「こんにちは、杏里ちゃん」

「…ぁ……」



事務所を出たは静雄に話した通り来良病院へと向かい、杏里の病室を訪れた

が病室に顔を出すと、杏里は一瞬きょとんとした顔をしたもののすぐに思い出した様な表情を浮かべて、その後に首を傾げる



「あれ?もしかして覚えてない?」

「いえ、さん…、ですよね」

「そうそう、覚えててくれて良かった。この間は急に道案内頼んじゃってごめんね?」

「ぁ、いえ大丈夫です…。あの、どうして此処に…?」



杏里は今日の夕方には退院する事になっている為、病院指定の寝間着姿ではあるが包帯等は既に取れていた

は杏里が座っているベッドの横へと移動しながら杏里の問いに答える



「うーん…、説明が難しいんだけどとりあえずお見舞いと…、少し杏里ちゃんと話がしたくて…」

「…どう言う事、ですか」



曖昧な返答に不信感を抱いたのか、杏里の表情が少しだけ硬くなる

そんな杏里の様子に気付いたは、慌てて首を横に振った



「ぁ、ごめんね。解り易く説明しようと思うと何か上手く言葉が出なくて」

「………」

「ぇえと、杏里ちゃんはセルティさんの事知ってるよね」

「セルティさん…はい。知ってますけど…」

「私も、セルティさんの知り合いなんだ」

さんもですか?」

「と言ってもセルティさんと顔を合わせたのはつい一昨日の事なんだけど…」

「一昨日って…」

「そう、南池袋公園に罪歌が集まって静雄さんに返り討ちにされちゃった日」

「罪歌の事を知ってるんですか?」

「うん。罪歌の事も杏里ちゃんの過去の事も、ついでに言うとこれからの事も知ってるよ」

「…どうして……」

「ぇっとね、私はこの世界じゃない別の世界からやって来たんだけど、その元居た世界で杏里ちゃん達の事を色々見てたんだ」

「ぇ…?」



セルティの知り合いと言う事ならば自分が怪我をして入院している事も罪歌の事もセルティに聞いたのだろうと納得したのも束の間、

の口から放たれたあまりにも唐突な言葉に杏里はを見つめたまま目を丸くする



「でも本当は異世界から来たとは言え自分では人間だと思ってたんだけど、この間罪歌に斬られた時に人間じゃ無いって言われちゃって…」

「……罪歌に…」

「そう。で、杏里ちゃんが罪歌を宿してるのは知ってるから…、杏里ちゃんとって言うよりは罪歌と話に来たって感じかな」

「…すみません、その…、良く解らないんですけど……」

「うん、まぁそうだよね。少し長くなるけど…私の説明、聞いて貰って良いかな?」

「はい、お願いします」



混乱した様子の杏里に笑いかけ、はベッド脇の椅子に腰を下ろす

そしてただ一つ、臨也についての自分の気持ちは伏せたまま本日二回目となる身の上話を杏里に聞かせた



「それじゃぁさんは本当に別の世界から来たんですね…」

「自分でも嘘みたいだとは思うけどね。でも今の杏里ちゃんなら贄川春奈の子供である罪歌が私を斬った日の事も解るんじゃないかな」



にそう言われ、杏里は思い出したように罪歌の記憶を辿る

そしてある日の晩、平和島静雄を求めて彷徨っていた所に現れたを斬ったと言う記憶に辿り着いた



「ぁ…」

「どう?」

「はい…、あの時のさんは痛みも恐怖も感じている様なのに、何故か思考を乗っ取る事が出来なかったみたいです」



は杏里の声を聞きながら、自分の両腕に微かに残る傷跡を眺める

杏里が言うのだから、自分が罪歌に乗っ取られていない事は事実なのだろう

それでは何故先日の南池袋公園での事件前、罪歌の声を聞く事が出来たのだろうか



「私は確かに罪歌には乗っ取られて無いんだと思う。でも先日声が聞こえたのは何でなのかな…」



浮かび上がる疑問を独り言の様に口にしては首を傾げる



「多分…ですけど、罪歌に斬られた時の傷口が原因だと思います」

「傷口?」

「はい、罪歌は痛みや恐怖を媒介に姉妹を増やしているので、痛みの象徴である傷口がある間は声が聞こえるんだと思います…」

「なるほどね…」



杏里の推測に納得した様子を見せながら、はふと思い立った様に顔を上げた



「ねぇ杏里ちゃん、良かったら私の事をもう一度斬ってくれないかな」

「……ぇ…?」

「と言ってもずばっと斬って欲しい訳じゃなくて、贄川春奈にやった位の軽い感じで、ちょこっと刃をあてる程度でね」

「…私が贄川先輩にした事も、知ってるんですか…」

「ぁ…ごめんね。自分の言動が筒抜けになってるなんて、杏里ちゃんからしたら嫌な気分だよね」



杏里の言葉には気まずそうに謝るが、杏里は緩やかに首を振る



「いえ、色々知っていてもさんはそれを利用したり悪用したりしてませんから…」



そう呟く杏里の眉間に、若干の皺が寄る

恐らく臨也の事を思い出しているのだろう

今の杏里は臨也に対するハッキリとした敵対心がある

だからこそ先程の説明の際、は自分が臨也を好きだと言う事実までは打ち明けられなかった



「…解りました。罪歌が応えてくれるかは解らないですけど…、」



やがて杏里は顔を上げ、左手の掌から一振りの刀を取り出してみせた

スラリと伸びた刀身は窓から差し込む日差しを受けてキラキラと輝いている

物言わぬ刀だと言うのに妙に存在感のあるそれを見て、はごくりと息を呑む



「これが本物の罪歌なんだね…」



杏里が手にしている刀を真っ直ぐに見つめながら、は一つ息を吐くと杏里に向かって右手を差し出した



「それじゃぁいきますよ」

「うん、お願いします」



は杏里の言葉に頷くと、罪歌の切っ先が自分の指先に触れるのをじっと見届ける

まるで鍛えたての様に研ぎ澄まされた刃がの人差し指に触れた瞬間、の中にはおびただしい数の罪歌の意思が流れ込んだ



『愛してる 愛してる 愛してる 愛してる』

『また化け物 化け物は愛せない 愛せない』

『嗚呼汚らわしい、人間じゃ無い物を斬るなんて』

『私は貴女は愛せない』

『あの化け物の様に』



脳内に次々と響く罪歌の声を聞きながら、は心の内で必死に罪歌に問い掛ける



"あの化け物って、セルティさんの事…?"



『化け物』

『そう、化け物』

『首無しライダー?妖精?』

『異形の物 この世の物では無い者』



"私もセルティさんと同じって、どう言う事?"



『化け物 化け物 化け物』

『貴女は 人の形をしている』

『でも人間じゃ無い』

『貴女は意思』

『誰かの意思』

『この街の意思』

『思念体の様な 呪いの様な 残留しただけの 物体の無い意思』

『だから私は貴女を愛せない』

『貴女は人間では無いから』

『私は 愛してる 人類の全てを 愛してる』



"意思?意思って何?誰かのって誰の?"



