新羅のマンションを後にして、駅までの道を一人歩く

時刻は18時を過ぎ、辺りは薄っすらと暗い

途中で何となく携帯を開いてみると、何回か臨也からの着信があったようだ

折り返そうと着信ボタンに手を掛けた所で、ふと金色の髪が目の端に映った



「……ぁ」



足を止めて振り返ると、道を1本挟んだ向こう側を静雄が歩いている

は携帯電話を鞄にしまい、静雄を追い掛けると背後から呼び止めた



「静雄さん!!」

「ん?」



急に背後から名前を呼ばれ、振り返った静雄はを見下ろして首を傾げる



「アンタは…」

「あの、さっきは助けて頂いて有難う御座いました。大した事は出来無いんですけど一言お礼が言いたくて…」

「あぁ…、もう動いて大丈夫なのか?」

「はい。幸い腕だけで済んだので、まだちょっと痛いけど大丈夫です」



そう言って両腕を軽くと振って見せながら、は改めて静雄を見上げた



「そういやアンタ…、この前も会ったよな?」

「ぁ、はい。静雄さんこそ、手の平はもう大丈夫ですか?」

「おぅ、あの後新羅んとこで診て貰ったからな」



静雄は刺された方の手を握り締めてそう言うと、思い出したようにポケットを探った後で頭を掻いた



「っと、悪い。借りてるハンカチ家に置いたままだわ」

「あぁいえ、気にしないで下さい。別に高い物でも無いし…」

「そうか、…アンタこの辺に住んでるのか?」

「ぇ、っと……」

「ん?」

「その…、今は新宿に居るんです」



そんな何気無く聞いた質問への答えに"新宿"と言う単語が出た事で静雄の空気が一瞬固まった



「新宿…?」



その単語だけで嫌な予感しかしない

新宿に住んでいて、自分の名前を知っていて、新羅の存在も知っていた

しかし新羅は先程の事など知らないと言っていたし、自分も矢霧誠二にボールペンを刺された日以外の接点は無い

そうなれば、導き出されるのは思い出す事すら腹立たしいあの男の存在だけ―



「あの…、多分今とあるノミ蟲を思い浮かべてるとは思うんですけど、私の話を聞いて貰えませんか」

「ぁ?話って何だよ?」



の発した一言で、静雄は警戒したままひとまず思考を止めてを見下ろす



「えぇっとですね、誤解されないように最初から説明すると少し長い話になっちゃうんで、移動しながらでも良いですか?」

「あぁ…」



静雄が頷くと、は東口公園へと歩きながら先程新羅に説明した内容を静雄にも一から説明してみせた



「とまぁそう言う訳で、私は自分でも知らない内に此処に来てしまい途方にくれていた所を狩沢さんや門田さんに拾われたんです」

「そうだったのか…。でも今は違うんだよな?」

「はい。収入ゼロの身でいつまでも狩沢さんのお世話になる訳にも行かないんで…」

「だから…」

「そうです。だから今は金銭的に余裕綽々な臨也の所に居候してます」

「……そうか…」



普段ならその名前を聞いただけで苛立つ所だが、の思っていた以上に複雑な境遇に静雄は苛立つより同情の気持ちを抱いていた



「なんつーか、大変だったんだな」

「そう…ですね。突然でびっくりはしたけど、でも狩沢さんも遊馬崎くんも門田さんも渡草さんも優しかったし…、案外大丈夫です」

「でも今はあのノミ蟲野郎と四六時中一緒な訳だろ?」

「はい。今はおはようからおやすみまでほぼ一緒です」

「…大丈夫なのか?」

「それが静雄さん的には信じられないと思うんですけど、案外優しいですよ」

「………」

「まぁ何を企んでるのか解らない所はありますけど、今の所害は無いですね」



辿り着いた公園のベンチに座り、くすくすと小さく笑うを見て静雄は複雑な表情を浮かべる



「でもこうしていつまでも皆のお世話にはなっていられないし、私もいい加減仕事がしたいんですけどねぇ…」

「仕事か…」

「はい。私ってこっちに戸籍も保険証なんかの身分証も無いんで合法のお仕事はまず出来ないじゃないですか」

「まぁそうだよな」

「だからと言ってあまり危ないものには手を付けたくないし…」



がそう言って大きく溜め息をつくと、その横で静雄がふと思い出したように呟いた



「…そういや俺んとこ今バイト募集してたな……」

「俺の所って言うと、お金の回収…?」

「いや、事務所の雑用だってよ。でもまぁこっちもあんま真っ当な仕事とは言えないし、アンタは止めといた方が良いかもな」



静雄は軽く片手を振りながら説明するが、は考え込む

もし静雄の事務所でアルバイトする事になれば、今後罪歌絡みの事件を間近で見る事になるだろう

先程襲われたばかりで正直怖いし関わりたくないが、こちらの世界に居るからには物語の決着を見届けたい…



「……静雄さん…」

「ん?」

「お願いします!!その事務所での雑用、是非私に紹介して下さい!!」



は勢い良くベンチから立ち上がると驚く静雄に向かい拝むように手を合わせた



「私、いつ帰れるか解らない状況でこれ以上皆に負担掛けたくないんです。
臨也の所に居候してるのも本当は良くない事だって解ってるけど、今は臨也以外頼れる人居ないし…」

