目の前で愛する者が死んだと言う事実を、臨也の脳は未だに理解出来ずに居た



「………」



それでもどうにか立ち上がった臨也は、ふらふらとした足取りでの元へと向かう

を撥ねた運転手の事なんて、今はどうでも良かった

横転したトラックを横切り、散乱した積載物を踏み分け、倒れているの傍に歩み寄りを見下ろす

そしておびただしい量の血が広がる地面に力無く膝を付くと、臨也は呆然とした様子での頬に触れた

先程まで自分と話していた筈のが、今はもう動かない

先程まで笑い掛け、好きだと言ってくれていたは、まるで全てが嘘だったかの様に自分を残してこの世界から消えてしまったのだ

のまだ暖かい頬に触れながら、閉じられた瞼がもう二度と開く事は無いのかと思った瞬間

ようやく死と言う物への恐怖を理解した臨也は声を上げて涙を流した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「……ん…」



意識を取り戻したは、ゆっくりと目を開く



!!気が付いたの…!?」

「………?」



目を開けて一番に飛び込んで来たのは、親友であるしずくの驚いた顔だった

しずくはが目を開けるや否や驚いた様な顔でに詰め寄る



「大丈夫?痛い所無い?私の事解る!?」

「ぇと…し、しずく……?」

「良かった…!!ちょっと待ってて、今先生呼んで来るから!!」



の目が覚めた事を伝える為に、しずくはナースコールの存在も忘れて病室から飛び出して行く

状況が把握出来ないまま見送ったは、一人残された病室で思考を巡らせた

どうして自分は病院に居るのだろうか

此処が病院である事と、頭に巻かれた包帯やあちこちに処置の跡がある事から考えて、どうやら大きな事故にでも合った様だ

寝起きのせいか事故の前の事も後の事も記憶が定かでは無いが、何だかとても長い夢を見ていた様な気がする



「………」



がそんな事を考えながらぼんやりと天井を見つめていると、やがてしずくが医者を連れて戻って来た

白衣を身に纏った如何にもお医者様ですと言う風体を見て、の頭は何故か僅かにチクリと痛む



「…?」

さん、気分はどうですか」



医者はの様子を観察する様に見ながら、ゆっくりと声を掛ける



「ぇ?あの…、特に良くも悪くも……」

「そうですか。頭を強く打って出血量も多かったので心配でしたがこの分なら大丈夫そうですね」

「あの、私…どうして病院に居るんですか……?」



安心した様に頷く医者にが尋ねると、やり取りを見守っていたしずくが少し驚いた様に尋ね返した



、飛び出しそうになった子供を助けて大型トラックに轢かれたんだよ。…覚えてないの?」

「トラックに…?」

「うん…。それでたまたま通り掛かった人がすぐに救急車呼んでくれて、でも意識不明で全然目覚まさなくて…」



そう説明するしずくの目には次第に涙が浮かぶ



「そうだったんだ…。心配掛けてごめんねしずく」



はそう謝りながら、トラックと言う単語やしずくの涙に再び頭の痛みを覚えて眉を顰めた



?大丈夫?」

「ぁ、うん。大丈夫。何かちょっと記憶が曖昧って言うか、違和感があって…」

「事故の後は一時的に記憶が混乱するのは良くある事ですから、あまり深刻に考えなくて大丈夫ですよ」

「はい…」

「とりあえず脳波等一通り検査をしますから少し此処で待っていて下さい。今準備をして来ますから」

「解りました」



