「じゃぁ、行って来るね」

「うん。多分暫く会えなくなっちゃうけど、落ち着いたらメールするよ」

「知らない人について行っちゃ駄目っすよ?」

「そんな子供じゃあるまいし…」

「まぁくれぐれも無茶はするなよ」

「解ってる。門田さん達こそ気をつけてよね。特にシートベルトは必須だからね」

「大丈夫だろ、俺は安全運転だし」

「あはは…、今日に限ってはどうかなぁ……」



翌日の昼過ぎ

これからの展開的に暫く門田達と行動は共に出来ない為、はワゴン組を見送る為に狩沢と共に家を出ていた

ワゴンに乗り込む4人に向かいそれぞれ声を掛けて、は一人ひらひらと手を振る



「明日もしかしたら私の姿を見掛けるかもしれないけど、知らない振りして通り過ぎても気にしないでね」

「了解、こっちからは話し掛けない様にするね」

「ありがと。それじゃぁそろそろ行こうかな」

「あぁ、気をつけろよ」

「うん、門田さん達もね」



がそう言って一歩後ろに下がると、渡草はワゴンを発車させた

ワゴンの姿が見えなくなるまで見届けると、は一つ息を吐いて来良学園へと向かった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



来良学園へ向かう途中、は歩きながら臨也に一通のメールを送った



"今日、帝人くんに会いに行きますよね?"



程無くして臨也からの返信が届き、は目的地に向かいながら臨也とメールのやり取りをする



"久しぶり。良く知ってるね、それも向こうの世界で見た訳?"

"はい。今日起こる事も明日起こる事も、大体知ってます"

"そう。俺はまだ知らないけど、でも面白い事が起こりそうな気はしてるんだよね"

"貴方にとってはそうかもしれないですね"

"で、どうして俺に連絡して来たの?"



