10月13日 午前9時30分



"今日って皆集まるよね?私も少しだけ参加して良いかな?"



目を覚ましたは朝食を取った後、門田に一通のメールを送った



"12時頃にいつもの駐車場に来れるか?"



程無くして門田からメールの返信があり、片付けを済ませたは短く返信を送る



"うん、大丈夫。それじゃぁまた12時に"

"あぁ、気をつけて来いよ"



門田らしい返信に思わず微笑んで、は何となく付けていたテレビに目をやった

丁度やっていたニュースでは池袋界隈で頻発している暴力事件についてを取り上げており、ダラーズと黄巾賊の名前も出ていた



「………」



ふと、法螺田の顔を思い浮かべては眉を顰める

臨也はこの世界においての悪役だったが、法螺田は単なる小悪党だ

一つの物語において、法螺田の様な人間が居るからこそ話が進展するのは世の常だ

それでもやっぱり暴力事件などが身近で起きる事は、平和に生きて来たにとっては非常に恐ろしく腹立たしい事だった

そしてこの出来事を大元で操っているのが他ならない臨也だと言う事も、の胸中を複雑にさせる要因の一つだった

神近莉緒の時も、カズターノの時も、これから起こる静雄の事も、臨也は決して直接手を出す事は無い

しかし確実にそれらは臨也の仕業であり、誰にとっても臨也は憎むべき敵なのだと改めてはため息を付く



「つくづく卑怯と言うか頭が良いと言うか…、嫌な性格してるなぁ……」



思わず独り言を呟きながらテレビを切ると、ゆっくりと立ち上がって浴室へと向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