「………」



静雄は座ったまま目の前で手を合わせているを眺めながらその言葉を信用して良いのか考えていた

は臨也が自分への嫌がらせの為に送り込んだ敵かもしれない

もしくはにその気が無くても臨也に上手い事誘導されているかもしれない

どちらにせよ手放しで信用するには折原臨也と言う存在があまりにも大きく、静雄は中々首を縦に振れずにいた



「…なぁ」

「はい」

「うちの事務所でバイト始めるとして、新宿から通うつもりなのか?」



静雄が尋ねると、は胸の前で合わせていた手を下ろし、両手を組んで視線を宙に泳がせた



「本当なら池袋に家を借りたいなとは思うんですけど、さっきも言った通り私は借りれないんで…。ちょっと答え難いです」

「…解った」

「?」

「紹介してやるよ」

「本当ですか!?」

「あぁ。ただし条件付きだけどな」

「条件…?」



が首を傾げると、静雄は立ち上がってを見下ろした



「俺が社長に頼んで部屋借りてやるから、アンタにはそこに住んで貰う」

「???」

「どうした?」



静雄の出した条件に対し、は頭いっぱいに疑問符を浮かべて静雄を見つめる

そんなに静雄が問い掛けると、は状況が理解出来ないと言った様子で静雄に尋ね返した



「あの、文句をつける訳じゃ無いんですけど…、わざわざそこまでしてくれるのが条件って言われてもピンと来ないと言うか…」

「なんつーか…、あのノミ蟲野郎と関わりがあるって時点で俺はアンタを信用出来ない。でも狩沢や門田とも関わりがあるなら助けてやりたいとも思う…」



一歩に近付き、静雄はずれたサングラスを直しながらに説明する



「だから、アンタには悪いが暫くの間はアンタが変な行動しないように監視させて貰う。これが条件だ」

「なるほど…、解りました。それで良いです」

「そうか。んじゃぁちょっとトムさんに連絡するから待ってろ」



静雄はそう言うと携帯を片手にから少し離れた所で電話を掛け始めた



「そうだ、私も臨也に連絡しなきゃ…」



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「ぁ、もしもし臨也?」

?今何してるの?切り裂き魔に襲われたって言うのに何でまだ池袋に居る訳?』

「な、何で襲われた事知ってるの…?」

『さっき新羅から連絡があったんだよ、両腕やられたんだって?』

「うん。でも新羅さんの腕が良いからかあんまり痛く無いから平気だよ、後お金なら新羅さん待ってくれるって言ってたし自分で何とかするから…」

『…治療費なんかどうでも良いから、さっさと帰って来るなら帰ってくれば?』



そういつもの様に話す電話越しの臨也の声は、心無しか余裕が無いように聞こえた

はそんな臨也の様子に気付き、思わず先程の決意が揺るぎそうになる

それでも何とか冷静を装って、はそのまま話を続けた



「臨也…」

『何?』

「私ね、今静雄さんと居るんだ」

『シズちゃん?何で?』

「切り裂き魔に襲われた時助けてくれたのが静雄さんで、さっき偶然見掛けたからお礼してたんだけど…」

『だったらもう用は済んだでしょ?』

「……ごめん…」

?』

「私ね、静雄さんの事務所でアルバイトさせて貰う事になったの…」

『は?』

「まだ決まってないけど、部屋も用意してくれるらしいから暫くはそこで一人で住もうかなって」

『何それ?何で急に…』



は何かを言い掛けている臨也の言葉を遮るように、早口で言葉を続ける



「散々お世話になっといて勝手な事言ってごめんね。…でも私、このままだと本当に帰れなくなる。
本当に帰れる保障なんか無いし、もしかしたらこのまま此処に居続けなきゃいけないかもしれないけど…、
そうなったらそれこそ私一人でも生きて行けるようにしないと駄目なの。私は、本来臨也や狩沢さんに依存して良い人間じゃないんだから…」



