「………」



翌朝

目を覚ましたはいつも通りぼやけた頭で天井を見上げる

起きなければとは思うものの、暖かい布団と柔らかな人肌の体温が心地良く、は夢の中へと誘われるように再びゆっくりと目を閉じた―



「…って人肌!?」



しかし重大な事実に気付いてしまったは、寝惚けていた脳を覚醒させて慌てて目を開ける

すると隣には何故か上半身裸状態の臨也が寝ており、は人の言葉とは思えない叫びを上げて勢い良く起き上がった



「っ…!?!?!?」

「煩いなぁ…、何朝から一人で騒いでるの?」



の叫び声で目を覚ました臨也は、同じように上体を起こして気だるげに尋ねる



「だ、だって何で臨也裸!?」

「は?あぁこれか…、何?覚えてないの?」

「お、覚えてないって何が…」



臨也に呆れたように尋ねられたは、記憶を手繰りながら昨夜の事を思い出そうと頭を捻った



「………ぁ…」

「思い出した?」

「…うん……」



はおぼろげながらも昨夜の出来事を思い出し、青褪めれば良いのか恥ずかしがれば良いのか良く解らない様な顔でこくりと頷く



「全く、泣き疲れて寝るとか良い年した大人のする事じゃないよねぇ」

「ぅ…」

「しかも斬り裂き魔にやられて怖かったのは解るけど、何も人が着替えてる最中に飛び起きなくても良いのに」

「うぅ…」

「挙句の果てにはそのまま"一緒に寝て"だもんね。あれだけ駄目とか言ってた癖にさぁ」

「うぅぅ……」



ずけずけと放たれる臨也の言葉に返す言葉も無く俯くと、臨也はふっと笑って俯いたままのの頭をぽんぽんと撫でた



「まぁ昨日は良く眠れたみたいだし良かったんじゃない?」

「…うん、おかげ様で……」



顔を上げ、未だに少しバツが悪そうな顔をしたまま、は小さく笑う



「でも今日からはまた一人で寝なきゃいけないって言うのに、そんなんで大丈夫な訳?」

「大丈夫……じゃないだろうけど、でも平気。頑張る」

「意地張ってないで素直に此処から通えば良いのに」

「だって、静雄さんと約束しちゃったし…」



がそう言って首を振ると、臨也は僅かに眉を寄せてため息交じりに呟いた



「なーんか腹立つんだよねぇ…」

「何が?」

「いや、何でも無い。とりあえずそろそろ支度しないと間に合わないんじゃない?」

「ぇ?って、うわっ!!もうこんな時間!?」



臨也に言われて時計を確認したは、慌ててベッドから下りるとばたばたと着替えを持って洗面所に向かった



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「よいしょっと」



は玄関先で半年分の荷物が入ったリュックを背負いキャリーケースを掴む



「今まで本当にありがとね」

「何かその言い方だと会うのはこれで最後、って感じだね」

「最後では無いと思うけど…、でも今後はなるべく臨也に頼らず自力で生きて行きたいなぁとは思ってる」

「だから下まで送るよって俺の好意も一蹴した訳だ?」

「言い方が悪いけど、でもそんな感じ」

「まぁ今更止めても無駄だろうから止めはしないけど。また意地張りすぎて自滅しないようにね」

「ぜ、善処します…」



がそんな釘を刺すような言葉にぎくりとしながら答えると、臨也がじっと自分を見ている事に気付き首を傾げた



「どうしたの?」

「…いや、」



臨也はの問いには答えず、首を左右に振ると一つ息を吐く



「とりあえず下にタクシー呼んでおいたから、それ乗ってって」

「ぇ、そんなわざわざ良かったのに」

「でもその大荷物で通勤ラッシュの電車乗れないでしょ?」

「ぁ、それもそうか…。うー、何か本当お世話になりっぱなしでごめん…」



申し訳なさと悔しさでは肩を落とすが、臨也はやはり先程と同じ様にを見たまま何かを考え込んでいるようだった



「臨也?」

「ん?」

「何かさっきから変だけど…、どうかした?」

「何でもないよ。それより急いだ方が良いんじゃない?」

「うゎ、本当だ。 ぇっと、それじゃとりあえずまた連絡するね」



はそう言って荷物を背負いなおすと、玄関の扉に手を掛けて振り返った



「それじゃぁ行って来ます」



そんなの言葉に臨也は一瞬驚いた表情を見せたが、やがて脱力気味に笑って答えた



「うん、行ってらっしゃい」



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が事務所を後にしエレベーターを降りると、丁度出勤して来た矢霧波江が立っていた

