目を覚ますと見慣れない天井が目に入った

天井を見つめたままぼんやりした頭で記憶を辿り思い出す

そうだ、此処は平和島静雄さんの家だ

私が静雄さんに助けられてもう数日を此処で過ごしたのに

未だに起きた時にラボでない事に違和感を覚える



「………」



ゆっくりと身体を起こして辺りを伺うと

少し離れた所に後ろ向きのソファが見える

そのソファの端からは静雄さんの足がはみ出していた

静雄さんの大きな身体ではソファで寝るのは窮屈そうだ

ここ数日の間一人で悠々とベッドを占領してしまっている事に罪悪感を覚え

静雄さんを起こさないようにそっとソファに近寄った

寝息立てる静雄さんの髪の毛が朝日に照らされてキラキラと光る

そんな静雄さんを眺めて、綺麗だなと思った

男性に用いる言葉としては不適切なのかもしれないけど

その言葉しか浮かばない

ふと視線を床に落とすと、布団が落ちていた

私はそれを静雄さんの上に掛け直して、再度ベッドに戻って腰掛けた

男性が寝ていて、女性が起きている

こう言う場合は女性が朝食の用意をしておくのが一般的だと、頭では解っている

しかしつい先日まで薄暗い地下室で点滴を栄養として生きてきた私には到底無理な話だ



「どうしようかな…」



ある人のクローンとして作り出された私は

一般的な事から専門的な事まで、あらゆる知識が備わっていた

しかし知識だけあっても実際に経験した訳ではないので、出来る事などたかが知れている

お寿司だって先日生まれて初めて食べて、見た目以上に味わい深いモノである事を知った

つまり私は見る物触る物食べる物全てが未知数で、子供と同じ状態だ

そんな私の世話を出会ったばかりの静雄さんにさせている

そう考えると申し訳ない気分にしかならない

ぐるぐるとそんな事を考えていると、ぎしりとソファが音を立てた

静雄さんが目を覚ましたらしい

私は立ち上がる静雄さんに近寄り声を掛けた



「おはよう御座います」

「ん…起きてたのか……」



のそりと上体を起こした静雄さんが寝ぼけ眼で私を見下ろす



「私も、ついさっき起きました」

「そうか」



静雄さんはそう言いながら一つ大きな欠伸をしてテレビを付けた

テレビの画面にはニュースキャスターが映っていて、右上には小さく 07:12 と表示されている



「飯にするか」

「そうですね」



静雄さんと一緒にキッチンへ向かい、朝食の準備をする

私一人ではまともな料理が作れない為、私は静雄さんの横で軽い手伝いをするだけ

静雄さんも料理はあまり自信は無いと言っていたけれど、私の為にわざわざ普段しない料理をしてくれているだけでも有り難い事だ



「ご馳走様でした」

「結構食えるようになったな」

「はい、パンもご飯もどっちも美味しいですね」



最初は胃の容積が小さいのか小食だった私も、

今では普通の人と同じ位の量を食べられるようになった

自分で見てもガリガリだった身体も、大分肉が付いて健康的な見た目になったと思う

朝食が終わると、静雄さんはいつものバーテン服に着替えて仕事に向かう準備をする



「そんじゃ行って来るから、何かあったら連絡しろよ」

「はい」



テレビの右上に 8:30 と表示される頃、静雄さんは家を出る

私は数日前に買って貰った携帯電話を握りながら静雄さんを見送る

靴を履いている静雄さんの背中を眺めるのもここ最近の日課になっている

今日も同じようにその背中を眺めていたら

何だか胸がきゅうっと苦しくなるような感覚に襲われた

それは悲しさや辛さとは全く関係の無い感覚で、その時私は初めて人は幸せ過ぎても苦しくなるのだと知った



「静雄さん」

「ん?」

「有難う御座います」



思わずそう声を掛けた私を、静雄さんは不思議そうな顔で見ている



「あの、何だか上手く言えないんですけど、私、静雄さんに助けて貰って本当に良かったと思うんです」



不思議そうな顔のまま私を見ている静雄さんにどうにかそう伝えると、

静雄さんは少し黙り込んだ後、一言「そりゃ良かった」と言ってぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた

静雄さんの大きな手のひらから伝わる暖かさが心地良くて思わず目を閉じる

しかしふいにリビングのテレビから「8時45分、8時45分」と言うニュースのマスコットの声が聞こえて来て

これ以上静雄さんを引き止めてはいけないと我に返った



「ご、ごめんなさい…、えぇと、今日も頑張って来て下さいね」

「あぁ、んじゃ行って来る」

「はい、行ってらっしゃい」



パタンと扉が閉まり、静雄さんの足音が遠ざかる

私は静雄さんの足音が聞こえなくなった所で、一人リビングへと戻った



――――――――――――



リビングに戻るとテレビで占いが発表されていた

しかし私は自分の星座や誕生日が解らないので見てもあまり意味が無かった

それでも静雄さんが居なくなり急にガランとした部屋の中にいるとテレビを消す気にはなれず、付けたままで携帯を弄る

アドレス帳には静雄さんと、静雄さんの友達の岸谷新羅さん、

そして新羅さんの恋人のセルティさんのアドレスが入っている



"今日、少しだけ会えますか?"



私は慣れない手つきでボタンを操作し、短い文章をセルティさんに送る

セルティさんとは静雄さんに助けてもらった次の日に会ったのだけど

彼女が私のオリジナルである事にはその時に気付いた

ピピピピと無機質な着信音が鳴り、メールが届く



"大丈夫だよ、何時が良い?"

"何時でも平気です"



私はセルティさんのクローンだけど、私と彼女はあまり似ていなかった

と言ってもセルティさんには首から上が無いので顔については判断出来ないけど、

言動や性格はかなり異なっているように感じる

それでも何処か懐かしさを感じたのは、やっぱり私が彼女の細胞を元に作られたからなのだろうか



"解った、お昼位に迎えに行くね"

"はい、宜しくお願いします"



セルティさんとのやり取りを終えて、携帯を机に置き、キッチンに移動して朝食に使った食器を洗って片付ける

料理は出来なくてもこれ位は出来るようになった

洗濯機の使い方も覚えたし、布団を干したり掃除機を掛けたりもする

いつか本で読んだ"お嫁さん"あるいは"主婦"のようだ

後は料理が作れるようになれば、静雄さんが朝ゆっくり出来るようになるのに…

そんな事を考えながら新羅さんとセルティさんがプレゼントしてくれたワンピースに着替えると

タイミング良く携帯が鳴った



"もうすぐ着くよ"