『知らない 知りたくもない 私が愛しているのは人間だけ』

『あぁ静雄… 平和島静雄 あの力があれば あの力が手に入れば…』



罪歌の声はそのままザワザワとしたノイズへと変わり、やがて何も聞こえなくなってしまった



「あの、大丈夫ですか?」

「………」

さん」

「っ…」



杏里の呼び声がようやく耳に入ったのか、は見開いていた目を一瞬閉じ、我に返った様子で杏里と目を合わせる



「大丈夫…でしたか?」

「あぁ、うん…。罪歌と……会話って言えるのか微妙だけど、少しだけ話は出来たよ…」



歯切れの悪いの言葉に杏里はそれ以上突っ込んだ事も聞けず、そっと罪歌を体内に戻す

は暫くの間上の空と言った様子で何かを考え込んでいたが、その内にぽつりと呟いた



「…私ね、やっぱり人間じゃ無いんだって」

「………」

「でもセルティさんの様な妖精とかって存在でも無くて、何かの、誰かの意思だとかって…」

「意思…?」

「良く解らないよね…、私も何だか良く解らないんだけど……」



少し混乱した様子で呟くを杏里が心配そうに見つめていると、病室の扉が開き看護士が入って来た



「すみません、そろそろ…」

「あ、はい。すいません」



看護士に声を掛けられたは慌てて椅子から立ち上がり、杏里を見下ろす



「ごめんね、お見舞いに来たつもりだったのに、逆に心配させちゃってたら意味無いよね」

「いえ、そんな」

「今日は有難う。ちょっと帰ってゆっくり考えてみるよ。杏里ちゃんは今日の夕方には退院だよね?」

「はい」



こくりと頷く杏里に、はポケットから取り出した紙を手渡す



「これ私のアドレス。多分これから大変だと思うんだけど…、何かあったらメールして?」

「良いんですか?」

「もちろんだよ。まぁ私に出来る事は少ないと思うけど…、私は杏里ちゃん達の手伝いをしようって決めたから」

「…有難う御座います」

「きっと今杏里ちゃんは混乱してるし焦ってると思うけど…、何があっても、何を見ても、自分と友達を信じてあげてね」



紙を手渡しながらそんな事を伝えたは、小さく笑い掛けるとじゃぁねと小さく手を振って病室を後にした

残された杏里はを見送った後、受け取った紙をぼんやりと眺める

異世界から来たと言うの存在との言葉を、どう解釈すれば良いのか解らず杏里は戸惑っていた

先程のと罪歌の会話は、宿主である杏里も罪歌を体内に戻した事で知る事が出来た



「………」



に初めて道を聞かれたあの日、は帝人の事は心配しなくて良いと教えてくれた

その時は何の事か解らなかったけれど、確かにが自分の事や帝人の事過去や未来を知っていたと思えば納得出来る話だ

だとすれば、が先程残して行った自分と友達を信じろと言う言葉にも従うべきなのだろう

素直にそう思えるのは、が私欲や策略で動いていない事が言動から解るからだった

多分、とは近い内にまた会う事になるのだろう

杏里はそんな予感を胸に自分の携帯にのアドレスを登録した



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「どうしようかな…」



病院を後にしたは駅までの道を歩きながら深く息を吐く

罪歌に言われた言葉について、とりあえず何処かでゆっくりと考えたかった

しかし一人で悩んだ所で行き詰る事は解っていたし、出来れば誰かに話を聞いて欲しかった

立ち止まったは取り出した携帯を見つめ、やがて短いメールを打つと送信して再び駅へと歩き出す



「………」



