ダラーズの創始者である帝人から集会を開くと言うメールが来た時、は漫画喫茶の中に居た

身分証を持たないが何故漫画喫茶に入れたのかと言うと、

駄目元であちらの世界の保険証を提示してみた所、何とすんなり店に入る事が出来たからだった

幸いあちらの世界もこちらの世界も保険証の見た目は変わらなかった為、疑われるような事は無かった

はそのまま何食わぬ顔で入店し、早速PCの前に座りダラーズのチームサイトへログインした

今頃狩沢と遊馬崎が帝人と連絡を取り、張間美香の身柄を確保した事についてやり取りをしているハズだ

掲示板には先程帝人から首に傷のある女の情報を求めるメールが来て以来、ちらほらと書き込みが増えていた

しかし見た限り特に有力な情報は無く、急に創始者からのメールが届いた事に驚いたり疑問に思う書き込みの方が多かった



「へぇ…、こんな感じだったんだ…」



はあちらの世界では映し出されなかった掲示板の動きを一つ一つチェックしながら、帝人からのメールを待った



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そしてそれから数時間後、ようやくの携帯に集会開催を知らせるメールが届く

現在の時刻は20時少し前

内容を確認したは集会までの残り4時間程で仮眠を取る為、靴を脱ぐとシートの上に横になった

携帯のアラームを23時30分にセットして目を閉じると、案外疲れていたのかはすぐに眠りに落ちた



「………」



数時間後、携帯の振動では目を覚ました

ぼやける頭でアラームを止め、ゆっくりと身体を起こし、再びパソコンに向かう

掲示板には先程以上に唐突のオフ会宣言に戸惑う人の書き込みや参加を呼びかける書き込みなどで溢れていて

この時点でかなり多くの人間が参加しようとしている事が解った

はある程度書き込みに目を通した後、荷物をまとめると漫画喫茶を出て夜の池袋へと繰り出した

いつもならば24時前ともなれば人通りは少ないハズだが、今日はこの時間でも多くの人で溢れている

お店は大概閉まっているのに、まるで昼間の様な人込みには改めてダラーズと言うチームの凄さを感じていた

東急ハンズ前へと移動して様子を見てみると、そこには既に帝人の姿があった

緊張した面持ちの帝人を眺めていると、やがて矢霧波江が帝人の前に現れる



「………」



人込みの雑踏に紛れて声は聞こえて来ないが、あちらの世界で見た通りの会話をしているのだろう

波江は腕を組んだまま、表情の硬い帝人を馬鹿にしたような笑みを浮かべている

携帯を握り締める帝人の右手に力が入り、やがて波江は苛立ったような表情になった

すると先程とは対照的に、感情的な波江を嫌に冷めた顔で帝人が見つめる

帝人のその表情は呆れたような、哀れむような、何とも冷たいもので、は思わず息を飲んだ

携帯を掴んだままの右手が頭上に掲げられ、少し躊躇った後で帝人の親指が送信ボタンに触れる





〜〜〜〜〜〜♪♪♪





途端に至る所からメールの着信音が聞こえ始め、辺りは人々のざわめきと着信音で騒然とし始めた

そんな異様な光景の中うろたえる波江と波江の側近を眺めていると、馬の嘶きと共に誰かの「上に誰か居るぞ!!」と言う声が聞こえた

が声のする方に合わせて顔を上げると、ちょうどセルティがビルから滑空して来るのが見えた

赤い月を背にして垂直にビルを降りて来るその姿は、あまりにも非現実的で幻想的で、携帯を握る手に思わず力が入った

首の無いハズのセルティの声が何処からとも無く辺りに響き、応戦する波江の側近が次々に倒されて行く

やがて側近の一人が背後から殴りつけると、セルティのヘルメットが外れ地面へと転がった

本来頭があるはずのそこには何も無く、黒い霧の様な物が漂っているだけ

そんなアニメとは違う、現実として見る"首無しライダー"の姿は想像以上に衝撃的だった

恐怖の余り逃げ出す人々やおもむろに携帯を向け撮影を始める人々の中で、はじっとセルティの姿を見つめていた



「……そうだ。帝人くんは…」



ふと我に返り、帝人を探すが既に東急ハンズの前に帝人の姿は無い

がサンシャインシティ通りの入り口付近に目をやると、矢霧誠二に詰め寄られている帝人が見えた



「お前が竜ヶ峰帝人か…」

「矢霧くん…」

「セルティを…、セルティを返せぇぇぇぇ!!!!」



二人の周りには人だかりが出来ていたが、明らかに異常な様子の誠二に圧倒されて周りの誰もが動けずに居た

そんな中、誠二がメスを帝人に向けた瞬間セルティが誠二と帝人の間に入り、セルティの腹部にメスが突き刺さる



「ぁ…」



深々と刺さったメスを見て帝人は驚くが、刺した誠二は怯む事無く帝人に話し掛ける



「君には感謝しなくちゃな…、君が居なければ姉さんはまた彼女を狭い研究室に閉じ込めてしまっていただろう…」

「矢霧くん…」



刺さっていたメスを誠二が引き抜くと、セルティはその場に膝をつく



「大丈夫ですか!?」



慌てて駆け寄り声を掛ける帝人と立ち上がれないセルティを見下ろしながら、誠二は無表情に言い放つ



「とにかくセルティを返せ…。警察が来る前に彼女と何処かへ逃げないと…」



そんな誠二の勝手な言葉に、帝人は誠二を見上げて睨み付ける



「だからって、こんな…!!」

「君に何が解る?俺はガキの頃から、彼女をずっと見続けてきた。解放してやりたかった…。
広い世界に自由にさせて、俺もその場所に一緒に暮らす。そんなことばかり、いつもいつもいつもいつもいつもいつも考えて来た…」