メールを読んだ私は靴を履いて外に出る

この靴は静雄さんと一緒に買いに行ったものだ

そう言えばこの靴を買いに行った日に静雄さんが私に名前を付けてくれたんだっけ



「おはようございます」

「あぁ、おはよう

「すみません、急に呼び出しちゃって」

「ううん、私も今日は暇だったから」



私はセルティさんと"会話"が出来る

セルティさんは首から上が無いので、通常ならPDAに打ち込んだ文字を見せる事で会話が成立する

しかし私の場合はセルティさんが目の前に居れば、彼女の言いたい事が解るのだ

これはきっと私が彼女のクローンだから出来る事で、それを知った時新羅さんにはとても羨ましがられた

とは言え新羅さんもセルティさんの言葉を読み取れるので別に今のままでも困らないとは思うんだけど

新羅さんには「それとこれとは話が別だよ!!」と言われてしまった



「今日はどうしたの?」

「ぁ、えっと、実は相談があって…」

「相談?」

「はい、あの…、私、料理が出来るようになりたいんです」



私がそう打ち明けると、セルティさんは一瞬動きを止めた後、「ごめん…」と呟いて項垂れた



「ど、どうしたんですか?」

「実は…、私も料理が出来ないんだ……」



セルティさんは悲しそうに今までの失敗談を聞かせてくれた



「新羅は気にせず食べてくれるが、多分本当は美味しく無いと思う」

「そんな事ないと思いますけど…、でも確かに味見が出来ないのはハンデですよね…」



私には味覚があるけれど、先日までその機能を使う事がほとんど無かったので私も味覚には正直自信が無い

そんな二人が集まった所で美味しい料理が作れるとは思えない

早くも行き詰った所で、セルティさんが思い出したようにぽんと手を叩いた



「そうだ、杏里ちゃんに相談してみよう」

「杏里、ちゃん…?」

「あぁ、この間話した罪歌を持ってる子だよ」



"罪歌"と言う妖刀の存在については、先日新羅さんの家にお邪魔した時に聞いた

静雄さんが襲われたけど、圧倒的な力でねじ伏せていたとセルティさんは教えてくれて、

その時私は初めて静雄さんがとても力持ちである事を知った

そう言えば初めて出会った日に「自分も人とは違う体をしてる」と言ってたっけ



「ちょっと待ってね、今メールしてみるから」



セルティさんはそう言うと素早く携帯を操作し始めた



「その人は、罪歌には操られていないんですよね?」

「うん、杏里ちゃんが言うには罪歌に依存してるから大丈夫らしいよ」

「依存、ですか…」



首なしライダーのセルティさん

そんなセルティさんにメロメロの闇医者の新羅さん

人より頑丈でとっても強い静雄さん

罪歌を宿す杏里さん

そしてセルティさんのクローンである私…

類は友を呼ぶと言う言葉は、本当なんだ

私は世の中の"普通"を良く知らないけど、

きっと今挙げた人達は確実に普通のカテゴリには入らないと思う



「杏里ちゃん13時からなら大丈夫だって」

「ぁ、本当ですか?」

「うん、材料買って先にうちで待ってようか」

「そうですね」



セルティさんが差し出してくれたヘルメットを被り、バイクの後ろに座る

元は馬であるバイクが嘶き、エンジン音も無くバイクは走り出した



「静雄は今日は仕事?」

「はい、多分夕方までお仕事です」

「そっか」



セルティさんはそう言うと少し速度を上げる

新羅さんが羨ましいと言ったように、こうしてバイクに乗っている時でも普通に会話が出来るのは利点かもしれない



「何を作ろうか?」

「そうですね…、料理の基本が覚えられるようなのが良いです」

「うーん…、煮物とか、かな?」

「ぁ、煮物良いですね」

「よし、じゃぁここはセオリー通り肉じゃがにしよう」



メニューが決まったところで、スーパーに到着した

セルティさんはお店の近くの目立たない場所にバイクを止める



「それじゃぁ私はここで待ってるから」

「はい、行って来ます」

「気をつけてね、何かあったらすぐ連絡してね」



静雄さんにも同じ事言われたなぁ

そんな事を思いつつ、私はバイクを降りて小走りでスーパーに向かった

買い物をするのはこれで3度目だから、大丈夫だと思う

正直食材の良し悪しについてはまだ良く解らないけど、それは経験を積めばきっと何とかなるんだろう

私は携帯で肉じゃがに必要な食材を調べて、カゴに食材を入れていった



「あれ、ちゃん?」



急に名前を呼ばれ、振り向くとそこには静雄さんの上司のトムさんが居た



「ぁ、トムさん、こんにちは」

「こんちわ、何、一人で買い物?」

「ぇっと…、これから友達に料理を教えて貰うので」



「へぇ〜、いいねぇ、静雄の為?」



トムさんとはこの間携帯電話を買いに行った日に偶然出会った

静雄さんが言うにはトムさんは"恩人"らしい

私にとっての静雄さんと同じようなものなのかな?



