う訳だね?いや、セルティの場合は恋の妖精さんかな?」

「"そんな大層なものになるつもりは無いけど、まぁ上手く行けば良いとは思ってるよ"」

「あぁ、それなら心配無いよ。絶対に上手く行くからね」



セルティの綴る文字に自信たっぷりに頷く新羅に、セルティは疑問符を浮かべる



「"どうしてそう言い切れるんだ?"」



しかし新羅はセルティの疑問に対し、ただ意味ありげに笑うだけだった



「それよりセルティ、君は一つ重要な事を忘れてるよ」

「"重要な事?何だ?"」

「来週の火曜日は臨也からの仕事が入ったんじゃ無かったかい?」

「"・・・!!"」



そう新羅に言われて思い出したセルティは、もし顔があったなら間違い無く青褪めていた事だろうと言うリアクションでPDAに文字を打つ



「"た、大変だ。すっかり忘れていた…!!"」

「まぁ昨晩急に入った依頼だったから無理も無いよね」

「"どうしよう、今月で三人の都合が合う日はもうその日位しか無さそうなのに…"」



慌てた様子のセルティに、新羅は大丈夫大丈夫と軽く笑う



「当日までその事は二人に伏せておいて、当日急な仕事が入ったから二人で行ってくれって言えば良いんだよ」

「"そんな無責任な…、流石に当日急にキャンセルは酷くないか?"」

「いやいや、二人の事だから事前に二人きりだと知って心臓に負担を掛けるよりは当日位の方が丁度良いと思うよ?」

「"…そう…か…?"」

「うん。ちゃんの為にも今更延期やキャンセルにするより二人きりで行かせた方が良いと思うなぁ」

「"そう、だな…。良し、解った"」



新羅のそんなアドバイスに納得したのか、セルティは若干の申し訳無さを感じながらもそのまま当日まで黙って置く事に決めた様だった



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「ぉ、おはようございます」

「よぉ」



火曜日の午前11時

集合場所であるお店の前に静雄の姿を見つけたは、静雄の元へと駆け寄ってぺこりと頭を下げる

煙草を片手に待っていた静雄はに挨拶を返しながら携帯灰皿に煙草を投げ入れた



「あれ?セルティはまだ来て無いんですか?」

「ん?あぁ、まだみたいだな」

「珍しいなぁセルティが遅れるなんて…」



職業柄時間には正確なセルティが遅れている事を不思議に思いが首を傾げた丁度その時、静雄との携帯が同時メールの着信を告げた



「「?」」



二人は同時に携帯を取り出しメールを開き、



「「…」」



内容を確認し、



「「!!」」



そして同時に顔を上げて互いに目を合わせた



「「………」」



二人ともごめん。
急にどうしても外せない仕事が
入ってしまって行けそうに無いので、
今日は二人で行って欲しい。
本当にごめん。
この埋め合わせは今度必ず!!



