は今朝、自分がこの世界に来た理由や意味が解らない限り、恋愛については考えられないと静雄に伝えた

自分がこの世界に来た理由は、此処に存在している意味は、今自分がするべき事は何なのか

未来はどうせ決まっている

今更覆せない事は不自然に記憶を失った事実が物語っている

その中で、未来を知っている自分にしか出来ない事は何なのかを考え、が出した答え

それは"臨也の悪意に抗う事"だった

静雄、正臣、杏里、そして帝人―

臨也の悪意に弄ばれる人達の味方をしようと、そう決めた

でもこれは歪んだ物語、歪んだ恋の物語

自分の気持ちに蓋をして出したの選択は、不正解であり間違いだった

逃げずに、思い切って、自分の気持ちを吐露するべきだった

すぐにでも臨也の元に行くべきだった

しかし、そうしてしまえば物語は大きく変わる事になる

物語が変わってしまえば、こちらの世界にが存在出来なくなる可能性もある

つまり、が間違った選択をした事、それ自体は正解だった

そんな事実を知ってか知らずか、は決意を胸に家路を急ぐ



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帰宅したは、暫くの間放置していた携帯をすぐさま確認した

着信履歴には昨晩の時点で臨也からの電話が数件、今朝にも一度着信があったようだった

後は今日の昼頃にトムからの着信が数件入っているだけで、はじっと履歴の"折原臨也"の文字を見つめる



「………」



一瞬、電話を掛け直そうかと通話ボタンに指を掛けるが、その指がそれ以上動く事は無かった

はそのまま電話では無くウェブブラウザを開き、ダラーズのサイトにログインして掲示板を確認する

掲示板では黄巾賊との一触即発状態が、あちらの世界で見たアニメ同様リアルタイムでやり取りされていた

一通り目を通すがまだ知っている内容の書き込みは無かった為、は記憶を整理しながら今後の展開を思い出す



「罪歌事件が昨日の事で、杏里ちゃんが退院するのは明日。明日の夜に臨也が杏里ちゃんにチャットで余計な事を吹き込んで…」



呟きながらふとチャットの存在を思い出し、ロム状態のままでチャットを確認してみたが現在チャットルームには誰も居ないようだった



「後、もう一週間も無いんだ…」



脳内で一通り話の終わりまでを整理しながら、は自分に残された時間が以外と少ない事を実感する

黄巾賊のアジトである倉庫に帝人、正臣、杏里の三人が集い、真実を知り、一つの物語が収束したその時

自分はきっとこの世界から消えるのだろう

皆の記憶に残ったまま消えるのか、あるいは最初から存在などしていなかったかの様に消えてしまうのか

この世界から消える事については解っていても、一度死んでしまったが元の世界に戻れる確信は無かった



「……人間じゃ無い、か…」



昨晩罪歌に言われた言葉が心の中でぐるぐると渦巻く

罪歌の言葉が本当だとするならば、一体自分は何者なんだろうか

私は誰?

私は何?

どうして私は此処に来た?

どうして私は此処に居る?