がこくりと頷くと、医者は踵を返して病室を後にする

医者が病室から居なくなると、しずくはベッド横の椅子に腰を下ろした



「さっきのおばちゃんにも連絡しておいたから、多分もう少しで来てくれると思うよ」

「うん、ありがと」

「でも本当に良かった…。ってば3日間も眠ったままで、もしこのままだったらどうしようってすっごく心配したんだよ」

「3日間?」

「そう、3日間。ずっと昏睡状態だったの」

「…、何かもっと長い間寝ていた様な気がするんだけど…」

「長い間って?」

「解んないけど、半年とか…」

「半年?が半年も目覚まさなかったらきっと私泣き過ぎで衰弱して、一緒に此処で入院する事になっちゃうよ」

「それは困るね」



苦笑するしずくの言葉にもう頷いて笑う

そしてふと、こうして笑い合う事に言い様の無い懐かしさを感じての頭は再びチリチリと痛んだ



「っ…」

「…?さっきからどうしたの?やっぱりまだ何処か痛む?」

「ん…、良く解らないんだけど、何か大事な事を忘れてる様な気がして…」



心配そうに見ているしずくに答えながら、は自分の頭を軽く抑えて独り言の様に呟く



「3日間も意識不明だったんだもん、先生も言ってた通りちょっと混乱してるんだよ」

「うーん…、そうかも……」

「そうだ。私他の子達にもが目覚ましたって連絡して来るね」

「うん。何か本当に色々ごめんね」

「何言ってるの、大変な時に助けに来るのは親友の役目でしょ?」



胸を張ってそう答えるしずくの言葉に、の頭が今度はくらりと揺れるように痛んだ



?」

「…ぁ、ごめん。何かちょっと感動して」

「それなら良いんだけど、痛い所とか変な所あるなら我慢しないでちゃんと先生に言うんだよ?」



が誤魔化す様に笑って答えると、しずくは不思議そうな顔で首を傾げたものの、やがて連絡を取る為に病室を後にした



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



誰も居なくなった病室で、は先程から度々起こる頭痛の意味を考える

何かを忘れている気がする

何か、大切な約束を忘れている気がする



「…何だっけ……」



もう少しで思い出せそうなもどかしさを感じながら、は何かきっかけになる物は無いかと病室を見渡した



「ぁ…」



そしてふと、ベッド横のサイドテーブルの上に置かれていた本を見つけては小さく声を上げる



「…これ……この間買ったやつ…」



そこに置かれていたのはデュラララのコミック版の新刊で、轢かれたときに投げ出されたせいか表紙が汚れてしまっている

は手を伸ばして本を取ると、何かに曳かれる様にパラパラとページを捲った



「………」



黒バイクで街を駆け抜けるセルティ

非日常に憧れる帝人

暗い過去を背負った正臣

罪歌を宿す杏里



本の中で繰り広げられるそれぞれの物語を、は夢中で読み進めて行く



セルティへの愛を語る新羅

いつも通り賑やかな門田、渡草、狩沢、遊馬崎のワゴン4人組

借金の取立てをしているトムと静雄

二人一緒の誠二と美香

誠二の写真を傍らに淡々と仕事をする波江



そして―



「臨、也……」



ページを捲った先に臨也の姿を見つけたその瞬間

事故に合ったあの日、自分がこの世界では無い別の世界に行ったのだと言う事をハッキリと思い出した