「セルティ〜…」



は予想外の展開に驚きながら、静雄と二人きりと言う事に焦ったのか頭を抱える

しかし静雄は特に驚いた様子も無くパタンと携帯を閉じると、改めてに声を掛けた



「入るか」

「ぇ?」

「行くんだろ?」



静雄を見上げるに店を指差しながら静雄は尋ねる



「ぃ、良いんですか?」

「何が?」

「いや、あの…、以前一度助けた事があるだけの赤の他人も同然の私と二人きりでスイーツを食べに行くなんて……」



がしどろもどろになりながらもどうにか静雄の問いに対して答えると、静雄はじっとを見た後でくるりと背を向けた



「行くぞ」

「ぇっ、あ、待って下さい」



そのまますたすたとビルの中へ入って行ってしまった静雄の後を追い、もビルの中へと入っていく



「いらっしゃいませ!!2名様ですね?お席までご案内致します!!」



揃って店内に入るとすぐさま店員に案内され、カラフルな店内の一角へと二人は向かい合って座る

ぱっと見た所やはり女性客が多いが、同じ位カップルの姿もあり男性客が全く居ないと言う訳では無さそうだった



「当店は80分の時間制限で食べ放題となっております。それではどうぞお楽しみ下さい!!」



簡単な説明を済ませ、店員が席を後にする

初めて入った店内をきょろきょろと見渡す静雄を前に、は緊張を解す様にそっと息を吐いた



「なぁ」

「はっ、はい!?」

「これバイキングだろ?取りに行かなくて良いのか?」

「ぁ、そうですね。ぇっとじゃぁ…」



静雄に促されてが席を立つと、静雄もに続いて席を立つ

後ろから付いて来る静雄に緊張していたも、色とりどりの種類豊富なケーキを前に思わず目を輝かせた

ふと背後の静雄を見上げると、静雄も数々のケーキに目を奪われている様だった

そんな静雄の姿が可愛くて、は思わずくすりと微笑む



「どうした?」

「っいえ、何でもないです。ぁ、静雄さん、向こうにプリンもあるみたいですよ」

「プリン?…取って来る」



静雄はプリンと言う単語に反応すると、が指差す方向にいそいそと向った



「普通に食い物とかもあるんだな…」



やがてプリンをお皿に乗せて戻って来た静雄の声にも振り返って答える



「そうですね、パスタとかも色々あるみたいです。流石に甘い物ばっかりだと疲れちゃいますもんね」

「そうか?俺は別に平気だけどな」

「本当ですか?」

「あぁ。普段あんまり食えないし、食える時に食っとくっつーか…」

「何か、冬眠前の熊みたいですね」

「そうだな」



お皿を片手にそんな他愛も無い話をしながら、二人はそれぞれ好きな物を取り分け席へと戻った

再び向かい合わせに座った二人は、早速ケーキを同時に口に運ぶ

ケーキバイキングと言えば提供する側の拘りも質より量になるだろうと予想はしていた

それでも甘さと種類が豊富で見た目も可愛いケーキは、口に運ぶ度に幸せな気分になれる



「やっぱり甘い物って良いですねぇ」

「あぁ」

「その静雄さんが食べてるケーキは何ですか?」

「ん?何かあっちの方にあったやつ適当に取って来た」

「私も後で取って来ようかな…。それ美味しいですか?」



が何気なく尋ねると、静雄は一瞬考える様に動きを止め、手にしたフォークでケーキの端を切り取るとそのままに向けた



「ん」

「…?」

「食えば解るだろ」



しれっと答える静雄を驚いた表情で見つめながら、は必死で思考を巡らせる

静雄の台詞とポーズが意味するのは、どう考えても甘々なカップルに良く見られる俗に言う「あーん」と言うやつだ

そんなバカップルにのみ許される行為を恋人同士でも何でも無い自分とするとはどう言うつもりなのだろうか

は差し出されたフォークを前に戸惑うものの、当の本人は平気な顔をしてこちらを見ている

このまま遠慮したり恥ずかしがっては静雄を傷付けてしまうのでは無いか、

そんな事を僅か数秒の間に考えて、は結局思い切って差し出されたケーキを口にした



「…ぁ、美味しい」

「だろ」



ビターショコラの上品で程良い甘みが口の中に広がり、は思わず呟いて顔を上げる

静雄はそんなに少し得意そうな表情を浮かべて笑った



「……っ」

「どうした?」

「ぃ、いえ。何でも無いです…!!」