臨也からのそんなメールに対し、は返信をせずに携帯を閉じて携帯を鞄にしまい込む

そして来良学園の門が見えるビルの陰に隠れると、人通りの少ない道を眺めながら臨也を待った



「なるほど、返信が無いと思ったらそう言う事ね」



やがて予定通りに来良学園まで来た臨也は、校門付近にの後ろ姿を見つけ口元に笑みを浮かべて近付いた

背後から声を掛けると、はくるりと身体ごと振り向いて臨也を見上げた



「驚きましたか?」

「そこそこね」

「そうですか。ぁ、携帯有難う御座います。凄く助かってます」

「どういたしまして。…今日はも帝人くんに何か用?」



臨也が尋ねると、は少しだけ考え込んでから口を開いた



「いえ、別に用は無いんですけど、様子が見たいなと思って」

「様子?」

「はい、帝人くんの事が気になって…」



臨也が壁に寄り掛かりながら首を傾げると、は真っ直ぐ校門を見つめたまま独り言のように呟いた



「私は生まれてからずっと平凡な人生で、毎日刺激が無くて同じ事の繰り返しで、何処かで非日常を望んでるのに飛び込む勇気も無くて…」

「あぁ、『平凡少女』だったっけ…?一応全部見たよ」



臨也の言葉を聞き、は臨也の方に顔を向ける



「そうですか…。それなら解りますよね?私の人生が今までどれだけ単調だったか」

「まぁ人の生き方に点数を付けるなら、紛れも無くの人生は50点だろうね」

「そう、可もなく不可もなく抑揚もなくてとーっても平和でした」



はそう呟くと、ゆっくりと息を吐いて足元を見つめた



「だから、帝人くんが非日常に憧れる気持ちが良く解るんです。何か私って帝人くんと似てるかも…とか思っちゃって」

「なるほどね…。それでその似た境遇の彼が気になってわざわざ此処まで来たんだ」

「はい…。この世界と帝人くんにとってのターニングポイントがあるとすれば、きっと今日がそうだと思うから」



自分のつま先を見つめながら話すに、臨也は尋ねる



「ねぇ」

「ん?」

はどうしてこちらの世界に来たか解らないんだよね?」

「全然解らないです」

「もちろん帰る方法も解らない訳だ」

「そう、ですね。今は一応それを探してるけど…」

「…でも実の所元の世界には帰りたくない?」



少しからかう様な口調で尋ねて来た臨也の顔を見つめ、は息を飲んだ

ゆっくりと身体を臨也の方に向け、じっと臨也を見つめて尋ねる



「どうして解ったんですか…?」

「そりゃぁ帝人くんは平々凡々な日常から脱却したくて、非日常に憧れて、わざわざ池袋までやって来たんだ。
そんな帝人くんにが似てると言うなら非日常溢れるこの町から…、この世界から帰りたいなんて思うわけ無いよね?」