考えても考えても正しい答えは解らないし、問い掛けても誰も答えてくれない

このまま消えるのは嫌だ

このまま何も出来ずに消えてしまうのは嫌だ

何も起こらないまま、何も起こせないまま、一人で死ぬのは、嫌だ



「そんなの、嫌だよ…」



携帯を握り締めたまま呟いて、じわりと浮かんで来る涙を手で押える

一人きりで考えれば考えるほど疑問は深まり、不安が募った

すべき事を決めたとは言え、全て憶測と感覚だけで最後の日を迎える事しか出来ない自分が酷く無力で無意味に思えた



「………誰か…」



静かな混乱はやがて恐怖へと変わり、煮詰まったは思わず呟く

するとそんなタイミングを見計ったかの様に、の手の中の携帯が着信を告げた

突然の着信に慌てたは、画面を確認する事も忘れ咄嗟に携帯を耳にあてる



「も、もしもし……」

『ぁ、?私だけど』

「狩沢さん…?」

『ぇ、やだ泣いてるの?大丈夫!?』



が恐る恐る電話に出ると声の主は狩沢で、の声が微かに震えている事に気付いた狩沢は慌てた様子で尋ねる



「っごめん…、あの、何でも無いから」

『泣いてる時の"何でも無い"は何でも大有りの証拠だよ!!今何処?家に居る?居るよね??』

「ぅ、うん…って、ぇ、と…?」



電話の向こうの狩沢の声から察するに、狩沢は現在どうやら階段を上がっているようだった



『あったあった、此処だよね。お邪魔しまーす!!』

「ぇ?ぇ??」



電話の向こうで狩沢が何処かのドアを開くと、同時にの家の玄関が勢い良く開く音がした

そのままバタバタと言う足音と共にが居るリビングまでやって来た狩沢は、リビングに入るなり驚いた様な声を上げる



「うゎ暗っ!!ちょっと、電気位付けようよー」

「か、狩沢さん…何で此処に…」



辛うじて表情が認識出来る程度の薄暗い部屋に一人座り込んでいたは、狩沢の急な訪問に驚いたまま狩沢を見つめる

そんなの顔を見て、狩沢は悪戯っぽく笑って見せた



「泣いてるヒロインの元に掛け付けるのは王子様の役目じゃない」

「王子様…って」



そんないつもと変わらない狩沢の言動にホッとしたのか、は涙を溜めたまま苦笑する



「ぁ、今更だけど勝手に入っちゃってごめんね?」

「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」

「ついでにゆまっち達も入れちゃって良いかな」

「遊馬崎くん達も居るの?」

「もっちろん。ドタチン達は今コインパーキング探してるとこだよ」



そう言って親指を立てる狩沢に、は戸惑ったままこくりと頷く

狩沢はが頷いたのを受け、手に持っていた携帯で遊馬崎に電話を掛けた



「もしもしゆまっち?から了解貰ったよー。うん、そうそう3階の角部屋。…ぁ、着いた?」



狩沢の言葉と共に先程同様玄関のドアが開く音が聞こえ、やがて3人分の足音がリビングへと近付く



「うゎ暗っ。何してるんすかこんな暗い部屋で」

「邪魔するぜー、って確かに暗いな」

「おい狩沢、お前本当にちゃんと許可取ったんだろうな?」



こうして遊馬崎、渡草、門田の3人も加わり、いつものメンバーがリビングに集う



「失礼な、ちゃんとに聞いたもん。ねぇ

「ぁ、うん。大丈夫だよ、ちょっと狭くて申し訳無いけど…」

「それなら良いんだけどよ。とりあえず…俺も電気は付けた方が良いと思うぞ」



先程まで薄暗かった部屋はすっかり暗くなり、もはやお互いの表情を伺う事も出来なくなっていた



「スイッチ何処だよ?」

「ぁ、これっすね」

「ちょっ、ちょっと待っきゃぁ!!」

「おゎっ!?」



慌てて渡草と遊馬崎が壁のスイッチを付けようとするのを止めようと立ち上がったは、そのまま体勢を崩して床に倒れ込む

明るくなった部屋で男性3人の目に飛び込んで来たのは、狩沢を巻き込んで倒れているの姿だった



「素晴らしいっす…!!これは是非写メらないと!!!!」



そんな二人を見るなり、すかさず取り出した携帯で撮影を始める遊馬崎の横で門田は渡草に向かって尋ねる



「なぁ…こう言うのって普通男と女でやるハプニングじゃないのか?」

「ん?どっちと入れ替わりたいんだ?」

「っそう言う意味で言った訳じゃない」



渡草の問いに門田が決まり悪そうに答える中、仰向けに倒れていた狩沢が身体を起こしながらに声を掛ける



「いったた…、大丈夫?」

「ぅ、うん…ごめん狩沢さん……」



狩沢を押し倒すような体勢になっていたは、狩沢から離れると申し訳無さそうに顔を上げた



「あぁなるほど、泣き顔を見られたくなかったのね」



おずおずと顔を上げたの目元に溜まった涙を見て、狩沢はくすりと笑うと人差し指での涙を拭う

は泣き顔を見られた事やそんな狩沢の行動に対する羞恥心からほんのりと頬を染めた



「美しい!!素晴らしい!!ファビュラスマックスっす!!世界は萌えとツンデレと百合で作れる!!!!
キャッキャウフフでムニムニイヒヒな日常は今!!此処に!!この瞬間に誕生したんっすね!!!!」