半年前、波江が臨也の元に通うようになり流石に存在を隠しながら生活する訳には行かないと判断し、

臨也がが居候している旨を説明しての存在は波江も知る所となった

二人は特に仲良し、と言う様な関係では無かったものの、お互いに反発する所も無く顔を合わせれば雑談をする程度の間柄になっていた



「ぁ、おはよう波江さん」

「おはよう。どうしたのその荷物、いよいよあの男に愛想が尽きた?」



波江はの背負っている荷物を見ながら尋ねる



「ううん。そうじゃないんだけど、色々あって居候生活は今日でおしまいなの」

「そう…、それで何処に行くつもり?」

「池袋。新しい勤め先って言うか、バイト先が部屋も借りてくれたんだ」

「あら、良いわね」

「でしょ。これでようやく自立した暮らしが出来るよ」



いつも通り淡々とした口調で会話に応じる波江にが笑って見せると、波江はじっとの顔を見て呟いた



「…そう言う割には寂しそうね」

「ぇ?そう?」

「まぁ原因は想像つくけど…。こっちもまた面倒になりそうね」

「何が?」

「こっちの話よ」



不思議そうに波江を見るに手を振り、波江はため息混じりに呟く



「でもどうせもう此処に来ないって訳では無いんでしょう?」

「そうだね、何だかんだでちょいちょい来ちゃうかも。その時は波江さんの紅茶飲ませてね」

「えぇ、それじゃぁ気をつけて」

「うん、有難う。またね」



はひらりと片手を振って波江と別れ、エントランスを抜けるとタクシーへと駆け寄った



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「良かったの?行かせちゃって」



事務所に着いた波江はいつも通りPCデスクに向かう臨也に尋ねる



「良いも悪いも俺がを引き留める理由なんて無いからね」



臨也はモニタを見つめたまま答えて見せるが、波江はそんな臨也を呆れた様な顔で見つめた



「そんな顔して良く言うわよ」

「そんな顔?」

「寂しいって、顔に思いっきり書いてあるわよ」

「………」



淡々とした波江の言葉に対し、臨也は波江の予想に反して黙り込むとやがてキーボードを操作しながらぽつりと呟いた



「散々手塩に掛けた一人娘が一人暮らししたいとか言い出した父親の心境ってこんな感じなんだろうねぇ」

「は?父親?」

「もしくは可愛がってたペットを亡くした飼い主でも良いよ」

「…わざわざ突っ込みを入れるのも面倒だけど、言い方を変えた所で愛しているって事に変わり無いわね」



無自覚なのかわざとなのか、自分の心境を父性や愛玩に例える臨也に波江は冷たく言い放つ



「もちろん愛してるよ?俺はシズちゃん以外の人間全てを愛しているからね」

「下らない…」



あくまでもいつも通りを装う臨也の言葉にため息混じりに吐き捨てると、波江は腕を組んで首を傾げた



「所でさっきからずっと何をしているの?」

「ん?あぁ、今朝が持ちきれなかった分の荷物を送る事になってるからついでにと思ってさ」

「インテリアに家電に日用品の…、通販?」



にこやかに答える臨也の背後に回りPCの画面を覗いた波江は、臨也が何をするつもりなのかを察したようだった

臨也はそんな波江の前で携帯を手にすると電話を掛け始める



「ぁ、お世話になってます。すいません、今メール送ったんですけど、今日の午後一には必要なんで一式揃えて貰えます?」



当日に注文して当日に届けろとは無茶な要求だが、それを可能にするのがこの男の恐ろしい所だと波江は小さくため息を吐いた



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「おはようございますっ!!」



タクシーを降りたは、階段を駆け上ると勢い良く扉を開けて事務所飛び込んだ



「おぉ、ギリギリセーフだなぁ」

「す、すいません…、思った以上に……道が、混んでて…」



はぜぇぜぇと乱れた息のままトムに頭を下げる



