「新羅さん、出来ましたよ」



新羅さんの元にセルティさんが小分けにした肉じゃがを持って行く



「うわぁ、美味しそうだね!!」

「"杏里ちゃんの指導のおかげだ"」

「新羅さん、食べてみて下さい」

「お二人とも頑張ってたのできっととても美味しいです」



私とセルティさんと杏里さんが見守る中、新羅さんがじゃがいもを口に運ぶ

何となく緊迫した空気が漂う中、3人はもぐもぐと動く新羅さんの口元に注目していた

新羅さんはごくん、とじゃがいもを飲み込み、勢い良く顔を上げる



「…美味しい!!すっごく美味しいよセルティ!!ちゃん!!」

「本当ですか?良かったです」

「"やはり味見は大事なんだな"」

「お二人とも良かったですね」

「はい、全部杏里さんのお陰です」

「いえ、私は大した事はしてないですよ、セルティさんとさんが頑張ったからです」



杏里さんはこう言ってくれてるけど、今回美味しいと言って貰えたのは間違いなく杏里さんのお陰だと思う

私は杏里さんの手をぎゅっと握って微笑んだ



「次は杏里さんの為に一人で作れるよう練習しておきますね」

「有難う御座います、楽しみにしてます」



笑い返してくれる杏里さんからふと視線を横に反らすと、セルティさんと新羅さんが二人してこちらを見ていた



「セルティさん新羅さんどうしたんですか?」

「"いや、和むなぁと思って…"」

「うんうん、何だかとっても癒されるよ」

「?」

「?」



セルティさんと新羅さんの言葉の意味がいまいち良く解らず、私は杏里さんと首傾げる



「まぁとりあえずさ、時間も時間だしちゃんはそろそろ帰らないといけないんじゃないかい?」



新羅さんに言われて時計を見ると、ちょうど18時30分を過ぎた頃だった



「もうこんな時間…、そうですね、今日は何も言わずに出て来てしまったので帰らないと」

「そっか、それじゃぁ今頃静雄が心配してるんじゃ…」



新羅さんがそう言い掛けた瞬間、新羅さんの携帯がピロピロと音を立てた



「噂をすれば何とやら、だ」



携帯の画面を見てそう呟くと、新羅はその場で電話に出る



「もしもーし」

「      」

「え?あぁ、大丈夫大丈夫、ちゃんならうちに居るよ」

「      」

「ぇ?携帯が繋がらない?ちょっと待ってね」



新羅さんが電話から耳を離し、私に尋ねる



ちゃん今日携帯忘れたの?」

「いいえ、ちゃんと持ってますよ」



新羅さんに聞かれ、私はポケットに入れていた携帯を新羅さんに見せる



「あ、それ電池切れちゃってるよ」

「え?」



新羅さんが指差す携帯を見ると、確かに開いているのに待ち受け画面が映らない



「途中で切れちゃったみたいです…」

「ぁ、静雄?何か電池切れちゃってたみたいだよ、うん、うんうん。解った解った、じゃぁセルティに頼むから、またね」



新羅さんは静雄さんとの会話を終えると、携帯の電源を切りながら面白そうに笑った



「すっっっっごく心配したみたいだよ、あの静雄が珍しく取り乱してた」



ピ と電源を切り、新羅さんが面白そうに笑う

新羅さんの言葉を聞き、私はまた静雄さんに迷惑を掛けてしまった事実にとても笑える気分では無くなる

どうしようと呟く私の横で、セルティさんがヘルメットを被り、私に話しかけた



「とりあえず急いで帰ろう、家まで送るから」

「は、はい。それじゃぁ杏里さん、新羅さん、今日は有難う御座いました」

「こちらこそ有難う御座いました、とても楽しかったです」

「気をつけて帰ってね、またいつでも遊びにおいで」



こうして私とセルティさんは新羅さんの家を出て、すっかり暗くなった道をバイクで急ぐ

私は今日作った肉じゃがの入ったタッパーを膝に乗せて落とさないように押さえながら、帰ったらまず静雄さんに謝って、ちゃんと説明をしなければと内心焦っていた

そんな中、ふいにセルティさんがぽつりと呟く



「それにしても…」

「はい?」

「取り乱した静雄もちょっと見てみたい気がするな」



セルティさんは新羅さんと同じように笑いながらそんな事を言う



「私は、ちょっと気まずいですけど…」



私が俯き気味にそう言うと、セルティさんは大丈夫大丈夫と言いながら言葉を続けた



「いいじゃないか、静雄だって心配こそすれ怒ったりしてないよ」

「そう、だと良いんですけど…」



そんなやり取りの中、やがて無事に静雄さんの家まで到着し、私はバイクを降りてヘルメットを外す



「それじゃぁ私は帰るから、静雄によろしくね」

「静雄さんに会っていかないんですか?」



私が尋ねると、セルティさんはうーん…、と小さく唸った後に首を左右に振った



「多分今はそれどころじゃないと思うから、また次の機会にしておく」

「そうですか…」



セルティさんの言う意味は良く解らなかったけれど、セルティさんはじゃぁね、と言い残して走り去ってしまった

私はセルティさんの姿を見送ってから玄関に向かう

チャイムを鳴らすと、中から静雄さんの足音が聞こえて、扉が開いた



「静雄さん…、遅くなってごめんなさい」