暫くして返信が来ると、は携帯を開いて内容を確認し駅から少し離れた人気の無い路地で待った



「"お待たせ"」

「すみませんセルティさん、急に呼び出したりして…」

「"気にしないで、私も今日は暇だったから"」



がメールを送信した相手はセルティで、丁度予定の空いていたセルティはの相談に乗って欲しいと言う誘いを快諾した



「"それじゃぁとりあえず移動しようか。後ろに乗って"」



セルティに手渡されたヘルメットを被り、後ろに跨るとはセルティの腰に腕を回す



「"しっかり掴まってるんだぞ"」

「はい」



セルティの腰にしっかりと掴まりながら、は先日夜中に乗った時とは違い鮮明に見える風景を楽しんだ



「"さ、着いたぞ"」



あっという間に辿り着いた新羅のマンションに入り部屋へ上がると、新羅は出掛けているのか姿が見えない



「新羅さんはお出掛けですか?」

「"あぁ、多分夕方には戻ると思う"」

「そうなんですか。…勝手に上がっちゃって大丈夫ですか?」

「"問題無いよ、とりあえず私の部屋に行こう"」



セルティがかざすPDAを読みながら、は頷いてセルティの寝室である和室へと向かう



「"で、今日はどうしたの?"」



窓際にある椅子に向かい合わせに座りながら、セルティは持ち出したノートPC上のテキストでと会話をする



「実は、さっき来良病院で杏里ちゃんと話をして来たんです」

「"そうなんだ。杏里ちゃんどうだった?"」

「今日の夕方退院なんで、包帯も外れてたし元気そうでした」

「"そっか。でもどうして杏里ちゃんに?"」

「…前に私が贄川春奈の方の罪歌に斬られた時に、人間じゃ無いって言われたのは話しましたよね」

「"あぁ、泊まりに来た時にこの部屋で話してくれたよね"」

「はい。それで、人間じゃ無いってどう言う事なのかなって思って、今日はそれを聞きに行ってたんです」

「"聞きに行ったって、罪歌と話したの?"」



はセルティの問いにこくりと頷き、人差し指についた傷をセルティに見せて説明する



「この傷の通り、杏里ちゃんに頼んで罪歌で斬って貰って少しだけ話をして来ました」

「"そうか…、そう言えば私も斬られた時だけアイツの声が聞こえたな…、化け物って言われたよ"」

「私も言われました…。でも自分だって妖刀の癖に人の事を化け物だなんて酷いですよね」

「"まぁ私は自覚あるから良いけどね"」

「良くないですよ」



今更ながら罪歌の傲慢な態度に腹を立てたは頬を膨らませる



「"それで、結局の事は何て?"」

「えっと、それが良く解らないんですけど、私は意思なんだって言われて…」

「"石???"」

「いえ、石じゃなくて意思です、…多分」

「"意思って言われても…"」

「良く解らないですよね?意思って誰かの気持ちって言うか想いとかで、実態とか無い物ですよね?」



は自分の意見に間違いが無い事を確かめるようにセルティに尋ね掛ける



「罪歌が言うには私は誰かの意思で、その誰かの正体は解らないけど兎に角私は人間じゃ無いって…」

「"そんな無茶苦茶な…"」

「人間じゃ無いとか化け物とか妖刀に言われたくないですけど、でも妖刀の言う事だからこそ真実なのかなとも思うんです。
でもだからって意思とかそんな曖昧な事言われても意味解らなくて混乱するばかりで、誰かに話を聞いて欲しくて…」

「"それで私を呼んだ訳か"」

「はい。臨也も静雄さんも杏里ちゃんも絵理ちゃん達も、それぞれ出来る話と出来ない話があるんですけど、
でもセルティさんになら隠す必要無いですし全部話しても良いかなって思って」