更にその世界で体験した事、出会った人、最後に自分の身に起きた事も同時に思い出し、は息を詰まらせる



「……っ」



無意識に溢れ出る涙もそのままに、はそっと本の中の臨也に触れる

もうこの世界に居ないのだと解っていても、愛しい気持ちを今更抑えられるハズも無い

二度と会えないのだと言う事がただ悲しくて、は布団に顔を埋めて泣いた



「はぁ…」



そうして暫くの間泣き続けた後で、はゆっくりと顔を上げる

悲しさが晴れた訳では無かったが、いくら泣いても向こうには戻れないのだからこれ以上泣くのは無意味なのだと、

は散々泣き腫らした後でようやく受け入れる事にした



「………」



これから先、平坦で抑揚の無いつまらなかった日々を自分の手で変えて行かなければいけない

今まで平凡な生き方しかして来なかったに出来る事などたかがしれているかもしれない

それでも、帝人が望み実現した様に、セルティが吹っ切れて自分の居場所を見出した様に、自分だって何かを変えられるんだと言う事を証明したい

そしていつかまた奇跡が起きた時、大好きな人達に胸を張って誇れる様な人生を、自分自身の力で作りたい



「……良し」



目を開けて頬に残る涙の跡を拭い、は両手を握って気合を入れる

そしてふと再び本を手に取って最後まで読み進めたは、後書きを読んだ所で驚いた表情のまま動きを止めた



「ぇ…、嘘ぉ!?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「嘘…嘘だよこんなの……、…嘘でしょ!?目開けてよ!!」



新宿の総合病院の一室で、狩沢が悲痛な声を上げる

目の前のベッドにはが静かに横たわっている

ベッドのすぐ横では心拍数を示す装置が僅かに動くの鼓動を示しているが、その動きは弱々しく今にも横一線へと変わりそうだ



「狩沢、気持ちは解るが静かにしろ。個室とは言え一応病院だからな…」



門田は狩沢をなだめるものの、その表情は暗く沈んでいる



「…何で……何でこんな事になっちまったんだよ…」

「酷いっす…、こんなの残酷過ぎるっすよ…」



渡草と遊馬崎も門田と同じ様な表情で目の前のを見つめる

が撥ねられた翌日の夕方

臨也からの連絡を受けた4人は池袋から新宿へと出て来ていた



「臨也から連絡が来た時は信じられなかったが…」



そう門田が小さく呟くと扉が開き、臨也が病室へ戻って来た



「あぁ、来てたんだ」

「臨也…」



4人の前に現れた臨也の顔は誰が見ても解る程憔悴しており、昨晩から一睡もしていないのか目の下にはうっすら隈が浮かんでいる



「………」

「揃いも揃って何でこんな事になったか聞きたいって顔だね」

「…いきなりこんなメールが来れば当たり前だろう」

「こんなメールも何も、俺は"が轢かれて病院に搬送された"って事実を送っただけだよ」

「だから、どう言う経緯でがこんな事になってしまったのか…俺達はそこが知りたいんすよ」



臨也の言葉に遊馬崎が真剣な顔つきで答える



「どうしてって、そんなの俺が知りたいよ」



嘲笑を浮かべながら、臨也は昨晩の事を思い返す



「昨日の夜新宿に戻ったら波江さんにが公園で待ってるからさっさと行けって追い出されて、
仕方なく会いに行って話してたら0時間近にいきなり帰らなきゃとか訳の解らない事を言い出して、
急に車道側に向かって歩き始めるから止めようとしたけど足も腕もまともに動かなくて…」