「はい、一人じゃ何も作れないので、特訓です」

「そっかそっか、こんな可愛い彼女が居てアイツは幸せもんだな」

「ゎ、私は静雄さんの彼女じゃないですよ」



慌ててトムさんの言葉に反論したけど、トムさんは笑って取り合ってくれなかった

恋人と言う存在についての知識はあるけれど、好きと言う気持ちは私にはまだ良く解らない

静雄さんは優しくて強くて格好良いから好きだけど、それが本物の好きなのか

初めて接した相手だから錯覚しているだけではないのか

私は自分の中にある様々な感情について確信が持てずに居た



「そう言えば…、静雄さんは一緒じゃないんですか?」



いつもは上司であるトムさんと一緒に行動していると聞いていたので、気になって尋ねる



「今は別行動中だけど、呼ぼうか?」

「いえ大丈夫です、…と言うか、此処で会った事も内緒にしておいて下さい…」

「ん?何で??」

「あの…えっと……」



私が言い淀んでいるとトムさんがぽんと手を打った



「あぁそっか、料理の練習はサプライズなんだ?」

「はい、内緒なんです」

「了解了解、ところであんまりお友達待たせちゃ悪いんじゃない?」

「ぁ、そうですね、すみません、それじゃぁ失礼します」



ぺこりと頭を下げると、トムさんが「頑張ってな〜」と言って手を振ってくれた

私はトムさんと別れてお会計に向かう



「セルティさん、待たせちゃってごめんなさい」

「ううん大丈夫だよ、重くなかった?」



私がセルティさんの元に戻ると、セルティさんはすぐに買い物袋を私から受け取ってくれた



「大丈夫ですよ、最近はちゃんと筋肉もついて来たんです」



最初の頃は新羅さんに「まずはたくさん食べてゆっくり運動して、筋力をつけないといけないね」と言われてたんだけど、

静雄さんが手伝ってくれた事もあって私は人並みの体型になっていた

とは言えまだ重たい物は持てなかったりするので、もう少し力を付けたいなと思う

その点静雄さんは何でも持ててしまうのでちょっと羨ましい



「よし、それじゃぁ行こうか」

「はい」



再びセルティさんの後ろに座り、ヘルメットを被る

流れる景色を楽しんでいたら、あっという間に新羅さんとセルティさんの住むマンションについてしまった



「お邪魔します」

「やーやーちゃんいらっしゃい!!」



靴を脱いでリビングに向かうと、新羅さんが両手を上げて迎えてくれた



「どう?その後体調は悪くなってない?」

「新羅さんこんにちは、大丈夫ですよ。元気です」

「静雄とはどう??上手くいってる??」

「はい、静雄さんも変わらず優しいですよ」



相変わらずテンションの高い新羅さんの質問にそう答えると、

新羅さんはうんうんと腕組みをして感慨深げに頷いた



「静雄がまさか女の子と一緒に暮らすなんてね…、高校時代からは考えられない事だよ」

「そうなんですか?」

「そうさ、まさに吃驚仰天ってやつだね」



オーバーアクションな新羅さんを見ながら、私は少しだけ胸がドキドキしていた

でもこの胸の動悸は私のものじゃなくて、セルティさんのものだ

私とセルティさんは言葉だけでなく感情も共有する事があるらしい

最初は自分の物でないこの感情が何だか解らなかったけど、私がこんな風にドキドキするのは
セルティさんが新羅さんの側にいる時だけなので多分間違い無いと思う

セルティさんは新羅さんに恋をしてる

このドキドキが恋の証だとすれば、私も恋をしたらこんな風に胸が高鳴るんだろうか



「"そろそろ杏里ちゃんが来る頃だから、迎えに行って来る"」

「解ったよセルティ、くれぐれも気をつけてね、変な男について行っちゃ駄目だよ」

「"行くか馬鹿"」



新羅さんに携帯を見せた後で、セルティさんが私に話しかける



「それじゃぁちょっと待っててね」

「はい、行ってらっしゃい」



こうしてセルティさんが杏里さんを迎えに行ってしまうと新羅さんがお茶を入れてくれた



「それにしても…、ちゃんは良いよねぇ」

「何がですか?」

「セルティと"会話"が出来る事さ」

「それ前も言ってましたけど、新羅さんだって出来てますよね?」

「僕の場合は想像してるだけだから、会話とは言い難いよ」