「おー…、遊馬崎が今までに無い程暴走を…」

「…あれはもう放っとくとして…。悪かったな、急に押し掛けたりして」

「ううん、それは全然大丈夫なんだけど…。私、引っ越した事まだ皆に言って無かったよね?」

「いや、それがさっきたまたま駅付近で静雄に会ってな」

「静雄さんに?」

「あぁ。それでお前が静雄の所で働き始めて、しかも池袋に引っ越したって聞いてよ」

「それじゃぁいっちょお邪魔しなきゃね!!って事でしずちゃんに無理矢理住所聞き出して来たってワケ」

「でも急に突撃したら流石に迷惑かなーっと思ったんで、一足先に狩沢さんに行って貰ったんっす」

「この辺りパーキング無いから探さなきゃだったしな」

「そうだったんだ…」



4人の説明を聞いて納得したは、門田を見上げてはっとした表情を見せた



「ご、ごめんね。折角来てくれたのに立たせたままだしお茶も出さずに…」

「いえいえ、いきなり乗り込んだのはこっちなんでそんな事気にしなくて良いっすよ」

「遊馬崎も狩沢も止めても聞かない勢いだったからな…」

「えー、ドタチンだって別に言う程止めなかったじゃん」

「自分だって来たかった癖に良く言うよなぁ」

「そうっすよ、門田さんだって狩沢さんに"最近連絡取ってるか?"って度々聞いてたじゃないっすか」

「それは…」



そんな相変わらずのやり取りが懐かしくて嬉しくて、は思わず隣に座っている狩沢の腕にしがみ付いた



?」

「好き…」

「ぇ?」

「皆好き。大好き。やっぱり私此処に居たい。消えたくないよ…」



狩沢の腕に縋りつき顔を埋めたまま、は訴える様に呟く

4人はそれぞれを顔を見合わせ、遊馬崎、渡草、門田は狩沢との近くの床に腰を下ろした



「…何があったんだ?さっきも泣いてたみたいだし…」

「何でも無いなんて言わないで、悩みがあるならちゃんと相談してよ」

「泣いてるも可愛いっすけど、やっぱりには笑っていて欲しいっす」

「ま、乗り掛かった船ってやつだしな。遠慮すんなよ」

「皆…」



心配そうに声を掛ける4人の顔を見回し、再び緩む涙腺もそのままにはやがてぽつりぽつりと語り始めた

臨也の家を飛び出し狩沢に愚痴を聞いて貰ったあの日、帰りがけに斬り裂き魔に襲われた事

偶然静雄に助けられ、その流れで静雄の職場で働く事になった事

斬り裂き魔に襲われた事が原因で夜に眠れなくなってしまった事

一度は記憶が曖昧になったものの、今ではハッキリ全てを思い出している事

そして、後一週間程で自分の知っている物語が終結を迎える事…



「門田さんは何となく気付いてると思うんだけど、これから数日の間に色々起きて一週間後位には全部終わるんだ」

「終わる?」

「終わるって言うか、一件落着って言うか。とりあえず私が知っている範囲の出来事はそこでおしまいなの」

「そうか…」

「それでね、その"私が知ってる物語"が終わったら、私って多分消えちゃうんだ…。
臨也は私が既にこちらの世界に定着したんじゃないかって言ってて私もそうかもって思ってたんだけど、そうじゃ無いみたい。
私が"偶然"色々な事に遭遇したのも記憶を無くしたのも、この物語に矛盾が生じない様にする為だったんだと思う。
まぁその事自体が臨也の言う通りまるで漫画みたいで誰かの意思みたいな物を感じるんだけど…」

「何で…そんな事が解るんだ?」

「ぇえと…。半年前、私が門田さんに"この世界との共通点を探してみる"って言ったの覚えてる?」

「あぁ」



の問いに門田が頷くと、は困った様な笑みを浮かべた



「その共通点が何か見つけたら、自然に自分がいつまでもこの世界に居られないって解ったんだ」

「………」



そう呟いて俯くを、門田は複雑そうな表情で見つめる

そんな中、大人しく話を聞いていた狩沢が門田とを交互に見ながら首を傾げた



「ねぇねぇ、話の腰折っちゃうんだけど、共通点って何の事?」

「ぇっとね、あくまで仮説なんだけど、私が元居た世界とこの世界には何処かで繋がりがあるような気がしてて、
で、その繋がりが何なのか解れば元の世界に帰る方法も解るんじゃないかなって言う話を門田さんとした事があるの」