「初日に寝るわ、次の日は遅刻寸前だわ…、もう本当にごめんなさい……」

「いやいや、その荷物見たら遅刻も仕方ないって。まぁ実際はギリギリ遅刻しなかったんだし問題無いから」

「有難う、御座います…」



はトムの言葉を聞いてほっとした様に息を吐き、荷物を床に下ろしてその場にしゃがみ込んだ



「はぁ、重かったぁ…」

「凄い荷物だなぁ。ごくろーさん」

「どうもです。あれ…、静雄さんは…?」

「あぁ、さっき社長に呼ばれて出てったけど、多分すぐ戻って来るだろ」

「そうなんですか。…ぇと、とりあえず、この荷物端っこに置かせて貰って良いですか?」

「おう。どれどれ…」



トムはそう言ってひょいと床の荷物を持ち上げるとソファ横の壁際に移動させる



「ぉ、ホントに結構重いな」

「す、すみませんわざわざ」

「いいっていいって。つーかいくらリュックだからって腕治って無いのに良く担いで来れたもんだ」



トムに言われ、ふとは昨晩斬り裂き魔に襲われたと言う苛めっ子3人組の事を思い浮かべた



「…あれ……?」



確か苛めっ子3人組が襲われた後、次に襲われる人物が居たハズだ

しかしそれが誰だったのか、いつ、どのタイミングで襲われるのか、思い出そうとしても記憶は依然として霧が掛かった様に思い出す事が出来ない

こんな事なら半年前に携帯のメモ機能にでもしっかり書いて置けば良かったと、はため息と共に後悔の気持ちを吐き出す



「ん?どした?」

「ぁ、いえ…、何でも無いです」

「大丈夫か?疲れてる所悪いんだけど、ちょっと頼みたい事があるんだわ」

「はい、大丈夫です。掃除でも買出しでも書類整理でも何でもやりますよ」

心配そうに尋ねるトムに慌てて答えると、は両手をぐっと握って笑った



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「トムさん、こっち終わりました」

「おぅ、そんじゃ次はこっちな」

「了解です」



二人揃って机に向かいながら、黙々と書類の山を片付けて行く



「いやぁ、静雄はこう言う作業苦手だから毎月のこの作業が大変でさ」

「それはそれは…。結構な量ですもんね、これ一人でやるのは大変ですよ…」

「だろ?でもちゃんがこう言うの出来る子で良かったわホント」



トムが息を吐きながら呟くと、タイミング良く扉が開き静雄が戻って来た



「ぁ、静雄さんおかえりなさい」

「よぉ、遅かったな」

「すんません、途中邪魔が入って…」

「邪魔?お前また何かやらかして来たのかよ」

「いや、俺は何もしてないっすけど…」

「うゎ、静雄さん手から血出てるよ!?」

「ん、あぁホントだな」

「いや"ホントだな"じゃなくて!!トムさん、救急箱とかあります?」

「ぉー、そっちの棚に入ってるよ」

「ほら静雄さんこっち来て座って!!」



は棚から救急セットを取り出すとソファに腰掛けて静雄を呼ぶ



「別に大した事無いから良いって」

「駄目。静雄さんが丈夫なのは知ってるけど血なんか流して事務所の備品汚したら困るでしょ?シャツにだって血付いたら大変だし」

「…そうか」

「そうだよ、だからこっち来て?」

「ん」



静雄はの言葉に納得すると、の隣に腰を下ろした

大人しくに従う静雄の様子をトムが意外そうに眺めていると、トムの携帯が振動してメールの着信を告げる



「お、ちゃんの部屋の鍵が用意出来たから取りに来いってよ」

「本当ですか?じゃぁこれが終わったらすぐ行きますね」

「あぁ良いよ、管理人とこは俺が行って来るから」

「良いんですか?すいません。あの、それじゃぁお願いします」

「あいよ、んじゃ静雄の事宜しくな」



トムはそう言うと静雄に向かって意味有り気に笑って事務所から出て行った



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「傷は深くないけど傷口が綺麗じゃないから痛そうだなぁ…、これって何で切れちゃったの?」