そう言ってぺこりと頭を下げた後に静雄さんを見上げると、私を見下ろしていた静雄さんは少しの沈黙の後に大きなため息をついた



「……次から何処か行く時は一言連絡してから行けよ」

「はい…」

「アイツらに連れ戻されたかと思っただろ」

「すいません…」



"アイツら"とは矢霧製薬の人達の事だ

私は矢霧製薬で作られた存在だったけど、ある日扉が開いていたので逃げ出して

追われている所を静雄さんに助けられた

そう言えばあれから1ヶ月程が経ったけど、追っ手のようなものには遭遇していない

何はともあれ私は追われる身なので、静雄さんが心配するのも無理は無いと思う



「で、今日は何してたんだ?」



二人でリビングまで戻りソファに腰掛けたところで静雄さんが私に尋ねた



「えぇとですね、セルティさんと杏里さんに手伝って貰って、肉じゃがを作ってたんです」



私はそう言いながら手に持っていたタッパーを机の上に置いた



「肉じゃが?」



何でまた…と呟きながら、静雄さんが机に置かれたタッパーをまじまじと眺める



「はい。あの…、私、料理が出来るようになりたかったんです。普段静雄さんに迷惑ばっかり掛けてるから、朝とかゆっくり出来るようにと思って、、」



私が言葉に詰まりながらもそう答えるのを、静雄さんは真面目な顔でじっと聞いていた



「その…、今朝も、静雄さんより先に目が覚めた時に…、私が朝ご飯の用意が出来たら良いのにって、思ったんです……」

…」

「内緒で練習して驚かそうと思ったんですけど…、でも出掛ける事位ちゃんと伝えれば良かったですよね…」



そう説明しながら、私はどんどん自己嫌悪で泣きそうになってしまう

しかし、そんな私を他所に静雄さんは真面目な顔から一変し、悪戯っぽく笑い出した



「?」



私がびっくりしていると、静雄さんは自分の携帯電話を私に差し出す

反射的にそれを受け取り画面を見ると、そこには私とセルティさんと杏里さんの後姿が写っていた



「これ…」



これはどう見ても今日の練習風景だ

でもどうして静雄さんが…?

そう不思議に思っていると、静雄さんは笑いながら



「悪い、実は新羅がメールで教えてくれたから知ってたんだ」



と教えてくれた



「…ぁ」



そう言えば新羅さんには静雄さんに内緒だと言う事を伝えてなかったんだっけ



「それじゃぁさっきの新羅さんへの電話は…」

「いや、新羅にが何時頃戻るのか聞こうと思って電話したら急に変な演技し始めるからよ」

「演技…」

「まぁ電話が繋がらなかったのと連絡が付かなくて心配したのは本当だけどな」

「ご、ごめんなさい…」

「ん、まぁ何もなくて良かった」



静雄さんはそう言いながら、くしゃくしゃと私の頭を撫でた

その優しい声と笑顔と頭に触れる暖かい掌に安心したのか、思わず堪えていた涙が溢れてしまう



「っ静雄、さ…」

「ぉ、おい、大丈夫か?」



突然泣き始めた私を見て、静雄さんは慌てた様子で私の顔を覗き込む



「ごめ、なさ…ぃ…、」

「気にすんなって、次から気をつけりゃ良いんだから」

「で、でも…」

「今日は俺の為に頑張ってくれたんだろ?」



そう言う静雄さんの言葉にこくりと頷くと、ふわりと大きな手が私の頬に触れて静雄さんの顔が近付く



「それなら何も文句無いさ」

「…………」



静雄さんは私を慰める為にそう言ってくれるけれど、正直それどころではない
至近距離で見つめられて、私の身体は強張り涙も引っ込んでしまった



?」

「ぁ……ぅ…ぁぁあのっ!!、ぇと…そ、そろそろ…お夕飯にしませんか!?」



私は恥ずかしさの余り勢い良く立ち上がり、誤魔化すように静雄さんに尋ねる

静雄さんは不思議そうな顔でこちらを見ていたけれど、すぐに「そうだな」と言いながら机の上のタッパーを持ち上げた

キッチンへ向かう静雄さんの後を追いながら、私は耳まで赤くなった顔を両手で押さえて小さくため息をついた

私がこの胸の高鳴りを本物の恋だと自覚するのは、まだ先の話・・・








〜おまけ〜


「うん、美味い」

「本当ですか?良かった……」

「いやマジで美味い。初めてでこれならあっという間に上達するだろうな」

「はい、これからも頑張って練習します」

「それにしても、何で肉じゃがなんだ?」

「練習なので料理の基礎が解る様な物が良いとリクエストしたら、セルティさんがそれなら肉じゃがだろうって言うので…」

「へぇ、でもセルティって料理出来ないよな?」

「はい、なので二人で杏里さんに教えて貰ったんです」

「あぁなるほど、良かったな」

「はい、杏里さん、とっても良い人でした。お料理上手だし、可愛いし、素敵です」

「ふーん…、まぁの方が可愛いけどな」

「!?」


-END-








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杏里ちゃんが料理出来ないのは知ってるんだけど、杏里ちゃんと絡ませたかったから原作設定無視しちゃったorz

出来るだけ原作に忠実にしたいんだけど今回はまぁ例外って事で一つお願いします(>д<;)