お茶を一口飲んで、新羅さんはため息をつく

新羅さんがあまりにも落ち込んでいるようなので、私は今まで誰にも言わなかった秘密を新羅さんに打ち明けた



「新羅さん」

「ん?」

「実は私、セルティさんと会話出来るだけじゃなくて、セルティさんの感情も読み取れるみたいなんです」

「ぇえ!?何それ本当かい!?」

「はい、でも解るのは余程感情が高ぶった時だけですし、私が一方的に感じてるだけですけど…」



私がそう説明すると、新羅さんは両手で頭を抱えてしまった



「羨ましい…!!羨ましすぎる…!!何で僕にはその能力が備わってないんだ…!?!?」

「あの、新羅さん、それでですね」

「ん、あぁ、ごめんごめん。何だい?」

「セルティさん、新羅さんと居る時はいつもドキドキしてるんですよ」

「へっ!?」



内緒ですよ?と付け足して、こっそり教える



「新羅さん、顔真っ赤ですよ」

「だっ、だっていやその…、そ、その話は本当なのかい?」

「本当です、その証拠に私は今新羅さんと二人きりだけど、ドキドキしないですから」

「うん…、その証明の仕方は何だかちょっと切ないね」



新羅さんの顔色が戻ったところで、玄関のドアが開く音がした



「セルティさんお帰りなさい」

「ただいま、杏里ちゃんを連れてきたよ」



セルティさんはそう言うと自分の後ろに居た女の子の背に手を当てた



「は、初めまして…園原杏里です…」



杏里さんは眼鏡を掛けたおかっぱの女の子で、とても大人しそうな雰囲気をしている

私は自分の年齢が良く解らないけど、私よりは年下に見える

この子が体内に罪歌を宿しているなんて嘘みたいだ



「初めまして、です」



二人して頭を下げて挨拶をすると、セルティさんが杏里さんに携帯画面を見せた



「"この子が前に話した私の妹分だよ"」

「妹さん、ですか」

「"あぁ、仲良くしてあげてね"」

「はい、さん、宜しくお願いします」



杏里さんが私に向かってにこりと微笑む

私も釣られて微笑むと、セルティさんが「和むなぁ…」と呟いた

こうして3人でキッチンに向かい、いよいよ料理教室が始まる



「今日は何を作る予定だったんですか?」

「ぇっと、料理の基本は煮物かなと思って、肉じゃがを…」

「肉じゃがですか、解りました」

「宜しくお願いします、杏里先生」

「先生だなんてそんな…、私もそんなに自信は無いですよ」



杏里さんと私がそんな会話をかわす中、セルティさんは挙動不審な新羅さんを訝しげに眺めていた



「"私が居ない間に何かあったのか?"」

「や、やだなセルティ、何もないよ、ある訳ないよ」

「"本当か?それにしては挙動不審だぞ、顔も赤いし…"」

「そっ、そんな事ないって!!それよりホラ、杏里ちゃんとちゃんが君の事を待ってるよ!?」

「"…まぁ良い、作り終わったらお前に毒見して貰うからそこで大人しく待ってるんだぞ"」

「はいはい、任せておいて、何人分でもどんとこいだよ!!」



やがてセルティさんがキッチンに来て、杏里さんに一つ一つ教わりながらの料理教室が始まった



「杏里さん、この"適量"って結局どれ位ですか?」

「そうですね、味を見ながら少しずつ入れていくと良いと思います」

「"私は味見が出来ないからここが問題だな…"」

「ぁ…、でも適量は少しと言う意味なので、あまりたくさん入れなければ大丈夫ですよ」

「杏里さん杏里さん、灰汁って何ですか?」

「はい、ぇえと、お肉を入れると出てくる…、これです、この茶色いのです」

「"杏里ちゃん、灰汁を取るとどんどん汁が減るんだが…"」

「えっとですね、その場合は揚げ物用のザル状のお玉を使って取ると良いですよ」



こうして(主に杏里さんだけが)大変な思いをしながらも、何とか進めている間
新羅さんはリビングでその様子をにこにこと眺めていた



「女の子が3人揃って料理かぁ…、素晴らしいねぇ、セルティも楽しそうだし喜色満面の気分だよ」



そう呟いて新羅さんがこっそり携帯のカメラで写真を撮っていた事には、誰も気付かなかった





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