「ぇ?それじゃその共通点を見つけたから、は元の世界に帰っちゃうの…?」

「どうなのかな…。こちらの世界から居なくなる事は解るんだけど、元の世界に帰れるのかどうかは解らないから…」

「そんな…」

「本当はね、もしこの仮説が正しいなら逆に共通点を見つけなければずっとこっちに居られるんじゃないかって思ってたんだ」



は門田を見ながら苦笑する



「でも駄目だった。気付かない様にしたかったのに、誰かに操られてるみたいに話が進んで、
半年前にある事に気付いて、それが昨晩確信に変わって、それで今朝色々あって全部解って…」

「昨日とか今日とか、随分唐突っすね」

「うん。昨日の夜静雄さんと新羅さんと…まぁちょっと色々話してたんだけど、その時にね」

「そうか…。その気付いた事が何なのかは…、聞かない方が良いんだろうな」

「……ううん、多分大丈夫だから、4人には聞いて欲しい…」



門田が呟いた言葉にが少しの間考え込んでゆっくりと頭を左右に振ると、4人もそれぞれ頷いての言葉を待った



「あちらの世界に居た時の私は、皆も知っての通り本当に平凡で、普通で、何の取り得も無い人間だった。
私はそんな人生に飽き飽きしてて、もっと刺激的な非日常的な人生を送りたいって思ってたの」

「そう言えば、最初にうちに来た時も同じ様な事言ってたよね…」

「でしょ。それでね、半年前に"私と帝人くんって何となく似てるかも"って思ったの。
その時はただ思っただけだったんだけど、昨日の夜に新羅さんにこの物語の主人公の説明をしてて確信したんだ」

「主人公って、帝人くんっすよね?」

「うん。だから私は"冴えない男の子が池袋と言う街で色々刺激的な事に遭遇する感じのストーリー"って説明したの」

「それがと何の関係があるんだよ?」



渡草は首を傾げるが、遊馬崎と狩沢は何かに気が付いたらしく、互いに顔を見合わせた



「その説明ってさ、男の子の部分を女の子に変えたら…」

「まるで今のの事みたいっすよね…?」

「そうなの。だからね、あちらとこちらの繋がりって、帝人くんだと思うの」

「なるほどな…。でもそれだけじゃ少し動機が弱くないか?」



の言い分に有る程度納得しながらも、門田は腕を組みながらに尋ねる

するとは何かを伝えようかどうしようか迷う素振りを見せた後、少々言い難そうにしながらも口を開いた



「もちろんそれだけじゃなくて…、この物語のテーマって言うか主軸がね…、"愛"なんだ」

「「「「愛?」」」」

「そう、愛。この話に出てくる人は皆それぞれ誰かを、何かを愛してて、その愛が色々な事件のきっかけで…」

「まぁ渡草さんは聖辺ルリに熱狂的愛を注いでるし、私とゆまっちは二次元萌えだけど…」

「ぁ、でもそうすると門田さんは何萌えっすか?」

「何でも萌えで例えるんじゃない。…まぁ強いて言えば俺はお前達が無茶しないで毎日楽しく過ごせりゃ良いと思ってるが…」

「平和を愛する男、門田京平!!格好良いっす!!そこに痺れる憧れるっす!!」

「だからちゃかすなっって…。、続けてくれ」

「ぁ、うん。ぇと、それで愛に気付いたり愛を知ったり愛したり愛されたり時には愛故に傷付けたり傷付けられたり、
人によって様々なんだけど、あちらで見た限り兎にも角にも愛がこの物語の軸なのね?」