「………」

「結局そのまま居眠り運転したトラックが走って来て俺の目の前では轢かれて…。
どうにか一命は取り留めたけど、医者が言うにはこのままが目を覚ます保証は無いってさ」

「そんな…」



臨也の説明に狩沢は両手で口元を押さえる

遊馬崎も渡草も顔を歪める中、臨也はた溜め息交じりに続けた



は自分がこの世界から居なくなる事も知ってたみたいだけど…、
それならわざわざ会いになんて来ないでそのまま消えてくれた方が良かったのにねぇ」

「………」

「人に色々勝手な事言うだけ言っといて、自分は一人元の世界に帰っちゃってさ…」

「おい、…」

「でもまぁ自業自得なんだろうね。俺も紀田くんに似た様な事したんだ。あの時あそこで沙樹が死んでたっておかしくなかったんだし」



そうぽつりと自嘲気味に呟く臨也の声は、いつもと変わらない様に聞こえる



「……ねぇドタチン」

「…何だ?」

「俺は人間を愛してるけど、人間の方は俺を愛してくれないんだ」

「……、」

「でもは言ったんだ。俺がどんな人間でも誰に嫌われていても、それでも俺を愛してるって」

…ちゃんと言えたんだ……」



が以前話していた目的を果たせた事を知った狩沢は、小さく呟いて涙を流す



「それで気付いたんだけどさ、罪歌やシズちゃんの様な例外って言うのが居るのと同じで…俺にとってはも例外の一人なんだよ」

「どう言う事だ…?」



独り言の様に淡々と呟かれる臨也の不可解な言葉に門田が尋ねると、臨也は少しの間をおいてぽつりと答えた



「…人間でも、人間じゃなくても、平凡でも非凡でも…、だったら何者でも良いかなって思ったんだ」

「臨也…」

「一個人に向けて愛してるなんて言ったの初めてだよ。正直自分でも驚いてる。それなのに……、それなのにさぁ」



臨也は苦笑しながら呟くと、昏睡状態のが寝ているベッドへと歩み寄りの顔を覗き込んだ



「いつまで寝てるつもりなんだろうね?いくら自業自得って言っても、こんな運命俺は信じたく無いんだけど…」



目を閉じたままのに話し掛け、それっきり黙りこんでしまった臨也に、門田も狩沢も掛ける言葉が見つからず病室はシンと静まり返る

の横で弱々しく心拍数を伝える音だけが響く中誰もが絶望的な気持ちでを見守っていると、

やがて病室の扉が開き珍しく白衣を脱いだ状態の新羅とセルティが慌てた様子で入って来た



「新羅…運び屋……」

「遅くなってごめん、仕事が入っててどうしても抜け出せなくて」

「"の容態はどうだ?大怪我と聞いたが大丈夫なのか?"」



セルティの差し出したPDAを読んだ臨也は頭を軽く左右に振ってそれに答える



なら今は昏睡状態だよ。意識不明の重態ってやつ」

「"そんな…"」



臨也の言葉に、セルティはショックを受けた様子での傍へ寄ると顔を覗き込んで項垂れた



「"私は…こんな時に呼び掛ける事も出来ないんだな…"」

「セルティ…」



セルティは自身に首が無い事を嘆きながら、改めてを見下ろす



「"……ん?"」



そしてふと何かに気付いたように動きを止めると、おもむろにの布団を剥いだ



「!?」

「セ、セルティ!?何してるんだい!?」



セルティの突然の行動に臨也も新羅も驚くが、セルティは構わずの心臓部分に手を乗せるとやがてPDAを臨也の方へ向ける



「"が…、人間になってる"」

「…は?」

「人間にって…どう言う事だい?」



思い掛けない発言に臨也を始めその場に居る全員が頭に疑問符を浮かべる

そんな中新羅が尋ねると、セルティは素早い操作でPDAを操り質問に答えた



「"私は人間とそうで無いものの気配が解る。前のは人間でも無いし罪歌の様な化け物でも無い中途半端な存在だった"」

「ふむ…、でも今はその気配が人間の物になっている…と、そう言う事かい?」

「"あぁ。生命力は確かに弱っているが、今のは新羅や臨也と変わらない、普通の人間だ"」

「ねぇねぇ、それってつまりどう言う事?」



それまで黙って見守っていた狩沢が、セルティの説明を読んで我慢出来ずに門田に尋ねる



「いや、俺に聞かれてもな…」

がこっちで生活していた間、向こうの世界では昏睡状態だったって言ってましたよねぇ」

「うん。実は元の世界で一応生きてるって言ってた」

「で、今こちらの世界で昏睡状態のは、向こうの世界でも同じ様に意思だけの存在だと考えられるっすね」