シャワーを浴びてから洋服に着替え、は外に出る

途中コンビにで傘を購入してから指定の駐車場に向かうと、12時にはやや早かったが既に渡草のワゴンが停まっていた

がワゴンに歩み寄り運転席の窓をコンコンと叩くと、渡草がパワーウインドウを下ろして顔を出す



「渡草さんおはよー」

「よぉ、早かったな」

「うん、早く皆に会いたくって」



そう言いながら後部座席に乗り込むに渡草はからかう様に声を掛ける



「残念ながら門田達はまだ来てないぞ」

「ん?別に渡草さんにも会いたかったから全然構わないよ」



が何の気無しに答えたそんな言葉に、渡草は一瞬驚いた様な顔をした後でふっと笑うと窓の外に目をやった



「しかし何か嫌な天気だよなぁ」

「うん、今日はこの後で雨降るよ」

「まじか?んじゃさっさと終わらせないとな」

「ぁ、そう言えば今日って何の予定なの?」

「何だ、お前知ってて来たんじゃないのか?」

「うん、今日皆が一緒に居るのは知ってるんだけど、何が目的なのかは知らないんだ」



渡草の問い掛けに答えて笑うに、渡草は若干食傷気味な顔をして答える



「遊馬崎と狩沢の買い物に付き合うんだよ」

「あー…、なるほど……」



その答えを聞いて、はふと遊馬崎がワゴンに何かのフィギュアを運び込んでいた場面を思い出す



「何か、渡草さんの車ってホロの看板運んだり拷問に使われたり色々と凄いよね」

「ほんとだよなぁ…」



の苦笑交じりの言葉に渡草もため息を付きながら頷くと、がらりとワゴンの扉が開き狩沢と遊馬崎が入ってきた



「やっほー!!」

「おはよう遊馬崎くん、絵理ちゃん。会いたかったよー」

「おはようっす。いやいや、女子がキャッキャウフフしてる姿はいつ見ても良いっすねぇ」



両手を取り合い挨拶を交わす狩沢とを遊馬崎が満足そうに眺めていると、助手席の扉が開く



「おぅ、揃ってるな」

「ぁ、ドタチンおっはー」

「おはようっす」

「おはよう門田さん」



助手席に乗り込む門田に挨拶をしながら、全員が揃ったワゴン内では遊馬崎に尋ねた



「所で、今日は何処に行くの?」

「そうっすね、まずは渋谷のアニメイトに行って、そこからまた池袋に戻って…」

「ぁ、渋谷とかにも行くんだ?」

「そりゃそうよ、アニメイトは何も池袋限定って訳じゃ無いしね」



の驚いた様な言葉に笑いながら狩沢が答えると、は納得した様に呟く



「まぁそうだよね、向こうだと池袋か新宿しか出て来なかったから何かちょっと不思議な感じだけど…」

「確かに学園物だと基本学校しか出て来ないっすもんねぇ」

「でもさー、水着回とか温泉回とかはあるじゃん?」

「そうだよね。ぁ、でもデュラララにはそう言う回は無かったよ」



少し残念そうなに呆れ声で門田が横から口を挟む



「まぁ海だの温泉だのにどのメンツで行くんだって話だろ」

「そうだなぁ、杏里ちゃん、セルティさん、絵理ちゃん、美香ちゃん、波江さん辺りなら充分戦えると思うんだけど」

「そのメンバーが揃って出掛けるには各々の繋がりに脈絡が無さ過ぎっすよ」

「むぅ…。それじゃ新羅さん、門田さん、静雄さん、臨也の来神4人組で、とか?」

「それはそもそも絶対に海まで無事に辿り着けないっすね…」

「しかもその4人でどう盛り上がれって言うんだ…」

「でも絶対需要はあるよねー、BL的にも乙女的にも美味し過ぎる…!!」

「わっかんねー世界だなぁ…」



苦笑する遊馬崎、困惑する門田、盛り上がる狩沢、首を傾げる渡草

それぞれが違った反応を見せていると、ふいに門田が仕切りなおしと言う様に口を開いた



「まぁ兎に角、そろそろ行くぞ」

「おぅ、んじゃお前等シートベルトしろよ」

「はぁい」

「はいっす」

「はーい」



こうしてようやくワゴンは駐車場を出発し、渋谷へと向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「お前は行かなくて良かったのか?」