それはまるでが自分自身に言い聞かせているようで、決して気まぐれや裏切りで言い出した事では無いのだと解った

臨也はそんなの声を聞きながら黙っていたが、やがてぽつりと呟くように口を開いた



『…携帯』

「携帯?」

『その携帯はそのまま持っといて』

「あぁ、うん…。でも良いの?」

『だって、聞いてくれるんでしょ?』

「ぇ?何を?」

『愚痴とか、弱音とか、悩み事』

「ぁ…」



臨也に言われ、初めて臨也の事務所を訪れた日に自分が伝えた言葉を思い出す



「だって臨也、愚痴とか悩み…、無いって言ってたじゃん」

『…誰かさんのせいで今まで無かった悩みが増えたんだよ』



くすくすと笑いながら呆れた様に言うと、臨也もようやくいつもの調子でそれに答えた



「もちろん聞くよ。またその内連絡するから」

『うん、まぁせいぜい頑張って。シズちゃんの馬鹿力で怪我させられないようにしなよ』

「大丈夫だよ、それじゃ」



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通話を終え、携帯を耳から話して電源を切る

一つ息を吐いてから振り返ると、とっくにトムとの通話を終えた静雄がじっとを見ていた



「ぇっと…ごめんね。お待たせしました」

「なぁ…、本当に良いのか?」

「はい?」

「俺はノミ蟲が殺したいっつーか殺す位嫌いだけど、アンタは違うんだろ?」

「………」

「まぁ俺が気にする事じゃないだろうけどよ…」



自分は折原臨也の事が嫌いだ

間違い無く大嫌いだ

しかし目の前で寂しそうに電話をしているを見ると、自分が突き付けた条件とは言え心が痛む

トムや社長には既に話を通してしまったので今更やっぱり止めますと言われても困るのだが、

それでも静雄はもう一度尋ねずには居られなかった



「後悔…しないのかよ?」



そんな静雄の問いの意図を知ってか知らずか、は俯いていた顔を上げるとにこりと笑った



「やだな、もちろん大丈夫ですよ。これは自分で決めた事だし…、静雄さんが気に病む事全然無いです」

「…そうか。それじゃぁ行くぞ、何か早速明日から頼みたいんだと」

「そうなんですか?それは願ったり叶ったりですね」



はそう言って明るく笑って見せながら、静雄の後に続いてトムや社長の待つ事務所へと向かった



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「戻りました」

「ぉ、お邪魔します…」



事務所に到着し、静雄と共に事務所内へと足を踏み入れるを椅子に座りコーヒーを飲んでいたトムが出迎える

幸い、中にはトム以外の人間は出払っているようでは内心ホッとする



「おぅ、お疲れ。君が静雄の言ってたアルバイト希望の子か」

「初めまして。です…」

「いやぁ君みたいな子が居てくれたらむさ苦しい事務所が大分マシになるわ。俺は田中トム、宜しくねちゃん」



にこっと笑いながら差し出された手を取り、はぺこりとお辞儀を返す

あちらの世界に居た時にはあまり気にした事の無かったキャラなので、はまじまじと観察するようにトムを眺めた



「ん?俺の顔何かついてる?」

「ぁ、いえっ。ド、ドレッドって珍しいなぁと思いまして…!!」