「そうよね、少なくともこっちでのはまだ生きてる訳だし」

「そう言うもんか…?」



遊馬崎の仮説に狩沢は大きく頷くが、渡草は小首を傾げる



「そして、今こちらの世界でが完全に人間になったと言う事は…」

「言う、事…は……」



遊馬崎と狩沢はそこまで言うと、何かに気付いた様に顔を見合わせた後での方を向いた



「………」



すると同時に心拍数を伝える電子音が少しずつ早まり、通常通りの心拍を表し始める



「………?」



の目は未だに開かないものの、しっかりと刻み始めた電子音を聞いて臨也はの名前を呼ぶ



「…、……」

、……!!」

「……ん…、…」



皆が見守る中、臨也がの肩に手を掛けて名前を呼び続けると、はやがてその声に反応する様に目を開いた



「…!!」

「驚いたな…」

「奇跡っす!!奇跡が起きたんすよ!!」

「まぁ、奇跡としか言えないよな…」



意識を取り戻したに、驚いて声も出ない狩沢の横で門田もまた驚いた表情を見せる

遊馬崎は両手を上げて素直に喜ぶが、渡草も今回ばかりは遊馬崎の言葉に納得した様に頷いた



「あ、れ……此処…?」



はぼんやりとした様子で視線だけを動かし自分を取り囲んでいる面々を見渡す



ちゃん、此処は新宿の病院だよ」

「"昨晩公園前でトラックに轢かれて運び込まれたらしい。覚えてないか?"」

「公園…?トラックに轢かれて…って……」



何が起きたのか把握出来ていない様子のに新羅が答え、セルティが尋ねる

セルティの差し出したPDAを目で追ったは、綴られた文字を反芻しながら何かを思い出す様に数回瞬きを繰り返した



「ぇと…轢かれて、起きたら病院で、元の世界に私は戻ってて、しずくが居て…夢だと思ったけど夢じゃなくて…」



は頭の中を整理する様に呟きながら、仰向けになっていた上体をゆっくりと起こす



「それで、これからは一生懸命生きなきゃって思って、大学生活も就職も頑張って、何だかんだ80歳位まで生きて、
昨日はすっごく眠かったからいつもより早く布団に入ったんだよね…。で、目開けたら皆が居て…」

「何だそりゃ…」

「まだ記憶が混乱してるのか?」



の口から紡がれる言葉を聞きながら渡草と門田が首を傾げる横で、遊馬崎と狩沢だけは納得した様に頷く



「違いますよ門田さん渡草さん、は向こうの世界で今度こそ本当に死んじゃったんすよ!!」

「「は?」」

「つまり事故じゃなくてきちんと老衰で亡くなって、は向こうの世界から切り離されたのよ。
で、晴れてこっちの世界の人間になったからこそ曖昧じゃないちゃんとした人間になったって事!!」

「"そんな突飛な…"」

「いや、でも確かに2人の言う通りかもしれないよ。君が感じた気配についてもそれでスッキリ納得が出来るし…」

「へ?私が人間になったって、どう言う事?」

「セルティがね、君の気配が曖昧な物から普通の人間に変わったって言うんだ」

「"ホラ、前にうちに来た時に話したよね。の気配は良く解らないって"」

「うん、聞いた様な気がする…」

「"でも今朝臨也からが轢かれたって連絡を貰って、さっき此処に来たら普通の人間と変わらなくなっていたから…"」

「そうだったんだ…。それじゃぁ私、こっちでもう一回暮らせるのかな?って言うか…人生二回目?」

「凄いっすよ!!二度目の人生なんて普通の人間じゃ絶対に体験出来ないっすよ!!」

「もはや平凡でも何でも無いよな」

「あぁ、そうだな」

「そっか…、私また戻って来れたんだ……」



それぞれが喜びに沸く中、は自分の手の平を見つめて感慨深げに呟き、そしてふいに思い出したように声を上げた



「ぁ、そうだ…!!」

「どしたの?」

「あのね絵理ちゃん、私この世界にもう一度来れたら皆に言わなきゃって思ってた事があったの」

「言わなきゃいけない事?なんっすかそれ?」



遊馬崎と狩沢がの言葉に首を傾げると、は興奮した様子でセルティを指差した



「デュラララの主人公、セルティさんだった!!!!」

「"へ?私…?"」



の突然の言葉にセルティも自分を指差して無い首を傾げる



「でも前は帝人くんって…」

「そうなの。最初は帝人くん視点で話が進むから帝人くんだと思ってたの。でも実はセルティさんなんだって!!
って言うか普通にタイトルからしてデュラハンのデュラなんだからセルティさんで当然と言えば当然なんだけど…」