到着するなり狩沢と遊馬崎は意気揚々と繰り出してしまい、ワゴンの中に残った門田がに尋ねた



「うん、今は買い物とかする気分じゃ無いから」

「そうか」

「それより、渡草さんと門田さんは何処か行かないの?折角来たのに」



は逆に渡草と門田に尋ねるが、二人は顔を見合わせてどうにも浮かない表情を見せる



「まぁ今は特に必要な物も無いしな」

「渋谷はどうにも馴染めないんだよなぁ」

「何かちょっと解るかも。渋谷って若者の街!!って感じだよね」

「そうそう、やっぱ池袋が一番落ち着くよな。池袋なら目瞑ってても運転出来るぜ」

「池袋も渋谷も新宿も人が多い事に変わりは無いのに、それぞれ色っつーか独特の雰囲気があるからな」

「確かに、新宿は更に複雑だよなぁ」

「うん、何となくそんな感じだよね、排他的って言うか…他人には無関心って言うか…」



門田や渡草の発した言葉に答えながら、は窓の外を見上げて臨也の居る新宿に思いを馳せる

これから起こる事を暗示しているかのようにどんよりと曇った空に一抹の不安を覚えながら、はぽつりと呟いた



「雨、降りそうだね」

「あぁ」

「…あのね、実は昨日の夜正臣くんに会ったんだ」

「紀田に?」

「うん。凄く思い詰めた顔してた」

「…そうか」



門田も何かを感じ取っているのか、同じ様に車内からじっと曇天を見つめる

黄巾賊の活性化やダラーズとの抗争が正臣に何かしらの影響を及ぼしている事は、

正臣の過去を知っている門田だからこそ気付いたのだろう



「門田さんなら、過去を断ち切るにはどうする?」



尋ねられた質問に、門田は少し間を置いてから静かに、しかしハッキリと答える



「逃げても辛いだけなら、正面から戦うしかないだろうな」

「そうだよね…」



この後、門田の助言で正臣が臨也に会いに行く事になる展開を思い返しながら、は更に門田に質問を投げ掛けた



「そう言えば、門田さんは、臨也の事ってどう思ってるの?」

「どうって、何がだ?」

「臨也って色々な人に悪影響及ぼしてるし嫌われてるけど、門田さんはどうなのかなって」

「そうだな…」



の質問に門田は腕組みをして考える



「俺個人としてはアイツに被害を受けた事と言えば変なあだ名を付けられた事位だからな」



少し不服そうな表情をして、門田はそう答える



「正直アイツのやってる事が良い事だとは思って無いが…、言った所で無駄だろうし止める術も無いしな」

「臨也、門田さんと新羅さんにはちょこっと心開いてるもんね」

「そうなのか?」

「うーん…、敵意は無いと思うよ。門田さんや新羅さんみたいに臨也の破綻した性格を受け入れられる人って少ないだろうし」

「破綻…つーかまぁ変な奴ではあるよな」



苦笑気味にそう言って見せるの言葉に頷いて、門田は帽子を被りなおした



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「それじゃぁ私はこの辺で」



池袋のいつもの駐車場に戻って来た所で、は傘を手に持ちワゴンを降りる



「ぇー、もう行っちゃうの?」

「ちょっと遅いっすけどこの後お昼なんで一緒に食べたら良いじゃないっすか」

「私もそうしたい所なんだけど、この後は駄目なんだよー」

「何か予定でもあるのか?」

「私にじゃ無くて、門田さん達にね」



渡草の問いに答えるのそんな言葉に、4人は顔を合わせて首を傾げる



「っと、そろそろ行かなきゃ。私が帝人くんに会うのは多分3日後位なんだけど、その時にまた会えると思うから」

「そっか、じゃぁまたね。寂しくなったらいつでも行くからメールしてよね」

の為なら例え火の中水の中っすよ」

「黄巾賊とかに絡まれるなよ?お前も一応ダラーズなんだし」

「渡草の言う通り、戸締りとかはきちっとしとけよ」

「はーい。それじゃぁまたね!!」



軽く片手を上げて返事をし、見送る4人に別れを告げては駐車場を後にする

がその場を去ってから少し後に、門田の携帯がメールの着信を告げた

確認するとそれはからで、短く一言だけ書かれている文章を読んで門田は首を傾げる

遊馬崎や狩沢が戦利品を積み込む横でふと空を見上げると、先程以上に色濃さを増した曇天が目に入った



「門田さん」



嫌な雲行きに気を取られていると、急に声を掛けられ門田は視線を下へと戻す

そこには正臣が真っ直ぐに自分を見ながら立っており、その思い詰めた表情にハッとして尋ねる



「、…戻ったのか?」

「はい。ここじゃ何ですから……」



正臣にそう促され、落ち着いて話が出来る所と言う事で5人は揃って露西亜寿司へと向かう

その間一言も発さずに少し前を歩く正臣の背中を眺めながら、門田はからのメールを思い出していた



"正臣くんの事、宜しくね"