「あぁこれ?まぁ確かに珍しいかもなぁ。俺本当はストレートなんだけどさ、こんな仕事してっとナメられるからわざとあててんだわ」

「そうなんですね…」



トムの説明を聞きながら、はそう言えばそんな設定だったなと記憶を探りながら頷いた



「トムさん社長は…」

「あぁ、さっきちょっと用があるとかで出てった。まぁすぐ戻るって言ってたから」

「そうっすか」

「と、そう言う訳なんで、悪いんだけどそれまでちょっと座って待っててな」

「はい…」



に向かって声を掛けるトムに促され、は大人しくソファに腰を下ろす

一諾千金と言う格言の飾られた壁や事務所を何となく見渡していると、トムがに尋ねた



「コーヒーで良い?」

「ぁ、ごめんなさい。良い歳して恥ずかしいんですけど、私コーヒー飲めないんです…」



そうが申し訳無さそうに申し出ると、トムは笑って静雄の肩を叩く



「良かったな静雄、良い歳こいてコーヒー飲めない仲間がここにもいたぞ」



そのトムの言葉で静雄も苦い物や辛い物が苦手だった事を思い出し、は気まずそうに静雄を見上げた

しかし静雄がキレる事は無く、トムの言葉に頷いてを見下ろす



「コーヒーとか苦いだけだよな」

「そう、ですね。匂いは割りと好きだけど味は単なる苦いお湯って感じで…」

「何だよ、二人揃ってお子様舌か。酒は?」

「ぁ、お酒は人並みには飲めます。あんまりたくさんは飲めないけど…」

「そっか、んじゃ今度ちゃんの歓迎会しなきゃな」



トムがそう言ってに笑い掛けた所で、事務所のドアが開き梅●辰夫似の社長が入って来た



「お帰りなさい」

「っす」



トムと静雄が挨拶をする中も慌てて立ち上がると、トムはの背中をポンポンと叩きながら社長に話し掛けた



「社長、この子が静雄の言ってたバイト希望の子です」

です。宜しくお願いします」



ぺこりと頭を下げてが挨拶をすると、社長は席に着いてを一通り眺めた後で一つ頷いた



「おう。それじゃぁ明日から宜しく頼むよ」

「ぇ?、っと…。あの、」

「ん?」

「静雄さんから聞いてるか解らないんですけど、私こっちに戸籍とか身分証とか一切無いんですけど…」

「あぁ、聞いたよ」

「それでも雇って頂けるんですか…?」



が恐る恐る尋ねると、社長は一瞬きょとんとした顔をした後で豪快に笑った



「解っているだろうが、見ての通りうちは堅気の商売とはちょっと違う」

「………」

「コイツだって自販機投げるわ人ぶっ飛ばすわ普通の会社ならまぁクビだよなぁ?」



社長はそう言って親指で静雄を指差しながらトムに同意を求める



「まぁそうですね。実際随分転々としたんだもんな?」

「そうっすね」

「それに比べりゃお譲ちゃんなんて可愛いもんよ。身分証明が無くても問題起こさなきゃ良いだけだしな」



社長のそんな言葉にトムも頷く



「そう言う訳だ。まぁ堅気じゃないとは言えそんな犯罪ど真ん中な事はやってないし、気楽にやってくれて良いから」

「が、頑張ります…!!」

「おぅ。それで今後譲ちゃんが暮らす家なんだが…」



机の上の書類を静雄に渡し、社長はと静雄の両方に説明する



「一応この辺りの物件をいくつか抑えといたから、今日は駅前のビジネスホテルにでも泊まって明日1日回って何処にするか決めると良い」