「やったじゃないかセルティ!!やっぱり主人公にふさわしいのは君だったんだよ!!」

「"いや、私は別に…"」

「そうなると帝人くんにシンパシーを感じていたとの関係性が気になる所っすねぇ」

「そうなんだよね。でも思い返してみると帝人くんもそうだったけど、私セルティさんが吹っ切れた時も凄い高揚してたから…」

「じゃぁあれっすね、帝人くんが表の主人公で、首なしライダーが真の主人公みたいな!!」

「まぁ誰が主人公でも脇役でも良いじゃない!!何にせよおかえり!!!!」



話し込む遊馬崎との会話を明るく笑い飛ばすと、狩沢は勢い良くに抱き付いた

は驚いた様子を見せながらも、狩沢の身体を抱きしめ返して嬉しそうに笑う



「おい臨也、何で黙ってるんだよ?」

「そうだよ折原くん、折角のお姫様のお目覚めだよ?」

「………」



ふと、盛り上がるの周りを眺めながら立ち尽くしている臨也に門田と新羅が声を掛ける



「""」

「ん?」



セルティに肩を突付かれ指差す方に視線をやると、臨也が神妙な顔つきのままこちらを見ていた



「ぁ…」



はそんな臨也にどう声を掛けようか迷っていると、臨也は無言のままを見つめていたがやがて盛大な溜め息と共に片手で顔を覆って項垂れた



「何なんだよ本当にもう…」

「ぃ、臨也…?」



自暴自棄気味に吐き出された言葉には首を傾げる



「あのさぁ…、何勝手に死に掛けてる訳?」

「ぇ?」

「勝手に現れて勝手に人の事引っ掻き回して勝手に何でも決めて、俺の大嫌いなシズちゃんに世話になったり
いっくら連絡しても繋がらなかったり、その癖勝手にうちに来て公園で待ってるからとかって呼び出したかと思えば
人の事好きだの愛してるだの言い出して受け入れた瞬間俺の事置いて勝手に居なくなろうとするとか何のつもりなのかって聞いてるんだよ」