静雄の笑顔が眩し過ぎて思わず息を呑んだに静雄は不思議そうに問い掛ける

は両頬を手で抑えながらぶんぶんと顔を左右に振ると、静雄から視線を外し一つ大きく息を吐いた

自分を助けてくれた時に見せた狂暴とも言える力強さとは裏腹に、普段の静雄は本当に穏やかで優しい人だ

初めはその圧倒的な強さへの憧れから好意を持っただったが、

街で見掛けたりセルティの話を聞く内に改めて平和島静雄と言う人間を好きになった

そんな静雄とこうして二人きりで出掛けていると言う事実が未だに実感出来ず、の顔は不自然に熱くなる

ドキドキと煩い心臓を落ち着けるようにそっと深呼吸をして居ると、ふいに静雄がぽつりと呟いた



「…悪かったな」

「はい?」

「あの時の俺…、暴走しててお前の事まで巻き込みそうになっただろ」

「…あの時って、静雄さんが私を助けてくれた時の事ですか?」



静雄が自分を助けてくれた時の事を思い出しながら尋ねると、静雄は少し気まずそうにこくりと頷く



「その事なら私は静雄さんには感謝しかしてないです。もし静雄さんが通り掛からなかったらと思うと未だに怖くなりますもん…」



確かに目の前を飛び交う自販機やゴミ箱に驚き、挙句の果てに気絶までしてしまったのは事実だ

それでも静雄に対しては感謝しか無く、恐怖を抱いたり謝られる必要性を感じた事など全く無かった

はそこだけは確り伝えなければと真っ直ぐに静雄の目を見る



「静雄さんが自分の力を嫌ってる事はセルティに聞いたから知ってます。でも、私はその力に助けられたし、
その力に凄く憧れますし、静雄さんの事すっごく格好良いって思ってるんです」

「………」

「だから、静雄さんが自分の事を嫌っても、私は静雄さんの事が好きですよ」

「…ん?」



真剣な顔つきで言い放ったは、目の前の静雄が驚いた顔をしているのに気付き我に返った



「ぇ?あっ、違っ…!!違うんですよ!!好きってそうじゃなくて、あの、静雄さんの力がって言うか、強くて格好良い所って言うか…」



自分の発言の大胆さに自分で驚きながら、はわたわたと弁解になっていない弁解をする



「ぁ、でも力だけじゃ無くて優しい所とか甘い物好きな所とかも好きです!!ってそうじゃなくて、いや違いませんけどでも違うんです…!!」

「………」



呆気に取られた様子で一人混乱するを眺めていた静雄は、やがて口元に片手を当てて噴出した



「なっ、何で笑うんですか!!」

「いや、悪い…」



静雄は謝りながらも笑い続け、一通り笑うと大きく一つ息を吐いて顔を上げる



「やっぱり、お前良い奴だな」

「ぇ?」

「あの時、怖い思いさせちまったハズなのにあの後わざわざ礼を言いに来てくれただろ」



静雄はを助けた日の事を思い出しながらに尋ねる



「それにさっきだってあんなに一生懸命庇ってくれたし」

「………」

「あぁやって言われると、俺も自分の事を肯定しても良いんだって思えて嬉しいもんだな」

「静雄さん…」



愛したいと願っても、愛されたいと願っても、自分の持つ力が決してそれを許さない

頑なにそう思い続けていた静雄にとって、自分の力を目の当たりにしても尚怖がらないの存在は想像以上に嬉しいものだった



「………」

「………」



お互いにそれ以上続ける言葉が見つからず黙り込んでいると、沈黙を破る様に店員がやって来た



「お客様、後20分程でお時間となります」

「あっ、はい」

「お会計の際はそのままレジまでお願いします」



店員は軽く頭を下げてそのまま二人の元を離れて行く

そんな後姿を見送って、は改めて静雄に話し掛けた



「80分って、案外あっという間ですね」

「そうだな」

「…本当短いなぁ……」



驚く程あっという間に過ぎてしまった時間に、は思わずぽつりと呟く



?」

「ぁっ、いや何でも無いです!!ぇと…。ゎ、私、最後にさっきのケーキ取って来ますね!!」

「あぁ…」



慌てたが席を立ち離れた事を確認すると、静雄はサングラスを押し上げて溜息交じりにズボンのポケットへと右手を突っ込んだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「…なぁ」