「……でも…、門田さんはそれだと私の為にならないって……」



臨也の言葉は何もかもがその通りだったが、は小さく首を振りながら門田に言われた言葉を思い出す

すると臨也はそんなの顔を眺めながら、事も無げに言い放った



「保守的で堅実でいかにもドタチンらしい意見だね。…でもそんなのが決める事であってドタチンには何の関係も無い」

「………」

「俺はドタチンとは全く逆の意見で…、元の世界になんて帰る必要無いと思うんだよね」

「何で…?」

「だって偶然とは言えやっと平凡な日常から抜け出せたのに、どうしてまたつまらない日常に戻る必要がある訳?」

「それは…」



臨也の問い掛けにが言い淀むと、臨也は畳み掛けるように言葉を続けた



「折角夢が叶ったのに他人の言葉で棒に振る事ないでしょ?まぁどうしても元の世界に戻りたい理由があるなら別だけど」

「戻りたい理由…?」



臨也の言葉を反芻するようにが呟くと、臨也は笑う



「そう。例えば子供が居るとか、やり残した事があるとか、戻りたいと強く思う位離れられない人が居る、とかね」

「……臨也さんって、やっぱりすっごく性格悪いですよね…」

「知らなかった?」

「知ってましたよ」



臨也が上げ連ねた理由は、どれもこれもには無縁の事

もちろんその他にもが元の世界に帰りたい理由なんて存在しない

は得意気に笑う臨也を恨めしそうに見つめながら、溜め息と共に尋ねた



「そんなに私に元の世界に戻って欲しく無いんですか?」



臨也はそんなの問いを聞き、珍しく驚いた様な顔でを見つめ返す



「は?どうしてそうなる訳?」

「ぇ?だって臨也さんって自分の意見を押し通す為に人を説得するの得意そうだし、最もらしい事言ってる時が一番胡散臭い感じがするし…」

「胡散臭いって…」

「門田さんは本当に私の為にアドバイスしてくれてるんだろうけど、貴方の場合は自分の意見に同調させようとしてるなぁって感じるんで」

「あはは、随分な言われ様だね」

「でも、当ってるんじゃないですか?」



両手を軽く上げておどける臨也にが首を傾げて聞くと、臨也は上げていた両腕を前で組み逆にに問い掛けた



「当ってたらどうなるの?俺に失望してドタチンにでも泣きつく?」

「まさか。失望なんてしませんよ、むしろ"折原臨也"はそうでなきゃって思うし」

「……君って普通が売りらしいけど実際は結構変人だよね」

「変?そんな事初めて言われました」

「何でちょっと嬉しそうなんだよ…。あぁもう…、何か君と話してると調子狂うんだよねぇ」



そう脱力気味に呟いて、臨也は片手で頭を押さえたまま息を吐いた



「たまには振り回されるのも新鮮でしょう?」



臨也は目の前で悪戯っぽい笑みを浮かべるを呆れたように見つめると、ふと思いついた様にに一歩近付いた



「…? どうしたの?」



すぐ傍まで来た臨也を不思議そうに見上げるに向かい、臨也はにこりと笑う

はそんな臨也の笑顔に危機感を覚えたが、右手を臨也に掴まれてしまい逃げたくても逃げられない



「ぃ、臨也…さん…?」

「俺がアニメで見た限り、の平凡な人生の中には異性がほとんど出てこなかったんだよねぇ」

「ぅ…」

「もし俺の目の前に居る君が本当にアニメのと同じだとしたら、君には男性経験が無いと言う事になる」

「うぅ…」

「キスはおろか、手を繋いだ事だって無かったんでしょ?」

「うぅぅ……」

「あぁ、そう言えば俺と最初に会った時に握手を求めて来たから手を繋いだ経験はある事になるのかな」

「……そ、それは忘れてって…」



ずけずけと指摘する臨也の言葉にがたじろぐと、臨也は左手での右手を掴んだまま、もう一方の手での腰に手を回して身体を引き寄せた



「っ!?」

「あの日に手は繋いであげたし、次はキスでも経験させてあげようか?」



の顔に自分の顔を近付けながら臨也が囁くように尋ねると、は面白いくらいに顔を赤くしてその場で固まる

臨也はそんなの様子を見て満足そうに頷くと、未だに固まったままのの肩にぽんと手を置いて笑った



「うん。やっぱり俺は振り回されるより振り回す方が良いみたいだ」

「〜〜〜っ」

「おっと、ようやく授業が終わったようだね。帝人くんもそろそろかな?」



勝ち誇ったような顔の臨也にが言い返せないままでいると、臨也は帰宅する学生が現れ始めた校門を見ながら呟いた



「で、俺は予定通り帝人くんに会うけど君はどうするの?帝人くんとは面識無いよね?」

「ぁ…、はい。だから此処から様子を見るだけにするつもりで…」

「そう。今日はこの後また狩沢の家に戻るの?」

「いえ、暫くは戻れそうに無いからその辺で適当に時間潰す予定でしたけど…。どうして私が狩沢さんの家に居候してるの知ってるんですか?」

「ドタチンに聞いたからね。って言うかその辺でとか簡単に言うけど夜の池袋を一晩ふらつく気?」

「ぁ、それなら大丈夫です。今日は結構遅くまでたくさん人が居る予定だから」



の予定を聞いて呆れたように呟く臨也に伝え、は今夜の事を少しだけ説明してみせる



「…それなら、俺の用事が終わったら一度連絡するから、携帯繋がるようにしといてよ」

「ぇ?ぁ、はい…」



そう言うと臨也はポケットから取り出した双眼鏡をに手渡し、校門へと歩いて行ってしまった

は受け取った双眼鏡を鞄にしまうと、未だにほんのりと赤く染まっている頬を両手で押さえ、

気を抜くとついつい緩んでしまう表情を引き締めなおしてから帝人達の様子を見る為に道路の向こう側へと移動した



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「………」



は先程居た場所から少し移動したビルの物陰から、道路を挟んで向こう側の校門の様子を伺う