「何だったっけな…。多分…、何か鉄板みたいな…」

「鉄板!?それは痛いよ、って言うか絶対汚いよね。きっちり消毒しておかなきゃ…」



脱脂綿に消毒液を付けたものを傷口に当てながら、は眉根を寄せる



「うぅ、何か見てるこっちが痛い…。静雄さんは痛くないの?」

「いや、まぁ痛いとは思うけど別にどうって事ない」



静雄はの質問に答えると、ぽつりと独り言の様に呟いた



「戻って来たんだな」

「戻ったって私の事?何で?」

「いや…、昨日あいつのとこ行ったってトムさんから聞いたからよ」

「あぁ、うん。何か池袋に居るって言うから、荷物取りに行ってたんだ」



消毒を終えた傷口にガーゼを当てながらが答えると、静雄はソファ横の荷物を指差した



「あぁ、そのでっかいやつか」

「そうそう。朝はタクシーで此処まで来たんだけどギリギリになっちゃって、それ背負って階段駆け上がったら息上がっちゃった」

「そりゃ大変だったな」

「うん。持ち切れない分は後で送って貰う事にしたんだけど、必要な物だけとりあえず持って行かなきゃと思って」

「そういや家具とかって何も無いんだよな?」

「そうなんだよね、洗濯物はまぁ暫くはコインランドリーとかで良いけど、流石に冷蔵庫とかは買わなきゃかなぁ…」

「冷蔵庫の前に布団とか色々あるだろ」

「ぁ、そうか布団かぁ…」



一通り手当てが終わり、消毒液やガーゼを片付けながらは呟く



「買いに行くなら付き合うぞ」

「良いの?」

「布団はお前一人じゃ持って帰れないだろ」

「うん…、それじゃぁお願いしちゃおうかな」



静雄の申し出にがこくりと頷くと、扉が開きトムが帰って来た



「鍵貰って来たぞー」

「トムさんお帰りなさい。有難う御座いました」

「どういたしまして。はい、これ鍵ね」



お礼を言うに笑い掛けながら、トムはに家の鍵を手渡すとソファに腰掛けてを見上げた



「で、だ。色々準備とか買出しとかあるだろうから、今日はさっきの続きが終わったら上がって良いってよ」

「ぇ?でも…」

「大丈夫大丈夫、社長の命令だから。静雄、お前はちゃんの手伝いな」



トムの言葉に静雄が頷くと、救急セットをしまったは静雄にぺこりと頭を下げた



「ごめんね、宜しくお願いします」

「あぁ」

「よし、そんじゃぁさっさと続きやっちゃうか。お前もちょっとちゃん見習って書類の書き方覚えろよ」

「ぁ、それじゃぁ静雄さん私がこっちやるからそっち手伝って貰える?解らない所は聞いてくれれば良いから」

「解った」

「うっし、そんじゃぁいっちょやりますか」

「はい、頑張ります!!」



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「これで最後…と。良し、終わった!!」

「はぁ〜、終わった終わった。何だかんだでもう15時か、結構掛かったなぁ」

「でもあれだけの量が終わったんだから良かったですよね」

「あぁ、これもちゃんのおかげだな。静雄、ちゃんと覚えたか?」

「まぁ…、何となくは」

「何となくじゃ困るんだけどなぁ、まぁ良いわ。とりあえず二人とも今日は上がって良いぞ」

「有難う御座います、それじゃぁちょっと片付けちゃいますね」



は立ち上がり出来上がった書類をてきぱきとまとめ始めると、トムと静雄もに習って机の上を片付けた



「それじゃぁお疲れ様でした」

「うぃ、また明日な。静雄、道中絡まれてもキレんなよ」

「うす」



そうトムに言われた静雄は頷き、が朝背負ってきた荷物を片手で持って事務所を出る

も再度トムに会釈をすると、静雄の後を追って事務所を後にした



「買い物に行く前に一度家に寄っても良いかな、その荷物も置いちゃいたいし」