「そ、そんな事言われても…」

「大体向こうの世界で80まで過ごして来たってどういう事?恋人は?結婚は?まさか俺以外の誰かと付き合ったりしてないよね?」



堰を切ったかの様にを問い詰める臨也の様子に、高校時代から付き合いのある門田と新羅はもちろん、

臨也と普段面識の無い遊馬崎、狩沢、渡草も、仕事上でしか会う事の無いセルティも揃って驚いて言葉を失う




「し、してないよ!!臨也だけだって決めたから彼氏も作らずずっと独りで生きて来たよ!!友達はたくさん居たけど、結構虚しかったんだから!!」

「そう…、それならまぁ良いけど。兎に角、次勝手に消えたりなんかしたら許さないからね」

「何それ!?自分だって色んな人と遊んでたり散々自分勝手な事して来た癖に…!!」

「俺はいいの」

「何でよ」

「だって、はそんな俺でも好きなんでしょ?」

「なっ…」

「俺はこの台詞昨日聞いたばっかりなんだけど、もしかしてもう忘れちゃったかな?何せ80歳まで生きたおばあさんだもんねぇ?」

「おっ、おばあさんじゃないし忘れてる訳無いでしょ!!ちゃんと覚えてるもん!!」



馬鹿にした様に尋ねる臨也にが対抗すると、臨也は口の端ににっこりとした笑みを浮かべた



「へぇ?それじゃぁ何て言ったか教えてよ」

「!?それは…」

「どうしたの?やっぱり忘れちゃった?まぁ元々記憶力あまり良さそうじゃないから仕方無いよね。それともあれは嘘だったとか?」

「そんな事…」



しどろもどろになるを楽しそうに眺める臨也に、遊馬崎がぽつりと零す様に呟く



「いやぁ…、泣く子も黙るどころか利用し尽くして容赦なく捨てると専らの噂の情報屋さんにもこんな一面があったんすねぇ…」

「ねー。何か以外って言うか…、ちょっと萌えるかも?」

「俺はどっちかっつーとあんまり知りたくなかったけどなぁ…」

「同感だ…」

「そうかな?僕は臨也って結構そう言うとこあるんじゃないかと思っていたよ」

「"お前はホントに気楽な奴だな…"」



それぞれがそれぞれの反応を見せながら見守る面々に、真っ赤な顔をしたが助けを求める



「ちょっ、ちょっと誰か助けてよ!!」

「さぁて、僕達はそろそろお暇しようか。ね、セルティ」

「"そうだな。静雄にもの無事を知らせないといけないし"」

「俺達も帰るぞ」

「はいっす」

「新宿から池袋ってこの時間結構道混むんだよなぁ」

、また落ち着いたら連絡頂戴よね!!」



こうして慌てるを残し、新羅、セルティ、門田、狩沢、遊馬崎、渡草の6人はぞろぞろと病室から出て行ってしまった



「な、何で…!?」

「さて…」



にこやかに手を振って6人を送り出した臨也は、ベッドの上で打ちひしがれるの横に腰を掛ける



「…っ」

「そんなに構えないでよ、もう意地悪しないからさ」

「…本当に?」

「ホントホント、俺が嘘ついた事ある?」

「……ぇ、割といっぱ」

「減らず口叩くのはどの口だろうねぇ?」

「いひゃいいひゃい」

「全く…」



臨也はの頬を両手でつまんだまま嘆息すると、手を離してを抱き締めた

それはまるで縋る様な仕草で、もそんな臨也の背に腕を回す

暫く互いの存在を確かめ合う様に抱き合っていると、臨也がぽつりと呟いた



「…が目の前で轢かれた時、正直俺の方が死ぬかと思ったよ」

「………」

「俺は誰よりも死を恐れてるけど、それは自分に対する死だけだったからさ…。
誰かを愛する気なんて無かったし、ましてや自分が愛する人が目の前で死ぬ事なんて考えた事も無かった」



臨也は淡々と話しながらまた一つ息を吐くと、の身体を離して改まった様子で告げる



「まぁそう言う訳だから、もう勝手に居なくなったり勝手に死んだりしないでよね」

「き、気を付けます…」

「本当に解ってる?ついでに言うと今後はシズちゃんと二人きりで出掛けたりとかも無しだからね」

「ぇえ?それは横暴じゃない?」

「横暴じゃありません。業務上は仕方ないにしてもプライベートは駄目。他の奴は別に良いけどシズちゃんは駄目。絶対駄目」

「臨也って…、案外子供っぽい所あるよね」



まるで子供の様に頑として譲らない臨也にが呟くと、臨也はの頬に手を添えて顔を近付ける



「何か不満?」

「いいえ。そんな臨也も大好きですから」



唇が触れそうな程の距離に照れながらそう答えると、臨也は満足そうに頷いていつも通りの顔で不敵に微笑んだ



「好きだよ、愛してる」



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21歳

大学生

池袋在住

身長:平均

体重:平均

髪型:一般的なミディアム

髪色:一般的なブラウン

特技:特に無し

特徴:特に無し

悩み:彼氏がちょいちょいウザい事

壮絶な過去も持ってない

大層な夢も持ってない

平凡な家庭に生まれて平凡な日常を過ごしていた彼女が掴んだ、誰もが羨む非日常





―これは歪んだ物語

    歪んだ恋の物語―





【異次元トリップ】- END -







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