「…………」

「やだなぁ、愛の力は誰にも止められないんだよ?それに引き換えお前は何だよ。さっきも今も数だけに頼って…」


誠二が見下すように帝人に言いながら再度メスを構えると、その手をいつの間にか立ち上がっていたセルティがヘルメットで叩き付けた



「俺の愛はこの程度じゃ砕けない…!!」



セルティを睨みつけながらそう凄んで見せる誠二を、セルティはヘルメットで何度も何度も殴り付ける

それはまるで自分以外の存在に向かってセルティと呼び掛ける誠二に怒っているようにも思えた



「効かない!!痛みはあるが忘れる!!俺とセルティの生活に痛みは必要ない!!だから、今この場で受ける痛みに痛みを感じない!!!!」

「無茶苦茶だ!!」



それでも怯まない誠二の破綻した理論に帝人が思わず叫ぶと、業を煮やしたセルティはいつもの通り影で作った大鎌を右手に構えた



「やめてぇー!!」



漆黒の刃が誠二を切り裂こうとしたその瞬間、セルティ…もとい張間美香が飛び出し誠二を庇った



「やめて下さい!!誠二さんは…、厳しくて乱暴で人と違う所があるけれど、悪い人じゃないんです!!」



驚いている誠二の前で、美香はセルティに誠二を責めない様懇願する



セルティは自分と同じ顔をした少女を見つめながら、その首が自分の首で無い事に気が付いた

帝人もまた、目の前の少女の正体に気付き、涙を浮かべる、美香に向かい問い掛ける



「張間…、美香さん…?」



そう呼び掛けられた美香は気まずそうに視線を反らし、斜め下を向く



「そうなんでしょ?貴女は、矢霧くんに殺されたはずの、張間美香さんなんでしょ?」



帝人の言葉に黙ったままの美香に、誠二は後ろから引きつったような声と表情で尋ねる


「嘘だ…。なぁ、嘘だろ…?」

「っごめんなさい…!!!!私まだ死んで無かったんです!!そしたら、誠二さんのお姉さんが…」



誠二の方を振り返りながら、美香は自分が誠二に殺されてからセルティになるまでの経緯を説明し始めた

それを聞いていたセルティは、美香の言葉から自分そっくりの整形を施し名前を与えた闇医者の正体についてハッキリと確信したようだ

美香がセルティでは無い事を知りショックを受ける誠二と謝り続ける美香を残し、セルティは焦った様子でバイクに跨るとそのまま走り去ってしまった

セルティの姿が見えなくなると、誠二の背後から臨也が近付いて来るのが見えた

臨也はと目が合うと悪戯っぽく笑い、そのまま誠二に嫌味たっぷりに声を掛ける



「嘘だろ…、じゃぁ俺は……」

「ま、君は本物と偽者の区別すら付けられなかった訳で…、アンタの愛はその程度って事だねぇ。…ごくろーさん」



呆然としたまま呟く誠二にそんな皮肉めいた言葉を投げ掛けて臨也は立ち去る