「あぁ」

「部屋見てどんな部屋にするかとかも考えなきゃ」



新しい生活始めるに当たり、自分好みの部屋をどう作って行こうかは頭に思い描きながらウキウキとした様子で道を歩く



「でもびっくりしちゃった、入用だからって10万も貸してくれるんだもん、社長さんてホント太っ腹だよね」

「あぁ、俺もあの人には散々世話になってるからな」

「早めに返せるように無駄遣いはしないようにしなきゃだけど、自信無いなぁ」



帰り際にトムに渡された封筒を両手で大事に握り締めながら、は浮かれた様子のまま呟く

やがて新居であるマンションへと辿り着き、家の鍵を開けるとふいにの動きが止まった



「………あれ?」

「どうした?」

「…この部屋で…、あってる、よね?」

「この間も来たんだから此処で合ってるだろ」

「じゃぁ…、何で家具とかがあるの……?」

「ぁ?」



の不可解な言葉を聞き静雄が部屋の中を覗き込むと、

部屋の中はの言う通り家具と家電が揃っており、既に誰かが生活していてもおかしくない空間になっていた



「社長さん…じゃないよねぇ、さっき渡されたお金は何だって話になっちゃうし」

「……臭ぇ…」

「へ?」

「ノミ蟲臭ぇ」

「ぁ、あー…、なるほど、臨也か……!!」



そんな静雄の言葉では納得したようにぽんと手を叩き、とりあえず家の中に入る

静雄も後に続いて上がり込むと、忌々しげに部屋の中を見渡した



「まさか家主より先に家具家電をセッティングしてるとは…」

「不法侵入とかで訴えた方が良いんじゃねーか?」

「本当だよね」



は脱力した様に笑いながら、すっかり整えられている部屋を見渡してベッドに腰掛ける



「社長から借りたお金、必要なくなっちゃったね」

「全部捨てて新しいの買うか?」

「いやいや、勿体無いでしょそれ」

「あいつの事だから盗聴器とか仕掛けてありそうで気味悪いだろ」

「流石にそこまではしないと思いたいけど…。って言うかもし盗聴してたら今此処に静雄さんが居る時点で連絡あるよね」

「なぁ…、お前ってアイツとどう言う関係なんだ?」

「どうって…、別に大した関係では無いけど…」



静雄の突然の質問には曖昧に答えるが、静雄は疑いの眼差しを向けたまま尋ねる



「此処までされといて大した関係じゃ無い訳ないだろ」

「ぅー…、何て説明したら良いのか…。でも本当、何だろう…、居候と家主だし…一番しっくり来るのは飼い主とペット…?」

「ペットって…」

「だって本当の事だもん。友達って言う感じでは無いけど、だからって恋人でも無いし…」

「何か良く解んねぇな」

「うん、私も良く解らないんだ」



は笑いながら小さく頷いて立ち上がると、新品のクローゼットや引き出しを確認しながら思い出したように静雄に声を掛けた



「ぁ、そうだ静雄さん」

「ん?」

「家具とかは必要無くなっちゃったけど、食材買いたいからスーパーまで付き合って貰って良いかな?」

「あぁ、米とかあるもんな」

「そうそう」

「んじゃ行くか」

「はーい」



こうして二人は部屋を後にして近所のスーパーへと向かった

静雄は自分の少し前を歩くを見下ろしながら、複雑そうな顔で煙草に火を着ける

この見た目も中身も特に変わった所の見られないに、臨也は恐らく、と言うか確実に好意を抱いている

知っている限りではとても誰かに執着などしそうに無かったあの男が、何故こんな平凡な女に執心しているのか、

そして自分は何故その事実がこんなにも面白くないのか…

静雄はそんな不可解な想いを掻き消す様に、深いため息と一緒に煙草の煙を吐き出しての後を追った



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