「有難う御座います、本当に助かります」

「て事で静雄は明日1日譲ちゃんの家捜しに付き合ってやれよ」

「俺がっすか?」

「当たり前だろう、連れて来たのはお前なんだから最期まで面倒見てやれ」

「俺も着いてくか?」

「いえ、大丈夫っす…」

「良し、それじゃぁ今日はもう遅いし解散だな。静雄、ホテルまで譲ちゃん送ってやんな」

「うす」



こうして気の良い社長のおかげであっという間に話はまとまり、は静雄と共に事務所を後にした



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「はー、緊張したぁ…」



駅までの道を歩きながら、は静雄の横に並びほっとしたように呟く

静雄は両手をポケットに突っ込んで歩きながら、前を向いたままで首を傾げた



「…してたか?」

「してましたよ!! でもびっくりですね、もう部屋の準備が出来てるなんて」

「あぁ、まぁ不動産関係もやってるからな」

「そっか、地上げ屋さんって言ってみれば取り立てですもんね。土地の利権を巡って血を血で洗う仁義無き抗争があったり無かったり?」

「いやどんな知識だよそれ…」

「あれ?違いました?」



きょとんとしながら尋ねるの言動を見て、静雄は溜め息交じりに煙草の煙を吐き出す

臨也の知り合いと言う事で散々警戒していたが、全くもって害も危険も無さそうに見えた

それどころか、多少惚けた部分がある以外は前向きで人懐こくてとてもじゃ無いが何かを企んでいるようには見えない



「ぁ、ビジネスホテルありましたよ」



ふとが立ち止まり、ビルが立ち並ぶ一角にあるビジネスホテルを指差す

合わせて静雄も立ち止まると、静雄はポケットから携帯を取り出しに差し出した



「番号教えとけ」

「ぁ、そうですね。ぇっと…」



静雄に言われても携帯を取り出し、二人は番号とアドレスを交換する



「登録…と。あの、今日は本当に色々と有難う御座いました」

「あぁ」

「明日は何時に何処に行けば良いですか?」

「ぁー…、9時位に迎えに来るから、ここで待ってろ」

「了解です、それじゃぁ静雄さん、おやすみなさい」

「おぅ、何かあったら連絡しろよ」

「はい」



は静雄の言葉ににこりと笑顔を返すと、ひらりと片手を振ってから背を向けてホテルへと入って行く

ホテルに入るの後姿を見届けた後、煙草を灰皿に投げ入れて静雄も自宅へと戻った



「はぁ…、何か疲れた……」



思わず独り言を呟きながら、はベッドに仰向けに寝転び包帯の巻かれた自分の両腕を見つめる

切り付けられたのはほんの数時間前の事だと言うのに何だか実感が沸かないが、傷口が時折傷む事でそれが現実である事を実感出来た

罪歌に切られたと言う事は、自分も"罪歌の子" になってしまったのだろうか

あちらの世界で見た限りは傷口から声がすると言う事だったが、先程切られた時には声など聞こえなかった



「こっちの世界の人間じゃないと効力が無いのかな…?」



は腕を下ろして立ち上がると、おもむろに包帯を解く



「シャワー浴びたいけどこれ絶対染みるよねー…」



そう溜め息混じりに呟くものの、それでもシャワーを浴びずには寝られない

脱衣所に行き慎重に服を脱ぎ捨てると、は意を決して浴室に向かった



-Next Ep13-