「愛、ねぇ…」

「じゃぁじゃぁ、帝人くんは紀田くんにラブ!?」

「いや何でそうなるんだよ」

「そうっすよ狩沢さん。まぁ折原臨也と平和島静雄よりはまだ微笑ましいっすけど」



目をキラキラさせながら尋ねる狩沢に渡草と遊馬崎が突っ込みを入れるとも苦笑する



「帝人くんが好きなのは、園原杏里ちゃんだよ」

「園原…って、この間俺達が助けたあの子か」

「うん。帝人くんはあの子の事が好きなんだけど、中々告白出来ずに正臣くんにからかわれたりしてるの」

「良いっすねぇ、甘酸っぱい青春!!みたいな感じで」

「本当羨ましいよね、やっぱり初恋とか青春とかは高校生で体験する物だよ…」



遊馬崎の台詞に同調しながら、は肩を落として呟く



「そういやって作中だと彼氏居ない暦=年齢だけど、初恋もまだなの?」

「…それなんだけど…、物心付いてからの初恋は……その、…こっちに来てようやく、みたいな…」

「「「「………」」」」



狩沢の問いに頬を染めながら答えるに、その場の4人はそれぞれ固まった

そんな4人の姿には疑問符を浮かべるが、4人は嘆くように一斉にため息をつく



「こんな日が来るって解ってたけどさー…」

「実際の口から聞くと辛いっすねぇ…」

「仕方ねーけど何となくショックだよなぁ…」

「出来れば止めておけと言いたい所だが…」

「な、何々?どうしたの?」



全てを諦めたような様子で口々に語る4人には慌てるが、4人は暗い雰囲気のまま呟く



「その初恋の相手って、折原臨也っすよね?」

「ぇ?何で…ぁ、あの、狩沢さん!?」

「私は別に教えてないよー」

「じゃ、じゃぁ何で…」

「んなもん見てりゃ解るって。最初にアイツの家で一晩過ごして戻って来た時も嬉しそうだったしな」

「嘘っ!?」

「残念ながら嘘じゃないぞ。渡草の言う通り周りから見れば結構バレバレなもんなんだよ」

「ぅ…」



色々と相談していた狩沢は兎も角、遊馬崎、渡草、門田にまで自分の気持ちがバレていた事を知りは赤くなる



「は…、恥ずかしい……!!」



思わず両手で顔を覆って俯いたを眺めながら、門田はに尋ねる



「それで、結局何がきっかけでお前は元の世界に帰ると思ったんだ?」

「…ぇーと。実は今朝臨也の事が好きって改めて思って…そしたらその瞬間"あぁ、これが答えだな"って…」

「んー…、でも前から好き好き言ってたのに今更過ぎない?」



説明するに狩沢が横から突っ込むと、は首を左右に振って弁解するように答えた



「違うの。今までの好きはそれこそキャラに対する萌えって感じの好きだったの。
でも今朝ある人に告白されて、生まれて初めてだったから嬉しく舞い上がっちゃってそのまま勢いでOKしそうになったりとかして、
それなのにどうしても臨也の事が頭から離れなくて、その時にキャラとかじゃなくて本当に一人の人間として好きなんだって自覚して…、
だからと言ってそれをその告白してくれた人には言えないし結局咄嗟にはぐらかしちゃったんだけど…」

「なるほど、つまりはキャラ萌えから本物の愛に変わっていた事に気付いたんすね」

「つーか告白って、誰にだよ?」

「それは…プ、プライバシーのアレ的な…」

「…静雄か?」

「っな、何で…!?」



ずばり言い当てられたが解りやすくうろたえると、門田は頷きながら呟く



「やっぱりな…。さっき会ってお前の事聞いた時なーんか様子がおかしかったからよ」

「平和島静雄にまで好かれるとかどんだけっすか」

「三つ巴!?三角関係!?デルタダイナマイト!?バミューダトライアングル!?」

「あー…、それで、お前が"折原の事を好きだと気付いた事"ってのが元の世界に帰るきっかけなのか?」

「うん、多分…。」

「告白とかしなくて良いの?」

「こ、告白は…今のところ考えて無いけど…」

「どうしてっすか?」

「だって、私この世界の人間じゃ無いし、どうせ消えちゃうのに伝えても意味無いし…」



狩沢と遊馬崎の問いに答えるの表情は寂しげで、遊馬崎も狩沢もそれ以上は何も言えないようだった

そんな中、門田は難しそうな顔をして黙り込んでいる



「門田さん?」

「…悪かったな」

「ぇ?な、何が…?」



突然門田に謝られ、理由が解らないは渡草に向かって首を傾げる

しかし渡草も何の事だか解らないようで、顔の前で片手を振ってみせた

遊馬崎と狩沢も門田の突然の謝罪の意味が解らないようで、4人は揃って門田を見つめる



「俺が最初に"帰った方がお前の為だ"なんて言わなかったら、お前はこんなに苦しんで無かったよな…」

「門田さん…」

「俺だって別にお前に帰って欲しい訳じゃ無いんだ。ただあの時は…」

「うん、大丈夫。門田さんが本当に私の事考えて言ってくれたんだって解ってるよ、だからこそ私も帰らなきゃって気になったんだし。
でもごめん、やっぱり帰りたくない。私、皆と離れたくない…」