画面のテキストを読んで頷いたは、そう答えながら自分の両頬に手を当てる



「因みに、今の所私が人間じゃ無い事は杏里ちゃんとセルティさんしか知らないです」

「"まぁ中々他の人には言えないよね…"」

「ですよね…。だって人間じゃ無いとか言われても私は此処に居るし、人にも物にも触れるし、斬られれば血だって出るんですよ?」

「"そうだよね…。あぁでも"」

「?」

「"私は人間とそうで無い物の気配を感じる事が出来るんだけど…"」



そうセルティが打ち込む文字を読み、はふとセルティが那須島を助けようとした杏里に背後から斬られた時の事を思い出した



「"正直、の気配は良く解らない"」

「解らないって…?」

「"人の様な気配もするし、何かもっと別の物の様な気配もすると言うか…"」



セルティはそこまで打つと、すぐに首を振って続きを打ち込む



「"でもそれはが異世界から来たからなんだろうって思ってたし、私の思い過ごしだとは思うけどね"」



しかしセルティのフォローを読んだは、そのまま落ち込んだ様に俯いてしまった

余計な事を伝えてしまったと慌てるセルティの前で、は俯いたままぽつりと呟く



「セルティさん…」

「"?"」

「私、この世界の人たちが好きなんです」

「"……?"」

「元居た世界より、こちらの世界の方が好きなんです。帰りたくないんです。
私は此処の世界の人間として、こっちの世界に死ぬまで居続けたいんです…」



はそうぽつりぽつりと噛み締めるように呟いて顔を上げた



「実は泊めて貰った日の朝、事務所に向かう途中に静雄さんに告白されたんですけど、」

「"こ、告白!?"」

「………はい…」



驚くセルティの反応に頬を染めて頷きながら、は言葉を続ける



「でも、私はやっぱり臨也の事が気になると言うか…、どうしても……その、好きで…」

「"そうなんだ…"」

「この事は杏里ちゃんには言えないし、絵理ちゃん達にもあまり歓迎はされなかったんですけど」

「"うーん…、まぁ…仕方ないと言うか何と言うか…"」

「ですよねぇ…」



セルティですら明言を避けながらも複雑そうに言い淀む姿を見て、は苦笑しながらゆっくりと息を吐く



「それでも私は、やっぱり臨也が好きです」

「"………"」

「静雄さんにも、その事は今朝話して来ました」



「"そっか…"」

「それで今は自分の正体を突き止めて、こちらの世界に残る方法を見つけて、臨也に告白しようって思ってて、」

「"うん"」

「人間じゃ無いとか誰かの意思だとか訳が解らない事だらけですけど、でも兎に角出来る事をやるしか無いから…」

「"…"」



まるで自分に言い聞かせるように呟きながら、は顔を上げてセルティを見据えた



「正直に言って、私が此処の世界に残れる未来が全く見えないんです。だからと言って諦めたくも無くて…」

「"うん。がそう決めたなら私は応援するぞ私だって折角会えたとお別れするのは寂しいし"」

「セルティさん…。有難う御座います」



狩沢が言ってくれた様に、自分の存在を惜しんでくれるセルティの言葉に思わず潤む目を擦りは笑う



「はー…、何か話したら大分頭も気持ちもスッキリしました」

「"それは良かった。 あぁそうだ、お茶のお代わり持って来ようか"」

「ぁ、私も手伝います」



二人して席を立ち、キッチンに移動して新しくお茶を用意しているところへ新羅が帰宅した



「ただいまー!!マイスウィートラヴァーセルティ〜!!」



両腕を広げてテンション高くリビングへとやって来た新羅は、キッチンに立つと目が合い動きを止める



「ぉ、お邪魔してます」

「や、やぁちゃん、来てたんだ?」