やがて席へと戻り取って来たケーキを食べているに向かい、静雄は少し迷った様子で声を掛ける

食べ途中のはむぐむぐと口を動かしながら顔を上げて「何ですか?」と言うような仕草で首を傾げた



「お前、この後…何か予定とかあるか?」



静雄が尋ねると、はごくんとケーキを飲み込んでから首を左右に振って答える



「予定ですか?特に無いですけど…」

「そうか…」



静雄はの返答を聞くと、右手を入れていたポケットから2枚のチケットを取り出して机の上に置いた



「?これは…」

「あー…、何か…サンシャインシティ水族館のチケットだとよ」

「どうしたんですか?これ」

「貰った」

「貰ったって誰に…」



目の前のチケットを見つめながらが尋ねると、静雄は少し悔しそうに頭を掻いて答える



「昨日新羅の野郎が珍しくうちに来たと思ったら"明日必要になるだろうから持って行け"って置いて行きやがった」

「新羅さんが…?」

「あぁ。そしたら今日セルティ来れなくなったっつーし、多分アイツが解ってて仕組んだんだろ」



新羅の思惑通りと言うのが気に入らないのか、静雄はややぶっきら棒に答えてへと視線を移した



「けどまぁ折角だし、水族館て柄でも無ぇけど、お前さえ良ければっつーか…」

「………」

「以前一度助けた事があるだけの赤の他人も同然の俺と二人きりで良いって言うなら行かねぇか?」



は静雄からの思い掛けない誘いに思わず驚いた顔で見つめていたが、静雄が口にした台詞を聞いて笑みを浮かべる



「嬉しいです!!是非ご一緒させて下さい!!」



きらきらと満面の笑みで嬉しそうに笑うを見て、静雄も何処かホッとした表情を浮かべて笑った



「んじゃそろそろ行くか」

「はいっ!!」





- END -









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〜おまけ〜



と静雄がサンシャインシティに向かった丁度その頃、仕事から戻って来たセルティは疲れた様子で新羅に声を掛けた



「"帰ったぞ"」

「やぁおかえりセルティ、仕事の方はどうだった?」

「"どうもこうも、臨也の持ってくる仕事は本当に毎度毎回ロクでも無いな!!"」



自分の問いに憤慨した様子でPDAに文字を打つセルティを宥めながら、新羅は苦笑する



「まぁまぁ。でもそうは言いながらもきっちりこなして来たんでしょ?」

「"当たり前だ。仕事は仕事だからな"」

「流石だねセルティ。そうそう、さっき静雄からメールが来たんだけど、二人は無事に水族館に行く事になったみたいだよ」

「"水族館?あぁ、昨日静雄に渡したって言ってたチケットか?"」

「うん。静雄の事だし、放っておいたらケーキ食べてそのまま解散なんて事になりかねないからね」

「"確かに。でもこの分なら上手く行きそうだな"」

「まぁ元々お互いに意識してたから、後はもう時間の問題だと思うよ」



そう言って笑う新羅に同調して頷きながら、セルティはふと思い立った様に新羅に尋ねた



「"そう言えばこの前も言ってたけど、どうして静雄とが絶対に上手く行くって断言出来たんだ?"」



セルティがPDAに打ち込んだ質問を読み、新羅はにこっと悪戯っぽい笑みを浮かべる



「実は、僕も静雄から似た様な相談を受けてたんだよね」

「"え?"」

「静雄がセルティからお誘いメールを受け取った直後かな?静雄から珍しく相談があるって電話があってさ」



新羅は楽しそうに告げて手にしたカップを呷る



「実は静雄もちゃんを助けたあの日からずっと気になってたんだって。でも怖がらせただろうし自分からは話し掛け難いって」

「"そうだったのか…"」

「だから遠巻きに見てるだけだったんだけど、あの日セルティからメールが来て"思わず行くって返事しちまった…"とか何とか」

「"静雄がそんな可愛い事を…"」

「でしょ?びっくりだよね。恋ってこんなにも人を変えるものなんだねぇ」



静雄の意外な一面に素直に驚くセルティの横で、新羅は面白くてたまらないと言った表情を浮かべる



「まぁそう言う訳でさ、あの二人って最初から両想いだった訳なんだよ」

「"しかもお互いに一目惚れか…。私や新羅があれこれする必要も無かったな"」

「そんな事無いよ。セルティと言う優しく可憐なキューピッドが居たからこそさ」

「"それを言ったらお前もそう言う事になるな"」

「そうだね、僕達二人の愛のお裾分けって所だね!!」

「"何でそうなる"」

「あれ、もしかしてセルティ照れてる?やだなぁもうセルティは可愛くて格好良くて天使で妖精で僕を惑わす小悪魔なんdグフッ」



こうしてお約束と言うべきかいつも通りと言うべきか、新羅の腹部に手刀を叩き込んだセルティはやれやれと言う仕草で首を振るのだった



「こ、こんなオチ…いらない……」