言葉と共に再び涙を流すに、狩沢はの手に自分の手を重ねて首を振った



「そんなの、私だってが居なくなるなんて嫌だよ…。折角…、折角会えたのに…」

「俺だって嫌っすよ…。例えが折原臨也を好きでも、俺の萌えは揺るがないっす!!」

「ねぇ、どうにかが消えるのを回避する方法って無いのかな」

「回避…って言われてもなぁ…」

「正直俺達がどうこう出来るもんじゃ無いだろうな…」



狩沢の必死の問い掛けに渡草と門田は腕を組んで困惑した様子で答える

遊馬崎も狩沢も渡草も門田も、が消えると言う事実を素直に受け入れられない気持ちは同じだった

だからと言ってが消えずに済む方法など、4人に解る訳も無い



「………」

「………」

「………」

「………」



重苦しい雰囲気が漂う中、は顔を上げてぽつりと呟く



「とりあえず…、近々帝人くんに会いに行こうと思ってるの」

「会って、どうする気だ?」

「それはまだ解らないけど、一度会って色々話してみたいなって」

「そうか…」

「あの、散々我侭言ったのにこんな事言うのも変だけど、あまり気にしないで欲しいんだ。
私は、消えたくないって皆に伝えられただけでも充分だから。消えたら嫌って、言って貰えただけで嬉しいから」



消えたくない



「こんな事言うと皆はきっと心配してくれるだろうから、本当は言わないでおこうって思ってたんだけど…」



こちらの世界に残りたい



「でも狩沢さんが、皆が来てくれて、聞いてくれて、本当に嬉しかった」



そんな気持ちを誰かに吐き出せただけでも、は随分と気持ちが軽くなった様な気がしていた



「でも、まだどうなるか解らないしお礼は言わないでおくね」



そしてそんな自分の変わりに、きっと心を痛めただろう4人の優しい、大切な友人の為に、は笑いながら告げる



「此処で散々盛り上げておいて、実は普通に残りました。なんて事になったら恥ずかしいし」

…」

「とりあえずまだ1週間はある訳だから、それまでに残れる方法探してみるよ」

「…そうだな、今此処で落ち込んでても仕方ないし俺達も出来る事をするしか無いよな」

「そうっすよ!!奇跡も、魔法もあるんだよって、某魔法少女も言ってたっす!!」

「いや奇跡はともかく魔法は無いだろ…」

「でも黒バイクみたいな都市伝説とか私みたいな異星人とかが居るんだから、魔法もあるかもしれないよ?」

「そうそう。渡草さんの愛する聖辺ルリも実は吸血鬼の末裔かもしれないっすよ〜?」

「馬鹿言え。まぁルリルリの素晴らしさは人類を超越してるけどな」

「………」

「狩沢?」



遊馬崎と渡草がいつもの調子で交わす会話に、珍しく参加せず黙り込んでいる狩沢に気付いた門田が声を掛ける

すると狩沢はの手を握ったままぼそりと呟いた



「私、今日このまま泊まってく」

「泊まる、って…お前そんな事急に言ってもが困るだろ?」

「ねぇ、駄目?」

「ぇ?ううん、私は全然構わないんだけど…、狩沢さんは大丈夫なの?」



狩沢に懇願されてが尋ねると、狩沢は無言でこくりと頷く

普段とは様子の違う狩沢に男性3人組はそれぞれ顔を合わせると、各々納得した様に立ち上がった



「そうか、まぁが良いなら良いんだ。んじゃ俺達はそろそろ帰るけど、余り夜更かししないでさっさと寝ろよ」

「うん、おやすみ門田さん」

「またな」

「おやすみなさいっす」

「渡草さんも遊馬崎くんもおやすみ、またね」




こうしてに見送られ、門田、渡草、遊馬崎の3人はの家を後にする

一気に静かになった部屋の中で、は自分の手を握って固い表情をしている狩沢に声を掛けた



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