臨也が渡してくれた双眼鏡を覗き込むと、帝人がヤンキーカップルに言いがかりを付けられている最中だった

やがてヤンキーの男の方がリーゼントが帝人にめり込むほど顔を寄せている所へ、セルティが現れる

セルティはバイクを降りると男の肩を叩き、男が振り向いた瞬間左頬に回し蹴りを喰らわせた

距離が離れている為会話の内容は聞こえないが、あちらの世界で見た通りの光景が繰り広げられている

ふと帝人達の居る場所から少し離れた方へ視線をやると、臨也がてくてくと歩いて来て道に倒れている男の上に飛び乗った



「うゎ…」



ぴょんぴょんと無駄に可愛らしく男の上で飛び跳ねる臨也の表情は実に楽しそうで、は思わず苦笑いを浮かべる

やがて臨也がヤンキーの女の方を泣かせた上に追い返し、帝人の後に続いてセルティと臨也は移動を開始した

この後の展開があちらで見た通りなら、帝人は家とは違う方向に向かいトンネルの中でセルティの話を聞くハズだ

双眼鏡から顔を離し一息つくと、ふと校門に残された杏里が目に入った

杏里は帝人達の後姿を見つめたまま少し迷ったような動作をした後、帝人達と同じ方向に歩き出す



「もしかして後つける気なのかな…」



独り言を呟きながら再度双眼鏡で杏里を見ると、杏里の視線は明らかに帝人達が通り過ぎた道を目指していた

このまま杏里が帝人達の後をつければ、セルティが張間美香を追っている事や帝人の正体がバレてしまうかもしれない

それはあちらで見た時には無かった行動で、は混乱しながらも思わず杏里の後を追って走り出した



「すみません!!」

「ぇ…?」




何とか杏里に追いついたは、背後から杏里に向かって声を掛ける

振り返った杏里が不思議そうな顔でを見ると、は杏里に尋ねた



「ぇっと、道を教えて欲しいんです。実は最近引っ越して来たばかりで迷子になっちゃって…」

「はぁ…」

「駅の方に行きたかったんだけど、歩いても歩いても駅に着けないし困ってたんです」

「そう…ですか。…此処からだと駅はこっちの方ですよ」



そう言って駅の方を指差す杏里に、は両手を合わせる



「あの、もし良かったら途中まででも良いので案内して貰えないかな?私本当に方向音痴なのでまた迷うかも…」

「ぁ……」



が頼み込むと、杏里はちらりと帝人達が向かった方を見て僅かに表情を曇らせた

帝人達の姿はもう完全に見えなくなってしまった為、追い掛けようにも何処に向かったか解らない

杏里は思い掛けない邪魔が入った事に戸惑ったが、諦めたのか小さく息を吐いて視線をに戻してこくりと頷いた



「解りました。私も同じ方向なので、途中までなら…」

「本当?有難う!!」

「ぃぇ…。こっちです」



こうしては内心で杏里に騙した事を謝りながら、駅までの道のりを杏里と一緒に歩き始めた



「ごめんね、急に声掛けたりして…、驚いたよね?」

「いぇ、大丈夫です…」



最初はやや警戒していた杏里も、の柔和な雰囲気に緊張が和らいだのか首を振るとこっちです、と言って歩き出した

駅までの道のりを歩きながら、は折角なので杏里との会話を楽しもうと積極的に声を掛けた



「えぇと、貴女は池袋に住んで長いの?」

「はい。何度か引越しはしてますけど、池袋から離れた事は無いです」

「そうなんだ。私はつい最近こっちに来たんだけど、こっちは私が前に居た所より刺激的だね」

「そうですか?」

「うん。ちょっとびっくりしたけど、とっても楽しい」



あちらの世界でも住んでいたのは池袋だったが、こちらの世界の池袋とは様子が少し違っていた為まるで別の街に来たようだとは考えていた

そんな真実は伏せながらも、こちらの世界に来て感じた事を素直に伝えて笑う

杏里もそんなの笑顔につられたのか、穏やかに微笑んだ



「あの、貴女は、どうして池袋に来たんですか?」

「へ?ぁー…、何と言うか不可抗力、なんだよね」

「?」

「自分で望んで来た訳じゃなくて、無理矢理連れてこられたみたいな…?いや、来たいとは常々思ってたんだけどまさか来れるとは思わなかったって言うか…」



確信には触れないように、事実を織り交ぜては説明を試みる

杏里は首を傾げての話を聞いていた



「まぁとにかくこっちに来たのは単なる偶然って感じかな」

「偶然ですか…」

「そうなの。だから住むところがなくて、今は友達の家に居候してるんだ」



恥ずかしそうに笑いながらが説明すると、杏里はそうなんですか、と相槌を打った

そんな会話をしている内に、駅前の大通り沿いへと出たところでは杏里に尋ねる



「ぁ、そろそろ駅付近だよね?」

「そうですね。後はこの道を真っ直ぐ行けば駅につきます」



駅方面へと続く道を示しながら、杏里がに説明する

駅前と言う事もあり人通りが増えて来た中で、は杏里の言葉に頷いてにこりと笑った



「本当に有難う、助かったよ」

「いえ、そんな」

「ぁ、そう言えばまだ名乗ってなかったよね。今更だけど、私って言うの」

「園原、杏里です…」

「それじゃぁ杏里ちゃん、もしまた何処かで会う事があったら宜しくね」

「はい。あの、それでは失礼します」



こうしてぺこりと頭を下げて踵を返した杏里の背中に向かい、は声を掛けた



「杏里ちゃん、あの男の子の事なら心配しなくても大丈夫だからね!!」

「ぇ?」



背後から聞こえた声に杏里が振り返るが、人込みに紛れてしまったのかの姿はもう無かった

聞き間違いかもしれないと思ったものの、呼ばれたのは確かに自分の名前だった

"あの男の子"とは帝人の事なのだろうか

杏里は、どうしてさっき初めて出会ったばかりのがそんな事を知っているのか解らず疑問符を浮かべるしかなかった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