固まったまま乾いた笑いを浮かべる新羅にも半笑いで応じると、セルティはため息をつくような仕草で新羅にPDAを差し出した



「"何してるんだ全く…"」

「いやぁ、思ったより早く仕事が片付いたから嬉しくてつい浮かれてしまったと言うか何と言うか…」



新羅はあははと笑いながら頭を掻くと、改めてに声を掛ける



「あれ?でもちゃんって静雄くんの所で働いてるんだったよね。今日はお休みかい?」

「えぇと、今日はと言うか、暫くお休みを貰ったんです」

「暫く?」

「はい。その理由なんかも含めてセルティさんに話を聞いて貰ってたんですけど、ひと段落ついたので…」

「そうだったんだね。もし良かったら僕にも聞かせて貰えるかな?」



自分を指差し首を傾げる新羅には頷いて、改めて3人でテーブルを囲み先程セルティに説明した内容を話した

狩沢、静雄、トム、杏里、セルティ、そして新羅

徐々に自分の素性を知る人間が増えて行く事に、は嬉しさと心強さを覚える

最初はあやふやだった自分の気持ちや決意も、こうして誰かに話す度に整理され確かな物になって行く様な気がした



「と、まぁこう言う訳です」

「…そっか…、ちゃんが選んだのは折原くんか……」

「へ?」

「あぁいや何でも無いよ。とりあえず事情は解ったけど、"残る方法を探す"とは言っても何か心当たりはあるのかい?」

「そう、ですね。先日話した通り帝人くんに会いたいなとは思ってるんですけど…」



は新羅の問いに答えながら言い淀む



「多分明日以降黄巾賊とダラーズの抗争で忙しくなると思うんで、帝人くんに会えるかどうか…」

「確かに最近騒がしいみたいだからねぇ」

「"あぁ、ダラーズの掲示板でも一触即発な雰囲気が漂っているからな"」

「ぁ、でも確か明後日位に一騒動起きるはずなんで、それに乗じてコンタクト取ってみます」

「"一騒動?"」

「詳しくは言えないですけど、黄巾賊がダラーズメンバーを追い回すのを皆で阻止する的な…」

「"追い回すって…、大丈夫なのか?"」

ちゃんの様子を見る限り別に大事には至らないみたいだし、きっと大丈夫だよセルティ」

「"そうか…"」

「はい、大丈夫です。そもそも今回のダラーズを中心とした騒動は、怪我人は出ますけど最悪の事態にはならないですから」



新羅の言葉に頷きながらそう呟いて、はふと壁の時計に目をやった

時刻は16時を少し回ったところで、恐らく今頃は帝人と正臣が杏里を迎えている頃だろう



「あの、私そろそろ…」

「あれ?この後何か予定でもあった?」

「いえ、特に予定は無いんですけど、結構長居しちゃったし新羅さんも帰って来たしお邪魔かなぁと…」



がそう説明すると、セルティはぶんぶんと片手を振った後で素早くPDAに文字を打ち込んだ



「"邪魔だなんて事無いから、変に気を使わなくて良いよ"」

「うん。僕もセルティもあまり友達が多い方じゃ無いからね、訪ねて来て貰えるのは嬉しい事だよ」

「セルティさん、新羅さん…」

「そうだ、良かったら夕飯でも一緒にどうかな?と言っても我が家に食材はあまり無いから外食になるけど」

「良いんですか?」

「もちろんだよ。ね、セルティ」

「"あぁ。私は物が食べられないから、さえ良ければ良かったら付き合ってやって欲しい"」



新羅の問い掛けに、セルティは頷きながらそう答える



「じゃぁ…、お言葉に甘えちゃいます」

「良かった、それじゃぁ早速行こうか」



にこやかに立ち上がる新羅に続き、3人は揃ってマンションを後にする

セルティは一足先にバイクで駅へと向かった為、新羅とはタクシーを拾って乗り込むとセルティの後を追って駅へと向かった



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