「本当に嫌な雲行きになって来やがった…」



小さく独り言を呟いて、門田は息を吐き出した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



翌日

10月14日 午前2時過ぎ



「寝れない…」



門田達と別れた後、振り出した雨の中を一人歩きながらは家へと帰宅した

道中で黄巾賊やダラーズに関する様々な噂が耳に入ったが、はなるべく耳に入れないよう足早に歩いた

帰宅したはベッドの上に寝転びながら携帯でダラーズの掲示板の様子を確認する

リーダーを批判する人、静観する人、擁護する人、悪戯に騒ぐ人

掲示板では様々な人間が様々な意見をそれぞれ好き勝手に並べていた

臨也が人間に興味を持つ意味も、これらの書き込みを読んでいると何となく解るような気がした



「だからって人ラブ、は意味解らないけどね…」



欠伸交じりに呟いて、は身体を起こす

その後も夕飯を食べたりシャワーを浴びたりしながらも掲示板の動向を確認し、が帰宅してから既に数時間が経過していた

しかし何時間経っても掲示板での議論は終わりを見せず、書き込む人は入れ替わりながらも同じ様な事を繰り返していた



「ぁ、」



ふと思い出し時計を見ると、今頃は恐らくチャットルームで臨也が黄巾賊のアジト襲撃事件の事を吹聴しているだろうと言う時間だった

結局が本格的に寝ようと思ったのは既に深夜1時を回ってからで、携帯を閉じて布団に潜り込むも目が冴えてしまって眠れなかった

仕方が無いので再度携帯を手にして掲示板を覗くが、流石に時間が時間だけに書き込む人は居ないようだった



「………」



シンとした部屋の中に一人で居ると、どうしようも無く孤独だと実感してしまう

先程までは賑わっていた掲示板からも人の気配は消え、は思わずテレビを付けた

罪歌に襲われた時の夢は、罪歌と話す事が出来たからか見なくなった

しかしその変わりに罪歌に残された言葉がふとした瞬間に頭を過ぎり、言いようの無い不安を与えていた



「会いたいなぁ…」



そんな時に思う事は臨也の事ばかりで、は抱き締めた布団に顔を埋める

物語の終わりまで、後数日

降りしきる雨の音を聞きながら、は流れる番組に目を向ける事なく時間が過ぎるのを待った



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



10月15日 午後15時過ぎ

が買い物から戻ると、ベッドの上に置いたままの携帯がチカチカと光りメールの着信があった事を告げていた



「?」



自分宛のメールなど狩沢や門田以外からは滅多に届かないのでは不思議に思いながら確認する

すると送信主は杏里で、のアドレスを登録したと言う報告と、杏里自身のアドレスと携帯番号、

そして今日の放課後にあった出来事が書かれていた



「そっか…」



その出来事とは、正臣の様子がおかしい為話を聞こうとしたがタイミングが合わず結局何も聞けなかったと言う事だった

は杏里のこの報告により現時点で滝口が黄巾賊に追われている事を思い出す

記憶が確かならば、法螺田達に滝口が襲われるのは今夜のハズだ

未然に防ぐ事は物語の展開が変わってしまう為出来ないとしても、襲われた滝口を助ける事位はしたい

しかし滝口が襲われた歩道橋の位置をは良く知らない

少しの間携帯を眺めて考え込むと、はやがて携帯を片手に上着だけを羽織り家を飛び出した



「まぁ歩道橋って言ってもいっぱいあるしねぇ…」



駅前を歩きながら、辺りをきょろきょろと見回しては呟く

滝口が襲われるのは夜の事なので、少なくとも後3,4時間は余裕があるハズだ

学校からの帰り道に襲われたと考えれば、場所は恐らくそう遠くは無い

今から探せばきっと間に合う

は両手を握って気合を入れると、当ての無いまま歩道橋を探し始めた



「学校が此処でしょ、それで滝口くんが帰る方向がこっちだから…」



暫くウロウロしたものの目的の歩道橋は見つからず、はとりあえず滝口の足取りを追う為に来良の校門前までやって来ていた

自分が住んでいた池袋とこちらの池袋では少しずつ異なる部分があるせいか、

池袋に長く住みながらも用が無ければ駅から自宅までの箇所以外に足を運ぶ事など無かったせいか、

特徴的であるにも関わらずは中々見つける事が出来なかった

すっかり辺りが暗くなってしまった事に焦るがその歩道橋を見つけたのは、滝口が襲われる少し前の事だった



「あった…!!」



視線の先に目的の歩道橋を捕らえたは早足で駆け寄る

そしてちょうど橋の上を歩いている滝口を見つけ、足を止めた



「………」



滝口が丁度橋の真ん中辺りを通過する頃、進行方向に待ち伏せていた法螺田とその仲間が滝口に歩み寄る

そして逃げようと後ずさる滝口を取り囲んだ法螺田達は、金属バットを振り上げ躊躇無く滝口へと振り下ろした



「………っ」



あちらの世界で画面越しに見ていた時ですら目を背けたくなった光景が、の目の前で現実として起こっている

罪歌に斬り掛かられた時、それまで虚構だった出来事が現実で起こる事の恐怖を身を持って知った

そして今、目の前の光景を見ながら自分が傷付く以上に誰かが傷付く事を見る事の方が更に辛く恐ろしいと言う事を知った

命に別状が無い事を知っていても、だからと言って静観出来る様な光景では到底無かったが、

それでもは何とか目を反らさずに滝口が倒れ法螺田が黄色いスプレーで橋の上に印を残した所まで見届けた

やがて法螺田が立ち去ると、は携帯から119番に掛け震える声で何とか救急車を要請し、すぐに滝口の元へと走る



「ぅ……」



地面に伏せたまま苦しそうに目を閉じている滝口の傍にしゃがみ込み、は声を掛ける



「大丈夫?今救急車呼んだから!!」



降って来たの声に倒れたままの滝口は苦痛に顔を歪めながらうっすらと目を開いてを見上げる



「大丈夫だよ、腕は折れてるけどちゃんと治るから。今は痛いと思うけど、少しだけ我慢しててね」

「………」



心配そうに見下ろして自分を励ますを滝口が視界に入れると、はふいにぽつりと呟いた



「ごめん……」

「……?」

「助けてあげられなくてごめんね…」



そう言って涙を流すを、滝口は痛みで朦朧とする意識の中で不思議そうに眺める

見ず知らずの女性に謝られる覚えも泣かれる心当たりも無いのに、何故この人は涙を流しているのだろうか

そんな事を遠のく意識の片隅で考え、救急車のサイレンが近付いて来るのを聞きながらやがて滝口は意識を手放した



- Next Ep26 -