誠二はショックのあまりその場に崩れ落ちるように座り込んだ

そんな誠二に寄り添う美香と、誠二と美香に向かって声を掛ける帝人…

事態は収束に向けて動いていた

都市伝説の首なしライダーもいつの間にか去り、これ以上の進展は見込めない事を悟った人々は徐々にその数を減らして行く

あれだけの人数が一体何処に消えて行くのか解らないが、が気付いた時には既に人通りはまばらになっていた

そんな中、遠くの方で臨也と門田、遊馬崎、狩沢が話しているのを見掛け、はその行方を目で追った



臨也は少しだけ門田達と話した後、ひらりと手を振って離れ帝人の元へと向かう

軽やかに電柱付近のポールの上に昇り、誠二が落としていったメスを拾い上げて見つめる帝人に声を掛ける



「正直驚いてるよ、ネット上で相当の人数がダラーズを名乗っていると言う事は解っていた…。
だが…、今日突然集会をやるなんて言ってわざわざ集まるのがこんなに居るとはねぇ」

「…………」

「あぁ、人間とは本当に想像以上だねぇ」



臨也は楽しそうに笑いながら自分を見上げる帝人に向かって更に畳み掛けるように話し続ける



「ただ…、帝人くんは日常からの脱却を夢見ているようだけれど、東京の生活なんて半年も過ぎれば日常に変わるよ。
更に、非日常に行きたければ余所の土地に行くか…、もっとアンダーグラウンドなものに手を出すしか無いねぇ」

「…………」

「でもそっち側も踏み込めば…、多分3日で日常になってしまうんだろうねぇ…」



そんな臨也の言葉を聞き、メスを持った右手に力を込める帝人を見て臨也は満足そうに笑う



「本当に日常から脱却したければ、常に進化し続けるしか無いんだよ。目指すものが上だろうが、下だろうがね…」



そう告げて、臨也はひらりと地面に降り立ち帝人に歩み寄った



「日常を楽しみたまえ。ただ…」



臨也は帝人に顔を近付け、口の端に不敵な笑みを浮かべながら告げる



「君に敬意を表して矢霧波江の電話番号のネタは特別にタダにしておいてやるし、このダラーズの創始者が君だと言う情報は売らないでやろう」



帝人は真っ直ぐに臨也を見据える



「君の組織だ、利用したい時は勝手にすると良い」



そこまで話したところで、臨也はひょいと帝人の背後に回った

そんな臨也の行動に帝人が戸惑っていると、目の前を郵便ポストが通過して行く

驚いた表情で帝人が左を向くと、そこには平和島静雄がひしゃげた標識を片手にゆっくりと歩み寄る姿があった



「い〜ざぁ〜やぁ〜〜〜」



静雄が青筋を立てて臨也に向かい歩み寄る

臨也は帝人に軽く挨拶をして静雄から逃げ出し、も静雄に気付かれないようにその場を後にして駅に向かった





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