杏里に声を掛けた後駅に向かって走ったは、杏里の姿が見えなくなった事を確認してからほっと息を吐き出した



「余計な事しちゃったかな…」



杏里との接触は予定に無かった為、は自分の咄嗟の行動を振り返って頭を抱えた

しかし過ぎた事を悩んでいても仕方ない

は携帯を取り出して現在の時間を確認した



「まだ15時か…」



携帯を閉じては呟く

帝人が覚醒した時は帝人の部屋には夕日が差し込んでいたので、早くても16時を過ぎないと展開は無いのだろう

それまでの間、自分は何処で何をしているのがベストなのか

門田達はワゴンで矢霧製薬の下請けである清掃会社の振りをしたブローカーを追跡しているところで、

張間美香は臨也からの連絡を受けて帝人の家から脱出した辺りだろうか

暫くすれば覚醒した帝人…、ダラーズの創始者から全員にメールが送られてくるはずだ



「ぁ」



ふともう一度携帯を見ると、電池が2個になっている事に気が付いた



「…充電しに行かなきゃかな」



帝人からのメールが来れば、様々なダラーズとのやり取りが掲示板上で行われる

それらを観察するのであれば電池の消費は必然的に早くなる

臨也に携帯が繋がるようにしておけと言われた事もあり、は携帯ショップを探す事にした

駅前の横断歩道を渡り、最初に目に入った携帯ショップで充電を済ませたは電池式の充電器を買って店を出る

ついでにそのままサンシャイン60通りに向かい、適当なお店で大きめの鞄や服も購入する

最初は2万近くあった所持金も既に1万を切ったが、必要な物はそれなりに揃える事が出来た

は何だか家出少女のようだと思いながら、やって来た東池袋公園のベンチに座って購入した物を鞄にしまう

時間を確認すると15時50分で、空を見上げるとほんのりと辺りがオレンジ色に染まり始めていた

いずれ本格的に空が夕日で染まる頃になれば、この場所に張間美香を連れた門田達が来る

そして今頃はちょうど帝人が覚醒した頃なのではないだろうか

そんな事を考えていると、手にしていた携帯が振動しメールの着信を告げた



「…いよいよかぁ……」



届いたメールを開き、それがダラーズの創始者である帝人からである事を確認しては呟く

首に傷のある女の情報を求めるその内容からは、あちらの世界で見ていた以上にいつもの帝人とは異なった印象を受けた

は自分に良く似た少年の変化を目の当たりにして、何故か気分が高揚するのを感じていた



「………」



も帝人同様淡々と流れる平凡な日常には飽き飽きしていた

何かを変えたくて毎日非日常に恋焦がれながらも、退屈な日常を変える機会も勇気も無かった

しかしそんな二人が、今同じ世界で揃って非日常へと足を踏み込んだのだ

は帝人の気持ちが良く解るような気がしていたし、自分と帝人に通じる部分があると感じていた

だからこそ、帝人の覚醒は自分にも可能性を見出せたような気がして嬉しく誇らしかった



「……よし…」



はそっと携帯を閉じて立ち上がると、先程買った鞄を持ち東池袋公園を後にした

公園から出て東急ハンズ前に移動する途中、遠くの方に渡草のワゴンがちらりと見えた

あのワゴンの中には張間美香も居て、が先程まで居た東池袋公園に向かっているのだろう

にわかに盛り上がり始めたダラーズの掲示板を時折確認しながら、は帝人からの召集を待った





-Next Ep9-